第六十一話 JUMとデート
「一つ屋根の下 第六十一話 JUMとデート」
六日間にわたる怒涛の学校祭が終わった次の日。要するに日曜日だ。僕は駅前の噴水に腰掛けていた。言ってしまえば、薔薇姉ちゃんとデートの待ち合わせだ。「やれやれ……別に家から一緒に行けばいいのに。」僕は携帯で時計を見る。時間は9時50分。待ち合わせは10時だ。ぽ~っとしてると、前方から見慣れた八女が歩いてくる。今日の薔薇姉ちゃんは、上は紫のカットソーに下は少しヒラヒラしたスカートの下にジーンズを穿いていた。何とも秋らしい格好だ。今日は珍しく眼帯はしていない。「お待たせ……待った……?」「ううん、僕もさっき来たトコだよ。」何だかベタなやり取りをしてしまう。薔薇姉ちゃんはニッコリ笑うと、僕の手を握った。「えへへ…それじゃあ…行こう?」「ん……ショッピングモールだったよね。行こうか。」僕も手を握り返す。涼しい秋の気候でもどこか肌寒い。でも、手だけは充分温かかった。僕と薔薇姉ちゃんは街の大型ショッピングモールに向かって歩き出した。「そういえばさ、何でわざわざ待ち合わせを?一緒に家から出れば早いのに。」「JUMは分かってない……待ち合わせはデートの醍醐味……私の憧れの一つだもん…」薔薇姉ちゃんは言う。はぁ、そんなもんなんですかねぇ。僕と薔薇姉ちゃんは適当に雑談をしながら歩いた。
「みんな、抜かりはないわね。薔薇しーが抜け駆けしないように監視よぉ。」一方、こちらは我らが愉快なローゼン家の姉妹7人である。みんなグラサンに帽子を被っていて怪しすぎる。「そうです。薔薇しーは優勝したから今日のデートは大目に見るですけど……ほ、ホテルなんて行こうものならJUMを殴ってでも止めてやるですぅ!!」「はぁ……大丈夫でしょ、JUM君なら。無粋な真似しないで帰らない?」「却下よ、蒼星石。JUMだって年頃の男の子だもの。いつ理性のタガが外れてもおかしくないわ。」「う~……ヒナ、トモエと遊ぼうと思ってたのにぃ~……」「カナだって今日はみっちゃんと遊ぶつもりだったかしら!」「あら、今日はあのお店レディースディですわね。後で寄りましょう。」と、まぁ不満な者も居るが、裏側で彼女たちの尾行もまた始まった。
「JUM、先ずは映画見よう……」「そうだね。随分色々公開されてるけど……何見たい?」僕達は店内の映画館に居た。まぁ、映画は定番でしょ?えーと、今公開されてるので薔薇姉ちゃんが見そうなのと言えば……やっぱこれだろうか。「ガンダム……にしよう…」「ん、言うと思ったよ。じゃあ……すいませーん、ガンダム大人二人で。」僕は受付のお姉さんに言う。料金ぐらいは僕が持とう。せめてもの甲斐性だ。「はい、お二人様ですね。えーっと、それではカップル割引で2000円になりま~す。」カップル。その言葉を聞いて僕は何だか顔が赤くなるのを感じた。やっぱり、そう見えるものなんだろうか。僕は無言でお金を払うとチケットを受け取り、ホールを探し出した。「JUM……カップルだって……」「ん~、あ~…まぁ…見えなくはないかもね…」すると、薔薇姉ちゃんは手を握るだけじゃ飽き足らず僕の腕をギュッと抱きしめる。腕に胸の感触が伝わる。「うん……カップル…えへ…」薔薇姉ちゃんは僕にしがみつきながら嬉しそうにそう言った。
「映画館……まぁ、無難なトコよねぇ。さ、何見るのかしらぁ?」「別に中まで入らないでよくないかなぁ。」唯一の良心、蒼星石が姉妹を諌める。が、聞き入れられるはずもない。「ダメよ。中は暗闇……男と女なら何が起こってもおかしくないのだわ。」「そうですぅ!JUMはムッツリですからね。ええっと…きっとガンダム見てるですね。蒼星石、買って来るですぅ。」「はぁ……はいはい。」蒼星石は渋々チケットを七枚買いに行こうとする。その時、雛苺の声が上がった。「あ、くんくんの映画もやってるの~!」「蒼星石、くんくんにしましょう!(0,001秒)」速攻で寝返る真紅。蒼星石は再び溜息をつくと、くんくん探偵劇場版のチケットを七枚購入するのだった。「……僕何やってるんだろ……あ~、みんなちゃんとお金払ってよ、も~!」
「面白かったね…超機動戦記ローゼンガンダム オーベルテューレ…」僕らが見た映画は『超機動戦記ローゼンガンダム オーベルテューレ』だった。オーベルテューレは序曲って意味らしい。本編が始まる前のみんなの出会い等を描いた作品だった。ちなみに、来年の春には本編のアフターストーリーも公開されるらしい。「そうだね。真紅と水銀燈はやっぱり仲悪かったみたいだったしね。」「うん……それを繋ぎ合わせたのが本編ではあんまり出番なかったのりだったのもビックリ…精神的支柱…」ちなみに、ウチの姉ちゃん達と名前が一緒なのは偶然だろう。いや、偶然に決まっている。そんな感じで歩いていると、ふと僕のお腹がぐ~っと音を鳴らす。「ちょうどお昼だね……ご飯にしようか…」「ははっ、そうしようか。何食べたい?僕が奢るよ?」薔薇姉ちゃんは、ん~と少し考え込む。そして、キョロキョロ辺りを見回すと、ピッと指差した。その先は中華料理店だった。ははぁ…獲物はシュウマイだな?「おっけー、じゃああそこにしよっか。」薔薇姉ちゃんはコクリと頷くと僕の腕を抱きしめなおす。いやまぁ……元々そのつもりできたけどさ。改めてデートっぽいかなぁとか思うと、何だか少し恥ずかしかった。
「くんくんは矢張り天才ね。素晴らしかったのだわ。」一方こちらは愉快な姉妹達。何だかんだで全員くんくんの映画にご満悦のようだ。「うよ…ねぇねぇ、JUMと薔薇水晶いないよぉ~?」「はっ…くんくんに気を取られすぎたわぁ。どこいったのかしら。」水銀燈が辺りを見回すが見つかるわけがない。そのとき、ぐぅ~と大きな音が鳴った。「あらいけませんわ。私お腹が空いてしまいました。ご飯食べに行きましょう。」雪華綺晶がスタスタとお店を物色しだす。その先で彼女はJUMと薔薇水晶を見つけた。「あら、居ましたわ。この中華のお店です。さぁ、食べましょう?」勝手にお店に入っていく雪華綺晶。最早食欲が勝ってるようだ。「仕方ねぇです。翠星石達も中にはいるですよ。」「料金は各自持ちね。割り勘だと……きついしね。」蒼星石の視線の先にはすでに嬉々としてメニューを見つめる食欲魔人いた。
「もぐもぐ……美味しいね、JUM…」「うん、美味しい。やっぱ中華専門店だけあるよね。」僕は中華セットを。薔薇姉ちゃんはシュウマイセットを食べていた。程よい油や香辛料が食欲をそそる。「JUMの唐揚げ…美味しそうだね…あ~~ん…」薔薇姉ちゃんは僕が何も言ってないのに目を閉じて口をあけてる。僕はその口に唐揚げを入れてあげる。「ん~~…デリシャス…私のシュウマイもあげるね。あ~んして…」僕は言われるままに口を開ける。すると、薔薇姉ちゃんがすっとシュウマイを入れてくれる。シュウマイは肉シュウマイだった。ポン酢と相性が抜群でかなり美味しい。そんな感じで食事を進めていると、物凄い量の食料が奥に運ばれていく。団体さんだろうか。「凄い量だね…一人で食べたら凄いよね…」「まぁ、驚きはしないけどね。何せウチにもあれくらい一人で食べちゃう人いるしね。」「ふふっ、そうだね…お姉ちゃん達何してるんだろう…悔しがってるかな……」「さぁ?案外僕等を尾行してたりね。まぁ、そんな暇人じゃないか。はははっ…」僕と薔薇姉ちゃんは家にいるであろう、姉ちゃん達を思い浮かべながら箸を進めていた。
一方、そんな暇人達は人数がおおいため、奥の部屋に通されていた。テーブルには大量の食事が置かれてる。「きらきー…そんなに頼んで払えるですか?」翠星石が心配そうに言う。しかし、雪華綺晶は無問題と言わんばかりに幸せそうに食べている。「問題ありませんわ!!私、今日はカード持っておりますから♪」何ともブルジョアな発言だ。端っこでは金糸雀が望遠鏡を覗き込んでいる。「どう?金糸雀。JUM達はまだ店内にいる?」「まだ食べてるかしら!ヒナ、カナのお口にてんしーはん運んで欲しいかしら。」「うよーい!じゃあ、あ~んして~。」まるで張り込みの刑事だ。あるいは盗撮してる変な人。「…あっ、このお茶美味しい…ウチにも置いてみようかな。」「乳酸菌が足りないわぁ…」何だかんだで愉快な姉妹達も食事を楽しんでいた。
「ねぇ、この服どうかな?似合う…?」午後、僕等は服を見ていた。薔薇姉ちゃんが嬉しそうに次々と服を自分の体に当ててみせる。何時もより笑顔が多いとこ見ると、本当に楽しんで貰ってるんだなって思う。やっぱり、来てよかったな。「いらっしゃいませ~、お二人でお洋服をお探しですか?彼女さんスタイル良いですね~。」店員さんがやってくる。そして、ここでも僕等はカップルに間違えられたようだ。「…ありがとう……あの…私、どんなの似合いますか…?その…彼氏に可愛いって言ってもらいたい…」薔薇姉ちゃんが少し恥ずかしそうに店員さんと話してる。その内容を聞くと僕まで恥ずかしくなってくる。正直な話…薔薇姉ちゃんは何来ても可愛いと思う。まぁ、その…元が可愛いし…あ、店員さんに勧められて更衣室入っていった。しばらくキると、薔薇姉ちゃんが少し照れながら出てきた。「えへへ…どうかな?めがっさ似合ってると思わない…かな?」それは、薔薇姉ちゃんのトレードカラーとも言える紫を基調にされた服だった。僕は思わず口をアングリ開ける。「……似合わない…?」「ん、ああ、ごめん。その…見惚れてた…凄く似合ってて可愛い…」それが僕の率直な感想だった。自分のボキャブラリーの貧困さが悔しいくらいにそれしか出てこなかった。「JUM……ありがとう…あの、これ買います……」薔薇姉ちゃんは余程嬉しかったのか、他人にはまず見せない笑顔で店員さんに話していた。
「あらぁ、この下着いいわねぇ。うふっ、これで迫ればJUMもイチコロかしらねぇ。」「そういえば私も最近ブラがキツイですわ。新しいの買うものいいですわね。」「ちょ、ちょっときらきー!?カナを差し置いてまだ成長してるのかしら!!?」「……ブツブツ……私なんてもう何年もサイズが1mmも動いてないのに…ブツブツ…」「あー、この服可愛いの~!今度トモエとお買い物に来るの~!」「お、この服蒼星石に似合いそうですね。蒼星石はもう少し女の子の服を増やすべきですよ。ほら、旅行の時のはJUMも似合うって言ってたじゃないですか~。」「……みんなさ、初めの目的忘れてない?」哀れマトモな蒼星石。愉快な姉妹はまだまだ愉快だったとさ。
「ふぅ、一日尾行したけどぉ…よかったわぁ。何も進展なかったわねぇ。」JUM達が家に帰るコースと判断した姉妹達は先回りして、先に家の前に戻っていた。「そうね。少し悪いと思ったけど、高校生には早いトコ行かれるよりは良いのだわ。」真紅もJUMと薔薇水晶が特に何もなかった事に胸を撫で下ろしている。「あ!二人が帰ってきたかしら!早く家で待機しないと怪しまれるかしら~。」「そうと決まればさっさと退散ですぅ!みんな今日の事は二人にはぜ~~ったい内緒ですよ?」金糸雀が望遠鏡で二人の姿を確認する。すると、姉妹達はそそくさと家に入っていった。
「今日、楽しかった…?私といて…」薔薇姉ちゃんが言う。楽しくないはずがない。正直、かなり充実した一日だったと思う。「薔薇姉ちゃんといて、楽しくないわけないでしょ?また、二人でどっか行こうね。」僕は薔薇姉ちゃんの手をギュッと握る。薔薇姉ちゃんも僕の手をギュッと握り返してくれる。「でもね…少し残念な事ある……JUMと進展がなかったの…残念…」薔薇姉ちゃんは少しションボリして言う。僕等は家の門の前で立ち止まる。「だから…最後の最後にちょっとだけ前に進みます…JUM…大好き…だよ…んっーーー」薔薇姉ちゃんは門の前で僕と向きあうと、少しだけ背伸びをして僕とキスをした。薔薇姉ちゃんの腕が僕の頭を抑えて離さない。薔薇姉ちゃんの唇を感じてると、何だかニュルッとした感覚を覚える。「んんっ……ちゅぷっ……」何だこれ…僕の口の中に何か入ってきて動いてる。その何かは僕の舌に絡まる。徐々に僕と薔薇姉ちゃんの呼吸が荒くなっていく。僕も思わず薔薇姉ちゃんの体を抱きしめ、口の中の何かに舌を絡ませた。どれだけ、そうしてたんだろうか。僕等は唇を離す。お互い顔が赤い。息も荒い。何だったんだろう。「えへ~…一歩リード…さ、お家に入ろう?」薔薇姉ちゃんは僕の手を引いて家に入っていく。僕は、ただただ放心状態だった。ただ…変な意味じゃなくて、薔薇姉ちゃんを感じた。そんな気がした秋の夕暮れだった。END
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