第六十八話 JUMとお土産
「一つ屋根の下 第六十八話 JUMとお土産」
時間は夕方。僕は家のリビングに居る。僕だけじゃない。姉ちゃん達もみんないる。そう、修学旅行中の翠姉ちゃんと蒼姉ちゃんを除いて。しかしだ。今日、ようやく二人が家に帰還してくるのだ。「遅いですわね……まさか事故に巻き込まれたのでは…」二人の帰りを心底待ち望んでいるキラ姉ちゃんがそわそわしてる。まぁ、ようやく二人の御飯が食べられるようになるんだ。二人の御飯大好きっ子のキラ姉ちゃんには待ち遠しくて仕方ないんだろう。そんな時だ。「たっだいまですぅ~~~~!!」「みんなただいま!」玄関から二人の声がする。キラ姉ちゃんを筆頭にバタバタとみんなで玄関へ向かう。行きとは違い、私服の翠姉ちゃんと蒼姉ちゃんが荷物をたくさん持って玄関に立っていた。「おかえりですわ!!それで、今日の晩御飯は!!?」開口一番それですか?翠姉ちゃん辺りはヘソ曲げそうだよ、それ。「いきなりそれですかぁ?全く、きらきーはしょうがねぇですねぇ。」「お土産で食べ物あるから、それで今日は作るよ。」蒼姉ちゃんが翠姉ちゃんをなだめながら言う。キラ姉ちゃんはすでに出されるであろうドイツ料理に夢を馳せている。「お帰り、二人とも。無事で何よりだよ。荷物持ってこうか。」「うん、ありがとうJUM君。」僕は二人の荷物を出来るだけ持つ。ん、結構重い。色々買ってきたのかな?と、蒼姉ちゃんが微妙に元気がないのに僕は気づいた。何て言うのかな。微妙に、だけど……「蒼姉ちゃん?どうかした?」「へ?う、ううん。何でもないよ……何でも…ないよ。」何でもないとは言うけど、そんな感じはしない。ちょっと問い詰めようと思ったけど「ほらほら、早く来るですよ~、蒼星石。JUM!」「あ、うん。今行くよ。ほら、行こうかJUM君。」リビングから僕らを呼ぶ翠姉ちゃんにそれは遮られた。
「わぁ~、これすっごく美味しいのぉ~!」「うんうん、やっぱり二人の御飯は美味ですわ…うんうん…」食卓では、二人のドイツ土産をもとに何時もとは少し違う食材が並んでいた。「どうかな、JUM君。美味しい?」蒼姉ちゃんが僕の顔を覗き込みながら聞いてくる。自然と上目遣いで見つめられてドキドキだ。「う、うん。美味しいよ、蒼姉ちゃん。」蒼姉ちゃんは「よかった。」とニッコリ笑う。「そうだ、お父様から伝言ですぅ。まず、水銀燈と金糸雀。進路は自分の好きなように決めなさい。だそうですぅ。自分の選んだ道だから、後悔のないようにって言ってました。それから、みんなにもお知らせです。お父様が今のお仕事終わられたら一時帰国するらしいですぅ。詳しくは分からないらしいですけど、春先には帰ってくるそうですよぉ~!」リビングでおお~っと声が上がる。父さんが帰ってくるのは何年ぶりだろう。春先といえば、銀姉ちゃんとカナ姉ちゃんは恐らく進学してるだろうし、僕らは学年が上がるころだな。「よかったわぁ。お父様、アリス大学でもいいって仰ったのねぇ。」「元々お父様は大学の知名度とかは気にしてなかったけど、やっぱり気になってたかしら。」3年生組が安堵の息を漏らしている。僕も一安心だ。まだまだ、9人で一緒に住めることになりそうだし。「あ、そうだみんな。お土産のお菓子、たくさん買ってきたよ。後でみんなで食べようね。」蒼姉ちゃんが言う。ドイツのお菓子かぁ……何があったっけ。ばーむくーへん?「JUM君…そのぉ…」みんながワイワイ騒いでいる中、僕の耳にそっと口を近づけて蒼姉ちゃんは囁く様に話す。「後でJUM君のお部屋…入っていいかなぁ?」「?別にいいけど?何で?」「ん……その…な、なんでも…」蒼姉ちゃんが顔を赤くしてモジモジしてる。何なんだろう、いったい。
「JUM君、僕だけど……入っていいかな?」夕食後。僕は部屋でパソコンを弄っていた。そんな時、ドアをコンコンと叩かれる。言うまでもなく、その主は蒼姉ちゃんだった。僕は蒼姉ちゃんをそのまま部屋に招き入れる。「蒼姉ちゃんどうしたの?何か、帰ってきてからちょっと変だよ?」僕はベッドに腰掛ける。蒼姉ちゃんも同じように僕の隣に腰掛ける。ギシッとベッドが声を漏らす。「あのね……僕、寂しかった……」ポソッと小さな声で蒼姉ちゃんは言う。そして、僕の腕をギュッと抱きしめる。「一週間JUM君に会えなくて……本当に寂しかったんだ…」さらに蒼姉ちゃんは力を入れて僕の腕を抱きしめる。蒼姉ちゃんの胸と体に挟まれてるせいか、妙に暑い。と言うか……ふと、二人が修学旅行に行く前の日がデジャブ。「ぷっ……」「J、JUM君!?何が可笑しいのさ?ぼ、僕は本気で…!!」蒼姉ちゃんが僕に非難の目を向ける。やばい、ちょっとマジ泣きしそうだ。「ごめんごめん、蒼姉ちゃん。いやさ、やっぱり蒼姉ちゃんと翠姉ちゃんは双子なんだなってさ。」僕は言う。そう……修学旅行に行く前。翠姉ちゃんは一週間僕に会えないからと甘えてきた。そして、帰ってきてからは蒼姉ちゃんが一週間会えなかったと、今甘えてきてる。「翠星石……が?」「うん。旅行行く前日かな。蒼姉ちゃんみたいに、一週間会えないから充電とか言ってさ。そして、帰ってきたら蒼姉ちゃんでしょ?だからついつい……ね。」双子だなぁと笑ってしまったのだ。すると、蒼姉ちゃんは僕の目をジッと見つめてくる。ルビーとエメラルドの美しい瞳がきっと僕を映してるだろう。今まで見た事もないような艶っぽい瞳。「そういうの……今はやだな……」蒼姉ちゃんは僕をジッと見ながら言った。
「僕の我侭……今は僕だけ見て欲しいんだ……」やばい、意識がフラフラしそうなほど可愛い。僕は蒼姉ちゃんはギュッと抱きしめる。か細い体を全身に感じる。「えへへぇ~……有難うJUM君……」「ううん、ごめんね蒼姉ちゃん。蒼姉ちゃんといるのに、翠姉ちゃんの話するなんて失言だったかも。」「ううん、いいよ。僕の我侭に違いないんだから…あのね。あのね、JUM君…」僕の胸の中で顔を動かして、鼻を擦りつけながら蒼姉ちゃんは言う。「あのね……今だけでいいから…翠星石よりほんの少しだけ…ほんのちょっとでいいから、僕の事…ギュッてして欲しいんだぁ。ダメかな…?」ダメな訳がない。というか……これダメって言える男いるのかなぁ。「うん、蒼姉ちゃんが望むなら……ね。」僕は蒼姉ちゃんを強く抱きしめる。「んっ」と蒼姉ちゃんが小さく声を漏らす。蒼姉ちゃんの栗色の髪が僕の顔にサラサラと触れる。蒼姉ちゃんの体は柔らかくて、温かくて、優しかった。「ね、JUM君……キス…したいなぁ…」蒼姉ちゃんが顔を上げて顔を赤くしながら言う。僕は言われるままに蒼姉ちゃんと唇を合わせる。蒼姉ちゃんの体が少しだけ強張るのを感じる。しばらく、くっ付けていた唇を離す。「んっ……その…もっとしたい……あの…深いの…」モジモジしながら蒼姉ちゃんが言う。深いのってまぁ、アレ……だよねぇ?「えっと、その……いいの…かなぁ。」「うん。僕はJUM君の事、大好き…だから。」蒼姉ちゃんはニコリと僕に微笑んでみせる。そして、僕等はキスをする。お互いを絡め合う。「んっ…ちゅぷっ…ふっ…」僕の腕にも自然と力が入る。僕の背中に回っている蒼姉ちゃんの腕の力もさっきより強い。「んんんんっ……ぷはっ…はぁ…はぁ…JUM君、翠星石ともした?そのぉ…これ…」「……シマシタ。」蒼姉ちゃんはそれでも、笑みを浮かべて僕を見てる。そして、言う。「じゃあ……僕はもう一回したいな……好きだよ、JUM君…んんっ…」
一回目より、蒼姉ちゃんから感じる力が強い。僕もそれに合わせて強く蒼姉ちゃんを抱きしめる。お互いの激しい息遣いを直で感じる事ができる。幾らか口の中でお互いの存在を確かめ合うと、僕等は唇を離す。顔が紅潮してる。息も荒い。そして……僕と蒼姉ちゃんの口と口を透明の糸が繋いでる。「JUM君……わわっ、ちょっ、ちょっとこれは恥かしい…かもぉ…」蒼姉ちゃんはボンッと音を立ててさらに顔を赤くする。そして、手をバタバタさせて糸を払った。「ふふっ……蒼姉ちゃんってさ…結構甘えん坊だったんだね。」つくづくそう思う。蒼姉ちゃんは我が家では間違いなく一番のシッカリ者だ。そんな蒼姉ちゃんが、今は猫か犬のように僕に甘えている。それが何とも言えないほど可愛らしい。「えへへ…僕は甘えん坊だよ…女の子だもん……」蒼姉ちゃんが僕に体を預けてくる。翠姉ちゃんに言わせれば、充電が終わったんだろうか。さっきまでの微妙に元気のない顔が、今は自分で言うのもアレだけど幸せそうな顔だ。「それにね…僕がこんな姿見せられるのは…翠星石とJUM君だけなんだから…」蒼姉ちゃんは少しだけ恥かしそうに僕の胸に顔を埋める。僕はその蒼姉ちゃんの頭をゆっくりと撫で回す。「んっ…はう…翠星石じゃないけど…気持ちいい…」蒼姉ちゃんは目を細めながら言う。本当、猫か犬みたいだなぁ。蒼姉ちゃんはどっちかって言うと犬だな。「ははっ……そうだ、蒼姉ちゃん…」僕は蒼姉ちゃんを見つめる。頬は赤くて瞳は潤んでいる。僕は一息飲むと言った。「おかえり……蒼姉ちゃん…」「JUM君……えへへ、ただいま。」僕は蒼姉ちゃんを確かめるようにギュッと抱きしめる。蒼姉ちゃんと翠姉ちゃんが、無事に帰って来た事。僕にとっては、それが一番の土産。そんな気がした。END
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