T18k - 第一章
『T18k - 第一章』学校ではクールな一匹狼で通(とお)っている水銀燈。
場所は薄暗い体育館裏。男「あ、あのっ!これ僕の気持ちですっ!受け取ってください!!」水銀燈「はぁ?私がそんなもの受け取るわけないでしょ・・・」男「あっ!水銀燈さん!行かないで!! うう・・行ってしまった・・・でも去る姿も美しい!!」
場所はお昼の教室。翠星石「ねぇ、水銀燈さん!一緒にお昼ご飯食べるですっ!」銀「あらぁ、ごめんなさぁい。私ちょっと用があるの」翠「フラれちゃった・・・・でもそんな水銀燈さんがカッコイイですぅ!!」蒼星石「姉さんも懲りないね・・・・・」
水銀燈はキャラを作っているわけでなく、人付き合いが嫌いだった。しかしその仕草や外見が美しく、尋常でない人気があった。ただ単にマゾが多いだけかもしれない
が。そんな水銀燈には毎晩楽しみがあった。それは銭湯だった!
じじい「お嬢ちゃん、また来たねぇ」カウンターで肘をつきながらじじいが話しかけた。銀「うるさいわねぇ・・・気安く話しかけるなといつも言っているでしょう」桶を片手に持った水銀燈が、小銭をカウンターに置きながら言った。じ「まあまあ、この時間帯に来るのはお嬢ちゃんだけだからさみしいんじゃ。この事を秘密にし てやってるんじゃ。少しくらい話しても・・・」ピシャッ、と水銀燈が引き戸を閉めた。
コンクリートの床に竹の敷物。木の棚には一つずつ竹の籠がある。更衣室だ。銀「・・・・・・・ふふ・・うふふっ♪」自然と笑みがこぼれる。服をポイポイと脱ぎ散らかす。ガラッドタドタドタ銀「じゃ~んぷっ♪」ザブーン銀「ふぅ・・・・気持ちいいわぁ・・・あのじじい、ちゃんと言いつけを守って42.5℃にしてあ るわね。感心感心♪」広い湯船。壁には大きく富士山が描かれている。水銀燈は湯船に備え付けてあったビート板を手に取った。銀「フーフフ~ンフ~ン♪」ザバザバザバザバ薔薇水晶「水銀燈・・・銭湯ではあまり泳がない方がいい・・・・」銀「うるさいわねぇ・・・・誰も居ないんだからいい・・・ってきゃあ!!」
静かな・・・・お湯の流れる音だけがする沈黙。薔「・・・・・・・・・」銀「・・・・・・・・・・・」薔「・・・・・・・・・・・・・・」銀「・・・・・・あ・・・あのさ・・・・・」水銀燈が口を開いた。薔「・・・・何?」銀「今のこと・・・・・秘密にしておいて・・・・くれないかしら・・・・・・?」薔「どうして・・・?」薔薇水晶は不思議そうな顔をした。銀「どうしてって・・・その・・・は、恥ずかしいから・・・・・・」目を逸らして恥ずかしそうに言う水銀燈を見て、薔薇水晶はしばし考えてこう言った。薔「・・・そうね・・・・明日・・・学校をサボって・・・・・私に付き合ってくれたら秘 密にしてあげる・・・・・」
そんなわけで隣町にある駅前のマルイにやって来たノダ☆銀「遅いわねぇ・・・・」制服姿の水銀燈が地団駄しながらそう思った。薔薇水晶が取り付けた約束は、午前10時に白壁(しらかべ)駅前の大きな横断歩道を渡ったところにあるマルイ前集合というものだった。銀「(自分から約束しておいて遅刻かしら・・・呆れたぁ)」薔「ごっ、ごめん!水銀燈!」横断歩道の向こう側で制服を着た薔薇水晶が手を振っている。水銀燈がひらひらと手を振ると、薔薇水晶は走って横断歩道を渡ってきた。銀「あっ!危ない!!」キキイィーーーッ
男「オイ嬢ちゃん!死にてえのか!!」トラックの運転手が怒鳴った。薔「あ・・・ご、ごめんなさい・・・・・」薔薇水晶は深々と謝って、すぐ水銀燈の元に走り出した。銀「ちょっとぉ、危ないじゃなぁい?何考えてるの?」水銀燈が手を腰に当てて言った。薔「ご・・ごめんなさい・・・・」しゅん、とする薔薇水晶。銀「赤信号は渡っちゃ行けないって、そんなことも知らないの?もう買い物に付き合わないわよ?」薔「そっ、それはやだ!ごめんなさい!もうしないからっ!!」そんな薔薇水晶が、突然取り乱した。銀「え・・・えっとぉ・・・・」水銀燈は驚いて、言葉が出てこなくなった。薔「あっ、ご・・ごめんなさい・・・・」銀「別に・・そんなに謝らないでも、もうしないっていうならいいのよぉ・・。 それより話を元に戻すけど・・・・」薔「・・・・?」銀「何で遅刻したの?」薔「あっ・・ごめんなさい・・・・」薔薇水晶はまた謝った。
薔「それのことなんだけど・・・はい、これ・・・」薔薇水晶が手に持っていた紙袋からゴソゴソと何かを取り出した。銀「これは・・たい焼き?」差し出されたたい焼きを水銀燈は受け取る。薔「うん・・赤月(あかつき)駅を降りたところをすぐのところにあるたい焼き屋のたい焼き。 ・・・・おいしいんだよ」赤月駅とは、水銀燈たちの最寄りの駅である。銀「ふぅん・・モグモグ・・・・確かにこれは美味しいわね」薔「うん・・・私のお気に入りのお店・・・これ買うために列んでたら遅くなっちゃって・・・・」薔薇水晶は食べながら言った。銀「いいのよぉ。こっちこそありがと。こんな美味しい物ご馳走してくれて」薔「1個・・・・100円」銀「・・・・・・・」
二人はマルイの1Fの食品フロアを歩いていた。同じクラスだが無口な薔薇水晶と人付き合いが嫌いな水銀燈・・・・おかしな組み合わせだった。薔「あ・・・チョコソフト・・・」ふらふら薔「あ・・・みたらしだんご・・・」ふらふら薔「あ・・・クレープ・・・」銀「ちょっとぉ・・・・大丈夫なの?」薔「・・・何が?」薔薇水晶はクレープをせっせと食べている。銀「その・・・・・体重とか」水銀燈はちょっと恥ずかしそうに言った。薔「私・・・食べてもあまり太らないから大丈夫」銀「そう・・・・・それは羨ましいわねっ・・・・」薔「水銀燈・・・・・最近太っいたっ・・・」薔薇水晶が言い終わる前に水銀燈が額を小突いた。銀「うるさいわねぇ、そういう事は聞くものじゃないわ」薔「・・・でも・・・水銀燈は胸あるしそんなに気にしなくても・・・・・」二人は水銀燈の胸に視線を落とす。銀「そ、そう?そうよね、私もそう思ってたのよぉ」
銀「あらぁ?こんな所にゲーセンなんてあったかしら?」2Fのフロアの端に、真新しいゲーセンがあった。薔「うん、最近できたんだよ。寄ってってみる?」銀「そうね、時間はたっぷりあるんだし。ところで貴女ヤケに詳しいわねぇ・・・」薔「うん、昨日水銀燈がOKしてくれた後、下見に来たんだよ」銀「(OKした後って・・・真夜中よね・・・・・・・・)」二人はゲーセンに入った。銀「(あっ・・・あれは・・・!!!)」水銀燈の視線が一つのUFOキャッチャーに釘付けになった。薔「・・・・・どうしたの?」水銀燈は慌てて視線を戻した。銀「えっ、えっとぉ・・・・・なんでもないわ!」薔「ふぅん・・・・あ、あのUFOキャッチャーやってみようかー」薔薇水晶が先程水銀燈が釘付けになったUFOキャッチャーに向かっていった。銀「(・・・・意地張った自分が馬鹿みたいじゃなぁい・・・・・)」
二人がやってきたUFOキャッチャーにはくんくん探偵1/1スケール人形限定版があった。薔「じゃあやってみよっと・・・・」銀「待ってぇ!!」100円を入れようとした薔薇水晶の手を高速で水銀燈が遮った。薔「え・・・・?」銀「わ・・私に・・・・・やらせてちょうだぁい・・・・・・」そう言うと、水銀燈はおもむろにサイフから100円玉を取り出し、スロットイィィィン!!ウィーンウィーン銀「(ふふふ・・・待ってなさぁい・・・私の可愛いくんくん・・・・・)」薔「水銀燈、声に出てるよ」銀「えっ!ウソッ!!!」水銀燈は慌てて口を押さえてしまい・・・・・ウィ~ンUFOキャッチャーは何も無いところを掬った。
薔「あー・・・・」薔薇水晶が残念味のかけらも無く言うのに対し銀「ああぁ・・・ぁ・・・・・・」水銀燈はUFOキャッチャーの前で崩れ落ちた。薔「ごめん・・・さっきの嘘・・・・・」銀「なんですってェ!!!!!」グーを作って迫る水銀燈。薔「安心して・・・・・今この人形あげるから・・・・・・」そう言って薔薇水晶はコインを投入した。ウィーンウィィーンヒュー、ポト薔薇水晶はいとも簡単にくんくん人形を手に入れた。
フリフリ・・とくんくん人形を振る薔薇水晶。薔「・・・・・・・・・・・」それを『待て』をくらった犬のように見つめる水銀燈。銀「・・・・・・・・・・・・」薔「じゃあ約束通り・・あげるね。ほーい」薔薇水晶はくんくん人形を放り上げた。銀「わんっ!わんわんわんっ!!!」薔「うふふ・・・・・・」銀「(はっ!!しまった・・喜びの余り犬化しちゃったわ・・・・・)」周囲の視線が水銀燈に集中する。銀「オ・・・オホン!く、くれるっていうなら貰っておこうかしら・・・・」くんくん人形は既に水銀燈の鞄にしまわれていた。
二人はゲーセン内を散策している。薔「あ・・・・」銀「んん?なぁに?」薔薇水晶はある物に気づき、水銀燈の袖を引っ張った。薔「あれ・・やろう」薔薇水晶が指さした先にあったものは銀「・・・プリクラ??」そう、プリクラ雪月花だった!銀「やぁよ。私写真とかそういうの好きじゃないしぃ・・・」薔「・・・・・お願いだから、やろう・・」歩き出そうとする水銀燈の袖をぐいぐいと薔薇水晶が引っ張る。銀「やーよー!私は写真はいやなのよぉー!」薔「・・・・うるうる」薔薇水晶は潤んだ瞳で水銀燈を見つめた。銀「うっ・・・・・・・・・」薔「ね?一緒に・・・やろう?」銀「しょうがないわねぇ・・・一回だけよ・・・・・・」
薔薇水晶が先導し、二人はプリクラ筐体内に入っていく。薔「じゃ・・撮るよ・・・・1+1はー・・・?」銀「・・・・・・・2」パシャウィ~ン出てきた写真は、口元だけ笑顔でピースをしているの薔薇水晶とふてくされた水銀燈という奇妙なものだった。薔「はい・・・・・これ水銀燈の分・・・」銀「ありがと。でもこれの何が楽しいのぉ?」薔薇水晶はプリクラを大事そうに胸に抱えながら、言った。薔「こうやって、プリクラを撮るのは・・・・・・・友達の印なんだよ」銀「・・・・・・・・ふぅん」銀「(友達・・・ねぇ・・・・。一番縁の無い言葉かもしれないわねぇ・・・・・)」薔「・・どうかした?」銀「ううん、なんでもないわぁ」
銀「・・・新しいだけあって人気の物は押さえてあるのねぇ。あ、スリルレース・・・」水銀燈が見つけた『スリルレース』とはインターネットランキング機能付きのカーレースゲーム。3DCG映像でいろんな意味でギリギリのコースを走り抜けるというスリルが人気を呼んでいる。あくまで『スリル○ライブ』じゃないよ。薔「フフフッ・・・勝負する・・?」チラッ、と薔薇水晶が専用エントリーカードを見せた。銀「貴女もスリルドライバーだったなんて意外だわぁ・・・・この勝負、逃げる訳にはいかないよ うね・・・・」水銀燈も負けずにチラッ、と専用エントリーカードを見せた。これは『スリルドライバー』間での試合開始の合図なのであった。薔薇水晶は席に腰掛けると、言った。薔「ただ勝負するんじゃつまらない・・・勝った方は明日一日負けた方に一つだけ命令できると いうのは・・・どう?」水銀燈はニマリと笑みを浮かべる。銀「いいわよ。その言葉、後悔させてあげるわぁ・・・・」二人は財布から100円玉を取り出し、スロットイィィィン!!そして、エントリーカードをカードイイィィン!!!薔「コースは『デス・ヒルスーパーX改Ver18.269』よ!異論は無いっ?」銀「無いわ!さっさと始めるわよッ!!!」
二人の女の熱い闘いは終わった。水銀燈の画面には2nd・・薔薇水晶の画面には1stという文字が表示されている。銀「そ・・・・そんな・・・・・・・」薔「ふふっ・・勝っちゃたぁ~・・・水銀燈に勝っちゃたぁ~」水銀燈は地に膝と手をつき、薔薇水晶は笑顔で喜んだ。銀「い・・いいわっ・・・私も女だもの・・・・・何でも命令すればいいじゃない・・・・・」薔「それじゃあ・・・・・・」銀「・・・・・・・・・・・・ゴクリ」薔薇水晶は微笑しながら、言った。薔「明日一日は・・・語尾に『わん』を付けて喋って」
銀「(はあ・・・語尾に『わん』なんて・・・・どういう趣味してんのかしらぁ・・・・)」夜。水銀燈はいつもの銭湯で疲れを癒している。銀「(にしても、今日は疲れたわぁ・・真紅と言い争いするよりよっぽど・・・・・)」そう思いつつ、ビート板を手に取りバシャバシャバシャ薔「水銀燈、銭湯は泳ぐところじゃない・・・」昨日と同じ、湯船の隅に薔薇水晶が居た。銀「きゃあっ!!!あ・・貴女・・・・また居たのね・・・・・・」薔「うん、これから毎日・・・この時間にこの銭湯に来ることにした」銀「なっ、なんでえェ!?」薔「だって、水銀燈が居るから・・・・・」銀「な・・・な・・・・・・」水銀燈は金魚のように口をパクパクさせた。薔「それより、この後水銀燈の家に行っちゃダメ?」銀「え・・?や、やぁよぅ。今日遊んであげたのは気が向いたから。勘違いしないでちょうだぁい」薔「う・・そうだよね・・・。ごめんね」薔薇水晶は子猫のようにしゅんとなった。銀「うっ・・・・・」銀「(参ったわぁ・・・。でも、よく考えるとこんなに他人と遊んだのも久しぶりかもしれない わね・・・・・)」
薔「・・・・・・・・・」銀「ねぇ・・・」気まずい沈黙を破ったのは水銀燈だった。薔「・・・え?」銀「今日はダメだけど・・・・明後日の祝日なら・・・・いいわよ」薔「ホントッ!?やった♪」銀「きゃあっ!ちょっと!抱きつかないで!!・・もうッ!!」薔薇水晶の脳天めがけてゴスッ、と水銀燈の肘打ちが入った。薔「ブクブク・・・プハッ!あっ、ごめんなさい・・・余りにも嬉しくて我を失っちゃって」銀「別に・・・・・いいけどぉ・・・・・・」水銀燈は息が切れている。薔「ねぇ、水銀燈」銀「何?」薔「今日・・・楽しかった?」水銀燈は少し考えて、笑いながら言った。銀「・・・・・・まぁまぁねぇ」
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