豆まき
「ジュン、ちょっときなさい」 ふいに、教室の窓から呼ばれる。「なんだ?」「いいからきなさい。上着も忘れずにね」「……はぁ」 小さくため息を吐くと、席を立った。 廊下に出ると真紅が「こっちよ」と言って案内する。 しっかりコートを着ていることと、道からして ……どう考えても屋上だよなぁ? などと考えてつつ、いそいそとコートを着た。 ガチャ、と音を立てて屋上の扉が開いた。
「鬼は外ー! 福は内ー!」 出るやいなや、浴びせられる豆の弾丸。「ちょ、ちょっと、私がそっちに行ってからのはずでしょう!? 痛いじゃないのっ!」「お前ら何がしたいんだよ……って痛っ!」
「見ての通り豆まきですぅ」「今日は2月3日。節分の日だから……雛苺と金糸雀がやりたいって」
「お前らなぁ、こういうのは夜に家でやれば……」「あらぁ、いいじゃなぁい。こういうのも」 水銀燈が指で豆をピンッとはじく。 そしてそれは、見事に額に命中した。「……ったー……! 顔面は無しだろ!?」「大丈夫……・携帯もってるから……いつでも救急車呼べる……」「救急車の前に保健室かしらー!?」
「……あのなぁ」「はい、ジュンと真紅のお豆なのー」「お、ありがと」「ありがとうだわ」 豆を受け取っている間にも降りかかる豆の雨。「ちょ、服の中にも入るし、っていうか俺鬼かよ!?」「真の鬼はもうちょっとでくるはずですから、それまでお前が代理ですぅ」「っていうか寒……」 見上げた空はどこまでも蒼く。白い雲がふんわりとふたつ、浮かんでいる。
そんな空の下、扉が開く。そこからでてきたのは……。「……ベジータ?」「おう、薔薇乙女の皆さんとジュ……」 バシッ。豆が当たる。しかも、それはジュンが受けたものより速く、とても痛そうだ……。
「鬼がきたのー」「やっつけるかしらー!」「ざまぁみやがれですぅ」「ご、ごめんねベジータ君……」「うふふ、結構面白いわねぇ」「……力の加減に注意しないと……」「これは行事だもの、心して受けなさい」
「痛いけど……何だこの快感……」「……良かったな、ベジータ」 「あ、ちょっと待って皆。歳の数だけ食べてからじゃないと、後から足らなくなったら……」「あら、そ、そうだったかしら? 私は遠慮するわ……ってむぐぅ!?」「好き嫌いは良くないわぁ、真紅ぅ」「お豆おいしいのよー」「な、真紅も苦手だったですか……」「真紅も嫌いなんだね。僕は結構好きだけど……」 翠星石がちらり、蒼星石を見る。「蒼星石が食べるなら……す、翠星石だってこれぐらい食べれるですぅ」「ふふ」「薔薇水晶は食べれるのぉ?」「結構……好き……」「俺も嫌いじゃないな」
「……あの、俺の豆が無いんだが」 ベジータが呟くように言う。「あら、あなたは鬼だもの、食べなくていいわ」「な……っ!? そうか、完全なる鬼退治プレイだったのか!!」「何言ってやがるです、このド変態がぁっ!」 翠星石のパンチが決まる。
「食べ終わったのー、豆まき再開するのー」「かしらー、ベジータをやっつけるかしらー!」「恵方巻きは食べなくていいのぉ?」「関西じゃないからいいんじゃないかな?」「用意してないですぅ」
ちらり、真紅を見た水銀燈の口角がつりあがる。 そしてこっそりと射程距離内に入るまで、真紅に近づくと……「……真紅ぅ」「何かしら水銀と」バチッ。 真紅が後頭部をおさえてしゃがみこんだ。「水銀燈~~~~~……!!」バチッ。「いたぁい、よくやったわねぇ」「先にやってきたのはそっちよ!「あらぁ、せっかく真紅の中にいる鬼を退治してあげようとしてるのにぃ」「余計なお世話なのだわ! ジュン、あなたも手伝いなさい!」「何で俺が……「下僕でしょう!?」
そしてバトルはこちらでも起きていた。「蒼星石ぃ」パッ。「ひ、雛苺……痛いよ」「蒼星石になにするですかちび苺! 許さんですぅ!」「カナも当てるかしら~!」バチッ。「痛っ! バトルはお前ら二人でやりやがれですぅ、こっちは平和に……」バチッ。 雛苺の豆が当たる。「……許さんですぅ! お前ら外に出して福を内にいれてやるですぅー!!」「翠星石、ここはもう外だよ?」「う、うるさいですぅ、蒼星石も参戦するのですぅ!」「……わかったよ」
そして放置されるベジータ。しかし、彼はめげなかった。それどころか……。「水銀嬢、俺も混ぜ……」 背後から忍び寄り、胸に手を伸ばす……・が、その手が届くことは無かった。 ボォンッと大きな音が空に響く。 一同、音がしたほうを振り向く。そこには、バズーカを肩に担いだ薔薇水晶の姿があった……。「……豆バズーカ、つくってみた」「薔薇水晶……それはやりすぎよぉ」 足元には、頭部から血を流したベジータが倒れている。「ちょ、お前何やってんだよ、いくらベジータだからって……」 薔薇水晶はポケットから携帯を出すと、なにやら誰かと話す。 そしてその数十秒後、頭がウサギの男がやってきた……。「ば、薔薇水晶、その人頭がウサギなのだわ!?」「あら、皆知らないのねぇ。薔薇水晶の執事さんみたいなものよぉ」「執事がウサギ頭ってどうなのかしらー!?」
「ラプラス……その人の始末を・……お願い」「かしこまりました、お嬢様」 ラプラスと呼ばれた男はベジータを軽々と担ぐ。「ここからが本当の地獄だ……」 ベジータが呟いた刹那、姿が消えた……。
「……まぁ、ベジータだからいいか」 後ろでは雛苺が満面の笑みで「鬼退治完了なのー」 とバンザイをしている。「雛苺がちょっとこわく見えた瞬間かしらー……」「それよりなにより薔薇水晶がおそろしいですぅ、敵にまわせねーですぅ」「いい子なんだけどぉ……ちょっとズレてるところがあるのよねぇ」「ちょっとどころじゃないのだわ!」「もう少しで豆無くなるね、そろそろ撤退しようか?」「ん、そうだなぁ……。っていうかこの豆だらけになった屋上はどうするんだ?」 つん、と何かが背中に当たる。「箒……って、それだけじゃ集めるしかできないじゃないか」「こうして……下に……落とすの……」 薔薇水晶が柵の辺りまで豆を転がし、その外に落とした。「何て手抜きな……」「捨てるの……勿体無いから……」「いや、やってることは捨てるよりもひどいと思うぞ?」「まぁまぁ、このさいいいじゃなぁい」「でも、いいのかなぁ……委員長の金糸雀だっているのに」「委員長が許すかしらー」「え、許すんだ……?」 蒼星石が唖然とした表情で、金糸雀を見た。「そうと決まればとっととやっちまうですぅ」「仕方ないわね」
「ま、こんな日もいいか」 呟くと、心地よい風が頬をかすめた。
その頃、教室では……。「先生、何か豆が降ってきてます!」「笹塚、寝言は寝て言え」「本当です! 窓の外をみてくださいよ!」 梅岡がプリントを整理する手を止め、窓に目をやる。「……豆なんか降ってないじゃないか」「そんな、本当なんです! もう一度みてみてくださいよ!!」「笹塚、お前はもう廊下に立ってろ」「(´・ω・`)」
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