ドッペル 《The 3rd days》 その二
翠「で、お金はあるんですかぁ?」ジ「ああ、確かノリがこの引き出しに……ほらあった」翠「これで準備万端ですね。さあとっとと行くですぅ」――ガチャリと玄関のドアを開ける。いいタイミングで風が吹いてきた。ジ「さっ、寒っ!」翠「ううっ、さみーですぅ!風が冷てぇですぅ!」ジ「昨日までの陽気は一体どこへ!?」翠「服装は大丈夫ですが、まったく今年は暖冬とか言ってたくせに嘘っぱちですぅ。暖冬とか言うのなら去年より6度くらい暖かくあるもんですぅ」ジ「そんな無茶言うなよ……。そうなると春夏秋春になって冬がなくなるじゃないか」翠「冬なんて寒いだけですぅ。いらないんですぅ。暖かいのが一番ですぅ」ジ「あ、そうだ。ちょっと玄関の中で待っててくれ」翠「なんですか?外はさみぃですから早く行って早く帰るですぅ」ジ「すぐ戻ってくるから」そう言って2階へ急ぐ。確か今年の春にこの辺に直したと思うんだけど………あったあった。ジ「お待たせ。はいこれ。外寒いだろ」翠「あ、ありがとうですぅ」ジ「男物だけど我慢してくれよ。流石に姉ちゃんの部屋に入る勇気はなかったからさ」翠「でも一組しかないですぅ」ジ「あ、僕はいいよ。ポケットに手突っ込んどけばいいし。お前の服、ポケットないだろ」翠「お前は馬鹿ですか!そんなことしてこけたらどうするんですか!顔から倒れて眼鏡が割れてレンズの破片が目に刺さって失明でもしたらどうするんですか!」ジ「そ、そこまで考えてなかったけど」翠「第一自分の運動神経ぐらい把握しとけですぅ」
ジ「うっ!耳が痛くなる話だな」翠「だからしょうがねーからこの手袋の右手を貸してやるからポケットに手ぇ入れるのをやめるですぅ」ジ「でもそれだと翠星石の右手が寒いだろ?」翠「そ、そのくれぇ察しろですぅ!」ジ「………………。あ~、そういうことか。わかった。じゃあ行こうか」翠「ジュンの手、冷たいですぅ」ジ「まだつないだばかりだからな。そのうち暖かくなるよ」――10分後――ジ「ここを右に曲がればすぐだな」翠「違うですぅ。右じゃなくて左ですぅ」ジ「そっちの方向はお前んちの方だろうが」翠「左ですぅ!ひ・だ・り!」ジ「だからそっちはお前んち!商店街はこっちだ!」翠「ひ・だ・り・で・す・う!!」ジ「絶対右だ!!」翠・ジ「むむむむむむ……」?「何やってんだお前ら?」?「痴話喧嘩かしら。平日の昼間から熱々かしら~」翠・ジ「…………」金「何かしら~?ジッと見て」翠・ジ「……誰?」金「最早お約束かしら~~~~!!」
J翠「あれ?お前眼鏡は?コンタクトにしたのか?」J金「いやさ、昨日の夜辺りから視力がいきなり戻ってね。眼鏡が使えなくなったんだよ」J翠「一時的なものかな?」J金「さあ?どうだろ。戻って悪いことはないし、強いて言うなら見えすぎることと、なんか眼鏡がなくて慣れないことかな」J翠「具体的にどのくらい見えるんだ?」J金「そうだな…、5メートル先にあるものも余裕で見えたり、スモークガラスで見えないはずの中身まで見えるようになったな」翠 「へ…変態ですぅ」J金「う、うるさいな。見たくて見てるわけじゃない」これがこいつの能力か?だいたい視力が戻るわけがないぞ。この視力は遺伝型なんだからさ。でもまだよくわからないな。例え能力だとしても微妙な能力だな。
金 「それよりもお二人さんはこんなところで何をやってるのかしら~?」翠 「そうですそうです、丁度良いときに来たですぅ。商店街は左ですよねぇ!?」J翠「違うだろ?右だろ右?」金 「本当に痴話かしら~」J金「正しく読んで字の如くって感じだな。仲良く手もつないで」J翠「そんなことは関係ないだろ!つかお前らもつないでんじゃないか!」J金「片手は手袋、もう片手は素手なんて変な格好じゃないけどな」翠 「そんなことはどうでも良いんですぅ!どっちなのかはっきりと言いやがれですぅ!」金 「す、翠星石恐いのかしら~」J金「大丈夫だって」なんてこと言いながら金糸雀をなだめるように抱っこしているお前も熱々じゃないのか?あ~金糸雀赤くなってるな。なんか楽してズルして~とか聞こえたような気がするけど。J金「それと、商店街に行くならここを右だ。お前が間違ってる。左に店類はなかったはずだ。はっきりと言ってやったぞ」
J翠「ほ~らみろ。僕が正解じゃないか」翠 「キィーーー!!そんなわけねぇですぅ!ほら金糸雀!なんとか言えですぅ!妙な事言ったら揚げてカナ揚げにして食ってやるですぅ!」金 「ふえ~~ん、翠星石がとっても恐いのかしらぁ~」J金「おい!この性悪女!なにカナをいじめてんだよ!涙目になってるじゃないか!こんの山ん婆!!お前が間違ってることにはかわりないだろ!」翠 「なっ!!」J翠「おいおい、別にそこまで言わなくてもいいだろ?いつもの事なんだからさ。それよりとりあえずありがとな。方向がわかったから」まあどこにあるのかぐらい知ってたけどさ。お礼はするべきだよな。てか、山ん婆はないだろ。山ん婆は…。
翠 「…………」J翠「ほら翠星石も機嫌なおして元気だせって。そういえば、お前らはどこに行こうとしてんだ?」金 「カナたちは今から学校に行くのかしら~」J金「カナはクラスの委員長だから学校で色々とやることがあるらしいんだ」J翠「へぇ~~休みなのに大変だな」J金「まあその間僕は図書館で勉強するんだけど」J翠「手伝わないのか?」金 「カナ一人でも十分かしら」J金「だそうだから」J翠「ふ~ん」翠 「あうぅ……寒いですぅ。今回は譲ってやるからさっさと行くですぅ」J翠「そうだな。じゃまた今度な」J金「あ、そうそう、昨日と比べて10度前後気温が下がったらしいから風邪引かないように気を付けろよ?」J翠「お前らもな。じゃあな」そう言って二人と別れた。しかし、あの凹凸は傍からみると滑稽にも見えるな。保護者と子どもや兄妹にもみえる。しかし、なんかか片方は機嫌悪そうだったな。
翠「……なんか久しぶりに言われるのも結構嫌なものなんですね…」ジ「大丈夫だよ。僕はもう言わないから」翠「……ありがとうですぅ」ジ「だから、元気だしてくれよ?な?」翠「…………」ジ「翠星石?」翠「調子に乗ってんじゃねぇですぅ。翠星石はこのくれぇではへこまねぇですぅ。ほらさっさと行くですぅ」ジ「わかったって。引っ張らなくても歩けるから」元気が出てくれて良かった。けど、僕も以前はなんの躊躇いもなく言っていた言葉だ。途中から翠星石を意識しだしてやめたけど。嫌だったなら嫌と言えば……いや、当時の僕なら流していただろうな。
翠「なにか考え事でもしてるんですか?」ジ「…いや、なんでもないよ」翠「そんなことだからこけるんですぅ。翠星石みたいにちゃんと足下を見ながら歩けばいいんですぅ~」ジ「はいはい、わかってるよ」翠「返事は1回で十分ですぅ。それにしても一日で10度も下がるなんて聞いたことねぇですぅ」あんなこと言ってた本人がこんなこと言うのもなんだけど、もういいかな。彼女がいつも笑顔でいてくれれば僕はそれがいいかな。……何を言ってるんだ僕は。まああれだ、雰囲気に酔ったり奴らに影響されただけだろう、きっと。そう思わないと恥ずかしすぎて死んでしまいそうだ。つか、こんな性格でよくあんな大胆な行動が出来たな。まったく。
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