第六話 「許し」
第六話 「許し」―早朝何時も通り早くに起き病院へ行く為身支度を整えそして軽い朝食を取る。5分ほどして食べ終わり顔など洗い歯を磨き靴を履き出て行く。病院へと行くのが慣れてる事が悲しく思う。オディールの事を考えるのが嫌になり無意味に周りの風景を見て気を紛らわせる。店の看板や登校途中の学生。掃除をしてる人など。しかしそんな物を見てもやはりオディールの事を忘れずにいられなかった。罪を償う為にも自分に殺してと言ってくるオディール。私はそれにどう応えればいいのだろう?オディールはもうすぐ退院。そうなると警察に行く事になるだろう。それまでに、時間で言うともう数日ぐらいだろう。それまでにオディールを、どうするか考えなければ。答えを教えてくれる人は居ないのだから。周りの景色を見るのをやめオディールについて考える。合意の上での殺人は悪い事なのか?仮に私はオディールを殺してもそれは悪いことなのか?一体どうなのだろう?死刑の代わりを私がするだけの違いだ。殺そうか?
考えてる内に病院へと着く。自動ドアを潜り抜けエレベーターに乗る。ドアが開いたので降りて薔薇水晶の病室へと向かう。今日も歌がする。二つの歌声、オディールとメグさん。こんなにも美しい声のオディール。優しかったオディール。実の母を殺したオディール。大切なばらしーちゃんを殺したオディール。私は殺すべきなのか?ドアをノックする。返事は何時も通り無い。ドアを開けて入っていく。「おはようですわ、ばらしーちゃん。」ベッドに横たわる薔薇水晶に近付いていく。顔を触ったりしても反応が無い。鞄から取り出した串で髪をといていく。体を拭いてあげたり着替えさしたりする。その時ふと思う。起きなければ・・・死んでるのと同じ?
薔薇水晶は起きない。いつ起きるかわからない。もしかしたら起きないかもしれない。起きないまま一生を過ごすというのは死んでるのと同じじゃないだろうか?つまりオディールはオディールはオディールはばらしーちゃんを傷付けたんじゃなくて“殺した”殺した人の罪は殺したという罪の重さにある。って事はその罪を理解する事が罰。殺した事を理解されるのは殺された時だけ。じゃあ、私が罰を与えましょうか?拳を強く握りオディールをどうするかだけ考え続ける。病室のドアが開く。私はハッとしてドアの方を向く。其処には真紅がいた。相変わらず言葉は出ないようで紙にメッセージを書いて喋りかけてくる。“久しぶりなのだわ、雪華綺晶”「・・・久しぶりですわ。」そう言うと真紅は雪華綺晶の隣の椅子に座ってくる。・・・何を考えてたんでしょう?私は・・。そんな事してもばらしーちゃんは起きないのに。
涙が出そうになるが堪える。“オディールを殺す”そんな事を考えるのはやめて再び薔薇水晶の髪をときだす。真紅は何も言わないというより言えないのだが黙ってそれを見続けている。暫くして髪をとくのをやめじっと椅子に座る。いつ目覚めるかはわからないがじっと待ち続ける。そんな中真紅が紙を渡してくる。何が書いてあるのかと思い紙を見る。“あの歌は何なのだわ?”やはり真紅も気になるのか。「水銀燈の親戚の人が入院してて・・。 その人と向かいの雛苺の親戚の人がずっと歌ってるのですわ。」“そうなの・・・。水銀燈に雛苺、あの子らの親戚まで・・。”真紅は暗い表情を見せる。私の他にも自分の友達の大変な思いをしてると思ったからだろう。ほんと友達思いだと思う。「少し・・・会いに行きましょうか?」“えっ?”
私はきょとんとしてる真紅を置いて椅子から立ち上がりドアの方へと向かう。慌てて真紅も追いかけてくる。“お邪魔してもいいの?”「ええ、前にもお会いしたことがあるので大丈夫だと。」そんな会話をしながら歌のする方へと向かっていく。オディールの名が掲げられてるドアを視界に入れず柿崎さんの部屋をノックする。「誰?」「白い天使ですわ。」そう言いながらドアを開けて入っていく。真紅は頭の上に?マークを浮かべるとでもいうのか疑問そうに思いながら私について来る。「入っていいなんて言っても無いのに勝手に入るなんて とんだ天使さんね。」「いけなかったですか?」「ううん、そんな事無いよ。歓迎するわ。」ベッドの上に座る柿崎さんと喋りながらベッドの方へと向かう。柿崎さんがベッドの下から椅子を二つ取り出してくれたので私たちは座ることにする。
「この人、水銀燈の友達の真紅ですの。」“初めまして、よろしくなのだわ。”紙に挨拶を書いて渡してくる真紅を疑問そうに見る。初対面の人なら思ってもしょうがない。「彼女声が出ないのですわ。」「そうだったの・・・御免なさい悲劇の女王様。」“・・・?”「アリスに出てくる首切り女王では無くまるで シンデレラのような悲劇を経た女王様。 あなたなら私に生きる意味を教えてくれる?」“???”真紅は何を言ってるか理解できてないようだ。無理も無い、しかし柿崎さんが少し変わってくれて嬉しい。前ならアリスのシンデレラのように首でも切り落としてくれるの?とでも聞きかねないからだ。そうだ、二人に聞いてみよう。「柿崎さん、真紅、私ってどうすればいいのだと思います?」そう言うと二人はこっちを向いてくる。
「どういう事?その前に前から思ってたんだけど私の事柿崎じゃなくてメグって呼んでね。あなたもね。」“わかったのだわ。”「ええ、わかりましたわメグ。」「ふふ・・・で、どう?いう事どうすればいいって?」私はオディールの事を話す。親を殺したという事、ばらしーちゃんを傷付け・・いや殺したも同然な事。そして私に自分の事を殺して欲しいといってくる事。二人は黙って私の話を聞く。「私は・・・どうすればいいのでしょう?」気付くと泣いていた。涙で前がよく見えない。しかし真紅が顔を思いっきりはたいたお陰で涙が散りようやく見えるようになる。“殺すなんて考えるのは駄目に決まってるわ!”目が見えて見えたのは怒り狂った真紅が私に自分の言葉を書いた紙をつきつけてきている所。真紅は紙を手前に戻し何か書くと私に再び見せる。“薔薇水晶が喜ぶと思うの!?”
思わない。ばらしーちゃんが私が人を殺すなど言って喜ぶ訳が無い。そう思うから、私はオディールを殺していない。けど、それは隠してるだけ。殺したいという気持ちを隠してるだけで消えていない。気付いたら私は殺すという事しか考えれてない。「わかってますわ・・・けど・・・憎くて!許せなくて!」泣いてるせいでうまく声が出ないが力を込めて叫ぶ。病院だから静かにしなくてはいけないなんて事は考えず自分の気持ちを兎に角主張したくて。「そう思うのしょうがないよ。」ベッドの上で座ってるメグが言う。こんな雰囲気に関わらず笑ったままだ。「憎いなら誰でも殺したいって思うもんね。」真紅がメグに掴み掛かる。笑いながらこんな事を言うメグに怒りを覚えたからだろう。私はメグの体はただでさえ弱いのを知ってるので真紅の手をメグの体から離す。
「御免ね、怒らしちゃった?」真紅は黙って睨む。「話を戻すね、白い天使さんはオディールが殺してとばっか言ってる内に 殺してしまおうかと思うようになったんだよね?死を望むオディールを。」黙って頷く。「じゃあオディールが殺してなんて言わない様に説得したみたら? そしたら天使さんも殺したいと思わないようになるかもよ? 説得出来なかったらオディールに会うのをやめなよ。 会ったら殺したいと思うだけなんだし。」説得する。オディールが殺されて償いたいなんて言わない様になれば私はこの衝動を抑えれるのだろうか?それが無理だとしても数日会わなかったらオディールはもう退院して刑務所かどっかに送られるだろう。
「ね、どう?」メグがまだ笑ったまま尋ねてくる。こんな事を笑いながら言ってくるなんて。ある意味この子は凄く恐ろしいかもしれない。「悪く・・・無いですわ。」「なら今行ってきなよ。また気持ちが変わるかもよ?」「・・・そうしますわ。」そう言い雪華綺晶は立ち上がる。「真紅は待っていて下さい、私一人で説得します。」真紅は黙って頷く。
「説得出来たら一番いいね。そうなるよう祈っとくよ。」後ろからメグが言ってくる。私は後ろを向きつつ頷きドアを開けてオディールの部屋へと向かう。何かやらしいがドアに聞き耳を立てる。どうやら雛苺は来てないようだ。彼女が居なくて本当によかった。私はそう思いノックをする。「雪華綺晶です。」私はそれだけ言うと黙って入る。入った先にはオディールが居た。昨日のように私に会っても発狂したりしない。精神安定剤か何か飲まされたのだろうか?「殺して・・・くれるの?」その言葉で心の奥深くから殺気が沸いてくる。しかしそれを私は抑えオディールに向かって言う。「もう殺してなんて言わないで!」オディールはきょとんとしている。続けて雪華綺晶は言う。「死んでも何もなりません!から殺しなんかしません!」
精一杯の言葉だった。殺気を抑えての必死な言葉。必死な気持ち。その気持ちをオディールは笑いながら崩してきた。「じゃあ聞くけど・・・あなたはそうかもしれないけど 薔薇水晶さんはどうだと思う・・・?」「・・・何が言いたいのです。」「雪華綺晶さん、あなたが私を恨んでても殺したくないって思うのはわかる・・・。 けど恨んでるのはあなただけじゃない。 一番恨んでるのは薔薇水晶さんじゃないの・・・?」「・・・!」「轢かれた人が・・・一番恨んでるに決まってる。 それこそ・・・あなたとは格別なぐらいの・・・恨み。」気持ちが崩れそうになる。「私を・・・苦しめて・・・苦しめて・・・そして殺したい。 薔薇水晶さんはきっとそう思ってるわ・・・。」もう、そんな事言わないで。「もしかしたら薔薇水晶さんが目覚めたら・・・私の事殺すかもしれないわ。 妹の手を・・・血に染めたくないよね?」
枕の下から何かを取り出してくる。それは何か薬が入った小瓶。「だからあなたが私の事・・・殺してよ・・・。 この薬飲ましてくれるだけで・・・いいわ。」やめて、やめて、やめて。もう何にも言わないで。「苦しめたいなら・・・殴り殺したっていいし。 兎に角どうしてくれたって・・・いいよ。」オディールは小瓶を渡してくる。「殺して。」抑えられなくなった。抑えていた殺気が湧き出した。雪華綺晶は瓶をゆっくり開けると何粒か手に乗せる。一粒で充分なのに何粒も乗せるのはそれだけオディールの憎いという事だろう。
ばらしーちゃんには運転手は死んでたとだけ伝えればいい。そう思いながら手に乗せた薬をゆっくりとゆっくりとオディールの口へと運んでいく。オディールは笑いながら小さな口を開ける。雪華綺晶はその口にゆっくりと、ゆっくりと死の薬を運んでいく。しかし口の前で薬を思いっきり握る。「どうしたの・・・?殺さないの?」オディールを思いっきり殴った。
「・・・!」オディールはベッドの向こう側に落ちる。何が起きたか一瞬わからなかったが少しして理解する。そしてベッドの上へもう一度上がった。「どうしたの・・・?」雪華綺晶は握ってた拳を開ける。薬がパラパラと床へと落ちる。「何してるの・・・?」雪華綺晶は何も言わずに後ろを向いた。どうやら泣いてるようだ。「殺してくれるんじゃないの・・・?」黙ってドアの方へと歩く。オディールの言葉を無視して。「ねぇ・・・何で・・・?」雪華綺晶は振り向かないまま答えた。「ばらしーちゃんは・・・殺したいなんて・・・思いませんわ・・・。 優しい子ですもの・・・強い子ですもの・・・。」
「・・・けどあなたが殺したいのは違いないでしょう?」雪華綺晶はドアのノブに手をかけながら言った。「殺したい!憎い!憎らしい!けど・・・けど・・・。」一息おいて言う。「一度仲良く喋った・・・あなたの歌を聞いた・・・一度あなたと笑った・・・。 だから・・・殺せる筈ないじゃないですか・・・そんな人を・・・。」そのまま床に膝をつき泣き続ける。暫く泣いた後雪華綺晶は立ち上がりノブに手をかける。「もう・・・私に近付かないで下さい。」それだけ言うとノブを回して出て行った。走ってメグの部屋へ急いで駆け込む。中に居た二人は泣きながら駆け込んできた私を見て驚いている。“どうしたの!?”真紅はそう紙を見せて言うと急いで駆けつけて来る。メグは布団の上できょとんとしていた。
二人に事情を話しどうにか落ち着く。私は椅子の上でハンカチで涙を拭いていた。“大変だったのね・・・・”黙って頷く。「けど良かったね、偉いよ天使さん。」相も変わらず笑ったまんまでメグは喋りかけてくる。何故こうもずっと笑ってられるのだろう?「雪華綺晶どーこーなーのー?」そんな事を考えてる内に雛苺の声が廊下から聞こえてきた。いい年して病院の廊下で騒ぐとは。そんな事より雛苺にはなんて説明しよう?私がオディールに会いたくないなんて言ったら理由を聞いて来るはずだ。どうしよう?“私が説明してくるわ。”真紅が私に紙を見せる。すると部屋の外へと行こうとする。「・・・真紅。」“休んでなさい。”
「・・・感謝しますわ。」真紅はドアを開けて雛苺に説明しに行った。彼女は本当に優しい、心の底から感謝しよう。「女王様優しいね。」女王様というネーミングはやめといた方が良いと思いながらメグの方を向く。「休んでなよ天使さん、疲れたでしょ?」「・・・そうさしてもらいます。」流石に色んな事があって疲れた。少しだけ眠ろう・・・。私の意識は沈んでいった。・・・暫く寝てたのでしょうか?何かの音で目を覚まし思う。ガサガサという音がしたのでそれで目が覚めたのだった。目を開けてみる。メグが何か薬を飲んでいる。病気の薬だろうか?そんな事を考えてたが小瓶を見てそれが違うと気付く。オディールから没収し、二人の目の前で説明しながらバッグにしまった自殺用だと思われる薬。メグはそれを飲んでいた。そしてゆっくりとメグの体は倒れていった。
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