第五十四話 JUMとお弁当
「一つ屋根の下 第五十四話 JUMとお弁当」
「おっべんとう~♪おっべんとう~♪みんなで仲良くおっべんとう~なの~!」音楽室だから歌ってるのか。それとも得意の即席の歌なのか。ヒナ姉ちゃんがご機嫌に歌っている。「このシートをしいてっと……あ、真紅地べたでもいいかな?」「構わないわ。こんな時に椅子で食べるのも無粋でしょう?」蒼姉ちゃんが家から持ってきたのか大きなシートを敷く。敷き終わると、みんなで靴を脱いで座る。「さ、お弁当の登場ですよ~。翠星石と蒼星石が一生懸命作ったですぅ。」輪を作って座ったみんなの中心にドスンと大きな重箱が置かれる。すげ。1,2,3……5段重ねだ。「後は……きらきーが帰ってくるのを待つだけ……」例のパンを買いに行ったキラ姉ちゃんはまだ戻ってきていない。でも、先に食べるわけにも行かない。そう思ってると廊下を走る足音が聞こえる。ガラガラとドアが開けば、大きな紙袋を持ったキラ姉ちゃんが居た。「お待たせですわ。ふふふっ、見てくださいな。10個も買えましたの!!」おお、10個とは凄い。多分、キラ姉ちゃん手段を選ばなかったんだろうなぁ。事実、後から聞いた話だがそこには鬼がいたそうな。「ちょ、ちょっとキラキー。10個はいいですけど、お弁当食べれるですか?キラキーが食べると思ってたくさん作ってきたんですよ?ほら。」翠姉ちゃんが重箱をトントンと5段全部を広げる。5段中、3段がお握り。残り2段がオカズとなっていた。確かに、これはキラ姉ちゃんが居ないと完食は厳しそうだ。「問題ありませんわ。何故ならば……はい、これはJUMの分。」と、キラ姉ちゃんは紙袋の中からホイップクリームパンを取り出すと、僕に手渡した。成る程、触るだけで生地の薄さ。それに反して感じる重量から中身が凄い事が分かる。キラ姉ちゃんは僕だけじゃなく、姉ちゃん達みんなにパンを配り始めた。「……雪華綺晶?これは?」真紅姉ちゃんがパンを見ながら言う。ああ、そういえば真紅姉ちゃんは意外に甘党だったな。何だかんだで食べたかったに違いない。「こんな美味しそうなモノを独り占めなんて勿体無いですわ。ですから、幸せをお裾分けです。」キラ姉ちゃんはニッコリ笑って言った。
「わ~、ありがとうなの~!」ヒナ姉ちゃんは心底嬉しそうに言う。銀姉ちゃんは珍しく目をパチクリさせている。「嬉しいけどぉ……本当にいいの?」「もちろんですわ。みんなで食べた方が美味しいに決まっておりますから。」そんな銀姉ちゃんにキラ姉ちゃんは清清しいまでに答えた。「えへへ~、実はカナも競技に夢中で全然味わえなかったかしら。」うん、クリームは顔に付きまくってたしね。「でも!食べるのは一番最後ですよ?デザートですぅ。先ずはみんなでお弁当食べやがれですぅ。」翠姉ちゃんが言う。そうだ、パンは何時でも食べれそうな気もするが、お弁当はそうもいかない。「じゃあ、食べようか。いただきます。」蒼姉ちゃんが言う。みんなもそれに合わせていただきますの大合唱となった。「翠星石、玉子焼きはどこかしら~?」「んなもん、自分で探せです……そこですよ。」「あら、随分油の少ない唐揚げね。ギドギドじゃなくて食べやすいのだわ。」「えへへ、それは僕が揚げたんだよ。ちょっとコツがあってね。今度教えてあげるよ。」そんな感じで和気藹々と昼食が進んでいった。僕はお握りを掴み、ガブリと一気に喰らう。基本的に女の子用で小さめのお握りは。一度で半分くらい食べれた。中にはおかかが入っていた。残りの半分を口の中に入れ、唐揚げを摘む。うん、美味しい。ジューシーな唐揚げが絶妙だ。「JUM君、どうかな……唐揚げ美味しい?」蒼姉ちゃんが僕の顔を覗き込むように言う。やっぱり、作り手としては気になるんだろう。「うん、凄く美味しいよ。さすがは蒼姉ちゃんって感じ。蒼姉ちゃんはいいお嫁さんになるよね。」僕はそう言う。仕方ない。率直にそう思ったんだから。だが、蒼姉ちゃんはボン!と音が聞こえそうなほど顔を真っ赤に染めていた。「お、お嫁さん?ぼ、僕が?いやそんな……その…嬉しいけど…照れちゃうなぁ。JUM君のお嫁さん…なんて。」あれ?僕は僕のなんて言ってない様な気がするけど……
「む~~~!!JUM、翠星石には何かないんですか!!??」翠姉ちゃんが眉間に皺を寄せながら言う。何を怒ってるんだろう。「ん?美味しいよ、翠姉ちゃんのも。ほら、この玉子焼きとか最高だよ。」「あ……JUM君、それ僕が作った奴…」うわ、自爆。翠姉ちゃんが益々イライラしていくのが見て分かる。「うよ……翠星石が怖いのぉ……」「ふぅ…JUMは……乙女心が分かってない……」ヒナ姉ちゃんは怯えてるし、薔薇姉ちゃんには呆れられてる僕。うん、今回は僕が悪かったな。全面的に…「もういいですぅ!!JUMなんか知らんです!!」翠姉ちゃんはプリプリしながらお握りを豪快にガッツク。自棄食いする女性ってあんな感じか~。いや、そんなのはどうでもいいか。ん?翠姉ちゃんの頬っぺたに白い粒が…「翠姉ちゃん。」「何ですか!?ひゃっ?」僕はすっと指先で翠姉ちゃんのほっぺたに触れる。プニッとして柔らかい。指を離すと御飯粒が一つ付いてきた。「ほら、御飯粒ついてたからさ。」「う…あ、ありがとうですぅ…」でだ。取ったのは良いけど、これどうしよう。捨てるのも何だしな。そんじゃあ……「んな!!!???」ボンと音が今度は翠姉ちゃんがする。さすが、双子。リアクションが似てるなぁ。「な・な・な・何してるですかぁ!?捨てればいいじゃないですかぁ!な、何でわざわざ食べるですかぁ!?」今度は取った御飯粒を僕がそのまま食べた事にご立腹らしい。顔を真っ赤にして翠姉ちゃんが言う。「いや、勿体無いかなと思って……」「~~~~~~~!!??ばかーーーー!!」いや、本当。何を怒ってるんだろう。
「ふぅ、美味しかったわね。あれだけあったのに全部なくなったわね。」真紅姉ちゃんが食後の紅茶を飲みながら言う。ほんと、よくあれだけの量がなくなったもんだ。「遠足とかと一緒だね……みんなで食べると何時もより何倍も美味しい……」うん、翠姉ちゃんと蒼姉ちゃんの腕もあるだろうけど、やっぱりみんなで食べたのが一番の調味料だった。「さ、お待ちかねのクリームパンを食べるかしら~。」カナ姉ちゃんが目を輝かせて両手でしっかりとパンを持っている。う~ん、結構お腹一杯だけど…それでもクリームパンを食べたい欲求の方が大きい。本当に美味しい食べ物って魔法がかかってる気もする。と、その時音楽室のドアが開かれる。いたのは。柏葉とめぐ先輩だった。「あ、やっぱりここに居たね水銀燈達。お邪魔していいかな?」「いいわよぉ。入りなさぁい。」銀姉ちゃんが二人を招きいれる。うわぁ、やっぱりめぐ先輩って白いなぁ。不健康そうな色白じゃなくて、何て言うのかな。健康そうな魅力的な肌の白と言うか。「トゥモゥエ!トモエも、ヒナと一緒にくりぃむぱん食べようよ。ヒナの半分あげるね。」「いいの?雛苺のでしょう?」「うん、でもトモエと一緒に食べた方がきっと美味しいの!だから、半分コなの~!」ヒナ姉ちゃんがニコニコしがらパンを半分に割る。中からトローリと濃厚そうなカスタードクリームと、白いホイップクリームが出てくる。柏葉はそれをヒナ姉ちゃんから受け取る。「ふふ、二人は仲良いね。あ~あ、私にもこんな仲のいい友達がいたらなぁ~。」「……分かってるわよぉ。めぐは私と半分コしましょう?」めぐ先輩がわざとらしく銀姉ちゃんを直視しながら言う。すると、めぐ先輩はニヤリと笑う。「ううん、わざわざ半分コしないでもいいよ。」「は?じゃあ、どうするのよぉ。」「決まってるじゃない。水銀燈のく・ち・う・つ・し♪ほら、何時もみたいに熱いキッスぅ~。」「な…なななな何言ってるのよぉ!JUMの前で変な事言わないでよぉ!めぐのおばかさぁん!!」いや、本当。銀姉ちゃんを唯一弄くれる凄いお人だな。めぐ先輩は。
「雛苺、ほっぺにクリームついてるよ。とってあげるからジッとしててね。」「うよ……ん~、くすぐったいのぉ~。」「ああ~ん、水銀燈。私のほっぺにもクリームついちゃったぁ~。ぺロッて舐めてとってぇ~。」「はぁ……貴方ほぉんとうにイカレてるわねぇ。」そんなこんなで、柏葉とめぐ先輩を交えての昼食もそろそろ終わりだ。「ふぅ……お弁当も美味しかったですし、ホイップクリームパンも食べれて私、大満足ですわ。」良かったね、キラ姉ちゃん。でも、これあくまで体育祭だからお忘れなく。「明日は応援合戦もあるから、早めに食べて着替えないとね。」「蒼姉ちゃんも応援合戦出るんだ?やっぱり学ラン?」「へへぇ~、それは明日のお楽しみだよっ。」そうか、明日は応援合戦か。僕は文化祭の方が忙しすぎて参加できなかったけど、うちのクラスはべジータや桑田さん。薔薇姉ちゃんも応援合戦に参加するはずだ。「JUMは……女の子の学ランフェチ…?だったら……明日は貰った……」薔薇姉ちゃんはグッと拳を握る。何を貰うか知らないけど、薔薇姉ちゃんは学ランて事なのかな?「気が早いわね、貴方達。それよりも今日の午後の競技があるでしょう?」真紅姉ちゃんは体操服でも、本を読んでる。ある意味、読書中毒者だな。「ふっふっふ、午後のあのメイン競技は必ずカナの作戦でいただきかしら!」「おっと、今年は翠星石も負けないですよ?何せ今年は蒼星石も一緒ですからね。」「ああ、アレがあったわねぇ。アレは得点大きいから稼いでおきたいわねぇ。」2,3年生組がなにやら話を進める。僕には何の話かさっぱり分からない。「ねぇ、姉ちゃん。何の話?午後のメイン競技って何さ?」「あらぁ、JUMは知らないのねぇ。学校全体競技の一つ……『乙女騎馬戦』よぉ!!」END
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