第六十三話 JUMと洗濯
「一つ屋根の下 第六十三話 JUMと洗濯」
「ふぁ……もう朝か…あれ?昼じゃん。」昨日も遅くまで起きてたせいもあるのだろう。なに、心配は要らない。今日は休日だ。携帯を開くと時間はすでに10時。ばっちり寝すぎたようだ。僕は体を起こしてリビングへ向かう。家の中は驚くほど静かだ。「ねえちゃ~ん!誰もいないの~?」シーンと静まり返ってる。テーブルには僕のご飯にラップがかかってる。どっか出かけたんだろう。「はぁ~、もうすぐ時間ですぅ……お?JUMいいトコに起きてきたですね。」そう思ってると翠姉ちゃんがバタバタしながらやってきた。どっか出かけるんだろう。服も外着だし。「翠姉ちゃんどっか行くの?」「翠星石は今から蒼星石や、クラスの子と修学旅行の買い物ですぅ。ああもう、時間ないです…」「ああ、そっか。もうすぐ修学旅行だったね。時間ないなら、僕が何かしておいてあげようか?」翠姉ちゃんには家事で世話になってるしね。それくらいするべきだろう。が…僕はそれを後悔した。「お?JUMにしてはいい心がけですね。じゃあ、洗濯お願いするです。洗濯機は今回ってるですから。夕方になったらキチンと取りこむですよ?あ、サボったら晩御飯は抜きですからね。」「ちょ、ちょっと待った!洗濯はまずい……」「あ、時間ですぅ!それじゃあ頼んだですよ~!行ってくるですぅ~。」僕の抗議をまったく気にも留めずに翠姉ちゃんは出かけていった。「参ったな…よりによって洗濯なんて…」数ある家事のうち、僕は洗濯だけは意識的に避けていた。理由は言うまでもないだろう。そりゃあ、小学生の時とかならよかったけどさ…まぁ、銀姉ちゃんは小学生のときから着けてたけど。もう僕も姉ちゃん達も高校生だよ?さすがにまずいってもんだろう。僕はせめてもの抵抗で姉ちゃん達が家に残ってないか家中を隈なく探すが、当然のように家は無人だった。ピーピーと、洗濯機が洗濯の終わりを知らせる音を出す。「はぁ……仕方ない。気は進まないけど、やるしかないかぁ。」
洗濯機の中は笑えるくらいカラフルだった。目が痛い。そして、目に毒だ。男物の服や下着なんて埋もれててどこにあるかさっぱりわからない。僕は、洗濯籠の中に、次々と洗濯物を詰め込んでいく。ああ、人が多いだけあって洗濯物も多いなぁ。翠姉ちゃんや蒼姉ちゃんは本当にご苦労だ。僕は洗濯籠を持って、庭へ出る。日差しがまぶしい。本日は晴天なり…「ふぅ…やるかな…」僕はスッと籠に手を入れる。取り出したのは黒のブラジャーだった。思わず顔が赤くなるのを感じる。色的にもサイズ的にも間違いなく銀姉ちゃんのだ。僕はあまりソレを直視しないように干す。「やば……何か変な気持ちになりそ…」間違ってもパンツを被ってフォォォォ!!とか、それは私のおいなりさんだ。とかはやらないだろうけどさ。頭を振り払って次の洗濯物を手に取る。黄色のブラだ。多分、カナ姉ちゃんのだろう。「だーーー!!僕は何考えてるんだよ!」先日のカナ姉ちゃんとの事をつい思い出してしまう。あの時、銀姉ちゃんが来なかったら僕は、これを拝んでいたんだろうか。いやいや、何破廉恥な事考えてるんだか。ええと、円周率は3,14……次に手に取ったのは緑と白の縞々のパンツだった。あ、これ翠姉ちゃんだな。以前スカートで踏まれた時に見た事ある。(4話)いや、あくまで不可抗力ですよ?痛かったし。続いて青と白の水玉……まぁ、言うまでもないか…青いブラともども蒼姉ちゃんだろうな。お、ようやく僕のトランクスが出てきた。知ってたけど再確認。やっぱり、我が家には男は僕しかいないんだなって。いや、本当に男物の洗濯物が全然出てこないんだって……あ、これは真紅姉ちゃんだな。真っ赤だもん。銀姉ちゃんのと比べると、その差は歴然としてる。まぁ、そんな事言ったら間違いなく殴られるが。「やれやれ……ようやく干し終わったかな。」ズラーッと並んだ洗濯物を見る。うん、やっぱりカラフルだ。黒、黄色、緑、青、赤、ピンク、白、紫…見事にみんな好きな色がバラバラだよなぁ。まぁ、そうでもしないと間違えたりするんでしょ、きっと。明らかに間違えそうにないほど、サイズが違うのもあるけどね。
「ただいま~!!JUM、ちゃんと干して取り込んだですかぁ?」夕方。翠姉ちゃんと蒼姉ちゃんが家に帰ってくる。それを皮切りに、ほかの姉妹も次々と帰還してくる。「ん、干して取り込んだよ。たたみ方分からないから、僕のしかたたんでないけど。」「ごめんね、JUM君。……そのぉ、色々やり難かっただろうけど。」蒼姉ちゃんが申し訳なさそうに言う。さすがは我が家の良心。よく分かっていらっしゃる。「ま、おめーが女物の下着のたたみ方知っててもどうかと思うですけどね。」御もっともです。知ってたらそれはそれで、軽く変態のレッテル貼られる気がします。「さて、僕は次の洗濯物干す準備してこようかな。」蒼姉ちゃんがお風呂場へ行く。我が家の洗濯は一日に数回ある。蒼姉ちゃんは、帰ってから早速洗濯機を回していた。翠姉ちゃんがテキパキと洗濯物をたたんでいく。すごいなぁ、手馴れてる。「よしっと…みんなぁ、洗濯物取りにきやがれですぅ!自分でキチンと片付けるですよぉ~。」「はぁ~いなのぉ~!あ、ヒナ今日買ったのも入れておくの~。」「そういえば、ヒナは最近胸が苦しいとか言ってましたものね。」「……うん、だから…私と巴で選んであげた……」そうなのか。ヒナ姉ちゃんは成長中……メモメモ。「あらぁ……?」銀姉ちゃんがたたまれた洗濯物を見ながら首を傾げている。そして、姉妹の洗濯物を見てさらに傾げる。「ねぇ、翠星石ぃ。全部たたんだのぉ?」「?全部たたんだですよ?それがどうかしたですか?」ん?何だ?銀姉ちゃんの洗濯物が足りないのか?そんな事を思っていると、銀姉ちゃんは僕を見て何かを悟ったようにニヤリと笑った。これは、ヤバイ。この笑みはヤバイ。僕はそう直感する。「ああ、そっかぁ~。JUMもお年頃だもんねぇ。あ、お姉ちゃんは寧ろ嬉しいわよぉ?」……何を言ってるんだろうか、この長女は。「JUMったら~…水銀燈のブラ欲しかったのねぇ~。もう、言ってくれれば水銀燈ごとあげちゃうのにぃ♪」一瞬で、主に翠姉ちゃん。真紅姉ちゃん。薔薇姉ちゃん。そして、キラ姉ちゃんの視線が僕に突き刺さった。
「いや、僕そんなの知らない……」「いいのよぉ、JUM。姉妹なんてほっときなさぁい。負け犬ドモなんだからぁ~。」銀姉ちゃんが思い切り僕を抱きしめ、僕の顔を胸に埋めさせる。柔らかい…いい匂いだな…いやいや、そんな場合じゃないってば。僕はとりあえず顔を離そうと手を伸ばす。が……状況を考えればそれはやるべき事じゃなかった。胸の埋もれてる顔を離そうと手を使えば、手が胸に行くのは必然なわけで。「あんっ…JUMもその気になったのね。私の胸揉んじゃってぇ~。さ、部屋行きましょう?大人の時間よぉ。」「ふぁ、ふぁふぁらひはうっへ~!(だ、だから違うって~)」「ちょ、ちょっと待ちやがれですぅ!!おめえのブラはそこに…」「あらぁ、私一日二回は変えてるものぉ。ほら、見てよぉ。」銀姉ちゃんがたたまれた下着を広げる。「こっちは、上下セットあるでしょぉ?でも、こっちは下しかないじゃなぁい。」銀姉ちゃんの言うように、1セットはあるんだが、もう1セットは下しかない。まさか、翠姉ちゃんが間違えて他の姉妹のトコに混ぜたなんて事もないだろう。色分けされてるし。「いや、だから僕はそんなの……」「……JUM!!!」真紅姉ちゃんの声がする。ヤバイ、僕死んだかも。銀姉ちゃんの胸から顔を離し、真紅姉ちゃんを恐る恐る見る。だが、そこには僕の想像とは正反対に、目尻に涙を浮かべた真紅姉ちゃんがいた。「ぐすっ…JUM…分かってたわ…やっぱり貴方は巨乳が好きなのね…うっ…」
「いや、だからそれはちがっ……」「いいの!分かってる…ううっ…でも…JUM。こんな私でもせめてお姉ちゃんって呼んでくれる…?」真紅姉ちゃんの目からボロボロ涙がこぼれて来る。ちょっと、待って。何さ、これ?「JUM……そうよね。カナ少し浮かれてたかしら…JUMは優しいから…べそべそ…でも……カナ昨日の事は忘れないかしら…JUMがカナにくれた優しさだから…べすべす…」「JUM!!嫌です…翠星石を置いてかないでですよぉ…ぐすっ…JUMが望むなら素直に…なるですからぁ…」「……何なのさ、これ?」僕は事態が全く飲み込めてない。てか、飲み込めたら把握能力MAXだろう。「う~…難しいのぉ~。」一人マイペースにPS2をやってる六女は放って置くとして。「JUMは知らないでしょうけどぉ。姉妹の協定の一つよぉ。JUMが年頃の男の子になった時……JUMが下着を盗んだ相手=JUMが好きな相手。よって、その姉妹がJUMをゲッツできるって協定よぉ。そ・し・て♪JUMが選んだ下着は私のでしょぉ?色分けされてるから分かりやすかったでしょ。」そんな協定、速攻で破ってください。大体、僕は盗んでないし。「JUM……も少しだけ待って…JUMが銀ちゃんが好みなら…私、頑張って銀ちゃんみたいになれるように…努力するから…えっえっ…JUM…ぐすっ…」「不覚ですわ。この雪華綺晶が、JUMを食せず散るサダメにあったとは……ただ、無念ですわ…」次々に涙を流していく姉ちゃん達。何、僕悪者?「ふふふっ、まぁ当然よねぇ。所詮デコだろうが、ツンデレだろうが、女王様気質だろうが、食いしん坊キャラだろうが、不思議系だろうが私の敵じゃないわぁ~。」銀姉ちゃんはそう言って、大きい胸を張って勝ち誇っていた。
僕はさっきから頭の中がパンクしっぱなしだ。そんな時、ガチャリとドアが開く。「ふぅ、今日も洗濯物が一杯だぁ……何コレ?」蒼姉ちゃんはリビングを見て、呆然としてる。そらそうだ。銀姉ちゃんが僕にべったりで、ヒナ姉ちゃん以外は大泣きしてる。誰が見ても異常な光景なのは間違いない。「あらぁ、いいトコに来たわぁ。貴方にも教えてあげる。JUMは私のブラを…『あ、そうだ。これ君のブラだよね。洗濯機の中に残ってたよ。JUM君がうっかり干し忘れてたんだろうね。』盗んだ……え?」蒼姉ちゃんがプラプラと黒いブラジャーを手に持っている。間違いなく、色的に銀姉ちゃんのだろう。つまり、あれか。僕は洗濯機から全部取り出したツモリだったが……実際は銀姉ちゃんのだけ残ってたと。「……おほん…水銀燈。ちょっと今夜いいかしら?お話があります。」「あ……あらぁ……?」真紅姉ちゃんがガッシと銀姉ちゃんの腕を掴む。銀姉ちゃんの顔色がみるみる青くなっていく。「さっきはよくも散々言ってくれたですね……金糸雀、何か面白い実験器具ないですか?」「そうね、アイアンメイデンなんてどうかしら?」「ちょ、ちょっとぉ、何でそんなものが…それに死んじゃう…痛い痛い!いやぁ、JUM!助けてぇ~!」銀姉ちゃんがズルズルとリビングから引きずり出されていく。さよなら、銀姉ちゃん。また、明日ね。「?アレ、何だったの?」蒼姉ちゃんが頭にハテナを浮かべてる。よかったね、銀姉ちゃん。蒼姉ちゃんがいなくて。本気で怒ると一番怖い人は回避できたみたいだよ。「ねぇ、JUM。蒼星石ぃ~!一緒に遊ぼうよ~。」「そうだね。じゃあ、ちゃっちゃと洗濯物干してくるね。そしたら、3人で遊ぼうか。」平和を取り戻した我が家のリビング。翌日、銀姉ちゃんは目を真っ赤に腫らして大人しくしてた。まぁ、大人しかったのも一日だけだったけどね。END
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