第三十五話 真紅
「超機動戦記ローゼンガンダム 第三十五話 真紅」
「次弾装填!!ターゲット正面、各砲座砲撃を開始!!」サクラダの残った発射管から一斉に弾が打ち出される。しかし、それも従来の勢いはない。「損傷率計算終了。現在63%!危険域です・・・」巴の声がする。しかし、JUMはそれでも引き下がるわけにはいかなかった。「限界まで撃つんだ!敵機に撃たせるな!撃たせなきゃ当たる事もない!」もはや無茶苦茶な理論。しかし、ある意味では全くの正論でもあった。「敵艦からの砲撃きます!・・・・直撃します!」「くっ・・・・回避!!!!」ディアーズの主砲がサクラダを捕らえる。回避運動を行うがいかんせん間に合いそうにない。「うおおおおおおおおおおおお!!!!!」その射線上に金色に機体が割り込み、両手を掲げる。スーパーサイヤジンの腕部Iフィールドバリア。バリアは主砲を防ぐものの、過度の負担により右腕がはじけ飛ぶ。「ベジータ!?くそ、今のうちだ。主砲チャージ!照準前方ディアーズ!!てええええええ!!!」お返しとばかりにサクラダの主砲ホーリエが放たれる。赤い光の矢がディアーズを飲み込む。「ち、右腕がイカレたか・・・JUM!大丈夫だ。最後までやるぞ!」「おう!僕らも負けるな!レンピカ、スィドリーム、メイメイ照準!撃ち尽くせ!!!」
ベルリンのアリス軍の機密工場。その上空で2機のガンダムが閃光を走らせていた。「しつこい・・・たかだか私の分散機の分際で!!」アリスが腰部に収納されたツインテールを振るう。しかし、シンクも同じようにツインテールで振り払う。「止まりなさいアリス!貴方にもう勝ち目はないのだわ!アリスの幹部はみんな倒したのだわ!」「問題ない。あいつらがいなくとも、私は貴様らを討った後再び愚かな人類を支配するさ!私に出来ぬ事はない。そして・・・それがお父様の望みなのだ!!」アリスの背部の8つの有線制御式ビーム砲がシンクに襲い掛かる。シンクはその砲撃を最早直感のみで回避し、ビームライフルでいくつか撃墜する。「それは違うのだわ。貴方のお父様・・・ローゼンはそんな事望んでいない。」「望んでるさ!私のプログラムはお父様が施してくれた。つまり、本能が言うのだ。人は愚かだ。だから私はお前を作った。愚かな人間を崇高な機械が支配しろとな。」しかし・・・それは槐が弄った本能。もっとも、アリスにそれを知る由はない。「それが絶望といわず何と言う!?お父様は人間に絶望していたのだ!!」「違う!ローゼンは人類に絶望などしてないのだわ!何故なら・・・私達。このローゼンガンダムがその証!このローゼンガンダムは貴方が暴走した際に止めるための人類の希望なのだわ。」アリスがGSをフルパワーで発射する。シンクはかろうじてそれを回避する。「希望だと・・・?なら、お父様は何故人間に私のような完璧な機体を託さなかった!」「完璧な人間などいない・・・だからこそ!ローゼンは原型ともいえるアリスガンダムを7分割し、ローゼンガンダムシリーズを作ったのだわ。それぞれが長所を伸ばし、欠点を補い合える様に。それが・・・人間なのだわ!」
「くだらん!人間など所詮不完全な生き物!完璧な機械には及ばぬ。人間が機械の計算速度を越えれるか?パワーを越えれるか?スピードを越えれるか?越えれまい!」「確かにそうね・・・でも、貴方達機械は・・・その不完全な人間が作ったものなのだわ!」「その点は評価しよう。だが!だからこそ人間は機械に主権を明け渡すべきなのだ!優れたものがこの世界を支配する権利がある!」アリスの姿が完全に消える。キラキショウのインビシブルだ。シンクはその紫の右腕を構える。そして、5秒後。上から庭師の鋏で急襲してきたアリスのその拳をあわせる。「うああああああああ!!!!」拳と鋏の接点が盛大な火花を上げる。「奇怪な腕だ。お父様の大事なボディにそんな薄汚い腕などをつけおって・・・」「薄汚いのは貴方の回路じゃないかしら?ジャンクさん。」シンクは少し後方に下がり、右腕のビームガトリングガンを放つ。アリスは白銀の翼を展開し、それを遮断する。「ジャンク?私が・・・ははははっ・・・笑止千万!私から見れば人間全てがジャンクよ!貴様も知ってるだろう。愚かな人間の血塗られた歴史を!」「貴方こそ人間を知らないわね。確かに、人間は有史以来戦いを繰り返していた。でも・・・戦いこそが人類の歴史なのだわ!人は戦い、過ちを悔い改め、少しずつ成長していくのだわ。」「それがジャンクというのだ!過ちなど我々は犯さない!何度も言う!機械は完璧な存在なのだ!」「機械にも故障はあるのだわ。そして、故障すれば廃棄される。そして廃棄すればまた生み出す。それが貴方の世界なんでしょう?」「そうだ!最も効率的で生産的な世界。無駄なものはない。全ては私の計算の上!世界は永久的に平和になるのだぞ!それが何故分からない!いや・・・分からぬからジャンクなのか!」
シンクはビームサーベルを持ち、アリスに挑みかかる。アリスもガーデナーシザーで応戦する。「そんなのは・・・世界じゃない。そこには何もない・・・アリス。貴方の世界には想いはないのだわ・・・」「想い?そんなのは精神論だろう!下らぬ!断じて下らぬ!」「想いは・・・人間の感情で一番強い力。誰かを想う気持ち・・・人を思いやり、感じあい、愛し合う・・・それが人間よ。貴方の世界は全てが機械的。感情のない人生など・・・生きてるとは言わないのだわ。」シンクが再びサーベルで切りかかる。アリスはそれを応戦しながら背部の有線ビーム砲を展開させる。「ふん・・・ならばその想いとやらで・・・私を超えて見せよ!」ヒナイチゴの倍に相当するビーム砲がシンクを取り囲む。先ほどは回避できたが今度は左腕を持っていかれる。しかし、シンクは体制を立て直す。「見せてあげるのだわ、アリス。人間の強さ・・・想い・・・そして・・・この腕に込められた『絆』を!」シンクがその紫の右腕を掲げる。距離は少しある。だが、迷いはない。飛び込んで全てをぶつける。「ならば、その絆とやら・・・断ち切ってくれよう!」アリスが再び有線ビーム砲を展開させる。しかし、シンクはそれを右腕のビームガトリングガンで撃墜していく。撃墜し終えるとそのままアリスガンダムに向かってシンクは飛び込んでいく。「ちぃっ・・・・失せろ!!」飛び込むシンクにGSのフルパワーを打ち込む。しかし、シンクは前へ進みながらビームの雨を回避する。だが、全ては回避できず頭部が撃ち抜かれ吹き飛んでいく。「まだよ!たかがメインカメラがやられたくらい・・・!!」シンクの右腕が胸部・・・つまりコクピットの装甲を引き剥がす。真紅が見据えるのは前のみ。ならば、メインカメラがなくとも、自らの目で相手を見るには事足りる。露出したコクピットは透明のプレートに覆われており、そこから美しい金髪を二つで結った少女の姿が見える。
「アリスーーーーーー!!!」再びシンクが加速する。アリスはGSの砲身を再び向ける。「なぜだ・・・分からぬ。何故そこまでしてこの世界を望む?この世界は不完全だらけなんだぞ?私が支配すればそれが完璧な世界になるんだ・・・なぜだ・・・なぜだ!!!」その砲身が再びビームの雨を降らせる。今度は右脚部を持っていかれる。しかし、それでもシンクは止まらない。その右腕に全ての想いをのせて、シンクは前へ進む。「それでも!!守りたい世界があるのだわ!!!」紫の右腕から繰り出された拳撃がアリスガンダムの中枢部にめり込む。「がっ・・・守りたい・・・世界・・・だと・・・」「そう・・・頼れる仲間がいて・・・かけがえのない友がいて・・・そして、愛すべき人がいる。たとえ不完全な世界でも・・・私はこの世界が好きなのだわ。さようなら・・・アリス・・・」めり込んだ腕からビームガトリングガンが放たれる。アリスガンダムはそのシステムを内部から完全に破壊され、貫いた弾が背部から射出される。「ぐっ・・・だが・・・私だけが消えるわけではない・・・貴様も・・・ともに消えよ・・・」「何ですって・・・?」「その剥いだ装甲で私の断末魔を防げると思うか?ふふふ・・・はっはっはっはっは!何ならば・・・その想いとやらで防いで見せよ。先に逝くぞ・・・はーッはっはっはっはっはっはっは!!」シンクが右腕を引き抜き後退しようとする。しかし、アリスガンダムの放つ光はもう眼前まで迫っていた。「・・・・JUM・・・・」シンクは反射的に右腕を曲げ、コクピットを覆う。しかし・・・無常にもその爆発はシンクをも飲み込んだ。
「・・・敵機がとまった・・・・?」ビームサーベルのみで敵機を切り裂いていたキラキショウが気づく。アリスのMSが完全にとまったのだった。「・・・まさか・・・金糸雀!アリスガンダムの反応は!?」「アリス反応消滅・・・かしら・・・でも・・・・」金糸雀の言葉に歓喜の声が上がる。アリスは倒された。つまり・・・勝ったのだ。人間が。だが、金糸雀の声は明らかに沈んでいる。「真紅がやったようねぇ。ま、譲ってあげたから当然よねぇ。それで?金糸雀。真紅は?」「ないかしら・・・真紅の反応も・・・同時に消えた・・・かしら・・・」「な・・・んだと・・・!!」一転、JUMの背筋が一気に寒くなる。「金糸雀!反応消失箇所は!教えなさい!あの子が死ぬわけないわ・・・きっと・・・きっと・・・・」水銀燈が大きな声をあげる。その声に金糸雀が少しだけビクッとする。「待ってくれ、水銀燈!僕も乗せてくれ!柏葉!すまないが後の処理は頼む。それから・・・」JUMが艦内放送のスイッチを入れる。「姉ちゃん、聞こえてるか?すぐに真紅をつれてみんなで帰ってくる!だから・・・飯の準備しといてくれ!」JUMはそれだけ言うとデッキに向かって走っていく。デッキに着いたときには片翼になったスイギントウが待っていた。JUMもスイギントウに乗り込む。「金糸雀からデータは受け取ったわ。行きましょう。あの子は・・・真紅はきっと待っている。」
「違う・・・あれも違う・・・あれも・・・・くそっ・・・!」スイギントウに乗ったJUMが下を見ながらシンクを探す。しかし、どれもアリスの機体ばかりだ。「こっちもそれらしいのはないですぅ・・・金糸雀!ちゃんとあってるですか!」「合ってるかしら!いくらカナでもそこまでヘマしないかしら!」現在、水銀燈、翠星石、金糸雀、雪華綺晶がアリスの反応消失地点で真紅を探していた。「あれは・・・アリスの残骸か・・・?」雪華綺晶が寄っていく。機体はバラバラで原型をとどめていない。ただ、肩と思わしきところに『ALICE』とだけあった。「お前はきっと・・・何も知らないまま狂っていったのだろうな・・・アリス・・・」雪華綺晶はそれを数秒弔うと再びシンクを探す。「・・・水銀燈!あれだ!近寄ってみてくれ!!」水銀燈が言われるままにその機体に近づく。その機体はボディは完全に黒く焼け焦げ残ってるのは上半身と、そしてコクピットを守るように覆っている右腕だけだった。その上半身こそ黒焦げだが不思議と右腕は紫の色をしていた。「この右腕はぁ・・・JUM,私が右腕を持ち上げるから。一度降りて。みんな、こっちに来て。」水銀燈がJUMを下ろし、他の機体を呼び寄せる。そして、ゆっくりその紫の右腕をどけた。「あ・・・・真・・・紅・・・・・」そこにいたのは死んだように眠っている金髪の少女だった。その衝撃のせいか、結ってあった髪は解けている。「真紅!!」JUMは薄いプレートをこじ開け、少女を揺する。水銀燈達も走って寄ってくる。「真紅!起きなさいよぉ!」「真紅!目を覚ますですよ!!」「真紅、しっかりするかしらー!」「起きるんだ、真紅!」そして・・・その少女はゆっくりと目を開いた。
「水銀燈・・・翠星石・・・金糸雀・・・雪華綺晶・・・JUM・・・」「真紅!」JUMが真紅を抱きしめる。真紅は未だに意識が定まらないのか目が朦朧としている。「私・・・確かアリスの爆発に・・・・あ・・・」真紅が自分の機体を見る。そして、悟った。「そうか・・・また・・・あなたに助けられたのね、薔薇水晶・・・」「真紅・・・よかった・・・本当に・・・真紅・・・」JUMが真紅を抱きしめながら涙を流す。「どうやらお邪魔みたいね・・・翠星石。私の機体二人に貸すから私を乗せてくれない?」「・・・・かまわねーですけど・・・水銀燈は・・・いいんですか?」水銀燈が翠星石と一緒にスイセイセキに乗り込み、金糸雀と雪華綺晶と一緒に静かにその場を去る。「そうね・・・悔しくないって言ったら嘘だけど・・・でも・・・いいわ。今回は真紅に勝ちを譲ったげるのよぉ。で?そういう貴方は?目から汗が出てるけどぉ?」「す、翠星石はJUMなんかどうとも思ってねーです!勘違いしやがるなですぅ!でも・・・泣いてるのはきっと、嬉しいから・・・ですぅ・・・ぐすっ・・・」「カナ達・・・やったのね・・・勝った・・・のよね?」「ああ。だから、帰ろう。二人を祝福するために一足先にな。」
「いつのまにかスイギントウを残してみんな行っちまったな。」「気を利かしたのだわ・・・あの子達らしくない・・・」JUMは真紅を抱っこしてスイギントウに乗る。「さ、僕らも帰ろうか。姉ちゃんがきっとご馳走作ってるぞ?」「あら、それは楽しみね。紅茶も用意しないと。」二人はコクピットで笑う。そして、JUMが起動させようとして・・・そして、止めた。「?どうしたの?JUM?」「いや・・・言っておきたくてさ。お帰り・・・真紅。」「JU・・・んんっ・・・・・」JUMは真紅にキスをした。優しく、その存在を確かめるように。そして、唇を離すと少女は笑った。「ふふっ・・・ただいま・・・JUM。」
次回予告 戦いは終わった。だが、生き残った人々には新しい戦いの日々が始まっていた。それは平和を目指した戦い。そして、瞬く間に1年が過ぎた。戦士達は約束の場所で再会する。次回、超機動戦記ローゼンガンダム 最終話 生きる事は・・・ 戦うと決めた。それが、彼女の誓い・・・
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