プロローグ
それは、剣と魔法。血と鋼が織り成す古の時代・・・何よりも濃い血の絆の物語
かつて、アデン王国にローゼンという王がいた。彼は光の神『アインハザード』の申し子と呼ばれアデンの平和な時代を作り上げた。彼は慈愛に満ち、民と共にあり、民の目線で政治を行った。人々は彼を『善王』と呼び、敬い崇めた。
「JUM、紅茶を淹れなさい。」アデン城のバルコニーで景色を見ながら椅子にかけている少女が言った。彼女の名は真紅。善王ローゼンの唯一の娘である。ローゼンから受け継いだ金色の髪を風が揺らす。「了解ですよ、全く。」彼女の側で渋々紅茶を淹れる少年。アデン王国軍親衛隊長桜田の息子にして、真紅の幼馴染である桜田JUM。彼はまだ13歳と若輩ながら真紅を守る騎士でもあった。「相変わらず口のきき方がなってないわね。」「いいだろ、別に。二人の時はさ。」JUMがカチャリと紅茶のカップを真紅に差し出す。真紅はそれを受け取るとスッと口に運んだ。二人は幼馴染だった。古くから自分に付き添っている桜田をローゼンは大変信頼しており、ほぼ同時に子息が出来た際にはとても喜んだと言う。一緒に育った二人は、身分の違いこそあれど二人の時はこうして、年相応の少年と少女だったのである。「今日は王様がご帰還なさる日だろ?そろそろ謁見の間に行かないでいいのか?」「そうね。これを飲んだら行くのだわ。JUM、お供なさい。」「言われなくても・・・僕の使命は真紅の護衛だからね。」二人は城の廊下を歩いていく。その時、二つの影が二人を遮った。
「ケンラウヘル、ケレニス・・・・」その影は二人の人間だった。ケンラウヘルと呼ばれた男は年の頃40にして、益々盛んな肉体を持ち金色の鎧に愛用の剣を腰に差していた。一方、ケレニスと呼ばれた女は年は不明だが20前半くらいだろうか。美しく流れる長い黒髪に、露出の高い服から覗く白い肌が特徴的な『魔女』の二つ名を持つウィザードだ。「これはこれは、姫。ご主君はご帰還なさっておりますぞ?」「そのようね。ご苦労だったわ、ラウヘル。お父様の守護感謝します。後でお父様から褒章が出るでしょう。」ラウヘル・・・エウリード・ケン・ラウヘルはアデン王国の傭兵隊長だった。その凄まじき剣術はローゼンの強大な力の一つとなっており、彼の支配する騎士達。黒い甲冑に身を包んだブラックナイトは恐怖の的となっていた。「それでは、私はお父様に会いに行きます。ゆっくり休み、また国の為に力を振るって貰うのだわ。」真紅は二人の間を通って歩いていく。JUMもそれに付き添うように歩く。二人の間を通った瞬間JUMの背中にゾクッと嫌な感覚が走った。「そうだ、姫様・・・・」ケンラウヘルが真紅を呼び止める。真紅は振り返る。すると、真紅の前にはJUMが立っていた。二人を見据え、腰の剣に手を当てている。「?何なのだわ?ラウヘル。それにJUMも。」「え?あ、いや、何でもないよ。それより、行こう真紅。」ケンラウヘルは真紅とJUMをしばらく見据える。しかし、次の瞬間には少し顔を緩めた。「いえ、何でもありませぬ。それでは、私は下がります故・・・」ケンラウヘルとケレニスは真紅にスッと一礼すると去っていった。真紅とJUMもそれを見送ると謁見の間に向かう。「ケンラウヘル様・・・何故あそこで姫を殺らなかったのですか・・・?」真紅達と離れてようやくケレニスが口を開いた。その声はまるで氷のように冷たい。「桜田のがな・・・思ったより出来るようでな。もしかしたら、私と刺し違えたやも知れぬぞ。」「ご冗談を・・・貴方が死ぬ事はありません。なぜならば私が付いておりますから・・・」ケレニスがケンラウヘルに寄り添うように言う。ケンラウヘルはフッと笑う。「そうだったな・・・となると矢張りあそこで殺しておくべきだったかな?ケレニス。」「ケンラウヘル様の御心のままに・・・・」アデンの城にどす黒い陰謀がうずめいていた。
「おお、真紅。元気にしていたか?JUMも真紅の護衛ご苦労だったな。」「はい、お父様。お父様の言いつけどおり、剣の修行と学問は欠かしませんでした。」「有難きお言葉です・・・」JUMはスッと頭を下げる。真紅は久しぶりに会う父親に珍しくはしゃぎ気味だった。ローゼンは今の国の現状をみるために一月ほどアデン大陸各地を巡察に行っていたのだ。「そうかそうか。では、今日は真紅とJUMの剣の腕を見てから休むとしようか。」ローゼンは嬉しそうに木刀を手に持ち、真紅とJUMと手合わせをしていた。それは、父親が子供の成長を楽しむように。しかし・・・その平和は脆くも打ち砕かれるのだった。「ローゼン様!大変です!」「桜田・・・何事だ?」三人が訓練していた場所に駆けつけたのはJUMの父親だった。右手には剣を持っており、その剣には生々しいほど赤い血が塗られていた。「ケンラウヘルとケレニスが・・・・反旗を翻しました!我が軍は押されております!!」「何だと・・・・」真紅とJUMの平和を壊した相手。それは、先ほどまで会っていた傭兵隊長のケンラウヘルと、それに付き従うウィザードのケレニスだった。「押されているとはどういう事だ?如何にブラックナイトといえども・・・・」「ケレニスです・・・奴が反魂魔術を操り・・・死者すらも兵に仕立て上げております・・・」それは、何ともいえない絶望的な事だった。ついさっきまでは、国を守るために力をささげた勇者が今度は国を襲う死者となったのだ。「そうか・・・真紅・・・お前にこれを託す。」ローゼンは腰に差してあった剣を真紅に押し付ける。宝剣『ホーリエ』。ローゼンの象徴ともいえる剣だ。「お、お父様・・・・」「真紅・・・すまないな。父親らしい事はあまりしてやれなかった・・・JUM。真紅を守ってやってくれ。」JUMはコクリと頷く。しかし、真紅はローゼンの腕を強く抱きしめた。
「嫌です!私もお父様と共に戦います!!」「真紅・・・・分かった・・・だが、すまない・・・」ローゼンは真紅を強く抱きしめると・・・首筋に手刀を入れた。「!・・・お父様・・・・なぜ・・・・」「真紅・・・私の血を継いでいるのはお前だけだ・・・その血を・・・絶やさないでくれ・・・」真紅がガクリと気を失った。ローゼンは一度だけ真紅にキスをすると、JUMに真紅を受け渡した。「JUM、頼むぞ・・・桜田、お前もJUMと・・・」「冗談はお止めください。私もJUMも覚悟はできております・・・JUM、真紅様を守れ。あの裏道は覚えてるな?あそこへ行くんだ。いいな、絶対に守りぬけ・・・お前は・・・立派な『ナイト』なのだからな・・・」「父さん・・・分かった・・・僕が絶対に真紅を守る!!」JUMがジャキンと腰の剣を抜く。そして、真紅を肩に担ぎながら走っていった。ローゼンと桜田はそれを見送ると戦場へ向かっていった。
「おおおおおおおお!!!!」桜田がブラックナイトの槍の一閃を左腕の盾で受け、そのまま右腕の剣で切り裂く。続けざまに動く骸骨剣士スケルトンの斬撃をかわし、そのままスケルトンを砕く。「相変わらずお盛んね、桜田・・・・」「ケレニス・・・・!!!」桜田の前に黒髪の魔女が現れる。「貴様は許しておけん・・・我らが同志を・・・よくも!!」剣を掲げ、ケレニスに切りかかる。「愚かね・・・消えなさい・・・大地よ隆起せよ!汝は荒れ狂う地霊の咆哮・・・イラプション!!」桜田の力とケレニスの魔力が激突した。
「答えよラウヘル・・・何故貴様は反旗を翻した・・・!!」剣と剣がぶつかり合い火花が散る。ヒュウと風切り音がしたと思えば、次の瞬間には剣がぶつかり合っていた。「ローゼン・・・貴様はアインハザードの申し子・・・そう呼ばれていたな・・・・」「それがどうした・・・・!!」尚も火花は散る。激しい剣撃の舞いは他者を全く寄せ付けない。その舞いは、戦場に不釣合いなほど美しく、そして激しい。「ローゼン・・・私はな。闇の神『グランカイン』の魂をこの身に宿しておるのだよ・・・ならば!私が貴様と戦うのは必然!!そして・・・・」「グランカインだと・・・貴様・・・ぐあっ!」ケンラウヘルの凶刃がローゼンを切りつける。王の皮膚は切り裂かれ、赤い血が滲み出てくる。「私が勝つのも!必然なのだ!!」「・・・・真紅・・・・」ケンラウヘルはローゼンの胸にその剣を突き立てた。それは即ち・・・ケンラウヘルの勝利を意味していた。
かつて、アデン王国に善王がいた。しかし、彼は部下の裏切りにより命を落としてしまう。裏切り者の名はエウリード・ケン・ラウヘル。彼は力で国を支配し、民は彼を恐れ、罵りこう呼んだ。『反王』と。
反王の謀反から約5年後・・・善王の一人娘、真紅が18になる日。物語の幕は開ける・・・・To be continued
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