第三十七話 JUMと夏の終わり
「一つ屋根の下 第三十七話 JUMと夏の終わり」
八月三十一日、すでに時刻は夕方5時を回っている。僕はリビングでスラスラと問題集を解いていた。「あれ……JUM、まだ宿題終わってなかったの…?」薔薇姉ちゃんがニンテンドーDSを持って僕の隣に腰掛ける。お、FF3だ。「え?JUM君宿題まだだったの?手伝おうか?」薔薇姉ちゃんとは逆隣に座ったのは蒼姉ちゃん。あ、蒼姉ちゃんもDSやってる。そして、FF3。「ん~……まぁ、僕は溜めて一気にやるタイプなんだよ。」僕がそう言うと、何故か薔薇姉ちゃんは顔を赤くする。「JUM……ダメだよ、ちゃんと処理しないと……夢○しちゃうよ……?」「J、JUM君……そのぉ…そんなに沢山出るものなの?」蒼姉ちゃんも同じように顔を赤く染めて言う。てか、この人たちは一体何を言ってるんだろう。まぁ、僕子供だから分かんないや……「ただいまぁ~……ふぅ、重かったわぁ~。」「たっだいまですぅ~!今日は豪勢に冷シャブでっすぅ~。胡麻ダレも買ってきたですよ~。」銀姉ちゃんと翠姉ちゃんが買い物から帰ってくる。冷シャブか。いいね、あれは。余計な脂はシャブシャブしてるうちに落ちて、何気にヘルシーだしね。「シャブシャブ……じゃあ……下着脱いでくるね……JUMはそっちが好きだよね…?」「え?J、JUM君……ノーパンシャブシャブが好きなの……?」あーあー、僕は何もきこえなぁい。とりあえず、本当に席を立とうとした薔薇姉ちゃんを押し止め、僕は宿題を進める。おや?何か御飯以外の物も買ってきてるような……「ねぇ、姉ちゃん。それ……花火?」「そうよぉ。今日で夏休みも終わりでしょぉ?最後にみんなでやろうと思ってねぇ。グッドアイデアでしょぉ?」銀姉ちゃんが言う。確かに、打ち上げ花火もいいが、市販の手持ち花火もあれはあれでいい物だ。やっぱり、締めは線香花火じゃないとね。
「ごちそうさまなのぉ~!」「ふぅ……大変美味でしたわ。私、満足ですわ。」ヒナ姉ちゃんとキラ姉ちゃんは満腹で超ご機嫌だ。蒼姉ちゃんがみんなのお茶碗やらを片している。「ふぅ~……それじゃあ!早速花火に行くわよぉ~。金糸雀、バケツに水入れてぇ~。あ、くれぐれもぉ…」「分かったかしら!うぅ……お、重いかしらぁ……きゃーーーー!!!」「転ばないようにって言おうとしたけど……遅かったみたいねぇ……」お約束を忘れないカナ姉ちゃんだった。さすがにカナ姉ちゃんの小柄な体にはバケツは重かったようだ。「あーーーー!何やってるですかぁ。このオバ金糸雀!!」「うぅ……ご、ごめんかしらぁ~。」カナ姉ちゃんが半ベソで廊下を雑巾で拭く。僕は見ていられなく雑巾でカナ姉ちゃんを手伝う。「JUM?」「カナ姉ちゃん一人じゃ大変だろ?僕も手伝うからさ。バケツも僕が持ってくよ。力仕事は僕がやればいいからさ。ね?」「JUM……ありがとうかしら。JUMは優しいから大好きかしら~!」カナ姉ちゃんが僕に抱きつこうと飛び込もうとする。が……「きゃうああ!!?」まだ水気を帯びた廊下で足を滑らせたカナ姉ちゃんは盛大にすべり、こけてオデコを真っ赤に腫らしていた。「はぁ……何でもいいけどぉ…早くしましょぉ?」それを遠めに見ていた銀姉ちゃんが大きな溜息を吐き出す。何となく、その気持ちが僕は分かった。
「じゃあ、ここでやりましょうかぁ。」僕らが来た場所は近くの大きな広場だった。ここは、近くに民家もなくて、サッカーゴールやバスケットゴールもあるので子供の遊び場として大人気の場所だ。時間が時間のせいか、人は僕ら9人だけだ。「じゃあ、まずは普通に楽しみましょうかぁ。沢山あるからねぇ~。」銀姉ちゃんは花火の封をあける。そして、全員にライターを配って回る。「うわぁ~!とっても綺麗なのぉ~!」ヒナ姉ちゃんはすでに手持ち花火に火をつけてブンブン回している。緑の炎がシュワーと先っぽの方から放出されている。「JUM、私のために花火を見せなさい。私は見てるから。」真紅姉ちゃんは自分では全く花火を持つつもりはないようだ。「それくらい自分でやりなよ……」「嫌よ、火傷したらどうするの?それに、花火はやるものでなく、見るものなのだわ。」真紅姉ちゃんの持論なんだろうか。僕は仕方なく花火を取り出すと、ライターで火をつける。僕の花火は赤の炎を吐き出した。僕と真紅姉ちゃんはそれを眺める。「綺麗ね……打ち上げもいいけど、こっちもいいのだわ。」真紅姉ちゃんがベンチに腰掛けてジッと僕と花火を見る。今、この空間には僕と真紅姉ちゃんしかいないんじゃないか。そんな風に思ってしまうくらい、それは幻想的だった。まぁ、ちょっと大袈裟かもだけどね。僕らがそんな気分に浸っている。浸ってるんだけどさ……どうもウチの姉妹は活発なのが多い気がするんだよね。僕らから少し離れたところは戦場と化していた。
「直撃……させる!!!」薔薇姉ちゃんがロケット花火に火をつけて、キラ姉ちゃんに投げる。凄まじい速度で加速した花火はキラ姉ちゃん目掛けて飛んでいくも、すんでの所で回避される。「やりますわね、薔薇しーちゃん。私も……そぉーれぇ!」キラ姉ちゃんは火をつけると空に放り投げる。クルクルと上空で回る花火は進路もタイミングも掴めない。しかも、下手すると自分に向かってくる諸刃の剣。素人にはお勧めできない。「食らいなさい!!」銀姉ちゃんが自分用に購入したんだろうか。小さい蝋燭を足場に置き、両手のロケット花火に一気に点火する。その数6本。それを、一斉にカナ姉ちゃんに放り投げた。「ふっふっふ……今日のカナには水銀燈と言えども勝てないかしら!諸葛金必殺の連弩かしら!!」カナ姉ちゃんは、近くにあったベンチをひっくり返してベンチの背中のパイプに軽くロケットを差し込んでいく。その数は10本。それにライターで一気に点火する。すると、10本の矢が一気に降り注いだ。相変わらず無駄な事に頭が回る人だなぁ……発射台のベンチは盾にもなってるし。「ふっふっふ……翠星石がおめぇらを一網打尽にしてやるですぅ!高さを制するものが勝負を制すですぅ!」翠姉ちゃんが滑り台の天辺から着火した花火を全方位にばら撒く。さすがのカナ姉ちゃんの盾も上からの攻撃には対応しきれていない。そんな感じで、戦いは激化していた。良い子は真似しないようにね。「全く……元気なんだから、あの子達は。」蒼姉ちゃんが僕と真紅姉ちゃんが座っているベンチに寄って来る。蒼姉ちゃんは先日のお祭りで僕が買ったバレッタで髪を纏めてアップにしていた。ヒナ姉ちゃんは一人で楽しそうに相変わらず花火をブルンブルン回して踊っていた。「まぁ、いいのではなくて?夏休みの最後には悪くないイベントなのだわ。」真紅姉ちゃんが花火の光を見ながら言う。そう……確かに悪くない。と言うより……姉弟でやればどんな事でも楽しいんじゃないかな。僕はそう思う。
「ふぅ……なかなか……激戦だった……」戦争は終戦を迎えたのか、5人が僕らのほうにゾロゾロ歩いてくる。「不覚だわぁ……金糸雀に私が遅れを取るなんてぇ……」「策士のカナが負ける訳ないかしらー!次にカナと戦う時は『げぇ!金糸雀!』と言うといいかしら。」それ、何て横光三国志?さてさて、花火も残り少なくなったところである意味主役が登場する。「じゃあ、最後はやっぱりこれよねぇ~。線香花火~♪」銀姉ちゃんがドラ○もんの真似の如く言う。そう、手持ち花火で遊ぶならこれは外せない。9人で小さな輪を作って、みんなで火をつける。線香花火をやるときってどうして自然と輪を作ってしまうんだろうね。パチパチと音を立てて、線香花火は光りだした。「綺麗ね……」真紅姉ちゃんが言う。さっきまで騒がしかった姉妹たちも、今は口を閉ざして静かに花火の音を聴いていた。長かった夏の終わり。それを締めくくる線香花火。僕の高校一年の夏が終わる。「明日から学校だね。二学期はすぐに学校祭があるし、また忙しくなりそうだね。」蒼姉ちゃんが花火を見つめながら言う。光が蒼姉ちゃんの顔と髪を照らし、バレッタの硝子玉に反射する。「ま、それも悪くないですぅ!そもそも我が家は常に慌しいですからね。」その慌しさの原因の2,3割である翠姉ちゃんが言う。まぁ、確かに我が家は常に騒動に満ちている。9人もいれば当たり前か。だからって、9人が嫌なんて事は全くない。寧ろ……誰も欠けたらいけない。「今年は色々な事があったわねぇ。お父様のお陰で海に行ったり、みんなでバイトしたり……」「花火も見て、お祭りも行ったのー!!」「私は、たくさん食べ歩きしましたわぁ!」それぞれが夏の思い出を語っていく。そう、確かに色々あった。それは、僕にとって…僕等にとって大事な思い出だ。でも、これで終わりじゃない。これから学園祭もある。そこでまた、新しい思い出を僕等は作っていく。「それじゃあ……明日から改めて宜しくね、姉ちゃん。」僕の言葉に姉ちゃんたちは笑顔で返してくれる。こうして、僕の夏は終わった。END
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