後編
全くひどい目にあった。まぁこんな世の中だからしょうがないと言えばしょうがないのだが。まさか竹刀でぶったたかれるとは。顔も背中もヒリヒリするが何より鳩尾に入ったのはキツイ。中々体が言う事を聞いてくれなく神社の敷地内で一休みしている。まだ花火が打ち上がるまで時間があるようだし此処でゆっくりしよう。そうやって体を休ませていると誰かが近寄ってくる。誰だ?「・・・大丈夫?」「ですか?」ん、なんだ?また2人組みか?顔をよーく見てみる。眼帯をかけた少女達のようだ。しかし幻覚か?顔が一緒に見える。「・・・大丈夫?」「なんですか?」おっと質問に答えるのを忘れていた。「え、ええ大丈夫です。」「そう・・・。」「なら良かったですわ。」2人ともから声が聞こえるという事は少なくとも幻覚では無いようだ。という事は双子かなんかなのかな?「君達は?」「私達は・・・・。」「倒れてる人が心配で見に来た優しい乙女ですわ。」確かに此処にくるなり痛くてぶっ倒れそのまま寝転んだままだったからな。その様を見てた人は心配するかもな。優しい人たちのようだ、一人は自分でも言ってるが。立ち上がり埃を払うと二人に視線を戻す。「心配かけてすみませんね。」「いえいえ・・・。」「無事ならそれで。」月が雲から出てようやく顔がはっきりする。2人とも双子かなんかという事は暗くてもわかったが明るくなって綺麗な人たちだと気付く。思わず2人に見とれてしまう。「・・・どうかしたの?」「ん?あ、いや何でも無い!」不意に声をかけられてビックリしてしまう。
見とれていて一瞬声がかけられたのに気付かなかった。「ほんとに大丈夫なのですか?」「ああ、大丈夫。」腕を振り回し元気な所をアピールする。振り回しすぎてぐきっと言いそうになった。危ない。「それだけ元気があれば充分ですね。」「ですね。はは・・・そういやあなた達の名前は?」そういや名前を聞いてなかった。思えばさっきの2人の時聞き忘れていたな。片方は雛苺かなんかと言ってたが。「私の名前は雪華綺晶・・・この子は薔薇水晶。」薔薇水晶はコクッと頷く。雪華綺晶に薔薇水晶か。漢字とかはよくわからないが綺麗な名前だと思う。「僕は桜田ジュン、よろしく。」しかし祭りの日とは出会いが多いものだ。そして別れも。こんなに色んな人に会うとは。
「そういや君達は此処で何してたんだい?」「久しぶりに・・・帰ってきたら花火大会だったの・・・。」帰ってきたとはどっか都会かどっかに引っ越して故郷に帰ってきたという事なのか。まぁそこらへんは良しとしよう。「成る程な、それじゃあ一緒に花火でも見るか?」あ、これナンパじゃないか。声をかけた後で気付き恥ずかしくなる。2人の女の子に声をかけてナンパまでするとは・・・。今までに無い経験だ。「お気持ちは嬉しいのですが・・・私達は本来“禁断の者“なので。 一緒に生きたいのはヤマヤマですが行く事は出来ません。 すみません・・・。」即答。断られてしまった。人生初ナンパが失敗というのも何か悲しくなってくるな・・・。しかし“禁断の者“・・?なんだそりゃ。「あなたには・・・あなたには私達とは別の出会うべき人が沢山居る・・・。 だからその人らに会って・・・私達の事は気にせず・・・。」「出会うべき人?」「ええ・・・例えば・・ほらあの子、あなたを求めてる。」
そう言って薔薇水晶は僕の後ろの方を指差す。僕は指を指されたほうを振り向いてみる。10M程先に女の子が居る。金髪で気が強そうな女の子だ。一体それが・・・。「会ってあげてね・・・。」「私達の事はいいですから。」「え、あ、あの。」一体何が何だかわからなく後ろを振り向いてみる。しかしそこには誰も居ない。ただの空虚。「・・・へ?」思わず声が出る。薔薇水晶と雪華綺晶は一体何処に?そんな事を考えれたのも束の間。いきなり僕は顔面を殴られ後ろへと吹き飛ぶ。竹刀で殴られた所が再びやられもの凄く痛い。「痛ぁ!!!」「うるさいのだわ。」何だコイツは、いきなり殴っといてうるさいは無いだろ。続いて少女は喋りかけてくる。
「乙女がこんな真夜中に一人でこんな所にいるのに心配しないの!?」知らんがな。あなたの事なんて知らないし一人で花火大会に来る輩も居るだろうに。「兎に角花火大会の会場まで案内して頂戴、あなたには義務があるわ。」拒否権は無いのかい。思わずはぁーっとため息を付いてしまう。「文句たれない!」今度はビンタ。痛ぇ、ヒリヒリするのに勘弁してくれ。「わかったわかった、連れてくよ。」しょうがなく広場の方向へと向かう。全く何て奴なんだろう。少し怖がらせてやるか。そう思いジュンは来た方向とは別の方へと向かう。石段を降りて向かうは墓場の方。こっちの方を通れば道は近いのだが流石に通る者はあまりいない。墓場に入り暫く沈黙が続いたがやがて彼女が喋りだす。「な、何でこんな所通るのよ!」「こっちが道だからだ、怖いか?」
意地悪な微笑みを浮かべて喋りかける。彼女は何か言いたげだが何も言わなかった。「そういやお前名前は?」「名乗る時は自分から言うのだわ。」「・・・桜田ジュンだ。」「私は真紅よ。」そう言うと真紅は僕の側に近付き腕に抱きついてきた。い、一体何をするんだ。「・・・何してるんだ?」声をかけると自分より背の低い彼女が上目遣いでこちらを見ながら喋りだす。にしても黙ってたら本当に可愛いな。「べ、別に何もしてないわ!」「じゃあ腕を放して早く行こうか。」僕が腕を放して先に行こうとすると彼女が腕を閉めてくる。あの・・・胸が当たってるんですけど。小さいけど。「乙女を置いていくなんて紳士がする事じゃないわ!」
生憎日本男児でして。まぁそれは兎も角もう意地悪するのはやめよう。しかし可愛い子だな。それからは暫く墓を歩き続け5分程してようやく出口のほうへと着いた。真紅は安堵の息を漏らす。「怖かったのか?」「何を言ってるの!」そんな風に喋りながら歩いていく。ふと出口の所にある一番端にある墓を見てみる。一瞬ただの墓かと思ったが墓は墓でもただの墓じゃなかった。“雪華綺晶“思わず隣の墓も見る。“薔薇水晶“そっちにはそう書かれていた。一体どういう事なんだ?「どうかしたの?」「い、いや何でもない。」「そう。」どういう事だ?あの子達はさっき会った筈なのに?
「そういえばもうお盆ね。」腕に抱きついてる真紅がいきなり喋ってくる。「死者の魂が帰ってくるのかしらね・・・。」・・・科学的には全然納得行かないが恐らくお盆だから帰ってきたのだろう。そうとしか思えない。墓の方を見て考える。ふと後ろを向く、一瞬誰かが手を振ってた気がしたが気のせいだろう。早く墓を出よう。そう思い少し歩くスピードを早め墓を出た。去り際にこっそり「安らかに・・・。」と呟いた。
3分ほど歩くともう花火大会の会場へと着いた。流石に墓の中を通ってきたからかなり早く着いた。もうあの道はあんまり通りたくないな・・・。真紅も同じ事を思っているだろう。顔が少し青ざめてるんもんな。「大丈夫か?」「だ、大丈夫よ!」なんか少し無理して言ってないか?体を少し震わせてる真紅を見ながら思う。少し可愛く思えてくる。そんな事を考えてると花火大会が始まった。花火の爆音と同時に人の歓声が上がる。「始まったな。」真紅にそう声をかけた筈だがそこには誰も居なかった。慌てて周りを見回すが誰も居ない。花火大会が始まり慌しくなったせいではぐれてしまったのだろう。そこら辺を歩きまわして探してみる。しかし5分程探し回っても見つからなかった。
どうすればいいんだろか。人ごみの中で頭を抱えて必死に考える。結論は意外と早くに出た。花火大会会場まで案内してくれと言われただけなのだからわざわざ自分が探す事も無かろう。結局ジュンは真紅の事を忘れることにした。いきなり言われて此処まで案内したんだから親切な方だろう。花火を見る事に専念しよう。しかし人ごみの中で見るのはなんかあまり好きではない。人の少ないほうへ移動しつつ花火を見る事にした。屋台の前を歩きながら空に浮かぶ花火を見る。綺麗だけど儚いとはこういう事なんだろうな。空に上がっては消える一生の短き花火を見ながら思う。人の命も同じようなもんだろうな。あそこまで美しくはないけれど。花火を見ながら歩いてるともう人も居ない閉店した屋台と言えばいいのか?誰も居ない屋台があった。そうだ。ぱっとひらめき屋台の近くに行く。幸いにもその屋台にハシゴがあったのでそれを使って屋根の上に上ろうとする。やはりこうやって花火は人の居ない所でのんびり見るのが良い。ハシゴに足をかけ上っていく。下に居る人らには申し訳ないが穴場は頂くよ。屋根の上に着いてそんな事を考える。しかし其処には2人の先客が居た。
「おや?」思わず2人にそう声をかける。2人は驚きながらこちらを振り向いてきたが直ぐに落ち着いた。「なんだちび人間ですか、驚かすんじゃねーですよ。」「ジュン君か、ビックリしたな。」んーと誰だ?一秒弱思考を巡らせて目の前に居るのが誰かを思い出す。そうだ、この2人は翠星石と蒼星石か。学校で有名な双子でしかも恋人同士。つまりはレズカップルだ。「すまない驚かせて、こんな所で何してるんだ?」「そりゃ花火見てるに決まってるですよ。」「人ごみは嫌だからね、店じまいして屋根の上に登ってたんだ。」成る程、やはり同じような事を考え屋根の上に上ってたのか。しかし店じまいとは?「店じまいって?」「この屋台ですよチビ人間。」「アロエとかそんな植物を売ってたんだ。」そうかこの店は2人のだったのか。花火大会の中で店じまいするなんて変わった店もあると考えてたがこの2人とは。
「そうだったのか、ご苦労さんだったな。」屋根の上を歩き2人の近くまで行き屋根の端に足をかけ座る。そういえばハシゴって地面にあったよな。「ハシゴはわざと落としてたのか?」「へ?」双子はハシゴのあった方を見る。今はハシゴはジュンが屋根の上に横向けに置いてある。2人はそれを確認すると再びこちらに視線を戻す。「考えたらハシゴが落ちてなけりゃチビ人間は上がってこれなかったですね。」「うん、帰る時降りれなくなる所だったよ。ありがとうジュン君。」「いやいや、どういたしまして。」あのまま降りれなくなったらさぞ困っただろうな。それで慌てふためく双子ってのも見てみたいもんだ。花火を見ながらそんな事を考える。やがて花火大会は終焉に近付いていく。
「もう花火が終わるですぅ。」「なんか寂しいね。もうじき終わる花火を見ながら双子が呟く。確かに寂しい。花火は一時は人を楽しませてくれるが終わった後に残るのは寂しさだけ。ふと思う。人の出会いも同じようなものだなと。誰かに出会ってからは人は花火のように輝くだろう。しかし、いずれは輝きは無くなり別れが来るだろう。「なんかさ、ふと思ったんだけどな。」「なんですか?」「人も同じようだよな。」「どういう事・・?」「今日此処に来るまで色んな人と会って話したりしたんだ。 それも少しの間だけどね。ほんのちょっと。 折角喋りあえる人と出会ったのに直ぐの別れ。 花火みたいに一瞬の喜び、そして残りは悲しみ。 なんか花火と寂しい所が似てるよな・・・。」「・・・。」花火の音がやむ。喜は終わり悲が訪れる。
「もしかしたらいつかお前らとも別れる事になるかもしれないしさ・・・。」そう言うとジュンは立ち上がり花火が消えた寂しい夜空を見つめる。悲しそうな目で。「確かにそうかもしれないですぅ。」「うん、そうだね。」翠星石と蒼星石が口を開く。「出会いは喜び、別れは悲しみ。 それが無限に螺旋のように続いていく。」「喜と悲の無限螺旋、それが人ってやつかもしれないですぅ。」「とても悲しいな。」「うん、けど喜ばしい事、そして大切な事。」「別れはあるけど出会いがあるですぅ。 どちらも大切な事ですぅ。」翠星石と蒼星石も立ち上がる。「いつか僕らも別れが来るかもしれない。 けど僕らにそんな事はわからない。」「だからせめて出会った事を大切に・・・。 今という喜びを続かせる事にを頑張るですぅ。」「そして別れというのも出会いと同じく大切なこと。 別れたなら・・・出会いを思い出して・・・忘れない事。」「どちらも・・・大切な事ですぅ。」「・・・かもな。今は幸せだ。お前らみたいな友達も居るし。 そして出会った事は嬉しい。けどそれがいつか終わるかもしれない。 だから・・・せめて出来る事。 大切にして・・・忘れないでおこうか・・・出会いも別れも・・・。」「うん、大切にしよう・・。そして長く続くことを祈ろう。」「今という“幸せ“をですぅ・・・。」
花火は現から消える。喜びを与え悲しみを残し。人の出会いも同じ事。喜の出会いに悲の別れ。人生はその二つ、喜と悲の無限螺旋。それを変える事は出来ない。だからせめて・・・。出会った事を大切に。別れた事も大切に。それを忘れないようにしよう。夢に残そう。そして今という幸せが続きますように。fin
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