Phase3-Kona-
「ジュン。お前、いつまであのお客様の専属やるの?」笹塚に問われる。お前には関係ないだろと思いながら僕は答えた。「帰国まで。だから・・・あと一週間は特殊業務だな。」「モテる男は忙しいねぇw」「何だよ。代わらねーからなw」「はいはいごちそうさま。」「・・・ったく。」午前11時。ホテルのラウンジ。「ジューン。こっちこっち♪」「悪いね、待たせて。」「全然構わないよw」「いやいや、こっちのミスだから。御詫びにお飲み物でも如何でしょう?」「じゃ、お言葉に甘えて♪」「…ねぇ、ちょっといい?」「ん?何?」「トロピカルドリンクの…その…グラスがおっきくて…ストローが…その…ぐるぐるしてて…口が二つあるやつ…」それってまさか・・・「あの…日本で言うバカップルジュースですか?」彼女がコクリと頷く。いや反則だよ。麦わら帽子に紫のキャミソールに七分・・・オマケに軽く上目遣い。
‐‐ダメ…ですか?まただ。何だか一つ一つの些細な出来事がデジャブのようで。本当に、彼女には申し訳ない気持ちで一杯だった。「…ダメ?」「かしこまりました。」罪滅ぼしと言うには余りに小さ過ぎる。それでも自分の気が済まない。だから、今。目の前にいる彼女の為に‐無論ガイドとしての役目だが‐バカップルジュース成るものを注文する。英語で言うにはかなり恥ずかしいがそれ以上に、笹塚にだけは見られたくなかった。後でネタにされるのだけはゴメンだから。注文して、待つこと数分。「うわぁ♪」彼女が目を輝かせ、喜んでいる。無理もない。絵に描いたようなバカップルジュースが目の前に現れたのだから。正直、引いた。周りの好奇の視線もさることながら、自分の中での葛藤もあった。恥ずかしい。この一言に尽きる。
だが、僕の目の前にいる人はそんなことお構い無しに、「飲もっか♪♪」もうお手上げだ。僕も覚悟を決めてジュースを飲む。美味い。美味いよ。美味いんだけども…。「・・・何か、恋人みたいだね。」「へ?」「え?いや…何でもない////」「あ、今日はどうする?」「ん~、とりあえずお買い物したいなぁ。」「お土産とか?」「うん。それもある。」「行きたいとことかは?」「パイナップル園あるでしょ?」「ドールのね。そこがいいの?」「うん。行きたい♪」「じゃあ大体流れは決まりかな?」「うん。ありがとう♪」「構わないよ。」「じゃなくて…その…ジュース…。」「お客様のご希望ですからw」「あははw」それからワイキキの方のショッピング街に行き、彼女のお買い物やウインドウショッピングに付き合った。彼女のお気に入りは何故かABCマート。
ホテルの前にもあるのだがそれは言わない約束。「そう言えば今日鞄おっきいけど、どうしたんだい?」「あ、コレ?水着入ってるんだ♪」と言うことは、「泳ぐの?」「うん♪」こっちに来て5年になるが何故か今年は一度も海に入っていないし、泳ぎはそんなに得意じゃない。それでも、【仕事】は【仕事】。一応クルマのトランクには水着を入れてある。「水着ある?」「大丈夫。クルマの中だから。」「ごめんね、急に。」「謝らなくていいよ。僕がもてなさないといけないんだし。」「じゃあ、行こ?」「その前にクルマに戻るけど、いい?」「うん。私も荷物入れなきゃ。」クルマに戻り、荷物やなんやらを積み込む。まぁそんなに量があったわけじゃないが。「ふぅ・・・」着替えを済ませ、彼女を待つ。今日はまた一段と暑い。「ジューン。」振り向くと、そこにはもう一つ太陽が。
重なる影は、頑にその残像を引きずる。だけど、一つだけ、重ならずにあるものが、あった。「とっても…似合ってるよ。」薄紫色のビキニが、とても眩しい。「にひひ♪ありがと♪」「いや、本気で似合ってるわ。」「ありがと♪ねぇ、行こ?」「うん。」「あのさ、薔薇水晶はどの季節が一番好き?」「勿論夏だよ。でないとハワイに何か来ないよ?」「確かにそうだなw」「どうして?」「いや、何と無く。」不思議そうに僕の顔を見つめる彼女。そう。たった一つの相違点に、僕は多いに助けられることになる。「人多いね。」「今日はまだマシな方だと思うよ。」「そうなの?」「ワイキキは行かない人?」「うん。何と無く人多いからって。」「じゃあ今日は?」「何と無く。一人だと来づらいしね。」「そう?」「そうだよ。」
気付かないまま2日目を向かえたが、彼女の喋り方の変化に今更気付く。最初に会ったときよりもクリアだった。心境の変化、と言うのだろうか。いや、そう言うことではないはず。何の根拠もないが。「きゃっ。冷たい。」「ほれw(パシャパシャ)」「もう~止めてよ~」「あははwごめんごめん。」「気持ちいいね。」「そうだね。風もいい感じだし。」「サーフィンとかするの?」「一応ね。」「泳ぐのは?」「あんまり得意じゃないなw」「陸サーファー?」「ちげーよw」「ここでするの?」「サーフィンは冬場だよ。ノースショアで。」「ふーん。」それから少し水辺で遊び、レンタルしたウォーターサイクルで少し先の沖までこいで遊んだ。正直、幸せだった。「そろそろ行く?パイナップル園。」「うん。行こっか。」
それから、ドールのパイナップル園へと向かう。パイナップルの畑の土は赤い。日本でまず見ることはない。「うわぁ、ホントにパイナップルだらけだねw」「パイナップルソフトクリームってあるけど、食べる?」「うん♪食べる。」ドールパイナップル園名物、パイナップルソフトクリーム。【観光客向け】と言われるモノだが、僕は好きだ。と言うか、パイナップルが好きだから。「ふひひ♪おいしい♪」「それはよかった。」「ジュン?」「ん?」「あーん」「へ?」「いや、あーん。」「・・・」「いらないの?」「流石に…。」「あーん。」「…頂きます。」観念し、彼女がくれたソフトクリームを食べる。
‐‐あーんして下さいませ。あぁ、そんなこともあったっけ。あれは…。そう、冬だったな。「ジュン?」「え?いや、ごめん。」「大丈夫?」「うん。」「…そう。ねぇ、話して?」「何を?」「…何か、あったんでしょ?」そんなことを、会って2日目の人に話せるわけがない。「いや、何でもないんだ。気にしないで。」「…ごめん。」「大丈夫。さ、行くよ。」「え?どこに?」「秘密の場所。」‐‐午後5時クルマを飛ばし、北へ。ノースショア。そこにある秘密の場所。僕がハワイで一番、夕日が綺麗だと思う場所。「着いたよ。あのテラス。」「いい場所だね。」「うん。観光客もあんまり来ないし。」
「教えないの?」「うん。だから秘密の場所。コーヒー好き?」「まぁ、好きかな。」「コナコーヒーは?」「あ、香りがいいやつ?」「うん。豆も買えるよ。」「買って帰ろっ♪」テラスからは、傾いた太陽。出されたコーヒーは、香り豊かに深く。甘い香りは、その深い味に隠れず。かと言って、味にも隠れない。「あのさ、」僕は、何故か喋りだしていた。Phase3-Kona-Fin
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