第四話 弱点 ~A weakness~
清々しい、乾いた風にほんのり暖かい日差し。時刻は十時ちょっと過ぎたくらいか…今は病院の入り口だ。これからお見舞いするにあたり何か差し入れしようと思い、売店で何か買おうとするがこれといったものもなかったのでそのまま病室に行くことにした。廊下ですれ違う看護士や医師の人も余裕があるように見えた、天気もいいしな…なんて関係ないだろうことを考えている内にお目当ての病室に辿り着く。僕は呼吸を整え、落ち着いたところでノックをする―――――――第四話弱点 ~A weakness~ジ「やぁおはよう、めぐ」め「おはよう、ジュン。のりさんならほんのさっき検査ででていったところよ、すれ違わなかった?」ジ「いや、すれ違わなかったな…」しばしの沈黙…僕はめぐが見ているテレビをぼんやりと眺めていた。この時間はろくな内容じゃないからだ、見入るようなものじゃない。め「あは。コレおもしろいわね」ジ「ん…あぁそうだな」くだらないと思ったが相槌をうっておく。め「ねぇ、さっきから気になったのだけどその顔のコブどうしたの?」ジ「はは…色々あってね…」
めぐは深くは詮索しなかったが、また沈黙が訪れる。僕はとっさに間をつなぐつもりが深い事を聞くことになる。ジ「体の調子はどうなんだい?」め「そうね、まずまずといったところかな」ジ「へぇ、そりゃ良かった。退院はいつになるんだい?」め「…」めぐは視線を逸らし窓のほうを見た。僕は悪いことを聞いてしまったと後悔した。ここは不謹慎な自分が悪かったと詫びをいれておこうと思っているとめ「実はね、心臓の病気なの…」その瞬間空気が変わった気がした、くだらないテレビの雑音がやけに耳に入ってくる。めぐも同じだったのだろう、リモコンを取り電源を消した。窓の外の風のざわめきと病棟からくる静かめな反響音だけがとりまいた。そんな中めぐは淡々と語る。め「最初はね、三才までしか生きられないっていわれてたらしいの。それが次第に五才、七才と伸びに伸びて…次第に親も呆れてね、そして私自身も疲れちゃったのよ。お医者さんも半分見捨ててたんでしょうね」僕は返す言葉が見当たらなかった、ただただめぐを見ていることしかできなかった。め「ずっと入院生活だったけど悪いことばかりじゃなかったわ。ふふ、天使さんに会えたしね」
ジ「天使?」め「まるでね、そんな子がいるのよ。そういえば昨日はめずらしく来なかったわね」ジ「へぇ…天使のような子ね、会ってみたいな」め「ふふ、ここにきてればそのうち会えるわよ」ジ「期待して待っているよ」と笑顔で返す。だが驚いていためぐが心臓病だったなんて…こんなに元気そうなのに。そして僕はめぐに隠し事をしたことに罪悪感を覚えた、いや隠していたわけじゃないのだがめぐには隠したくない気がした。ジ「実は僕学校にいってないんだ…」め「そうなんだ」深くは詮索してこない、それがめぐのスタンスなのだろう。けど僕はジ「いや、なんていうか、理由とか気になったりしない…?」め「気にならないといったら嘘になるけど、嫌なことをわざわざ持ち出して話さなくてもいいわよ。ジュンがこれからどうするか?が聞きたいな」ジ「高校からさ、一からがんばってみようかと思ってるんだ、一応入試とかあるから勉強がんばったりしてるんだけどね」め「へぇ~がんばっているのね、いい高校生活になるといいね」ジ「あ…あぁありがと」少し照れ臭いが、めぐに救われた気がした。
め「ねぇなんでそんなことを私に?」ジ「いやなんとなく…かな、悩みってわけじゃないけどめぐの話聞いたら話したくなってね」め「そう…なんだか似ているのかもね私たち」ジ「へ…?意味がわからないな。どこが似ているんだ??」め「ふふ。それはひ・み・つ」コンコン。ドアがノックされたようだ―――――――――――昨日は色々あったな、なんて思いだしつつだらだらとベッドから這い出る。結局昨日いけなかったし、今日はいっそのこと学校さぼっていこうか、たまにはいいわよね。あの子もきっとわかってくれる。けど…一応制服きて早く終わったってことにしておこうかな。病院へ向かう途中、昨日の出来事を考え彼に会えたら今度こそは名前を聞きたいな、なんて思いつつ病院へ向かう。なんていうか悪くない、学校をさぼることに対する罪悪感は全くない、むしろあの子との約束を破ることに罪悪感を感じるわけだけど、昨日の出来事がきっとその罪悪感を麻痺させているんだろう。病院に入ると時刻は十一時過ぎ、普段こない時間帯だけあって病院の雰囲気もいつもと違う、売店によりいつもの『ヤクルト』を買いいつもの順路を通り病室へ。
そこでいつもと違う病室のネームプレート。「あらぁ、新しい人ぉ?」おととい、隣の人退院したんだっけ。と、ノックしようと思ったがいつもと違う状況からかかすかに緊張を感じる、それでも一呼吸おきノックする―――――――――――コンコン。「どうぞー」ドアをあけるとめぐと男の子が楽しそうに話をしていた。私は予期せぬ客に唖然としながら中に入った。め「そうそう、彼女が噂の水銀燈よ」不意に振られる私、そこで男の子と目が合ってジ「あれ?君は昨日の…」水「あらぁ?あなたは…あの時のおばかさぁん?」ジ「はは。ひどいいわれようだな、けど君がめぐのいう天使だったなんて、世間は広いようで狭いね」め「へぇ水銀燈もジュンと知り合いだったんだ」水「まぁいろいろあってねぇ、それより私は水銀燈。よろしくぅジュン」
ジ「あぁよろしくな水銀燈」め「あれ?なんで今自己紹介しているの?」水「まぁ色々あったのよぉ」め「私だけのけもの?ひどいや水銀燈…」水「ちょ、ちょっとぉ。」ジ「はは。二人とも仲いいんだな、なんだかうらやましいくらいだ」水「これが仲のいいように見える?いじめよぉ」そんなこんなで雑談に華をさかせ、時間もお昼どきに水「ねぇ、ジュン。そろそろお昼だからどこか食べにいかなぁい?」ジ「ん…あぁ、いいけど。それにしても、ねーちゃん戻ってこないな」水「どうせあとで戻ってくるんだからいいじゃなぁい?」ジ「まぁそうだな」水「決まりねぇ、ふふ。それじゃあいってくるわぁ、めぐ」め「いってらっしゃい、私は不味い病院食でも食べて待っているわ…」水「わかったわよぉ、何かお土産買って帰るからぁ」
でていく二人。静まりかえった病室。テレビを再びつけめ「へぇ…あの水銀燈がねぇ・・・」嬉しさが滲みでているような少し緩んだ顔をするめぐがぽつりといった。流れゆく時の中でこの少女の笑みの真意を理解できる日がくるのだろうか?――――――――
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つづく…
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