第二十九話 JUMと迷子
「一つ屋根の下 第二十九話 JUMと迷子」
「ぐ~………んっ……?」光が僕の目を差す。そのお陰で僕の意識は急速に覚醒した。体を起こし、目を擦る。ええっと、眼鏡はどこだっけ?ああ、あったあった。僕は眼鏡をかけて回りを見回す。「あれ……?」携帯を開き時計を見る。午前11時。結構寝てたんだな。あれ?たしか昨日は翠姉ちゃんを抱きしめて寝たような……腕をクンクンと嗅いでみる。翠姉ちゃんのシャンプーやらボディソープやら。まぁ、要するに翠姉ちゃんの匂いがまだ残っている。ふと、耳を澄ますとふすま越しにカリカリと文字を書く音が聞こえる。「?誰かいるの?」僕はふすまを開いた。そこにいたのはカナ姉ちゃんだった。「あ、JUMやっと起きたかしら~。」カナ姉ちゃんはシャーペンを置いて僕の方を見て言った。「ん、おはよう。相当僕寝てたみたいだね……みんなは?」「ええと、水銀燈と真紅とヒナは地域限定くんくんグッズを買いに行って。翠星石と蒼星石は普通にお買い物。きらきーは食べ歩き、バラバラは海にアッガイが来ないか見に行くって言ってたかしら。」あー、成る程。長かった旅行も明日帰るから今日は自由行動だったな。「あれ?じゃあ、カナ姉ちゃんは?」「JUM一人を置いていくわけにはいかないかしら。だから、時間つぶしに宿題してたかしら~。」カナ姉ちゃんが言う。ああ、やっぱお姉ちゃんだなぁ。僕はカナ姉ちゃんの手を握る。「J、JUM?」「じゃあ、随分待たせちゃったし、出かけようカナ姉ちゃん。」「JUM……も、もちろんかしら~!じゃあ、カナも着替えるかしら~♪」
「行ってらっしゃいませ~。」ホテルのフロントに見送られ僕とカナ姉ちゃんはホテルを出た。今日も日差しが強い。カナ姉ちゃんは白の短めのワンピースに、膝くらいまでのショートパンツ。さらに、麦藁帽子を被っていた。「さて、まずはドコ行こうか?」「そうね……カナちょっとお腹空いたかしら~。」時間は今は11時30分。確かにお昼時だ。僕はホテルで貰った簡易地図を広げる。「そうだね。じゃあ……ここの中華なんてどうかな?」「中華……てんしーはんがあるかしら~。そこにしましょ♪」相変わらず卵料理が好きだなぁと思う。僕は慣れない土地ながらも地図を片手にカナ姉ちゃんと道を歩く。数分歩くと、それらしき店に到着した。僕等は一緒に店に入る。中はクーラーが効いてて外の暑さを一気に忘れさせるような心地だった。「あら?JUMと金糸雀じゃなりませんか。こっちにいらっしゃいな~。」そんな声が聞こえる。ああそうか……飲食店なら遭遇する可能性相当高かったな。その声の主は言わずもがな、キラ姉ちゃんだった。「お食事ですの?宜しければ一緒に食べませんか?」「もちろんかしら~。御飯は皆一緒が美味しいかしら~♪」「うん……それはいいけど、キラ姉ちゃんすでに食べてるじゃん。」テーブルにはすでにラーメンやら炒飯やらのお皿が山積みにされていた。「うふふ、すでに他の店で賞金ゲットしましたわ♪お二人分くらいなら奢りますわよ。」ああ、それは有難い。何せ、キラ姉ちゃんにしてみれば僕とカナ姉ちゃんの代金が増えても自分の分に飲み込まれて分からないだろう。「えへへ~、儲けかしら~。じゃあ、カナはてんしーはんにするかしら~。」「じゃあ、僕は……この中華セットにしようかな。」
しばらくすると、店員がやってくる。「お待たせしました。天津飯、中華セット。そして子豚の丸焼きで御座います。」ん?子豚の丸焼き?うわ、本当に丸焼きだ。すげぇ……これ誰が食う…って、居たな。「うふっ、待ってましたわ♪ああ、丸々とした子豚の丸焼き…堪りませんわ。頂きます。」キラ姉ちゃんが嬉々として丸焼きにフォークを入れて食していく。一応、店員さんは三人で食べると思って僕らのも用意してくれてるが、ぶっちゃけ不要だった。「わ~、てんしーはん美味しそうかしら~。いただきま~す!」カナ姉ちゃんがスプーンを口に運ぶ。美味しかったんだろう。至福の表情をしている。さて、僕も食べるか。中華セットは、ラーメンに餃子。炒飯に唐揚げがセットになっていた。どれも美味しそうだ。「ふぅ……大変美味でしたわ♪」と、隣ではすでに子豚の丸焼きをキラ姉ちゃんが跡形もなく食べていた。骨も食ったのか?それにしても早い。僕は驚きのあまり、烈海王になりそうだった。キラ姉ちゃんはジャック・ハンマーだな。「さて、私そろそろ次の店に参りますわ。二人の会計は済ましておきますからごゆっくり♪」まだ食べる気なのか。キラ姉ちゃんは会計を済ませると、他のお店に歩いていった。「ん~、おいひいかひら~。ひあわへ~♪」カナ姉ちゃんは頬っぺたに手を置いて幸せそうな顔をしてる。それを見ると何だか本当に美味しそうだった。「カナ姉ちゃん、僕にも天津飯少し頂戴よ。変わりに炒飯あげるからさ。」「ほえ?うん、いいわよ。それじゃあ……はい、あーんかしら?」カナ姉ちゃんがスプーンに天津飯を余所って僕の口の前に出す。僕はそれを食べる。卵とタレと御飯が絶妙にマッチしていて美味しかった。「じゃあ、僕も。ほら、カナ姉ちゃんあ~んして?」「ちょっとだけ照れるかしら~。あ~~ん。」カナ姉ちゃんは目を瞑って口をあけている。その顔が何だか珍妙なんだが可愛らしい。僕はスッと炒飯を口の中に入れてあげた。すると、また幸せそうな顔をして言った。「ん~、こっちも卵が絶妙かしら~。でも、JUMに食べさせてもらったからもっと美味しいかしら♪」
昼食後、僕等はデパートを歩いていた。買うものがあるわけじゃないが、フラフラするのも一興だ。「ねぇ、カナ姉ちゃん。あれさ~……あれ?」僕がカナ姉ちゃんに話しかけようと隣を向く。すると、カナ姉ちゃんは忽然と姿を消していた。「……この人ごみではぐれたか?不味いな。」僕は辺りを見回す。が、見つからない。そもそも人が多すぎるのだ。こんなトコでそんなに身長の高くない僕が、さらに身長の低いカナ姉ちゃんを探すのは至難の業だ。いや、案外低い同士で見つかるか?僕は人ごみを逆走する。どこだ?カナ姉ちゃんの事だ。僕がどっか行ったと思ってオロオロしてるに違いない。ふと、白いワンピースに、ショートパンツ。そして、麦藁帽子を被った少女が遠くに見える。あれだ!あの出で立ちはカナ姉ちゃんだ。僕はそこで安堵の息を漏らし、近づいていく。カナ姉ちゃんは案の定オロオロしていた。「JUM?JUM?うぅ……はぐれちゃったかしら……JUM…どこかしら~?」今にも泣き出しそうにカナ姉ちゃんはキョロキョロしている。急ごう。一刻も早く。「カナ姉ちゃん!」僕が叫ぶ。すると、カナ姉ちゃんは僕を見ると益々泣きそうな顔になって僕に向かって走って抱きついてきた。「うわっぷ!カナ姉ちゃん!?」「JUM!よかったかしら~!ぐすっ、もしもう会えなくなったらって…ベソベソ…JUM~……」僕はカナ姉ちゃんをなだめる様に帽子をとって頭を撫でる。周りの目が若干恥ずかしいが、やっぱりこういうのも悪くないかなって思う。「ごめんね、カナ姉ちゃん。じゃあ……こうすればもう離れないよ。」
「えへへっ……JUMの手温かいね。手を繋ぐって不思議よね。何だか、とっても落ち着いて気持ちよくなっちゃうかしら~。」僕はカナ姉ちゃんと手を繋いで歩いていた。手を繋げば、きっと僕等はもう離れない。「そういえば、みんな夕方には帰ってくるの?何か花火があるとか言ってなかった?」「そうかしら。今日の夜は海岸で花火大会があるかしら。みんなで見にいくかしら~。」成る程、旅行の締めくくりにはいいイベントだな。そんな事を思いながら歩いていると、後ろから声がした。「あ、やっぱりJUMと金糸雀ですぅ。」後ろを振り向くと、翠姉ちゃんと蒼姉ちゃんが買い物袋を持っていた。「あれ?翠姉ちゃんと蒼姉ちゃん。ここで買い物してたんだ。」「うん、そうだよ。二人は一緒だったんだね。」蒼姉ちゃんが答えてくれる。すると、カナ姉ちゃんは何故か自慢げに僕と繋いでいる手の繋ぎ目を二人に見せびらかすように言った。「ふっふ~ん、今日はJUMはカナがいただきかしら。どう?JUMとカナ、小人・・・じゃない、恋人同士に見えるかしら?どうどう?」小人は不味いです。見たまんまですから。翠姉ちゃんと蒼姉ちゃん顔を見合わせると、マナカナばりにはもって言った。ああ、やっぱりそう見えるんだろうなぁ。「「ごめん、仲いい親子か、兄妹に見えた。」」「かしらーーーー!?」カナ姉ちゃんの顔はガビーンと形容するに相応しい顔をしていた。END
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