第三十八話 JUMと2学期
「一つ屋根の下 第三十八話 JUMと2学期」
体が揺さぶられる。深い眠りに入っていた意識が急激に覚醒していくのを感じる。「………JUM……おきて……」声が聞こえる。消え入りそうな小さな声だ。いや、本当はもっと大きな声かもしれない。それでも、今の僕には消え入りそうなほど小さな声にしか聞こえない。「JUM……起きないとキスします……しかも、舌入れます。」僕は何故か脊髄が反射したかのようにガバッと布団から起き上がった。枕元の眼鏡を探す。そして、それをかけると、ようやく声の主を判断した。「ふぁ……おふぁよう、薔薇姉ちゃん…」僕を起こしにきたのは薔薇姉ちゃんだった。薔薇姉ちゃんは僕が起きたのに、何故か超不満そうな顔だ。「薔薇姉ちゃん?どうしたのさ。そんな顔して。」「……JUM……私がディープキスするって言ったら起きた……私とキスするのが嫌なんだ…グスッ…」薔薇姉ちゃんはそう言って…まぁ、嘘泣きだろうなぁ。両目を隠してグスグスしだす。「いや、そんな事はないけどさ。」「じゃあ……キスして…?」薔薇姉ちゃんはそう言うと、手を外して目を瞑って微かに唇を突き出す。ほら、嘘泣きだ。「その手にはのらないよっと。」僕は人差し指で薔薇姉ちゃんの唇を押す。プニッと柔らかい。僕はそれからリビングへ向かう。「むぅ~……JUMのいけず……」薔薇姉ちゃんは相変わらず不満そうにしながらも、僕の後ろを着いて来た。「JUM、薔薇しー、おはようですぅ~。」リビングでは、翠姉ちゃんを筆頭にすでに食事が始まっていた。
「おはよう。早いね、翠姉ちゃん。」翠姉ちゃんはすでに制服で朝の準備をしている。まだ夏服なので、ブラウスに胸元に2年生の色である緑の薔薇を象ったリボンをしている。チェックの短いスカートがゆらゆら揺れる。「おめぇらが寝惚すけなだけですぅ。ほら、さっさと味わって食いやがれです。」今日は和食だった。僕は席につくと、出された納豆をかき混ぜて御飯にかける。「はぁ~……今日から学校ねぇ……長期休み明けはダルイわぁ~。」銀姉ちゃんが気だるそうにヤクルトを飲んでる。まぁ、確かに気持ちを切り替えて頑張るか!と、行きたいトコだが実際はそうもいかない。「ふんふ~ん♪あ、巴からメールきたのー!じゃあ、ヒナはもういくのよ~。」ヒナ姉ちゃんはバタバタと元気に家を出ていく。まぁ、例外的に元気な人もいるよね……ヒナ姉ちゃんは年中通して元気だけど。僕が味噌汁をすすっていると、真紅姉ちゃんがやってくる。まだ髪も結ってないし、パジャマなトコを見ると寝起きのようだ。「真紅は相変わらず起きるのがおせぇですぅ。」「遅いんじゃないわ、翠星石。私は規則正しいだけ。この時間に起きても充分間に合うのだわ。」翠姉ちゃんの言葉を全く気にも留めずに今日もマイペースに優雅に我が道を行く五女。「カナは今日朝から部活のミーティングあるからもう行くかしら~!」「あ、僕も今日はちょっと早めに行くよ。一緒に行こうか、金糸雀。」さっきまで食卓にいなかった所をみると、着替えてたんだろう。3年の色である、青の薔薇のリボンを胸元にしたカナ姉ちゃんと、緑のリボンをした蒼姉ちゃんが現れ、そして学校に向かう。「JUM……今日は一緒に学校行こうね…?」「ん、いいよ。一緒に行こうか。」僕は食後のお茶をすすり、席を立つ。それと同時に、我が家で一番の低血圧が起きてきた。「ふぁぁぁ~……んん……おはようですわぁ~……」キラ姉ちゃんがフラフラしながらリビングにやってくる。キラ姉ちゃんは朝に弱い。と言うか、寝起きがよくない。それは、お昼寝した後でも一緒だ。なんて言うか、趣味「食う寝る遊ぶ」を地で言ってる感じだ。
「クラスのみんな……元気かな……」「とりあえず、ベジータの奴は絶対元気だと思うよ。」僕は薔薇姉ちゃんと二人で久々の通学路を歩く。別に、自転車もいいんだが結構みんな歩きで学校に行く。僕の制服のカッターシャツの上の赤いネクタイが風に揺れる。ちなみに、一年生の色は赤だ。当然、薔薇姉ちゃんの胸元には赤い薔薇を象ったリボンがついてる。他愛のない話をしながら、僕等は「アリス学園高等学校」に到着する。久しぶりに下駄箱をくぐり、教室へ向かう。ちなみに、僕と薔薇姉ちゃんは1-Dだ。教室に入ると、すでに半分くらいは来ており、それぞれが久々に会うからか談笑に花が咲いていた。「おはよう、桜田君。薔薇しーちゃん。」「おはよ、桑田さん。」「おはよう……桑ぴー。」以前蒼姉ちゃんに告白まがいをした桑田さんが話しかけてくる。僕らとは結構席が近い。適当に話をしていると、暑苦しいのが入ってくる。「ハァハァ……間に合ったぜ…この俺が初日から遅刻なんてヘマするトコだったぜ。」M字の額に汗を滲ませながらべジータがやってくる。「よう、べジータ。走ってきたのか?随分息切れしてるけどさ。」「いや、自転車だ。思い切りこいで来た。ふぅ……さすがの俺も疲れたぜ。」後の証言によると、ベジータは「ぬおおおおお!!」と凄まじい掛け声をあげて、ケツを振りながら立ちこぎをして、鬼のような形相で自転車を飛ばしてたらしい。僕らが談笑をしていると……「やぁ!みんなおはよう!元気だったかい!!?担任の梅岡だよ!!」もっと暑苦しいのがやって来た。さっきまで熱気に溢れてた教室は、最も暑苦しい担任の登場により何故か急激な吹雪が吹き荒れた。ああ……また毎日コイツの顔見るのか…僕の学園生活の中に憂鬱があるとしたら、正にコレだけな気がする。桜田JUMの憂鬱だ。
さて、相変わらず校長の無駄に長い有難いお話を聞き終えて、僕等は教室に戻る。「さて、みんな改めておはよう!!」我らが暑苦しい担任、梅岡が教壇で一人でテカテカしながら喋ってる。「どうした、みんなぁ?元気ないぞぉ?ほら、もう一回。おはよう、みんな!!」今時小学校でもやらないぞ、そんなの……「最近の子供は冷めてるなぁ。とりあえず2学期になってみんな無事に学校に来て先生とっても嬉しいぞ!またみんなの顔が見れるからね。夏休みは誰も恥ずかしがって先生に会いに来なかったし。」いや、普通に会いたくないだけです。でもまぁ、確かにみんな無事でよかったなぁとは思う。毎年、夏休みの間に事故やらでクラスメイトが居なくなるなんてニュースは聞く。他人事のように思うけど、実際はいつウチのクラスでそれが起こるかわからない。そう考えるとみんな無事なのはいい事だ。「2学期はまず、学校祭があるからね。先生と、クラスみんなで団結して頑張ろう!!」とりあえず、貴方とは団結したくありません。と言うか、きっと団結できません。そういえば、学校祭と言えばウチの高校の学校祭は随分派手に行うらしい。文化祭3日、体育祭3日の合わせて6日。つまり、1週間を丸々学校祭に当ててやるとか銀姉ちゃんが言ってたな。「秋は気候が急激に変化して、体調管理が難しいけど風邪とかひかないように先生と頑張っていこうな!!」どうしてこの人は無駄に生徒と一体になろうとするんだろうか……どっか行き過ぎなんだよなぁ。でもまぁ……それでも2学期はいきなり一大イベントと忙しくなりそうだ。それでも、きっと楽しいものになると思ってる。いや、楽しんでみせる。僕はそう思う。「じゃあ、まずはクラス委員を決めようか!纏め役が居ないと文化祭の企画も決まりにくいからね!!」梅岡がズビシとウインクをしながら親指を突き出す。無駄に暑苦しくなければいい先生な気もするんだけどなぁ。
「ふぅ~……ほぉんとダルかったわぁ~。」夜、銀姉ちゃんがネグリジェ姿でリビングでヤクルトを飲んでる。お風呂上りみたいだった。「まったく、水銀燈たら。僕は楽しかったけどね。久々にみんなと会えたし。」蒼姉ちゃんはニンテンドーDSをしながら言う。やっぱりソフトはFF3だ。「ヒナもなのー!巴にも、みんなにも会えたのー!それに、学校祭も楽しみなのぉー!」ヒナ姉ちゃんはすでに気分は学校祭って感じだ。確かに、僕達1年生にとっては初の学校祭だ。楽しみじゃない訳がない。「ウチは相当学校祭に力入れてるから……きっと楽しいかしら~。」さすがは三年生。学校のイベントは熟知している。「翠星石と蒼星石は2学期は修学旅行もあるですからね。楽しみでっすぅ~。」そういえば、2年生は修学旅行もあるのか。どこに行くんだろう……現地の人には悪いが、広島とかは勘弁だ。僕は中学が広島、山口だったがマジで修学だった。うん……いや、それが正しいんだろうけどさ…厳島神社だっけ。あの、鳥居が海の中にあるトコ。あれともみじ饅頭の記憶くらいしかない。「そういえば、みんなのクラスは文化祭の出し物決まったの?」真紅姉ちゃんが本を片手に言う。「うちは……まだ……先生が無駄に暑苦しい話ばっかりで……そこまで進まなかった。」薔薇姉ちゃんが言う。クラス委員は決まったが(べジータ、桑田さん)それ以降は奴の武勇伝を聞かされて結局出し物の話までいけなかったのだ。「私のクラスは決まりましたわ!!フードファイトをやりますの。私はチャンプ役ですわ~。」ああ、挑戦者はきっと散るのみだな。まぁ、何だかんだで2学期が始まった。まずは学校祭。1年で一番のイベントを前に、僕の慌しい日常は続いていく。END
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