『ずーいずーい♪ずっころばーし♪』
喧騒が絶えない昼休みの廊下。薔薇学には移動教室がある場合は、二つの校舎を結ぶ大きな廊下を通らなければならない。よって必然的に人口密度が多くなる。だから二人が出会う確立はかなり高いわけで。「ジュン」「あ、銀姉」ジュンを見つけた水銀燈が近づいてくる。「お母さんが今日はカレー作るっていうから、食べにきてね。あ、ネクタイ曲がってるわよ。しょうがない子ねぇ」水銀燈はテキパキとジュンのネクタイを結び直す。「はい、できた。あんまり遅くならないでねぇ」ジュンが口を挟む間もなく水銀燈は去っていった。「おい桜田」「なんだよべジータ」「なんでお前は水銀燈先輩の隣の家に住んでるってーだけで、あんなにかまってもらえるんだ?おかしいだろ学園一の美女だぞ!?・・・うげほッげほ」唾も飛ばさんばかりの勢いにべジータはまくし立てる。「やめろよべジータ・・・。風邪がうつる。インフルエンザだったらどうする気だ?マスクしろ」ジュンは煙たそうな顔をする。「いいやしないね!知ってるか!?むしろお前は学園一殺したい男ランキング一位だぞ!?」「そんなことわかってるよ。でも僕が酷い目にあったときの話知ってるだろ?加害者は五体満足で帰ってこなかったんだぜ?逆に気の毒に思うよ」「うう・・・ま、そうだが」「わかったらマスクしろ」
風邪を引いた。38度7分。まだまだ上昇中だ。「べジータに・・・うつされ・・・うぇ・・・」「辛い?」「ごめん、銀姉。せっかくの・・・土曜だってのに」「いいのよぉ。今日はお母さんもおばさまもいないんだから、私が看病してあげるわぁ」「ありがとう」冷水で絞ったタオルをジュンの額に乗せる。手で軽く当てて、裏返すとすぐに温くなってしまう。「困ったわぁ。すぐ温くなっちゃう・・・。かといってまだ解熱剤は早いし・・・」「うーん・・・そんなに無理しなくて・・・いいよぉ・・・」「もう、お ば か さん。日曜に買い物付き合ってくれるっていったでしょ」水銀燈はジュンの額を指で、ツンと突っついた。「荷物もち・・・だけどね」「ふふ。わかればいいのよ。あ、そうそう、アレがあったわ」手をポン、と叩いた水銀燈は台所へパタパタと走っていった。(なんかあったっけ?)「ねえねえジュン。これなら風邪もばっちり治るわぁ」緑と白の細長いものが水銀燈の手の中で、バトンのようにくるくる回されている。「こ れ」ジュンの顔の前に差し出される。ネギだった。「・・・どうするの?これ」「ふふ。これを・・・お尻の穴の中に・・・入れるのぉ」水銀燈はネギの根っこの部分を口に近づけて、ペロリと舐めるしぐさをする。「えぇ!や、やめてよぉ・・・」「うそよ。ネギ刻んできたからガーゼで首に巻くのよ。こうすればいいってお母さんいってた」水銀燈はジュンを起こして、首にネギ入りのガーゼを巻いた。ふわり、水銀燈から、いい匂いがしたが、すぐ、白ネギに消された。「どう?今、お粥も作ってるからね」「ありがと」
「ふー、ふー・・・・。はい、あーん。・・・どうあっつくない?」土鍋からすくった粥を水銀燈は、息で冷ましながら、ジュンの口へ運ぶ。「うん・・・おいしいよ」「じゃあ、ご飯食べ終わったら、薬飲もうね」30分後。「あ・・・水切らしちゃってるわぁ。さっきので最後だったのね」水銀燈は冷蔵庫のドアを閉める。「仕方ないわぁ・・・」水銀燈は薬袋を持って、ジュンの部屋へいった。「ジュン」「・・・なに?」ジュンは首を向けた。しんどいのであまり体は動かしたくない。「お水なかったのよ・・・。ジュースやお茶だと、薬の効果、半減するから、だめだし」「ならいいよ・・・」ジュンは首を元の位置に戻す。「でも、薬は飲まなきゃ。ダ メ」水銀燈はジュンの顔を覗き込み、そのまま、キスをした。「!!」顔を両手で捕まれ、水銀燈の舌でジュンの口がこじ開けられていく。ジュンの舌に、丸いものがいくつかコロンと渡された。水銀燈の舌が名残おしそうに少し絡み付いてきた。「ぎ、銀姉!うつったら・・・」ジュンの口に水銀燈の人差し指が当てられた。「かまわないわぁ・・・。だって私はジュンのこと大好きだもの」「もう」「さ、薬飲んだなら、寝なさい」ジュンの目が水銀燈の手で隠された。あったかくて、やわらかい手。「・・・寝れない」「仕方ない子ね・・・子守唄歌ってあげるから」水銀燈は一つ、呼吸をした。
「ずーいずーいずっころばーし♪ごーまみーそずい♪」「それ、違うよw」「クス・・・お休み」
もう熱は下がったみたいだ。頭の中の重りも取れたみたいだ。
「銀姉。やっぱ昨日のあれじゃない?」「こほ・・・こほ。そうかもね」ジュンの風邪はすっかり水銀燈にうつってしまった。自分は快復したのに、少し複雑な気分で水銀燈の額のタオルを取り替える。「なんかないかな・・・」ジュンは水銀燈の家を漁る。なにか風邪薬があればよいけれど。「お、これなんかいいんじゃないか?」
「ねえ、銀姉!座薬あったよー」「お、おばかねえ・・・それは、お母さんの、タン・・・うげほッげほ」
『ずーいずーい♪ずっころばーし♪』 ~完~
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