第三十三話 神になろうとした男
「超機動戦記ローゼンガンダム 第三十三話 神になろうとした男」
「破壊のシンフォニーが止まった・・・誰かがアリスと戦ってるのかしら?」コクピットで金糸雀がつぶやく。結果的に自分の「失われた時へのレクイエム」が止めたとは露知らず金糸雀はレーダーを見渡す。「・・・プラムの反応がない・・・?もしかして水銀燈がやったのかしら~?」一人ではしゃぐ金糸雀。そこへ、バーズが数機襲い掛かってくる。「わわっ、ここは戦場。油断はいけなかったかしら!迎撃のパルティータ!!」音源を切り替え、範囲は狭いが人工知能機の動きを完全に止める迎撃のパルティータ。「これなら、カナにだって楽勝かしら~。楽してズルしていただきかしら!」動きのとまったバーズを数少ない武装のビームサーベルで切り裂いていく。「こうなったらカナもみんなの手伝いにいくかしら。ええっと・・・ここから一番近いのは・・・」再びレーダーを見る。水銀燈はすでに人工知能機と交戦している。雪華綺晶はスペリオルと交戦中。しかし、レーダー範囲でもギリギリなくらいの距離だ。真紅とアリスも雪華綺晶の反対ギリギリ。つまり、相当に遠い。結果、一番近いのは・・・「翠星石と兎かしら。よぉし、待っててね翠星石!カナが今行くかしら~!」
「お前を討つ前に・・・もう一度だけ聞いておく・・・」キラキショウのビームサーベルとスペリオルのサーベルがぶつかりあう。「お前にとって・・・あの子は。薔薇水晶は何だったんだ?」すれ違いざまにその剣を振るう。スペリオルの中のALICEもそれに反応する。「道具だな。私の野望にとっての・・・そう、白崎や梅岡と変わらん。もっとも・・・」スペリオルが下がり、5つの砲門・・・ビームスマートガン、背部ビームカノン×2、大腿部ビームカノン×2を向け、放つ。キラキショウはそれを回避し、ビームライフルを放つ。しかし、スペリオルは悠々と回避する。「忠実に動くだけ機械のほうが100倍よかったがな!そう、このALICEのように!!奴は私にとってはそのへんのゴミAIを積んだ機械以下だ。道具にもならん。」「そうかい・・・!お前にとっては薔薇水晶の想いも・・・ただの利用価値でしかなかったわけか・・・!」キラキショウの背部の2丁の銃身がスペリオルに向けられ、高速のビームが放たれる。しかし、ALICEの反応は最早人外。それすらも回避する。「想いね・・・実に下らない。神が人間如きに特別な感情を持つと思うのか?」「神だと・・・?思い上がりもそこまでくれば立派なものだな、槐!!大した妄想力だ。」「妄想?違うな。教えてやろう、雪華綺晶。」スペリオルの頭部の有線ビーム砲、インコムがキラキショウに襲い掛かる。しかし、それを回避する。「何故なら・・・アリスは私の操り人形に過ぎないのだからな!!!」
「な・・・なんだと・・・・?」「聞こえぬか?アリスは私の思うがままなのだよ。」雪華綺晶に動揺が走る。スペリオルはそれを逃さない。青いビームサーベルがキラキショウに切りかかる。「馬鹿な・・・何故お前がアリスを・・・アリスは今こそああだが、完成当初は間違いなく最高、最優の人工知能だったはずだぞ!」キラキショウは後方に下がりつつサーベルを切り払う。「そうだな。確かに素晴らしかったよ。あれほど神のような力を持ちえながら人間などに従う。それが機械の宿命だと言わんばかりに。しかし・・・だ。10年前、何故急に暴走したと思う?私が多少弄ってやったのだよ。私は曲りなりにもローゼンの弟子。人間に対するロックを外すくらいわけない。」「貴様・・・・貴様が全ての元凶だというのか・・・?貴様が・・・」雪華綺晶の左目に憎悪の炎が溢れる。「まぁ、そう言う事だな。誰も気づいてはあるまい。アリス自身な・・・しかし、想定外もあった。それが、ローゼンガンダムだ!ローゼンは恐らく予想していたのだろう・・・私のような奴が離反するとな。だが、私の覇道は邪魔させん!この場で貴様らを討てば!アリスに勝てるものなどおらぬ!!」「貴様は!!貴様のその行動でどれだけの血が・・・どれだけの涙が流されたと思ってるんだ!!」「さぁな。神が人間に興味を持つと思うか?実にくだらんよ。」キラキショウのサーベルが振り下ろされる。スペリオルはそれを受け止めると後退する。「貴様だけは・・・・貴様だけはっ!!!」しかし、キラキショウは追いすがる。スペリオルは膝に新たに武装された有線で動く何かを放ち、キラキショウの斬撃はサーベルで受ける。「威勢だけでは虫も殺せぬぞ・・・失せろ!雪華綺晶!!」スペリオルがビームスマートガンを2発放つ。しかし、それはキラキショウにはかすりもせず、空へ飛んでいく。「貴様が死ぬといい・・・槐!!」キラキショウが加速しする。しかし・・・後ろから飛来したビームがキラキショウの頭部を撃ち抜いた。
「!?何だと!いけない・・・メインカメラが・・・」再びスペリオルがビームを放つ。また同じようにキラキショウに当たらない。だが。「うあっ!?後ろ・・・だと?」次はキラキショウの左脚部を破壊する。そのビームは確実にキラキショウの背後から迫ってきたのだ。「はっはっはっはっは・・・直撃は避けるか。さすがだな。だが、メインカメラが壊れ、右目のないお前が果たしてこれを・・・リフレクターインコムをかわせるかな?」スペリオルの膝部のインコムが戻り、スペリオルの少し前に浮上する。それに向けてビームを撃つ。すると、そのインコムはビームを反射し、反射されたビームがキラキショウへ向かっていく。「くっ・・これは・・・・不味いか・・・?」雪華綺晶に冷たい汗が流れる。これは不味い。不味過ぎる。ただでさえ右目がない事で視界が狭い。その上メインカメラが破壊され、全方位からの攻撃。だが、それでも・・・「私は・・・負ける訳にはいかない・・・貴様にはな!!」キラキショウがサーベルを掲げ、スペリオルに向かう。「愚かだ・・・人間は実に愚かだな。ゴミはゴミらしく・・・這いずり回って消えよ!やれ、ALICE!」再びスペリオルの目が怪しく光る。キラキショウの斬撃を切り結ぶ。尚も続く連撃すらも余裕で受け続ける。少しの隙をつき、今度はスペリオルが反撃する。その攻撃は右側を集中させている。「っくっ・・・・くそ・・・どうする・・・!?」「はーっはっはっはっはっは!そうだ、いい足掻きだな雪華綺晶!足掻け、神を楽しませろ・・・」スペリオルが距離をとり、再び膝部のリフレクターを射出する。射出されたリフレクターはすでに雪華綺晶の死角に回ったのか、警告アラートだけが鳴り響いていた。「ちぃっ・・・私は・・・・」「そろそろ終わりにするか・・・見えぬものはどうしようもなかろう!貴様には右目がないのだからな!!」
そうか・・・私には右目がない・・・だから勝てないのか・・・・でも、おかしいな。今まではどうしてきたんだっけ・・・私は右目を失いながらも、今まで戦い勝って来た・・・多くの戦場を越えてきた・・・何故だったかな・・・「お姉ちゃん!右!!」そんな声が聞こえた気がする。思わず私は機体を動かした。「!何だと!?」どっからか驚愕の声が聞こえる。かわした?右からの攻撃を・・・そうだ。「はははははっ・・・・そうか。そうだったな・・・」私は言う。そして・・・左目をも瞑った。「雪華綺晶・・・貴様!舐めるなぁああああ!!!」「お姉ちゃん、下と左後方だよ!次は左右からの挟撃!」私はその声に導かれるままに、機体を動かす。大丈夫だ、当たってない。それに・・・私には見えた。目は瞑っている。だが、脳に今の映像が直に伝わってくる。槐が真正面からサーベルを切り下ろす。私は、それに合わせてサーベルをぶつけ切り結ぶ。「馬鹿な!?どう言う事だALICE!当てろ!殺すんだ!!!」『ニンゲン・・・リカイフノウ・・・リカイフノウ・・・・』はははっ、見てみなよ。慌てふためいているよ。いるんだろう?薔薇水晶。貴方はずっと・・・側にいたんだね。ずっと、私の右目として・・・守ってくれてたんだね。貴方を通して私の右目は見えていたんだ。「槐・・・お前はひょっとしたら悲しい存在なのかもしれない・・・」「何だと!貴様・・・神に向かって・・・」「人間は、愚かなんかじゃない。人は、想いを伝える事ができる。ここにいなくとも、想いは此処にある。機械にはできない事。人の想いは・・・どんなものよりも強いんだよ・・・」私は再び左目をあける。生物学的には見えていない右目も、感じる事ができる。「人の想いを知らない男・・・お前は可哀想な奴なのかもな・・・」「ぐっ・・・黙れ!黙れ黙れ黙れ黙れええええええ!!!人間が神に意見するな!機械は崇高だ!全てが私の思うがまま!私によって統制された世界!それこそが世界のあるべき姿なのだ!!」『オモイ・・・ニンゲン・・・ツヨイ・・・ニンゲン・・・オモイ・・・』「ええい!ALICE貴様までもか!私の思い通りにならぬモノなど・・・必要ない!!!」
『オトウ・・・サマ・・・』槐はALICEのシステムをダウンさせる。「手負いの貴様如き、私でも充分殺せる!!死ねえええ!!」スペリオルが頭部のインコムを起動させる。右側を回り込み、砲撃する。「・・・・・・槐・・・・」インコムのビームはキラキショウの背部のV・S・B・Rを撃ち抜く。「はーっはっはっはっは!矢張り見えておらんな!その爆発に呑まれて死ぬがいい!!」撃ち抜かれたV・S・B・Rが爆発を起こす。その爆発に呑まれキラキショウの反応が消える。「やった・・・やった・・・ぃぃぃぃやったああああああ!!!」爆発の煙が消える。そこにキラキショウはない。槐は勝利を確信する。V・S・B・Rはあれだけの出力だ。その爆発で機体も粉々になってもおかしくない。だが・・・彼の歓喜が5秒後、打ち砕かれた。「がっっっっ!!!!な・・・な・・・ぜ・・・・?」5秒後・・・スペリオルの腹部には頭部と左脚部のない機体のサーベルが突き刺さっていた。「どうということはない・・・あの瞬間。V・S・B・Rをパージ(分離)し、煙にまぎれてインビシブルを起動させた。たったそれだけだ・・・お前が・・・ALICEを・・・機械すら信じられなくなったのが。お前の敗因だ。ALICEならば・・・回避できたろうに。」キラキショウがサーベルを引き抜く。主を失った機体は重力に負け、落下していく。「ばか・・・な・・・私は・・・神に・・・なるはずの・・・男・・だぞ・・・な・・・ぜ・・・・」そして、その野望を乗せた機体は爆発し、光に吸い込まれていった。「ALICE・・・次は人間に生まれるといいな・・・槐・・・お前はやはり哀れだよ。人間を信じず、機械すら最後は信じれず・・・信じる事。信じ続ける事・・・それが本当の強さなんだよ・・・」
次回予告 神になろうとした男、槐は雪華綺晶に討たれた。だが、戦いは終わらない。白崎と対峙する翠星石はその圧倒的とも言える技量を持つ白崎に苦戦していた。しかし、ピンチの翠星石に飛来してきたのは煙幕爆弾・・・ジャマーボムだった。次回、超機動戦記ローゼンガンダム せめて、自分らしく 想いは、二つの武器に受け継がれている・・・
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