第二章『正義』
あいつは僕らの生活にはあまり干渉しない。酒と少しのつまみだけもって部屋にこもってる。それが堪らなくムカツク。何様だ?当たり前のように食料を要求、終いには預金にまで手をつけやがった。どうしてだよ、なんで何も言わないんだ、ねぇちゃん。どうすれば、どうすればあいつはいなくなる?「ジュン!ジュン!」「どうかした?」「どうかした?じゃないわよ!あなた変よ?ずっと怖い顔してたわ」感情を顔に出さないというのは難しいな「大丈夫なの?」「あぁ、大丈夫」「それよりどこに行くのだわ?」今日は約束のデートだ。私服の真紅は新鮮で、朝合ったときは柄にもなくドキッとしてしまった。「そうだな、映画でも見に行こうか?」「それなら、くんくん探偵の新作が発表されたのだわ!それを見に行きましょう」くんくん探偵、彼はまさしく天才、事件解決の裏にくんくんありと世間は騒いでいる。鋭い洞察力に観察眼、そして優れた推理力。気になることは全て自分で確認するという行動力。正直彼を相手に完全犯罪をする事は不可能だろう。有名になると同時に本やドラマなどが作られる。今では映画まで作られるほどだ「くんくんは天才よ」これは真紅の口癖だ。彼女は中学の時からくんくんに惚れ込んでいる。「くんくんか、好きだなお前も」「うるさい下僕ね、いいからついて来るのだわ!」
「ちょっとまった!」「どうしたんだ、くんくん探偵」「どら猫警部、何か違和感を感じませんか?」「どういうことだね」「ガイシャの首を見たまえ!」・・・話はクライマックスになるにつれテンポを上げていく。「違う!俺じゃない!!!」「それではこれをどう説明する!」「うっ…」追い詰められる犯人、次々と矛盾を突いていく探偵。正直面白い、どんどんのめり込んで行く…
「やはりくんくんは天才なのだわ」「意外と本格的だよな」「あら、それは当たり前よ!実話を元に作られているんだもの」「そうなの?フィクションじゃないんだ」「当たり前よ、くんくんの解決した事件を忠実に再現してるのだわ」現実に起きた事件か…。もし犯罪を、やつを抹消したとしたなら僕も映画の犯人のように追い詰められ、そして…だめだ、やるからには完全犯罪を。発覚はすべての崩壊を意味する…「ジュン!ジュン!」「えっ?」「まったくしっかりして欲しいのだわ。私とデートじゃ不満でも?」「そ、そんなことないよ!楽しいって」「嘘だわ、さっきから浮かない顔ばかり…」「真紅…」だめだ、今はデートに集中するんだ!「ごめん。ご飯でも食べに行こうぜ?おなか減ったろ」「…」「ほら、ほら。奢るからさ」
「~♪」「…ドンだけ食うんだよ」テーブルに並べられた料理のあまりの量にメマイがした「あら、御代はジュンもちだから私はかまわないわ」「お、おまっ、僕は高校生だぞ!そんな余裕ないっての」「ふふっ、主人を悲しませた罰なのだわ」「悲しかったのか?」「だ、誰が!」「素直じゃないなぁ」人から見たら仲の良いカップルだろうか?互いに軽口を言い合いながらも楽しく同じ料理を食べる。真紅とずっとこうしていたい
「今日は楽しかったのだわ。」「僕も楽しかったよ」真紅は僕にそっと口付けをする。「!…」「…鈍感な下僕にはこれぐらいが丁度いい告白でなくて?」真紅の顔が真っ赤だ。僕の頭は対照的に真っ白だ。「えと、その、あの…」真紅は恥らいながらも僕の眼を見つめている、応えなくては…「スッ、スキdヨ!!」しまったぁ、ここで噛むなんて…「ぷっ。何緊張してるのよ」「だって、いきなり」「嫌だった?」「とんでもない!好きだよ、真紅のこと」もう一度キスを交わす、今度は長く
「ただいま~♪…?」幸せが吹っ飛ぶ。部屋が暗い、すすり声が聞こえる。次いで聞こえる怒声。「金って要ってるんだ!!!早く出せ!」「この間、渡したばかりですが…」ドガッ!「キャッ!!」「使っちまったんだよ!」ねぇちゃんがマズイ!悲鳴の聞こえたほうへ急ぐ。奴だ、姉に手を出しやがった!「ねぇちゃん!」「ジュン君!きちゃだめ!」奴と目が合う。どす黒い、欲で濁った眼。ふと記憶がよみがえる。---------ピンポーン「ジュン君出てくれるぅ?」「わかったよ」ガチャッ……!?「久しぶりだな、坊主。ねぇちゃんいるか?」「ウッ……ハイ、イマス…」奥へと上がって行く叔父。依然とは違う。荒んでいて酒臭いどうしてここに?連れ戻しに来たの?怖い、眼が…怖いその夜奴がうちに居候することになった。交通事故で家族を失ったとか…その日から悪夢が始まった。何もすることなく部屋を占拠する。二階には常に酒のにおいが充満している。少しは同情した、同じ境遇だったから…---------だが、その同情は今そぐに憎悪に掻き消された。「ねぇちゃんに何をしてる!」「ちっ!金だよ金!遺産相続したんだろ?」「最初から金目当で来たのか?」「それ以外に何がある!お前らが俺の家から出なければ、その金は俺のになってたんだよ!!」狂ってる。すぐに殴り飛ばしたい。金欲しさに僕の幸せを壊しやがって…「やるのか?コブシを握り締めて、」嘲笑するかのように僕をからかう。だめだ…僕には出来ない。あの目で見られると足が竦む。「餓鬼が調子に乗りやがって。おい、金だ!」叔父は姉の財布の中の札を全て取り出し家を出て行く。悔しい、こんなに悔しいことはない。何も出来てないじゃないか…姉さえも守れない。後ろから呼び止める声がしたが無視して部屋に上がる。
『やる…』
姉を守るため、幸せを取り戻すため…あいつは悪だ、対抗する僕は正義だ。誰にも文句は言わせない。奴になくて僕にある力がひとつある。
力なき正義は無力…正義に裏打ちされた力が最も実効性のある解決策…
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