前編
「出会いと別れ」何も鳴らない。目覚めない。夏休みという事でゆっくり寝たいので目覚ましを設定していなく起きたのは昼の1時過ぎとなった。普段なら早く起こせよなどと姉に文句を垂れていたが夏休みなので別にいいやと思う。体を伸ばす、んーっと伸ばす。しかし寝すぎなのか気だるさが消えない。やはり夜中の3時ぐらいに寝て1時に起きるなんて無茶すぎたか。今度からはせめて二時ぐらいにしようか。着替えを手に取りだらだらと着替える。服を脱ぐと誰も今日は居ない事を思い出し思わずびっくりする程ユートピアとでも叫ぼうかと思ってしまった。流石に休みでテンションが高いからといってそんな事はないだろう。ようやく服を着替え終える。どうせずっと家にいるので地味な服を着ておく。さて・・・何をしようか。と思っても習慣のせいかPCに向かってしまう。廃人にと向かいつつある俺はやばいな。そんな事を思ってるが手は電源ボタンに伸び電源をつける。やかましいオープン音と共にコンピューターが起動する。全くやかましい、そう思い音を小さくするが音が小さすぎても寂しいのである程度だけ音量を残しておく。
暇なので適当にお気に入りのサイトを巡回する。どれもこれもくだらないものばかりだが結構面白い。そうやって一時間ぐらいモニタートとにらめっこをする。こちうらの目が疲れモニターから離れようとした時に姉ののりが何か下から言ってきた。「ジュン君、花火大会行かないのー?」花火大会?初めて聞いたが。疑問に思ったので聞き返す。「何時あるんだ?」「一時間後よー。」言うのが遅い。特に花火は好きと言う訳じゃないが日本人として風流を少しは味わいたいものだ。だが人とは行く気になれない。一人で行くのが楽しいもんだ。「御免、僕はいいや。」「そう・・・、じゃあお留守番よろしくねー。」行った直後玄関のドアの閉まる音がする。もうそんなすぐ行ける様にしていたのか。まったく年の割には元気な姉ちゃんだ。年といっても二歳差なのだが。
「ええ知ってますよ、案内しましょうか?」「是非お願いするわぁ。」彼女がそう言うので僕は先頭に立ち花火大会のある場所の方へと進んでいく。彼女もそれについてくる。此処から花火大会の場所はもう近い。大体10分歩けば着くだろう。そうやってお互い話さないまま話してる中彼女が喋りかけてくる。「あなた名前はぁ?」そういや名前を言うのを忘れていた。名乗るほどの者ではありませんという台詞など言える訳も無く僕は名前を言う。「桜田・・・桜田ジュン。」「ジュンねぇ、私は水銀燈。よろしくねぇ。」水銀燈か、綺麗な名前だが漢字がわからない。それが苗字か名前かすらも。まぁそんな事はどうでもいいだろう。
「水銀燈か・・・よろしく。」しかし初対面の相手をいきなり下の名前で呼ぶとは。珍しい人もいるもんだ。しかしのり以外の女に下の名前で呼ばれるだなんて初めてだな。「何考えてるのぉ?」「ん?いや何でもないさ。」「そう。」会話はそこで途切れ再び静寂が訪れる。静寂の中に水銀燈のサンダルのペタペタという音だけがこだまする。それから5分程するとようやく花火大会の会場が見える。空に花火が上がってないところを見るとどうやらまだ始まってはいないようだ。間に合ってよかった。「間に合ってよかったわぁ。」僕が思うことと同じ事を口にする水銀燈。水銀燈はこっちに向かって来ると僕の一歩手前で止まり顔を近づけてきた。「ありがとねぇジュン、あなた優しい人ねぇ。」そう言うと水銀燈は目を瞑り口を近づけてくる。
「・・・!」思わずまさかと思い目を瞑ってしまう。アメリカかどっかじゃあるまいし初対面でそんな事をするのか・・?顔にかかる息の感じからして顔の手前まで自分の顔を近づけて来たのだろう。そしてその距離が0になるかと思った瞬間水銀燈の顔は上へずれてジュンの額に口付けした。「ふふ・・・期待したのぉ?お馬鹿さぁん。」・・・ひょっとして遊ばれたのか?恥ずかしくなり顔を赤らめてる僕を笑いながら水銀燈は見ている。「けどお礼にこれくらいはしてあげるわぁ。 今日はありがとねぇ。」そう言うと水銀燈は花火大会という事で大量にある出店の前の雑踏へと消えていった。ジュンは顔を赤らめたまま呆然と立ち尽くす。・・・なんて人だ。
気持ちを落ち着かせて5分程してジュンも出店の方へと向かう。しかしなんて強烈な人だったんだ。思い出すだけで顔が赤くなってくる。顔を赤らめながらも歩き続けてると何か声が聞こえてくる。それも泣き声。一体誰だ?泣き声のする方へ近付いていく。人ごみから離れた所の方から聞こえたそれは神社の近くに居た。暗くてよくは見えないが二人居るようだ。「大丈夫か?」泣いてる様子の座ってる2人に声をかける。すると驚いて泣き声はやむ。代わりに怯えながら喋りかけてくる。「だ、誰かしらー!?」「ゆ、誘拐なのー!?」二つの影はどうやら少女。それも幼い小学一年生ぐらいの。生憎ロリコンじゃない。そうか、僕はそんな風に見えるのか?ただ泣き声がするから見に来ただけなのに。何か悲しい。
「違う違う、君達が泣いてるようだから何かなと思って来たのさ。 何せ雑踏の中まで声が響いてたからね。 駆けつけずにいられないだろ? 大丈夫なのかい君たち?」自分の立ってる所から動かず二人に喋りかける。「うゆー、怪我したのー。」「足が痛いかしらー。」足が痛いという事はくじいたりでもしたんだろうか?近付いて二人の足の痛がってる箇所を目をこらして見てみる。血は全く出ていないが青痣がついている。「どっかで打ったりしたのか?」「そこで転んだのー。」「石につまづいたかしらー。」成る程、確かに此処らへんは暗くて何も見えない。この子らなら小さな石でもつまづくだろう。「お母さんとかは?」「うー居ないのーけどトモエがいるかしらー。」「みっちゃんが居るかしらー。」親では無いようだが恐らくお姉ちゃんか何かだろう。怪我して動けなさそうだしここで見捨てるのはなにか良心に障る。しょうがない、一緒に連れて行くか。
「しょうがない、連れてってやるよ。」「ありがとうなのー。」「ま、待つかしらー!誘拐の可能性は消えてないかしらー!」まだ疑いがとれてないのか。何かここまで言われるとホントに悲しくなってくる。まぁこんな世の中、疑うのは当然なのだろうが・・・。「じゃあ聞くけど何をすれば信じてもらえるんだい?」「お菓子買ってくれたら信じるかしらー。」何かにつられて誘拐されるタイプだなこいつ。「わかったわかった、綿飴買ってやるよ。」「うゆー!」「ありがとうかしらー!早速連れてってかしらー!」現金だな。そんな事を思いながら二人を背負う。何しろ体が小さいもんだから僕の肩幅内に2人は納まる。流石に軽いな。そして祭りの雑踏の方へと向かっていく。近付くにつれ騒がしくなってくる。その中で恐らく何個も乱立してるあろう綿飴屋を見つける。其処に向かい二つ綿飴を購入する。二つ500円。不況でも値上げは程ほどにして欲しい。幾ら何でも高すぎる。
「ほら、綿飴。」「ありがとうかしらー!」「ありがとうなのー!」2人はそう言うと僕の頭の後ろで綿飴を食べだす。髪の毛に綿飴が付きまくり正直キツイ。しかし相手は子供なんだから耐えるしか無かろう。2人が食べてる間僕は広場の方へ進む。やはりこの子らの保護者を見つけるのにはそっちの方が良いのじゃないかと思い。暫く歩くと広場が見える。流石に人が多い、探すのは中々困難そうだな・・。そんな事を思い浮かべてると誰か喋りかけてくる。竹刀をつきつけながら。「・・・何をしているのですか?」「っへ?な、何って人探しですよ・・。この子らの保護者を。」不審者を見るような目つきでこちらを見てくる。あーそうか、もしかしてロリコン誘拐犯にでも見えるのですか?ほんとに悲しい。自分と同じくらいの歳の子までに思われるなんて。「あ、トモエなのー。」一人が身を乗り出して頭の横から喋る。トモエって事は保護者なのだろう。「・・・その人に何かされたの?雛苺。」「お菓子とか買ってもらったのー。」
やばい、殺気を感じる。ひょっとして今ので本気で誘拐犯とでも思ったのでは無いか?「・・・お菓子で子供釣って誘拐しようなんて・・・成敗。」そう言うと竹刀で突きを放ってくる。無論子供らを背負ってる僕がよける事も出来ず突きは見事に鳩尾に。僕がふらつくと彼女は背中の2人を取り地面に座らせた後にまた構えをとる。やばい、殺す気だ。目が尋常じゃない、何とかして誤解を解こう。「ま、待て、僕はこの子らの保護者を探してただけだ。 だから敵意は無い。君に会ってこの子らを渡したかっただけだ。」「見苦しい、誘拐犯め。」「あべしっ!」言い訳無用。彼女は竹刀で僕の頬を思いっきり二回叩く。流石竹刀、痛さが半端無い。しかし・・・だ。この場からはどうしよう。言い訳は通じない、叩かれる。・・やむを得ない。僕は走り出した。全力で。子供らが居る彼女は追ってこれないだろう。彼女は最後に僕の背中に一発いれたが追いかけはしなかった。
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