第48話「血、肉、骨」
人が笑っている。 目の前で、低い声を上げて。 笑われる事は慣れているものの、やはり気持ち良いものではない。 況してや、押し殺すような声なら尚更だ。苛立つ心を抑え、目の前の人に話しかける。
J「要は何を俺に求めてるんだ?」人「簡単です、あのお方にプログラミングされた事を、実行する事です」J「内容は?と聞いているんだが」人「そういう事なら、御心配なく」人「私を杖の状態にし、ジュン様の体内に取り入れる事です」
体を全体的に改変し、脳内のデータ化や、体の収縮拡張を繰り返したこの身でも。 人に体を弄られるのは、やはり厭というもので。 寧ろ、前の事が有るから、トラウマになりそうな所であるが。 コレも仕事のうちだ、と割り切り。 自分も随分、楽観的思考になったと思い。ため息をつく。
J「それで、具体的には?」人「私を杖の常態にし、貴方の体の何処かに刺すのです」
ついに、ローゼンとか言う奴は、凶行に出たか。 いくら俺が、数回死にそうになったからって。 俺の体に、外部的調教を施しに出るとは。全く、何て時代になったもんだ。
J「痛い?」人「大丈夫ですよ、死にはしません」J「痛いんだな? 其れは。」人「大丈夫ですよ、臓器が数十秒間、使い物に為らなくなるだけで」J「其れは・・・勘弁して欲しいんだが」人「大丈夫ですよ、死にはしません」
こんな押し問答を、数十秒繰り返し。 エンドレスで、この会話が続く事に気が付き。 さっさと、覚悟を決める事にした。 何処が良いかと考えたが、やはり此処はオードソックスに、腹の胃の所をやってもらう事にした。此処なら多分、余り痛くは・・・無い。
J「それじゃあ、腹を頼む。」人「判りました。」
そう言うと、人は形状を解き。 杖となり、宙に浮く。 久しぶりに見た其れは。 其れなりに大きくなって、尚且つ肥大化して見えた。 目の錯覚だと、思いたかった。 しかし、杖が目の前に来て。其れが目の錯覚ではない事に、多少の絶望と焦燥感を感じた。
杖「それでは、入りますので・・・」J「・・・フグッ!アッカハッ!!アッ!・・・」
ドスッ!という鈍い音と共に、地下に絶叫が響いた。 せめて、こんなステータスの上げ方をするなら。 神経を切ってくれればと、薄れ行く意識の中で考えていた。 杖が何か言ってる様な気がしたが、どうでもいい気がして意識が途切れた。 頭の中で、涙の数だけ、強くなれるの~♪がエコーした。気がした。
その頃上の階では、あの8人が食事を食堂でとっていた。 ジュンが何処かに行ってしまったが、飯を取らなくてはまともに活動が出来ない。 此処で皆有る事に気がつく、最近飯を食べる量が急増した気がしてきた。 しかし、体はどんなに食べても太らない、否、太れないのかもしれない。 体の中で常に何かが変化し、変化させられているのが判るが。 如何なっているのかが、サッパリ判らない。 判りそうで判らない、もどかしいと彼女等は思った。 此処最近、血を怖がらなくなって来ている。 其れが、良い事なのか悪い事なのかは、判らない。 しかし、其れを判別するのを、遮るものがある。 生への渇望、死への恐怖、そして何より。 本能の強大な、生に対する美意識。 しかし、殺すという事に対する、罪悪感もある。 結局は、如何しようも無いのだけど・・・ 数名が、心の中でため息をつき。数名が自己険悪に陥った。
数名(不毛・・・だよねぇ・・・)数名(はぁ・・・)
そんな方法でしか、解決できないのも。仕方が無いといったら、仕方が無いのだが・・・
その頃ジュンは、所々破けた服を見て。 変な気を起こした奴だと、間違えられるか如何か検討をしていた。 此処は地下の数階、服が無いことは無い。唯其れは、如何見ても人のタキシードです、如何も有難う御座いました。
J「何を考えているんだ? あいつは・・・」
此処を出るには申し分ない、しかし、生理的に厭なものが有る。 しかも普段着慣れない服だ、何処ぞのやくざ風にも成りかねない。 ・・・汗は・・・かかないか、やっぱり。少し安心した。
J「人の服を着るのは・・・やっぱ厭だなぁ・・・」
そんな事を言いながら、タキシードを着る。 ・・・おおっ!?意外とピッタリだ・・・ 何かしっくり来るな・・・何だこの優越感は? そんな事を考えながら、ジュンは地下の道を行く。 何時もよりも少しばかり、ジュンは自分が少しばかり偉くなった気がした。 しかし、唯服が良くなっただけという事実に気がつき。 ガックリと肩を落とし、盛大にため息を吐いた。 あの後、杖の人格が新しい人格として、ジュンの中に入ってきた。 ・・・正直、入ってくる時の感覚は、厭だ。 弄られる事自体好きじゃない。最も、自分で弄るのは論外だが。
J「・・・やっぱりトラウマか・・・」
・・・まぁ、アレは生き地獄の言葉に尽きる。 麻酔を全身に満たし、気絶しきれない精神で全身を弄られるのを見届ける。 こんな酷い地獄は、煉獄にも無いかもしれない。ここで、口の中に出した、紅く染まった体液を吐く。
J「んー・・・良し」
其れは言わば、麻薬と呼ばれそうな代物であり。 暇な時は、口の中に半麻薬ような効果の体液を出し。 其れを、口の温度を上昇させ、霧にして肺に入れて楽しみ。 楽しんだ後は、口から血で効果を打ち消して吐く。 最も、体内の細胞はコレ位では、一つたりとも死にはしない。 序に、中毒症状も無い。 完璧に、作用だけを楽しむものなのだ。毒素など必要ない。
J「・・・はぁ」
けれども、血で作用を打ち消すのは、精神的に厭だからだろう。例え其れが、中毒作用が無くとも。
J「如何したものかな・・・」
其れを止められない自分も厭だが、結局暇な時はコレをしている。 最も最近は、暇な時が無かったので、コレをしなかったのだが。久しぶりにしてみた其れは、結構良いものだった。
J「さて、行くか。」
最後に力を入れて言い放ち、ジュンは其処を走り去った。 最もコレを見た人は、一人も居なかった。誰一人として。
ジュンが上に向かっている頃、上から何かが落ちてくる。 ふと見ると其れは白い、触ってみるとフワフワしている。何かと思っていると、其れの気配は何処かへ消えて行った。
J「・・・はて・・・?」
しかし、其れを気にする前にある事に気がつく。 お腹すいた。 やはり喰える内に、喰って置くのが基本である。 走って食堂まで向かった。 その頃、彼女等は久しぶりの風呂に歓声を上げて。 風呂に数名が飛び込み、数名が丁寧に体を洗っていた。風呂には、静かにしなさいという罵声と、女子がはしゃぐ声だけが響いた。
J「さて、と」
数分で食堂にたどり着くと、食べるものを抱えて席に座る。 基本的に食べる数は、人格の人数分。だが、本当に其れで良いのか分からない、判らないので。
J「頂きます」
ざっと、10人前食べる事にした。 大食い?そんな事気にしない。 さて、この食い物は何処に消えていくのやら。 6人前を食べた頃そう思った。 まぁ、良いかと思った。 そしてまた、一人分を食い漁る。 やっぱり、肉類は血が少し残ってる方が良い。 牛の肩の肉を食べながら、ふとそう思った。 骨は、少し血が残ってて、噛み具合が良いな。食堂に口の中で、骨が砕ける音が、少し響いた。
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