第二十七話 JUMと遭難
「一つ屋根の下 第二十七話 JUMと遭難」
暗闇の中にいる。ふわふわと体が浮いている感じがする。目をあける。相変わらず暗闇。ふと、少し前方に光が見える。行ってみる。歩き?泳ぎ?いや、そもそも僕には実体がない。ただの精神体だろうか。ふわふわしながら光に向かっていく。光の中では、小さな少年と少女。そして二人の両親と思われる4人がいた。少女は眼鏡をかけてるのが分かる。少年と少女が抱き合って泣きじゃくっている。何だろう?ひどく懐かしい感じがする。僕はその光景をただぼーっと眺めている。すると、そこに金色の髪の男性が現れる。両親らしき人は、その人に一礼する。金色の男性は優しく少年の手を引く。少年は、眼鏡の少女と両親らしき人を見ながら名残惜しそうに金色の男性ついていく。「ごめんね……ごめんね……いつかきっと、迎えに行くから……」父親らしき人の声がする。「本当はみんな一緒に行きたかったけど……ごめんね……」母親らしき人の声がする。「ごめんね……おねえちゃんのせいで……JUM君。」眼鏡の少女の声がする。そこで、その映像は途切れた。続いて出てきた映像は同じ少年と金色の男性。そして、長い紫がかった髪をした少女が出会う場面だった。「……JUM!!JUM!!」呼ばれる声がする。ああそうか、僕はJUMか。「JUM!!起きて!!」徐々に精神体だった僕の体が形成される。そして、体が出来上がると同時に僕の意識は覚醒した。「薔薇……姉ちゃん……?」瞼を開く。そこには今にも泣きそうな顔の僕にとって、きっと一番近い姉がいた。「JUM!!よかった……ちっとも起きないんだもん……JUM……」薔薇姉ちゃんが僕の体を抱きしめる。温かい。僕は辺りを見回す。空はすでにオレンジになっており、徐々に暗闇が迫ってきている。そして……人がいるであろう光は随分遠くに見えた。
「ここは?何か記憶が混濁してるみたい……」「うん、あのね。たぶん津波に飲まれて、ここに流されたんだと思う……ほら、あっちに光が見えるでしょ?」そうだ。僕等は沖の方で津波に飲まれたんだ。それで、ここに漂流してきたのか。生きてるだけ上等ってトコだろう。下手したら今頃海の藻屑だ。「ごふっごふっ!!うえ、塩からい…」「JUM、水飲んでたみたいだから……一応心臓マッサージとかしてみた……そしたら口からピューって。」口の中が塩辛い。もしかしたら、結構な量を飲んだのかもしれない。「そっかぁ……有難う、薔薇姉ちゃん。」「ううん、JUMがあの時抱きしめてくれたからきっと一緒にいれたんだよ……だから、有難う……」そういえば、咄嗟にそんな事したような気がする。「さて……泳いで帰れない事もないと思うけど……薔薇姉ちゃんはどう?」「ごめんね……私は無理だと思う。蒼星石ならともかく……」確かに、距離的にも結構ある。僕はああいったが正直自信はない。「いいよ。僕も自信はないから。じゃあ、待とうか。そのうち探しに来てくれるだろ。」「うん……えへへ……こんな状況だけど……JUMと二人って久しぶり……」薔薇姉ちゃんが僕の体に自身の体をくっつける様に座る。「はは。そうだ、さっきね。変な夢みたんだ。それが何だったか覚えてないんだけど……ただね。懐かしい感じがした。もう記憶にないんだけど……たぶん昔の家族の夢だった……」「そっか…だからかな?お姉ちゃんたちの名前……呼んでたよ。」「マジですか?」「大マジ……です…でも、嬉しいよ。それだけJUMが…信じてくれてるって事だから……」そう言って薔薇姉ちゃんは笑った。僕は思わずドキッとする。そんな時、風が吹いた。夏とはいえ、夜の風は冷たい。僕は思わず身震いをした。
「JUM……ちょっと待ってね。」薔薇姉ちゃんは立ち上がると腰のパレオをとった。そして、それを僕の肩にかける。「……姉ちゃん、短いよ?これ。」「あうぅ……ロングパレオにすればよかった……」まぁ、こんな事態を予測できたら凄いけどね。「しょうがないな……」でも、僕はそんな薔薇姉ちゃんの行動が嬉しくて、座りながら薔薇姉ちゃんを後ろから抱きしめた。「これなら、僕も姉ちゃんも……ひっついてれば温かい。」「JUM……うん。でも、胸触ってるよ?それに……おっきしたら背中に当たっちゃうよ……」あれぇ?結構キザな事言ったのにその反応ですか?「う……不可抗力だって。」「えへへ……でも、JUMならいいよ……」薔薇姉ちゃんはそう言って、体重を後ろにかけて僕に体を預ける。薔薇姉ちゃんと触れてる体が温かくて心地いい。僕はしばらくそのまま静かに時を過ごした。「えへ……JUM……」「ん?何?」返事が返ってこない。僕は薔薇姉ちゃんの顔を覗き込む。すると、やっぱり疲れてたんだろうか。目を瞑ってスースーと寝息を立てていた。「はは、寝言か。」「むにゃ……スースー……JUM……だいすきぃ~……」僕は思わず赤面する。それと同時に、なんだか薔薇姉ちゃんがとても愛しく感じた。「ね、姉ちゃんが悪いんだからな……寝言だからそんな事言うから……」僕は独り言で言い訳しながら薔薇姉ちゃんの顔に顔を近づける。そして……薔薇姉ちゃんの頬にキスした。薔薇姉ちゃんの頬は、柔らかくて温かくて……少し塩辛かった。
どれだけ時間がたったんだろうか。モーターボートの光が近づいてくる。その光で薔薇姉ちゃんは目を覚ます。僕は薔薇姉ちゃんを抱きしめてたのを離して立ち上がる。そのボートに乗っていたのは我らが姉ちゃん達だった。僕らを見つけると一目散にボートから飛び降り走ってくる。「JUM!薔薇水晶!無事だった!?」銀姉ちゃんが僕らの元に走ってやってくる。その顔はいつも余裕をかましてる顔じゃなかった。「うん、大丈夫だったよ。ごめんね、心配かけて。」「ふぁ……おはよーごじゃーまふ……」薔薇姉ちゃんはまだまだ寝惚けていた。「よかった……本当に……」銀姉ちゃんが僕と薔薇姉ちゃんを強く抱きしめる。こういうとこはやっぱり長女だなって思う。「本当、よかったですぅ……ばらしー、JUMにエロい事されなかったですか?」翠姉ちゃんが言う。あんたそればっかりだな。薔薇姉ちゃんは寝惚け眼で目をゴシゴシ擦りながら言う。「ふえ?えっとね……大丈夫……(津波に飲まれた時離れないように)抱きしめてくれた……」「そうそう。」僕は大きな過ちを犯していた。これが勘違いの元だった。「それでね……(寒いから)あっためてくれた……」「そうそ……って!言葉が抜けてるよ!それじゃあ僕がただの変態ー」「JUM!不潔なのだわ!!!絆ックル!!!」激怒した真紅姉ちゃんの右ストレートが僕の弁解空しく炸裂する。再び、僕はノックアウトした。その後、ボートに乗り帰る前。ようやく目覚めた薔薇水晶は唇に指を当てて呟いた。「えへへ……人工呼吸でだけど……JUMとキス……しちゃった……」END
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