第六十四話 JUMと相合傘
「一つ屋根の下 第六十四話 JUMと相合傘」
「おはようみんな!!担任の梅岡だよ!!」毎朝毎朝同じ事を繰り返す担任。自己紹介しないと死にます病か何かだろうか。クラスのみんなもうんざりしながら話を聞いている。僕は外を見る。ん?ちょっと天気悪いかな……「そうそう、みんなにはあまり関係ないけど、明日から二年生が修学旅行なんだ。」担任の言葉で思い出す。そういえば、明日から翠姉ちゃんと蒼姉ちゃんはしばらく居ないんだったな。「くっ……俺と蒼嬢の甘い時間を邪魔しながって…いや、一度離れてこそ気づく愛もあるか。ふふっ…」地球がひっくり返ってもありえないから、心配するなべジータ。寧ろお前は、蒼姉ちゃんにしては珍しい苦手な人に分類されてるから。「明日からしばらくは……みんなで家事分担しないとね…」隣で薔薇姉ちゃんが言う。普段、二人に任せっぱなしだからなぁ。適材適所でいこう。とりあえず、真紅姉ちゃんは料理禁止の方向で。「お洗濯は…姉妹でやるね……この前みたいな事は嫌だから…」僕は先日の洗濯物騒動を思い出す。あれは僕も二度と御免です。「それじゃあ、今日の一時間目は先生の授業だからな。このまま開始するよ!」生き生きと授業を始める担任。僕は再び窓の外を眺める。黒い雲が結構な速度で流れていく。う~ん、もしかしたら一雨くるかもなぁ。そして、僕は気づいた。やべ、傘持ってきてないや。
「すまねぇな、JUM。手伝ってもらってよ。」放課後。僕はべジータと荷物を運んでいた。梅岡の指示によるものだ。「いいよ、気にしなくて。自分で運ばないアイツが悪い。」授業の教材だろうか。それならいいが、私物ならマジで殴るよ。と、その時べジータの携帯の着うたが流れる。「ん?はいはい……え、本当か!?わかった、すぐ帰る。」「?どうかしたのか?」「ああ、父さんが当て逃げされたらしい。一応無事らしいが病院に運ばれたってさ。」「うわぁ、大丈夫か?だったら、早く行ってきなよ。残りは僕でやっておくからさ。」残りの運ぶ物資も少ない。少し時間はかかるだろうが、一人でもいけるはずだ。急げば雨降る前に家に帰れるだろう。「すまねぇ、JUM!今度お礼に俺の厳選エロ本持ってきてやるぜ!!」「いや、いいから。早く行けよ。」べジータはさっさと帰っていく。さて、残りを運ぶかな……
「うわぁ…降ってきやがったか。」ようやく仕事を終えて、昇降口に来れば雨は降り出していた。雨脚は結構強い。「あー、くそ。あの馬鹿担任が延々と終わってから話はじめなきゃ帰れたのに。でも、どうしようかな。」僕はあたりを見回す。当然ながら傘はない。鞄を盾に走ろうか。いや、家までは結構距離あるしな。「しゃあない……誰か姉ちゃん呼ぶか。家に電話すれば誰かいるはずだし。」僕は携帯を取り出し、家の電話番号を探す。そんな時後ろから声がかかった。「あれ…JUMじゃねぇですか。こんな時間まで何やってるですかぁ?」声の主は翠姉ちゃんだった。手には傘を持っている。「ああ、翠姉ちゃん。実はさ、今日傘忘れちゃってさ。どうしようかと思ってたんだよ。」「それなら、翠星石の傘に入っていけばいいですよ。」バサッと翠姉ちゃんが傘を広げる。それってさ、あの、あれですか?「そ、それって翠姉ちゃん…相合…」「か、勘違いするんじゃねぇです!そのぉ…JUMが風邪でもひいたら安心して修学旅行いけねぇからですぅ!」翠姉ちゃんはそう言いながら傘の柄を僕に向ける。「翠姉ちゃん?」「JUMが持ちやがれです。気がきかねぇですねぇ。翠星石に持たせる気ですかぁ?」
ザーッと雨の音が耳に障る。雨脚は弱まる気配はない。その雨の中、僕は翠姉ちゃんと一緒の傘で家路を歩いていた。ピシャピシャと歩くたびに音がする。「そういえば、明日から修学旅行だったよね。どこ行くんだっけ?」「今年はドイツですよ。一週間ですから、家事はしっかりやるですよ。」一週間か、長いな。て、ドイツかよ!凄いな、随分と豪勢だな。「お父様にも会ってくるです。今から楽しみです~。」そっか、父さんは今ドイツにいるんだったな。それなら、きっと会えるだろう。ヨーロッパの方って面積はあまり広いイメージないし。「お土産もしゃーねーから買ってきてやるです。有難く貰うんですよ?」ドイツって言えば……何だっけ?ビールとウインナー?そんな事を思ってると、僕は一つだけ目に付いた。「あ、翠姉ちゃん。右腕濡れちゃってるよ。」そう、傘は一つ。しかも、そんなに大きくはない。僕はきっちり傘に収まってるけど、よく見れば翠姉ちゃんの右腕部分は雨で濡れている。雨のせいで浮き出る腕のラインに僕はドキドキする。「これくれぇ平気です。JUMこそ風邪ひくなですよ?翠星石はお姉ちゃんですから。JUMを守るです。」翠姉ちゃんはそう言って微笑みかけてくれる。本当にこの人は…今は僕よりも自分のほうが風邪ひいちゃいけないのに…「ひゃあ!?J、JUM!?」「これなら、翠姉ちゃんも濡れないでしょ?」僕は翠姉ちゃんを抱きしめるように肩を抱く。そして、僕に密着される。少し歩きにくいけど、これなら雨には濡れないだろう。翠姉ちゃんの髪の香りが鼻をつく。雨の湿気のせいか、翠姉ちゃんの何時もはサラサラのロングヘアはシットリとしていた。僕は思わずその髪を触ってしまう。「ひゃん…んっ…気持ちいいですぅ…」そういえば、翠姉ちゃんは髪触られるの好きだったなぁ。僕はついついその場に立ち止まって翠姉ちゃんの髪を触る。正面から抱きしめるようにスッ、スッと髪に手を通していく。翠姉ちゃんはポーっとしながら、傘を持ってる僕の手をギュッと握った。
「はふ…JUM…」翠姉ちゃんは僕の胸に顔を埋める。僕は傘を持ったまま、翠姉ちゃんの髪を触ってる。「ほんとは…少し寂しいんです…ドイツに行くの…だって、一週間もJUMに会えないですから…」翠姉ちゃんがポツポツと言葉を漏らす。僕は優しく頭を抱きしめる。「一週間もJUMに会えないなんて今までなかったですから…ちょっとだけ怖いんです…」「そうだね…僕たち姉弟は何時も一緒だったしね。せいぜい、二日三日とかだったもんね。」さっきまで邪魔でしかなかった雨が、急に僕と翠姉ちゃんと世界を隔離するバリアになったように感じる。雨に囲まれて、今この空間には僕と翠姉ちゃんしかいない。そんな錯覚に陥りそうになる。「だからその……えっと…い、一週間分…ギュッてしてほしいですぅ…」翠姉ちゃんが頬を赤くし、僕を見ながら言う。何時もからこれだけ素直だったら本当に可愛いのにな。そんな事を思う。だが、逆に何時もの翠姉ちゃんがあってこそ、素直な翠姉ちゃんが可愛いと思うのかもしれない。こういうのを巷ではツンデレって言うんだっけ?「うん、いいよ。家だと他の姉ちゃん達が何言うか分からないから、こんな道端で悪いけど。」「かまわんですぅ。ここは人あまり通らないですから…JUMと翠星石だけのフィールドですぅ。」僕はギュッと翠姉ちゃんを強く抱きしめる。片手で翠姉ちゃんの腰より少し上を抱く。翠姉ちゃんの体と僕の体が雨のせいか、余計に引っ付いてる気がする。翠姉ちゃんは細い。もうちょっと力を入れれば折れちゃいそうだ。その癖、胸は自己主張が強い。間違いなく、翠姉ちゃんは美少女だ。「JUM…き、き…その…」「キスしていい?翠姉ちゃん。」僕は翠姉ちゃんの言いたいことを察知する。翠姉ちゃんは少し目をパチクリさせると笑う。「しゃ、しゃーねーな。翠星石は優しいですから…キスさせてやるです…んんんっ…」僕は翠姉ちゃんの唇にキスをする。腕を翠姉ちゃんの首元にまわす。リップの味だろうか。翠姉ちゃんの唇は甘い味がした。
人は全く通らない。いや、通ってるのかもしれないが問題ない。今、この空間にいるのは僕と翠姉ちゃんだけなんだから。唇を離す。頬の紅潮した翠姉ちゃんが、口パクで「もっと」とせがむ。僕は再び翠姉ちゃんにキスをする。触れ合うだけのキス。それを、長い長い…長い時間する。「んんっ…ぷはっ…JUM…もっと、ですよぉ…もっとJUMを感じたいです…」今度は翠姉ちゃんからキスをしてくる。まだまだ僕は傘を離さない。僕の口の中に何かが侵入する。僕も負けじと、その何かを迎撃する。「んっ…ちゅぷっ…ちゅるっ…にゅるっ…ひゅん…」僕と翠姉ちゃんは存分にそれを絡ませあう。お互いの存在を確かめ合うように。翠姉ちゃんの手が僕の腕をギュッとつかむ。僕の翠姉ちゃんを抱きしめる手も思わず力が入る。「はんっ…はぁはぁはぁ…これで、一週間大丈夫です…」翠姉ちゃんはそう言うと、僕に軽くキスをしてから、抱きついてきた。「……………大好き……」
「ただいまですぅ~。ご飯できてるですか?」僕等はようやく家に戻った。結構時間かかったな…まぁその、アレのせいだろうけど。「おかえり、翠星石とJUM君。あんまり濡れてないね。雨結構強かったのに。JUM君傘忘れてったみたいだから、相合傘で帰ってきたんでしょ?」「そ、それは…!?し、仕方なかったからですよ?JUMが風邪ひいたら哀れなんで…」「あら,一つの傘で帰ってきた割には濡れてないわねぇ。」「そ、それは…えっと…J、JUMが翠星石をギュッとしてくれたから…ですぅ。」翠姉ちゃんが顔を赤くする。多分、僕も赤い。何もそれを言わないでも…「成る程。雨には濡れなくても…別の場所は濡れたわけですわね?」「きらきー…それ親父…だよ?」「んな!?き、きらきー何をいうですかぁ!?」家に帰れば何時もどおり騒がしい我が家。でも、明日から翠姉ちゃんと蒼姉ちゃんが一週間いないのか。翠姉ちゃんじゃないけどさ…やっぱり寂しいような気がするな。END
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