エピソード014さらなる力
「子供……?こんな子供が私の体を傷つけたと言うの……?」ケレニスの体に巻きついた薔薇の蔦。巨大なトゲの蔦を召還し、敵に傷を負わせる魔法アースジェイル。蔦は、致命傷には遠いもののケレニスの白い肌の至る所に食いつき、皮膚を破り血を滲ませた。「雛苺……?」「真紅ぅ、今ヒナが助けてあげるのよ~!」膝を突いたまま雛苺を見る真紅。ケレニスも、視線を真紅から雛苺に向け殺気を放つ。「こんなガキが……許さない…殺してあげるわ……!」「いけない、雛苺!!」ケレニスが雛苺に掌を向ける。極めて冷静であるケレニスだが、雛苺のような子供に傷を付けられた事に逆上したのだろう。すぐ自分に迫る白刃に全く気づかなかった。「はぁぁあぁああああああああああ!!!」斬!雛苺が居て、彼女が居ない訳がない。巴の鋭い剣閃はケレニスの腹部を切り裂いた。「かっ!?っつ……癒しの光よ 汝は優しき女神の抱擁……グレーターヒール……」斬撃は、少し浅かったか。仕留めるには至らずにケレニスは、後退しながら魔法でその傷を癒す。「雛苺!!みんなの手当てをしてあげて!!ケレニスは私が引き受ける!!」「う、了解なのーー!!」雛苺が真紅に駆け寄って治癒の魔法を施す。「真紅、大丈夫?」「ええ……私はもう大丈夫。翠星石を先に治療してあげて頂戴。あの子も治癒魔法が使えたはずよ。」「はいなのー!」真紅の命令通りに翠星石に駆け寄って治癒を施す雛苺。真紅は、再び力の戻った体で剣を握った。
「くっ……小賢しい!!」ケレニスの両手から氷の剣が放たれる。水属性の魔法、コーンオブコールド。しかし、巴はそれを軽やかなステップで回避し、ケレニスに切りかかる。「その魔法の連射力は驚異的……でも、魔法も剣も、当たらなければ意味はない……」巴が左から右へカタナを薙ぎ払い、さらにそのまま諸手で突きを放つ。流水の動きと言うのだろうか。その一連の動きは、水が流れるほどに華麗にして軽やかな動きだった。「くっ、チョコチョコ動き回って……いいわ、貴方でもかわせない魔法を使うだけよ……死を運ぶ冷たき風よ 罪深き者を無慈悲に葬れ……」ケレニスの詠唱した魔法は、巴と雛苺が到着する前に真紅達4人を一気に全滅させたブリザード。広範囲に吹雪を発生させるが故に、回避は不可能!!「死にぞこないと一緒に死になさい!!ブリザ……あうっ!?」「それはもう使わせねぇですぅ!!」ケレニスが魔法を唱えるその瞬間、1本の白き矢が飛来し、ケレニスの腕を貫く。その攻撃で精神集中を途切れさせたケレニスは、ブリザードを発動させれなかった。「うっ……貴方達がどれだけ群れても無駄な事を死ぬまで教えないといけないようね……」「それは是非教えてもらいたいね…!!」瞬間、ケレニスは体を捻らせ後ろから叩きつけられた大剣をかわす。「馬鹿な!?私のサンバーストを受けて生きているの…!?」その大剣の主は言うまでもなく、ケレニスのサンバーストを直に受けて吹き飛んだ蒼星石だった。「残念だったね。元々エルフは魔法防御力が高いんだよ。それに、僕の属性は火……もちろん、並の人間なら跡形もなく燃え尽きていたとは思うけどね……」ケレニスを中心に、巴、翠星石、蒼星石が三角形に取り囲む。これで3対1。
「覚悟しろよ、ケレニス!!お前はここで終わりだ!!」「そうなのそうなの!!悪い奴はヒナが絶対やっつけちゃうんだから!!」さらに、雛苺に回復してもらったJUMと、全員の回復を終えた雛苺も参戦する。「3人も4人も5人も同じよ……私に向かう者は全て殺すわ……」「だったら、6人ならどうかしら?」そして、遂に真紅までもが取り囲み6対1。「ケレニス、貴方の負けよ。4人では私達は勝てなかった。ならば、5人で。それでもダメなら6人で……一人の力は貴方には遠く及ばない…それでも、集まれば貴方にも勝る事が出来る。一人の力はみんなの為に……みんなの力は一人の為に……ここで終わりよ、ケレニス!!」ケレニスは真紅達を見回す。すっかり囲まれている。見れば、さっきまで優勢に運んでいた戦いも今は劣勢。ギランの守備兵と、ブラックナイトの戦いも旗色が悪い。引き際……か。「ふふふっ……あっはっはっはっはっはっは!!なぁに?仲間?みんなの力?本当に下らない。そんな戯言に頼らなければ生きられない人間は、やはり脆弱な生き物ね……ふふっ…私は魔女ケレニス……私は戦場にいる限り無限の魔力を持つ……勝てると思うな!!」咆哮、同時にケレニスの開放した魔力が烈風となって吹き荒れる。砂が草が、空気までもがケレニスの魔力に圧されて震える。「っ……ケレニス……まだこれだけの魔力が…」真紅はその威圧感に潰されないようにホーリエをしっかり握る。ローゼンから託されたこの宝剣はどんな時でも真紅に勇気と力を与えてくれた。ならば、今回も彼女に力を貸すだろう。「さぁ、はじめましょうか。貴方達には、死ぬ以上の苦痛を与えて殺してあげるわ……」ケレニスの狂気に滲んだ目が真紅達を見る。しかし、その戦いを中断させたのは彼女の部下の白銀の鎧を着た騎士。ブラックナイトリーダーの一声だった。「ケレニス様!!戦況は不利!さらに、シルバーナイトタウンより、『メルクリーランペ』と名乗る軍勢が進軍!!このままでは、我々は挟撃されてしまいます!!!」
ブラックナイトリーダーの声を聞いたケレニスは、途端に魔力の開放を止め出して言った。「ふぅ、少し遊びすぎたわね……いいわ、全軍アデン城に帰還させなさい。」「ケレニス、私達が貴方を逃がすと思ってるの?」反王の軍勢は一気に退却をしていく。しかし、ケレニスは真紅達に囲まれたままだった。「逃げる?違うわね、退却とは弱者が強者から逃げる事……吠えろ猛き炎 汝に触れし愚者を滅せよ そは怒りし火龍の咆哮……」ケレニスが詠唱する。そして、その場から飛び上がると魔法を発動させる。「私は飽きたから帰るだけよ……ファイアウォール!!!」「逃げすかっ、待て!!……うおああああ!?」悠々と城を後にするケレニスを追うJUM。しかし、そのJUMの前に巨大な炎の壁が発生した。「その炎に触れれば坊やも骨も残らないわよ?ふふっ、焦らなくても貴方達が生きてればまた会えるでしょう?それじゃあ、また会いましょう。坊や、エルフのお嬢さん。そして、お姫様。」ケレニスと反王軍は撤退していった。こうして、手痛い被害を受けながらもギランの戦いは一応の勝利で終わったのだった。
「姫!!反王軍、ギランより撤退した模様です!!如何なさいますか?」「あらぁ、そうなの?そうねぇ……わざわざ挨拶されても、ギラン城主は困るでしょうしぃ。戻るわよぉ。」姫、と呼ばれた白銀の長い髪と腰に長剣を差した少女が言う。「はっ!了解しました。全軍、シルバーナイトタウンに引き返せ!!」側近の男が全軍に命令をかける。すると、その軍勢は来た道を引き返したいく。「さぁ、姫。我々も戻りましょう。」姫と呼ばれた少女は、ギランの方向を見据える。そして、その美しい髪を翻した。「そうねぇ。私達もハイネを取り戻す準備、しないといけないわねぇ。」少女はジャキっと腰から長剣を抜き、太陽の光に当てる。刀身に刻まれた逆十時が光を反射させた。
「真紅様、もう行かれるのですか?何ならばギランを拠点に反王を攻撃されては……」ギラン防衛線から1週間。城の修復や、怪我の治療を終えた真紅達は槐達と城門に居た。「ええ、でも私達はまだまだ魔女には敵わなかった。だから、さらなる力が必要なの。それまで、ギランの事を貴方にお願いするわ、槐。」「真紅様……命に代えてもこのギランを守り通します。真紅様もどうか、御武運を……」「ええ、貴方達こそね。それじゃあ、もう行くわ……必ず戻ってくるわ。」真紅がその身を翻す。真紅達は、槐達に見守られてギランを後にするのだった。「それで、真紅。次はどこに行くのかな?」蒼星石が次の目的地を真紅に訪ねる。真紅は、そうね……と考えて言った。「象牙の塔に行きましょう。あそこなら、ウィザードの力を借りれるかもしれないわ。」象牙の塔。ギランの北に位置し、オーレン地方と呼ばれる常に雪に覆われている地方に存在するアデン大陸最大の魔法研究所である。「象牙の塔と言うとオーレンだね……じゃあ、ドラゴンバレーを抜けて先ずはウェルダン村に行こう。」巴が地図を広げて指で道を示してくれる。「ウェルダン……火竜ヴァラカスの棲む火山の麓にある村ね。よし、それじゃあ行きましょう!!」真紅達6人は、歩き出す。次なる目的地は、火竜の棲家の麓の村、ウェルダン……To be continued
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