第四話 めぐとすいぎんとう
:5歳まで生きられません誰かの声が聞こえてきますここは何処なんだろうまるで海の底のように暗く冷たいわ直接聞こえてくる声は誰なの:可愛そうにあの子心臓の病気で助からないらしいわ声はどんどん聞こえてきます:6歳まで生きられない:7歳まで生きられない:8歳まで生きられないいや、やめてメグは哀れむような大人たちの声を聞くのが嫌で耳を塞ぎますけど声は止まりませんでした:メグ、7歳の誕生日おめでとう今度は別の男の人の声が聞こえてきますそして聞き覚えのある声にメグも声を上げますメグ:パパの声だ、助けてパパ私はここにいるのけれどその声は届きませんだんだん声の他に映像が見えてきました黒いスーツを着た男の人と髪の両側に小さな三つ網を施した女の子ですメグ:あれは…私…?見ると男の人は女の子に何かプレゼントを渡していますけど、映像の中の女の子はただ窓の景色を見て歌うだけです男の人は表情を変えることなくまるで決められた仕事を終えた後のように部屋から出て行きますメグ:そうだ…私、いつも死んじゃうって言われて…それでも死ぬことができなくて疲れちゃったんだ…まるで無意識の海の底に頭から入ってしまったようにメグはゆっくりと昔の記憶を思い出していきますメグ:でも…パパやママはちゃんとお見舞いに来てくれた…諦められたんじゃなかったんだ…私がパパとママを…拒絶したメグの身体が段々泡のようにドロドロに溶けていくいきますメグ:私が…素直ないい子じゃないから…だからパパやママに捨てたれたんだ…私のせいだ…私が、私が、わた…次第に海の流れが速くなっていきますメグはその勢いに従うしかありませんメグ:お医者さんに諦められた、看護婦さんに嫌われた、おばあちゃんは死んだ、パパとママに捨てられた、私にはもう…帰る場所が… 無い …―――――――――――――――――――まだ太陽が顔を出していない静かな朝聞こえるのは新聞配達のバイクの音と子鳥のさえずりそして、ピッピッと1分間にごく僅かだけ聞こえるメグの命の音だけです深夜、集中治療室に運ばれたメグは早朝一命を取り留めることはできましたけど、今度こそ明日までは生きられないそれが水銀燈の医者から聞いた答えでした銀:メグ…どおして…一緒にお祝いしようって言ったのに…昨日の夜、メグにお祝いのプレゼントは何が欲しいかを水銀燈は聞くために病院に戻って来ましたけど、そのときにはメグはもう集中治療室の中でした今は病院側から指示された一部屋でメグの回復を待っています銀:メグ…やだよぉ…いや…もはや涙も枯れた水銀燈には悲しみの言葉を重ねることしかできません一晩中泣き続けていた疲れのせいで段々目を開けているのが辛くなってきました看護婦さん①:メグちゃん、今回ばかりはダメかもしれないわね二人の看護婦さんが水銀燈のいる方へ歩いてきました看護婦さん②:まだ小さいのに可哀想よね、友達の水銀燈ちゃんも可哀想だわ看護婦さん①:へ?水銀燈は目を閉じると急に眠気が襲いましたそして、夢の世界へ落ちます看護婦さん②:どうしたの?一人の看護婦が訪ねると看護婦さん①:水銀燈ちゃんって…誰?もう一人の看護婦は何を言ってるのよいつもお見舞いに来てるじゃない、と言って水銀燈のいるはずの部屋を空けますしかし部屋の中には誰もいませんでした看護婦さん①:誰もいないじゃない看護婦さん②:おかしいな、………あれ?誰がメグちゃんのお見舞いに来たんだっけ看護婦さん①:何言ってるのよ、あの子はいつも一人じゃないそういうともう一人の看護婦はそういえばそうよね、と言って二人で部屋を出ましたくらいつめたいさむいふかいこわいひとりひとりひとり独りはいや誰か助けてほしい昔からそうだった一人で歌をうたって寂しさに耐えてた大人たちは私が一人でも大丈夫な強い子だと思ってるでも本当はずっとずっと寂しかったうたいながら泣いていたの:あなたは一人じゃないわ誰誰なの:あなたが本当は寂しがり屋さんなのも知ってる優しい、そしてどこかで聞いたことのある声:もう大丈夫よ、あなたはまだ死ぬには早すぎるわ自分を思い出して メグ メ…グ:そうよ、あなたはメグよ本当のあなたはそんなにドロドロじゃないわそうだ、私は柿崎メグ思い出したわでも、あなたのことが思い出せないの:ごめんなさい、わたしはもうすぐいなくなるの でもねメグ、あなたのことは決して忘れないわ待って、あなたのことを忘れたくない思い出したいあなたのお名前を教えて:あなたがわたしのことを思い出しても起きたらすぐに忘れるわそんなことないぜったい忘れないから:ばいばい、メグ 今までありがとう 大好きだよ 大切な お友達待ってお願い行かないで私を一人にしないで:大丈夫よ、あなたは大切なことを思い出せたわ きっとこれからはうまくいくわだから…あなたはもう…一人じゃないわそして突然海は渦を巻くようにメグを飲み込んでいきますお願いもう少しだけ時間を頂戴あなたのことを思い出せたわあなたは…―――――――――――――――――――ピッピッピッ規則的な電子音が時を刻む小さな部屋の中でメグは目覚めましたメグ:私…生きてるんだ…メグはゆっくりと状態を起こし深呼吸をして自分の胸に手を当てますトクン、トクンと生きてることを実感しますメグ:ふぅ…まるで、夢を見ていたようね…メグ:うぅ…ヒック…グス…ばかぁ…グス…忘れるわけないじゃない…水銀燈…
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