Melody of Joy-Kanarienvogel-
タイタニックの一等客室の客が脱出する際にオーケストラがいたという逸話は、映画のお陰で有名になった。でも私は、それが何と無く気にいらなかった。それに大した理由もないなかったが。Melody of Joy-Kanarienvogel-‐‐夕刻私はいつも一人で音楽室にいる。拙いが、自分の好きな旋律を奏でるために。‐主よ、人の望みの喜びを‐別に自分がクリスチャンってわけでもない。ただ、好きなだけ。その旋律‐一音一音を楽しむこと‐が好きなだけだった。時期的にも丁度合っていたし。そんな折・・音楽室に意外なお客が来た。ガラッ金「~♪」「・・・いいメロディだな。」金「かしらー!?」私は思わず叫んでしまった。だって誰か来るなんて思ってもみなかったし。「…そんなに驚くことでもないだろ」金「ごめんなさいかしら…。」「気にするな。続けてくれ。」
正直、人前でなんて弾いた試しがない。人一人いるだけでこんなにも違う。手は汗だく、足はガクガク、心臓バクバク。…それでも不思議と弾けるのは、体が覚えている為なのだろう。一通り引き終えると、一人しかいないお客はスタンディングオベーションで向かえてくれた。夕陽に照らされたM字のデコが、輝いていたのが第一印象。今思えば失礼な話だが、デコキャラは私も同族。それに彼なら笑い飛ばしてくれるはずだ。そんな彼の名前は…金「そう言えば、あなたの名前は何かしら?」ベ「俺はベジータ。やがて世界を支配する、サイヤ人の王子だ。」何をわけのわからない事を言っているんだろう。電波の人だろうか。そんな事を思った。‐これも、失礼な話だ。金「私は金糸雀かしら。いつもは図書館にいるかしら。」ベ「韓国人か?」金「違うかしらー!!」よく言われる。これで698回目。ベ「それはすまん。それより他に弾ける曲はあるか?」
金「へ?」間抜けな声が音楽室に響く。響くのは不響和音で十分なのに。金「んー。とりあえず聞いてみるかしら♪」私はなんとなく思い付いた曲‐G on Aria‐を弾くことにした。静かに、優しく。でも、しっかりと。音楽の世界は何だか矛盾していたりする。音楽が、人によっては【音が苦】に成かねない。変な世界が広がっている。まぁ、少なくとも今いるお客は【音が苦】ではない様子。彼は、目を瞑り私が奏でる旋律に耳を傾けていた。‐‐平穏と力の共存は、中々できることじゃない。彼は演奏後にこんなことを言った。金「どういう意味かしら?」ベ「力と力がぶつかる時、そこには平穏など存在しない。あるのは喧騒だけだ。しかし…」‐‐お前はそれを共存させ、尚且つ調和させている。金「あ、ありがとうかしら////」ベ「凄いことをやってのけるんだな、お前は。また聞かせてくれ。」
金「これくらいの時間にいつもここにいるかしら~♪」ベ「わかった。また来よう。」彼は帰った。その後は少しだけ弾いた。彼は、その日から毎日のように私の演奏を聞きに来るようになった。私も人に聞かせることを意識するようになったが、自然とその感覚は薄れた。理由はわからない。ただ、自分も楽しめて目の前にいるお客も楽しめている。一応、利害関係は一致している。いつしか私は、その日課を楽しみにするようになった。そんなある日…ベ「なぁ金嬢。クリスマス暇か?」金「へ?」だから響くのは(ryベ「予定、あるのか?」クリスマス…独り身の私にとって縁のない行事。なにそれ美味しいの?コレが率直な感想だ。金「入ってないけど…どうしたかしら?」ベ「いつもいい演奏を聞かせてもらってる礼だ。映画でも行かないか?奢るゼ。」‐‐これって、デートの誘い?無論私に、そんな経験はない。
金「え、え、え~っと…」ベ「予定、あるのか?」あるわけないでしょ。金「い、今はわかんないかしら!!帰って見てみないと…」ベ「そうか…。」何だか少し、悪い気がした。正直断る理由もない。この人が嫌いなわけでもない。でも…何だろう。凄くドキドキする反面、今の関係を維持したいと思う自分がいる。こういう自分が、少し嫌になる。音楽室を気まずい沈黙が包みこむ。それをぶち破ったのは…彼だった。ベ「…もう一曲、頼めるか?バッハのヤツを頼む。」金「わかったかしら♪」私は-主よ、人の望みの喜びよ-を弾く。彼は、真剣に聞いていた。そんな彼を見て、私の脳裏に彼と初めて会った時の思い出が映る。‐‐なんだっけ?平穏と力の共存だっけ?あれって、誉めてくれたんだよね…。金「…終わりかしら。」ベ「ありがとう金嬢。それじゃあな。」彼が…帰って行く。
金「待つかしら!!」‐えっ?何で呼び止めてんの私。衝動ってこういうことなんだろう。これに支配されたら、もう止まらない。近くによく衝動買いする人がいるからよくわかる…何て言ってる場合ではないが。ベ「?どうした金嬢?」金「あの・・・・その・・く、クリスマス・・」彼は私が言い切るまで無言を貫くだろう。金「クリスマスは暇かしら!!だから誘ってくれて嬉しかったかしら!!映画に行くかしら!!」‐‐言ったよ。言い切ったよみっちゃん。ベ「そうか。嬉しいゼ金嬢。」クリスマスにデートなんて…。生きててよかった。ホントによかったよみっちゃん。その日は、ウキウキだった。
デート当日は、完璧なまでのエスコートを‐デートの経験がない私でも分かるほど‐やってのけてくれた。そしてラストのディナーで…‐‐お前の奏でる旋律が、俺に喜びを与えてくれる。ベ「無論、お前自身もな。」遠回しの、告白。シネコンがあるホテルの最上階のレストランにて。そこで流れていた曲は、初めて出会った時の曲だった。私の返事は…勿論こうだ。‐‐喜んで、かしら。みっちゃん、一足先に幸せになります。Melody of Joy-Kanarienvogel-おしまい
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー と 利用規約 が適用されます。
1文字以上入力してください
本文は少なくとも1文字以上必要です。
1文字以上入力してください。