第七十四話 JUMと次女
「一つ屋根の下 第七十四話 JUMと次女」
カリカリカリカリ……僕の部屋に無機質な音が流れる。ペラペラ…カリカリ…ゴシゴシ…「あー、わかんねぇ……」僕は机に向かって教科書とノートと睨めっこをしていた。と言うのも、進路について、銀姉ちゃんにこっぴどく言われたからだ。何としても一般入試でアリス大学に合格しなさいってね。どうや ら、この辺も僕の記憶とリンクしてるようで、銀姉ちゃんとカナ姉ちゃんは先日指定校推薦での合格を決めいた。「大体、先日まで1年生だったはずなのに、いきなり3年のが解ける訳ないんだよなぁ。」僕はノートを眺める。そう言ってるわりには、何故か時間はかかりつつも問題は解けていた。まぁ、教科書見ながらだし、合ってるかも分からないけどね。ふと、コンコンと部屋のドアがノックされる。「?誰?」「あ、僕……入っていい?兄さん。」蒼姉ちゃんのようだ。まぁ、これだけ礼儀正しいのは蒼姉ちゃんくらいしかいないしな。大抵は、ノックと共に勝手に入ってくる。それ、ノックの意味なくないか?なんて思ってしまう。真紅姉ちゃんなんか、ノックもなしに入ってくるから厄介極まりない。「蒼か。いいよ、入って。」最近では姉ちゃんたちを呼び捨てで呼ぶのもだいぶなれた。銀姉ちゃんは「やっと妹萌えに戻ったのねぇ。」とか言ってたけど、まぁどうでもいい。僕の了承を受けて、控えめに蒼姉ちゃんが入ってきた。
「えへへ、お邪魔します兄さん。」蒼姉ちゃんはお盆を持っている。上に湯気を発するお茶碗がある。何だろ?「これ、お夜食のうどん。兄さんがお腹減ってないかなって思って。食べる?」蒼姉ちゃんがコトンと机の上にうどんの入ったお茶碗をおく。吐き出る湯気と、ほのかなだし汁の香りが堪らい。「ありがとう、蒼。ちょうどお腹空いてたんだよ。ありがたく貰うよ。」そういえば、勉強するとお腹減るってのは結構本当らしい。まぁ、頭使うしね。僕は箸を持ち、チュルッとうどんを口の中に入れる。あ、美味しい。自分で打ったのか?さすがにそれはないか。「どうかな?麺はもらい物だけど、汁はオリジナルなんだ。美味しい……かな?」「うん、美味しいよ。蒼は料理上手だし、よく気がきくなぁ。いいお嫁さんになりそう。」僕が言うと蒼姉ちゃんは一気に顔を赤くする。そして、ウブだよなぁ。「あ、あう…嬉しいけど、恥ずかしい……あの、そのぉ…あ、お洗濯あったんだ!勉強、頑張ってね兄さん。」蒼姉ちゃんは一人であわあわしながら、赤面したまま部屋を出て行った。にしても、うどんうめぇ。そんな事を思いながら箸を進めていると、開きっぱなしのドアからうどんに釣られたのか、ひょいっと顔が覗く。眼帯をした少女……ではなく、オデコチャームポイントの次女だった。
「兄ちゃん、ちゃんと勉強してるわね、感心感心かしら。」カナ姉ちゃんはそのまま僕の部屋に入り、ドアを閉める。そして、僕のベッドにギシッと腰掛けた。「やってるよ。銀やカナにアリス大学合格しろって言われてるしね。」「うん、頑張って欲しいかしら。カナも水銀燈も大学でも兄ちゃんと一緒に居たいから。」カナ姉ちゃんはそう言って笑う。そして、視線は僕のノート……ではなく、うどんに注がれていた。カナ姉ちゃん、ヨダレヨダレ。食べたいのかな?まぁ、確かに食欲をそそりそうではあるけど。「カナ、うどん食べたいか?」「え?兄ちゃんは凄いかしら。カナの考えてる事が何でも分かっちゃうかしら。」すいません、全く凄くないですよ?カナ姉ちゃんの顔を見てればバレバレです。「まぁ、それは置いておいて食べるか?」「うん、食べたい~。あ~ん……」カナ姉ちゃんは僕に顔を近づけて口をあける。お、健康そうな綺麗な白い歯だ。薔薇乙女は歯が命。僕はそのカナ姉ちゃんの口の中にうどんをスッと入れてあげた。その瞬間だった。「!!あつっ!!熱いかしらぁ~!?」カナ姉ちゃんの目が見開かれ、次の瞬間大騒ぎしだした。
「あふっ、はふっ……うぅ…ひいひゃん…はふひはひはぁ~。」通訳すると「兄ちゃん熱いかしら」かな?カナ姉ちゃん猫舌なんだ。知らなかった。「あーあー、大丈夫か?ほら、べーってやってみな?」カナ姉ちゃんが半べそかきながらべーっと舌をだす。あ~、舌が赤い。軽く火傷したかもなぁ。ちょいちょいっと触ってみる。うん、熱い。「ひゃん…あう……うぅ、カナ猫舌かしらぁ~。」猫ねぇ。カナ姉ちゃんが猫だったら、警戒心の欠片もなくて、人間が撫でに来たら撫で撫でして~って擦り寄ってきそうだ。翠姉ちゃんは間違いなく、一般的な猫だ。まず逃げる。そして、逃げる。気まぐれで、気が向いたら撫でさせてやるって感じ。「ははっ、カナ猫舌なんだなぁ。にゃーって言ってみ?」「う~……にゃー……」あ、本当に言うんだ。でも、これくらいのうどんで熱いとなると、相当重度の猫舌だなぁ。「ねぇ、兄ちゃん。ふ~ってして欲しいかしらぁ~。」その手があったか。何か小さい子にするみたいで気が引けるけど、カナ姉ちゃんがいいって言うなら僕は遠慮なくふ~っとうどんに息を吹きかけて冷ます。頃合をみて、カナ姉ちゃんの口に運んだ。「ん~…美味しいかしら。苦労した甲斐があったわ。」一体カナ姉ちゃんが何を苦労したんだろうか。その謎は深まるばかりだ。
「あ、兄ちゃん。そこは違うかしら。そこは、こうしてああして…この式を使って……」「あ、成る程。じゃあ、ここはこうして……こうかな?」「正解かしら!兄ちゃんは飲み込みが早いかしら。」さて、うどんも食べ終わり僕は再び勉強をしていた。我が家で一番優秀な家庭教師と一緒に。「よしっと……ちょっと休憩しようか。」僕はベッドに腰掛ける。カナ姉ちゃんもチョコンと僕の隣に座った。「そういえばさ、もし僕がカナの弟だったらカナはどうしてると思う?」「?どうしたの?いきなり……」まぁ、確かにいきなり過ぎたかな。でも、ちょっと聞いておきたい。これは、カナ姉ちゃんに限らず姉ちゃん全員に。「いや、何となくさ。考えたことない?僕が弟だったらって。」「ん~…兄ちゃんが弟だったら…そうね、カナは多分兄ちゃんにお勉強とか、色々教えてあげてると思うわ。だってカナ、お姉ちゃんでしょ?それなら、当然かしら。兄ちゃんが、カナ達姉妹の面倒見てくれてるようにカナもその弟の面倒、うんと見てあげるの。」カナ姉ちゃんは笑顔で言う。例え、僕の記憶のカナ姉ちゃんは、空回りが多くて失敗ばかりだとしても。それでもきっと、僕を想ってくれてる気持ちは凄く強くて。僕にいい所見せようと一生懸命頑張ってくれてる。何だか、それが分かった気がして凄く嬉しい。「そか。じゃあ、きっとその弟は幸せ者だね。」「そうよ。それに、兄ちゃんだって幸せなはずよ?だって……」カナ姉ちゃんはひょいっと僕の膝に乗り、僕の目を見て微笑んで言った。「こんないい妹がいるんだから……」僕は笑う。きっとそうなんだ。姉ちゃん達が姉でも、妹でも…どっちでもいいんだ。彼女達がいれば……END
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