第百二話 JUMとペット
「一つ屋根の下 第百二話 JUMとペット」
正月と呼べる日も終わり、冬休み最中の夜のリビングの事である。「ああ、やっぱり犬は可愛いわね。最高だわ。」テレビを見ながら真紅姉ちゃんがウットリしている。かなり乙女な表情だ。ちなみに、テレビ番組の内容は『突撃お宅のペットさん』という企画物らしい。レポーターがペット自慢のタレントの家に押しかけてペットの愛くるしさや、時には奇抜なペットを紹介するという比較的ありふれた番組である。「ふふっ、真紅は本当に犬が好きなんだね。そういえば、毎朝『今日のわんこ』見てたもんね。」蒼姉ちゃんが蜜柑をむきながら言う。いいな、僕も蜜柑食べようかな。そっと蜜柑箱に手を伸ばす。「ええ、犬は最高よ。紳士的で賢く優しい動物よ……そう、くんくんのようにね。」完全に目がキラキラしてる真紅姉ちゃん。いやはや、この偏愛振りも大したもんである。「うぃ……ヒナは犬さんも好きだけど、猫さんの方が好きなのよ。」「ダメよ、猫なんて。あんな世界で一番野蛮な生き物……私が当時子供だと思って……ああ、思い出すのも嫌だわ。早く消えないかしら、この記憶。」昔真紅姉ちゃんと猫にどんな事があったんだろうか。以前聞いてみたけど、物凄い目付きで睨まれて聞く事を止めた事があったり。ああ、聞かない方がいい。聞くと消される。そんな気すらしたもんさ。「まぁ、その辺は置いといてさ。じゃあペット飼ってみるなら姉ちゃん達は何がいいの?」僕はふと頭に浮かんだ疑問を口に出す。すると真紅姉ちゃんとヒナ姉ちゃんが即答した。「当然犬よ。」「猫さんなの!!」当然のようにすれ違った意見に二人は火花を散らす。そして二人は声を合わせるように言った。「なら、ローゼン多数決で勝負よ!(なの!)」と、僕の何気ない一言で何故か姉妹を巻き込んでの論争に発展した。どうでもいいけどさ。決着ついてもペット飼う訳じゃないの、忘れてないよね?
さて、ここで用語の復習である。ローゼン多数決。それは以前も登場した頑固者が多い姉妹の中で作られた民主的な決をとる方法である。民主的を謳いながら物で釣ったり賄賂もどきがあるのはともかく、丁度9人家族なのでほぼ必ず決が出るのである。ちなみに、今回のように実に下らない内容で行われる事が多い。「さて……水銀燈、貴女も犬好きだったわよね?当然飼うなら犬よね。」真紅姉ちゃんとほぼ同等なくらいくんくんのファンの銀姉ちゃん。当然犬も好きであろう。「そうねぇ……私は別に猫も好きだけどぉ、飼うなら犬ねぇ~。」とまぁ、当然のように銀姉ちゃんは真紅姉ちゃんを支持する。続いてヒナ姉ちゃんが勧誘をする。「うーと……金糸雀は猫さんよね?」カナ姉ちゃんは確か猫好きだった気がする。よく、一緒に買い物行って猫を見つけると駆け寄って撫でようとしてたりするし。もっとも、猫って警戒心強いから何時も逃げられてるけどね。「そうね……猫も飼ってればきっと撫でさせてくれるわよね?何せ御主人様なんだし。」そんなに猫撫でたかったんだろうか。もっとも、気まぐれな猫の事だ。飼ってても撫でさせてくれないかもだけど。「じゃあじゃあ、金糸雀は猫さんね?」「うん、カナは飼うなら猫がいいかしら。」と、これで2対2。さてお次はどう票が動くだろうか。先に動くのはヒナ姉ちゃん。「翠星石ぃ~。翠星石は猫さんと犬さんどっちが好きなの?」ターゲットは翠姉ちゃんだった。翠姉ちゃんはそうですねぇ、と少し考えて言った。「ま、翠星石は飼うなら猫ですね。翠星石には勝てないですけど、そこそこに可愛いですし。」翠姉ちゃんはヒナ姉ちゃんの支持に回る。どうでもいいけど、翠姉ちゃん自体が猫っぽいよね。気まぐれだし、人見知りだし、警戒心強いし。普段は飄々としてるけど、甘えるときはどこまでも……みたいな。「まぁ、別にいいわ。蒼星石、貴女はどうなの?」翠姉ちゃんがヒナ姉ちゃんに取り込まれて不利な状況ではあるが、落ち着いている真紅姉ちゃん。「僕?そうだね、僕は……僕は犬かな。真紅も言ってたけど、賢いし主人には忠実なイメージがあるしね。」まぁ、そのイメージはそのまま蒼姉ちゃんに当てはまる気がするけど。さて、これで3対3。勝負の行方はさっきからやたら黙ってるキラ姉ちゃんと薔薇姉ちゃんにかかってる。頼むから二人で決めてもらえると嬉しい。これで二人の意見がバラバラになると僕に全権がかかる。そうなると、前回みたいに最終的に色仕掛け合戦になっちゃうし。そう思ってるとキラ姉ちゃんが口を開いた。「そうですね……私、飼うなら牛がいいです。」
部屋がシーンとなる。牛?牛ってあれですかい?も~と鳴くあれ?英語で言うとcow。「ちょ、ちょっと雪華綺晶?牛って……?」流石の真紅姉ちゃんもぽかーんとしながらキラ姉ちゃんに問う。しかし、マイペースなキラ姉ちゃんはさらに語る。「ええ、牛です。素晴らしいと思いませんか?あ、できれば松坂……と付く牛がいいです。松坂牛……ああ、一頭丸々のお肉……死ぬ前に食べてみたいものです。」ああ、cowじゃなくてbeefな訳ですか。肉目的ですか。キラ姉ちゃんにすれば、豚でも鶏でも。とりあえず最終的に食べれれば何でもいいんじゃないかって思えてくる。そんな訳で、一頭丸々松坂牛を食べるのを妄想してるのか、目が遠い所に逝ってるキラ姉ちゃんは置いといて。「じゃあ薔薇しー!おめぇは何が飼いたいですか?」そういえば、発言した僕自身忘れてたけど元を辿れば犬か猫かではなく、何が飼いたい?だったな。そう考えるとキラ姉ちゃんの答えは問題ない……と思う。多分。「私は別に……だってもう飼ってる……」ポソッと相変わらず小さな声で薔薇姉ちゃんが言った。って、もう飼ってる?そんな話初耳だぞ?「ちょ、ちょっとぉ薔薇しー、貴女何時の間に?全然気づかなかったわよぉ?」僕だって、と言うか多分姉妹は誰も知らないだろう。全くそんな素振りはなかった。「んと……10年前から……見たい?」10年前?そんな昔から?姉ちゃん達はみんな見たいと首を縦に振っている。すると薔薇姉ちゃんはコタツから立ち上がって歩き出した。あ、アッガイとかかな。ほら、薔薇姉ちゃんがアッガイ好きになったのも、僕が昔あげたからだし。しかし、薔薇姉ちゃんの思考は僕の予想のさらに斜め上をバレルロールしていた。「私のペットは……JUM……」薔薇姉ちゃんはそう言うと、後ろから僕を抱きしめてきた。「な、な、な……何言ってやがるですかー!JUMから離れやがれですぅ!!」真っ先に突っかかるのは当然のように翠姉ちゃん。と言うか、10年前からって事は出会ったときから僕をペットと思ってたんでしょうか?さすがにネタだよね……ネタ……だよね?「嫌だ、離れない……JUMは私のペットで……私はJUMのペットでもあるの……相思相愛……」僕は薔薇姉ちゃんを飼った覚えないんですけど。しかも、それは相思相愛とは違う。
「JUM……JUMが望むなら私を好きにしていいんだよ……だって私はJUMのペットだから……逆に…」翠姉ちゃんを主にした抗議を気にも留めずに薔薇姉ちゃんの暴走は止まらない。「JUMは私のペットだから……好きにしていいよね。スキンシップしよう……」薔薇姉ちゃんはそう言うと僕をコタツから引きずり出して僕を押し倒した。「ちょ、ちょっと待った薔薇姉ちゃん。本題から離れまくってるって!」「無問題……そもそも決が出た所で……本当に飼う訳じゃない……」それを言ったら今回の話はおしまいです。そんなこんなで、今回のローゼン多数決はウヤムヤのまま終わりとなるのだった。
「まぁ、犬にしろ猫にしろいつかは飼いたいよね。」薔薇姉ちゃんの暴走を全員で止めて一息つくと蒼姉ちゃんがお茶を飲みながら言った。「そうね。今は日中とか全員出払ってるから飼う事が出来ないけれど。いつかは飼いたいわね。」真紅姉ちゃんもさっきの騒動で乱れた髪を直しながら言う。実際、我が家でペットを飼わない理由は、日中は基本的に家に誰も居ない為、世話が出来ないという理由だ。それさえクリアできれば、多分すぐにでも姉ちゃん達はペットを飼い始める気がする。「うゆ~……でもペットの話してたらやっぱり飼いたくなっちゃうのよ~。」まぁ、テレビとかで可愛い犬とか猫見てると飼いたくなるしね。すると、銀姉ちゃんがポンと手を叩くとそれこそ悪魔みたいな事を言い出した。「いい事考えたわぁ。薔薇しーじゃないけどぉ。みんなでJUMをペットにしちゃえばいいのよぉ。」「はぁ!?銀姉ちゃん何を言って……」「あら、実にいい案ですわね。ふふっ、可愛がってあげますわよJUM?」「きらきー、抜け駆けはダメですぅ!でもちょっと可愛げがないですねぇ……薔薇しー、何かないですか?」「ん……猫耳や犬耳のカチューシャ持ってくる……犬JUMや猫JUMの出来上がり……ちょっと待ってて。」僕の人権など全く無視されてトントン拍子に話が進んでいく。蒼姉ちゃんさえも何だか乗り気だ。「ね、姉ちゃん……ちょ、マジでやめて……」「却下よ。いいじゃない、みんなに可愛がって貰えるのよ。こんな幸せな事ないでしょう?」真紅姉ちゃんが薔薇姉ちゃんが持ってきた犬耳カチューシャを持って近づいてくる。「ま、待って……姉ちゃん達マジで怖いから……大体僕なんて可愛くも……う、うわー!何をする貴様ら~!」その後の記憶はありません。ただ、何だか汚れてしまったような気がします。END
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