『きみとぼくと、えがおのオレンジ』~第2話~
始まりは、何気ないものだった。そう、ドラマの中みたいに、出会い頭にぶつかって恋に落ちました、なんてそんなものじゃない。本当に、味気ない何気ない始まりだった。しかし、そんな何気ない始まりが大きなドラマの始まりだなんてそのときの僕には予想もつかないしできない事だった。
その日、大学受験から開放されて約3週間過ぎ、僕らは学部の集いに来ていた。既に入学手続きは済ませて晴れて大学生になったのは良いが、入学式やら説明会やらはまだまだ先だ。つまり、僕らは半人前大学生といったところ。だというのに、学部で食堂を貸しきってのパーティとは一体全体どうしてか?答えはいたって簡単、新1回生と上級生の友好を深めるという名の下大方の連中、僕と一緒に同じ大学を受けた笹塚とベジータも例に漏れずだが、上級生は1回生漁り、1回生は出会いを探していたのだ。高校時代には謳歌できなかった青春を求めてとか、大学デビュー目指してといった切なる願いがそこには込めていたのだ、おそらく。
そんなこんなで、「いらっしゃい、君達も1回生かな?」食堂の入り口で上級生らしき御姉さんが僕達を出迎えてくれた。これといって派手でもなく控えめで程よい化粧、少しドキリとなる。「あ、はい」「じゃあ学科を教えてくれる?学科ごとに席が分かれてるから」そういわれて僕達は自分の学科を申告した。その後僕達はそれぞれの学科の席に上級生の男の人たちに案内される事になるのだが、このとき、ベジータだけは違った。コイツ、本当は理系学部だったのに僕の学科と申告してまんまとこのパーティにもぐりこんだのだ。奴曰く、「こういうときくらいは無礼講だろ?女の子と出会えるのは今しかないって」なのだそうなのだが。
まあ良いだろう。とにかく、こうして僕達は自分達の席に着きようやくパーティを開始した。しかし、先程も言ったとおりこれは出会い探しだ。誰も彼も目の前のお菓子には目もくれず各々が各々に話し合う。その熱気に押され、僕は少し挨拶をしてからは目の前のお菓子やらジュースやらをぽつぽつとつまんでいるだけだった。そして、そんな駆け引きと謀略渦巻くパーティの中でいつの間にか取り残され、輪から外れた僕は暇をもてあましていた。「ねえ、君ってどこから来た?」「へえ、もう取ろうと思ってる講義決めてるんだ」「あ、クラブとか入る?」「サークルだったらここが良いよ、オススメ」矢が飛び交うように話が巡る状況下、僕はその中でそれを見てるだけ。一緒に来たはずのベジータも笹塚も今ではどこかの輪に加わってしまって女の子達と楽しく雑談をしている。仕方なしに僕はその場を離れ、食堂の端、ジュースの販売機に向かっていた。喉も渇いていたというのもあるし、アレ以上あそこにいると自分がみじめでしょうがない気持ちになるというのがあったから。
席を立ち、喧騒の熱気から離れて役10メートル。たったそれだけで空気が劇的に軽くなったような気がした。きっと、それだけあの場の空気が合わなかったのかミジメだったのだろう。軽く深呼吸をし、気を取り直してコーラを買う。コトンと紙コップが落ちる音に続いて響く液体の注がれる音。それをぼーっと聞いて眺めて時間を過ごす僕。後ろからドっと笑い声があがるが興味は既になかった。いや、ない、というかどうでも良かった。理由は分かるだろ?そんな訳で、だ。近くにあったイスを寄せて腰を下ろし、できあがったコーラを飲んで一服していたその時になってようやく、僕と同じようにお友達の輪からはぐれた奴がいるのに気づいた。そのときの僕は、ああ、同じ奴がいるんだな、という認識程度。で、だ。僕はそのままその人物を無視してワイワイとお喋りをする人の塊をなんとはなしに観察していた。一人の女の子に熱烈にアタックする如何にも軽そうなチャラ男。出会って数時間も経ってないのに大昔からの親友のようにキャッキャとしゃべる女の子達。合コンでもないっていうのに男女向き合って話し合うグループ。上級生らしき人達に囲まれて固まってる1回生。とにかく多種多様の選り取りみどり。
案外眺めているだけでも結構楽しいかもしれない、そう思いながらケータイをいじりつつ数十分をすごしていた僕だったのだが。そのときの僕は一体何を考えていたんだろうか。何だかんだ言いながら、きっと僕もあの場の空気に当てられていたんだろう。背伸びを一回して僕は席を立ちある方へ向かっていた。「なんだか、暇だよね」「え……?」そう、事もあろうに、僕はさっき同じように輪から外れていたその人に話しかけていたのだ、大胆にも近くの席に着いて。「あ、ごめん、いきなり話しかけちゃって。ちょっとあの場の空気なじめなくてさ。 それで同じような人がいたからつい………」「………あたしも……です。少し……苦手、あの空気。お友達は……?」「いるけど、あの中で騒いでるよ」「そう………あたしの……友達も……です」「そか」「はい………」それで流れる沈黙。お互い、初対面同士では話すことは限られているからな。まったく何やってたんだか僕は。
「あ、そうだ。名前、何ていうの?」「え?」まるでナンパ男みたいな事言ってた事に、言ってから気づく僕。「あ、ごめん。下心があるというんじゃなくて、話すのに『君』とかじゃ変だから」そうやって墓穴を踏みまくる。ああ、なんと情けない。下心がないって言ったら下心があるといってるようなものではないか。ああ、なんて頭の悪い。「……………」「ご、ごめん。今の忘れて」「…………薔薇水晶」「え?」「薔薇水晶………です」
そう、これが始まり
「薔薇水晶さん………あ、よろしく。僕は……桜田ジュン」「桜田君……うん、よろしく………」
喧騒の少し外取り留めのない話僕と薔薇水晶は出会った
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