第百一話 JUMと初夢
「一つ屋根の下 第百一話 JUMと初夢」
夢……夢を見ている。。3人の大人の人と、1人の少女。その人達の前で少年は泣きじゃくっていた。「ごめんね、JUM君。お姉ちゃんのせいで……お姉ちゃんの病気のせいで……」少女が少年に向かって言う。しかし、その声は少年には届いていない。「それじゃあ……お願いします…本当にすいません、ローゼンさん。」「気にしないで下さい。JUM君は僕が責任を持ってお預かりしますから……」そんなやり取りが聞こえてくる。そして、金色の髪の大人が少年の手を引く。2人の大人と少女は、名残惜しそうに、そして申し訳なさそうにその場を去っていった。そんな夢を見た……そう、これは夢。夢なんだ……
「ふあ、眠いし寒いし。まぁ、眠気覚ましには丁度いいかな。」僕はトントンと軽快に階段を降りて洗面所へ向かう。そして顔を洗うとリビングへ向かった。「おはよう、姉ちゃん。」ガチャリとドアを開くと、すでに姉ちゃん達はコタツでテレビを見ていた。珍しいな、キラ姉ちゃんも起きてる。「あらぁ、おはようJUM。今お餅焼いてるから待ってねぇ~。」開口一番銀姉ちゃんが言う。そっか、今日の朝ご飯はお餅か。いいねぇ、実に正月らしい。「ヒナ、お餅にアンコと苺入れてうにゅーにするの~!」アンコはともかく、熱いお餅に苺とはチャレンジャー極まりない。まぁヒナ姉ちゃんはオニギリに苺でも平気で食す人だ。熱い苺大福だと思えば問題ないんだろう。「アンコもいいですけど、黄粉もいいですよねぇ。お醤油もシンプルでよいですし。」キラ姉ちゃんが胸の前で祈るように両手を合わせてお餅に思いを馳せている。どことなく目もキラキラしてる。「お餅に紅茶も悪くないわ。JUM、淹れて来なさい。」真紅姉ちゃんが言う。まぁ、真紅姉ちゃんの場合は何でも紅茶なんだけどね。って、さっきから一人だけ姉妹が見当たらない。何時もは結構起きるの早いはずなんだけど……そう思ってるとその人がリビングにやってくる。「あ、バラバラおはようかしら!って……ど、どうしたの?」カナ姉ちゃんが驚きの声をあげる。無理も無い。僕だって驚いてる。何せ薔薇姉ちゃんが目に涙を浮かべてる。「ぐすっ……うわああああんん!!JUM~~!!」そしてそのまま薔薇姉ちゃんは僕に飛び掛るように抱きついてきたのだった。
「えっ、ちょっ…JUM!おめぇ何しやがったですかぁ!?セクハラですか?セクハラなんですかぁ~!?」薔薇姉ちゃんを抱きとめてる僕の頭を翠姉ちゃんがグワングワンと乱暴に揺さぶる。「落ち着いてよ翠星石。JUM君も薔薇水晶もまだ何も言ってないでしょ?」そんな翠姉ちゃんをなだめるのは蒼姉ちゃんの仕事だ。つくづく蒼姉ちゃんって苦労人だなぁと思う。「ってて……薔薇姉ちゃんどうしたの?何かあったの?」とりあえず翠姉ちゃんから開放された僕は抱きついて泣いている薔薇姉ちゃんを落ち着かせようとする。少しの間グスグスと泣いていた薔薇姉ちゃんはようやく顔をあげて涙を拭うと小さな声で言った。「ぐすっ……あのね……夢を見たの……」「夢?怖い夢でも見たの?」薔薇姉ちゃんがコクンと頷く。可愛いもんだなぁ、怖い夢で泣いちゃうなんて。でも、その怖い夢は少なくとも僕達一般人とはベクトルが相当にかけ離れていた訳で。「あのね……21000ちゃんねるが……閉鎖される夢見たの……もし正夢になったら……うわあああん!!」再び泣き出す。前言撤回。やっぱり薔薇姉ちゃんは変な子です。今回はさすがに他の姉ちゃんもぽかーんとしている。ちなみに、21000ちゃんねるとはニセちゃんねると読む(2と1000なので。決して2万1千ではない)恐らく国内最大級の掲示板サイトである。ハッキングから夜のオカズまでなんでも御座れらしい。「閉鎖って……正夢になってもそんな問題ないんじゃ。」「よくないよ!ニセちゃんねるが閉鎖されたら私は……どこで恋愛相談とかしたらいいの?どこで『うはwwてらわろすwww』とかやればいいの?どこで……VIPのノリをすればいいの?」そんな事知りません。ていうか、恋愛相談なんてしてたんだ?とりあえず僕は薔薇姉ちゃんをなだめる。そして、薔薇姉ちゃんがある程度落ち着いてきた頃にようやくお餅が到着した。「そういえば、みんな初夢は見たのぉ?」ビニョーンとお餅を伸ばしながら銀姉ちゃんが言う。初夢か……僕は何見たっけ?何か部分的には覚えてるんだけどな。まぁ、夢なんて起きたら曖昧なんてのはよくある事だ。「初夢ですか。初夢といえば、1富士2鷹3茄子と言いますね。」確か見ると縁起がいいんだっけ。少なくとも僕はそんな縁起のイイモノは見てない。「はーい!ヒナねぇ~、お山の夢見たのよ~!」ヒナ姉ちゃんが手を上げながら言う。それを聞いた翠姉ちゃんが突っかかる。「ちっ、チビチビの分際で生意気ですぅ!おめぇが一番縁起がいい富士山の夢見るだなんて……」それってあれかな。のび太の癖にと同じ理論ですか?
「でもまぁ、よかったねヒナ姉ちゃん。今年はきっといい事あるよ。」お餅を醤油に付けながら僕は言う。うん、砂糖もいれてほんのり甘い。「うん!ヒナも夢みたいにうにゅ~で出来たお山見てみたいの~。」え?お山って……まさか苺大福で出来た山だったのか?まぁ、確かに富士なんて明確には言ってないけど。「それは素晴らしいです。見つけた際には私も食べるのをお手伝いします。」キラ姉ちゃんがある訳の無い山に思いを馳せる。二人なら文字通り山ほどの苺大福さえ食べそうだ。「そう言うきらきーは何か見たかしら?カナは今年は見れなかったかしら。」「そうなんですか?私は沢山の食べ物を食べた夢を見ました。」ああ、まさにキラ姉ちゃん。でもきっと、寝言は『まだまだ食べれます。』な気がする。「まずお肉を食べて、お魚を食べて、お野菜も食べましたよ?デザートも食べまして……最後には…きゃっ♪」そう言ってキラ姉ちゃんは何故か顔を赤くする。そもそもデザートより後ってあるんだろうか。「最後には……JUMを食べましたの。いえ、寧ろ食べられました。」一瞬、部屋の空気が凍る。僕は背筋まで凍る。そして次の瞬間ルビーとエメラルドの瞳が光った。「JUM~~~!!!てぇめぇーは何してやがるですかぁ~~~~~!!!!」「ぐえっ!す、翠姉ちゃん落ち着いて……いて、いてて!ゆ、夢の話でしょ~!?」翠姉ちゃんが再びガクガクと僕を揺さぶる。余りの激しさに意識が吹き飛びそうになる。「JUM、何なら後で速攻で正夢にして下さってもいいですよ?」キラ姉ちゃんがそんな事言うので益々翠姉ちゃんの怒りゲージは増えていく。何とか蒼姉ちゃんに止められたけど、僕の脳味噌はバター寸前な気さえした。「で。そう言う翠星石は何か見たのかしら?」真紅姉ちゃんが言う。すると何故か翠姉ちゃんはビクッと背中を震わせた。「と、と、当然ですぅ。翠星石は日頃の行いがいいですから、なすびの夢見たですよ~。」若干挙動不信になりながらもエッヘンと胸を突き出す翠姉ちゃん。「へぇ~、良かったね翠星石。僕はまだ見てないから……あ、でも初夢は1日と2日に見た夢だから、僕と金糸雀にもまだチャンスはあるね。」「そ、そうですかぁ~。ま、まぁ精々頑張っていい夢見やがれですよぉ~!おっと、お餅追加が焼けたみたいですねぇ~。じゃあ翠星石が取って来てやるですよ。」そう言いながら翠姉ちゃんはそそくさとリビングを出て行った。多分何か隠し事があるんだろうな。
「言えないです……なすびはなすびでも、顔の長い方のなすびだなんて……絶対言えないです……」ちなみに、これは台所で漏らした翠星石の独り言である。
「そういえば、水銀燈。貴女は初夢見たの?」「私ぃ?もちろん見たわよぉ。ふふっ、聞きたぁい?」銀姉ちゃんがニヤニヤしながら言う。多分よっぽど自信ある夢でも見たのだろう。そんな事を思っていると銀姉ちゃんはコタツから出て僕の後ろに回る。そしてそのまま僕に抱きついてきた。「ふふっ、私はねぇJUMのお嫁さんになった夢を見たのよぉ~。」「ちょっと!だからって抱きつく必要はないでしょ!!」真紅姉ちゃんが抗議の声をあげる。いい加減、これくらいは馴れた……はず。相変わらず柔らかいけど。「ふふっ、だってぇ。この初夢が叶えばJUMは私の旦那様でしょぉ?もう決まりよぉ。運命感じちゃうものぉ。ね、JUMぅ。私達の家はねぇ、白い大きな家なのぉ。それでお庭には犬が居て、お休みの日には私とJUMと。そして私達の子供と幸せに過ごすのぉ。そして夜は……ふふっ……」そう言って銀姉ちゃんが僕の耳に息を吹きかける。思わずブルッと身震い。にしても、やけに乙女な夢だ。話を聞いていた真紅姉ちゃんもプルプル怒りに震え……しばらくするとフッと笑って一言言った。それはまさに全面戦争への引き金だった。「ま、所詮夢ね。」カチン!と。確かにそんな音が銀姉ちゃんからした。妄想に浸る銀姉ちゃんに実に厳しい一言だった。「そう……まぁ、確かに夢よねぇ。でも真紅ぅ。貴女の初夢なんてどうせ、夢では姉妹一の巨乳になってて得意気になっていたけどぉ、いざ起きて毛布を捲ると見慣れた洗濯板だったんでしょぉ?」「なっ!?なんでそれを……はっ、しまった……」え、図星かよ!?こういう時の銀姉ちゃんの勘は鋭いを超えてるな。そして止めの一言。「まぁ、所詮夢よねぇ。」今度はカチンと真紅姉ちゃんから音がする。うわぁ……段々リビングがカオスな空間になっていく。「え、えと……ヒナ巴と遊びにいくのぉ……じゃ、じゃあね!」バタバタと足早にヒナ姉ちゃんが逃走する。それに続いてカナ姉ちゃん、キラ姉ちゃん、薔薇姉ちゃん、蒼姉ちゃんも逃走を始める。そして僕も……あ、台所で翠姉ちゃんを救出しとこう。今この部屋に入ったらきっと死ねる。リビングから脱出すると、台所で翠姉ちゃんを拾って部屋に逃走する。恐らく今頃リビングは戦場になってる事だろう。新年早々の最大級の姉妹喧嘩に溜息を吐きつつ、僕は自分の夢を思い出していた。あの夢、泣いていた少年はきっと僕。金色の髪の大人は父さん。そして、姉と名乗った少女は……「姉ちゃん……?僕に姉ちゃん以外に姉ちゃんがいたっけ……?いやでも……」幼い頃の記憶というのは、残酷なほど曖昧である。僕はふと思った。どうして今まで疑問に思わなかったんだろうか。どうして僕は……「そもそも……なんで僕は養子になったんだっけ……」END
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