第二十九話 眠れぬ夜
「超機動戦記ローゼンガンダム 第二十九話 眠れぬ夜」
時間は既に22時を回っていた。JUMはどうにも寝付けずに艦内を歩いていた。この3日間はひたすらに機械と睨めっこしていた。損傷した各部を直し、残り5機となった切り札であるローゼンガンダムを最終調整し、万全の準備を整えてきた。昼過ぎに準備が完了したメイデンは他のレジスタンスの応援に入り、夕方には全レジスタンスの準備が完了、明日の作戦開始時刻までゆっくり休憩となっていたのである。「喉かわいたな・・・食堂行くか・・・」JUMが食堂に向かって歩いていく。カツンカツンとJUMの足音だけが廊下に響き渡っていた。JUMは歩きながら物思いにふける。思えばこの10年は様々なことがあったな、と。アリスの乱からはじまった動乱。短いながらも、真紅、のりと過ごした学生時代。(梅岡の存在は記憶から抹消済み)メイデンに入り、今の仲間達との出会い。メイデンのリーダーとサクラダの艦長を受け継いだ日。度重なる戦い・・・そして、散っていった仲間達・・・その戦いもきっと明日で終わる・・・いや、終わらせる。自分の中で再び決意を固め、食堂に入っていくJUM。「ん?JUMじゃないか。」食堂には、先客雪華綺晶がいた。
「眠れないのか?ふふっ、まぁ私もなんだがな。紅茶でいいかな?」「ああ、頼む。隣、座るよ。」JUMは雪華綺晶の椅子の隣に座る。雪華綺晶はカップに紅茶を入れてJUMに差し出した。「遂に、明日だな・・・・」「ああ・・・明日は私は槐を狙う。奴とは決着をつけないといけないからな。」雪華綺晶がカップを口に運ぶ。そして、それをテーブルに置くとジッとJUMの顔を見た。「ん?何だよ?そんな僕の顔を見て。」「いや、なに。JUMもいい男になったと思ってな。」ふふっと雪華綺晶が笑う。「む・・・何だよそれ?」「いやいや、出会った時はまだ頼りなさそうだったが・・・いい男になったよ・・・JUM、知ってるか?ああ見えて薔薇水晶は君の事が好きだったんだぞ?」雪華綺晶の言葉にJUMは頭をハンマーで殴られたような衝撃を受ける。「んなっ・・・どうしてそんな・・・」「どうしてかな・・・ただな薔薇水晶は君にその想いを伝える事なく死んでしまった。私は明日、死ぬ気はないが万が一私がいなくなったら、薔薇水晶の想いはJUMに届かないだろう?それは、悲しい事だよ。」JUMは何となく雪華綺晶の言いたい事が分かった気がした。いつまでも、忘れないでやってくれ・・・と言っているのだろう。雪華綺晶はカップの紅茶を飲み干すと席をたった。「さて、私はそろそろ眠る事にするよ。それじゃあ・・・また明日。」雪華綺晶は手をプラプラ振りながら食堂を去っていった。
「薔薇水晶が・・・ねぇ・・・」食堂に残されたJUMは一人で紅茶をすすっていた。そこに別の人物が入ってくる。「JUM・・・こんなトコにいやがったですか。翠星石にも紅茶をいれやがれですぅ。」ズカズカとJUMの隣に座り、JUMの入れた紅茶を飲む翠星石。その表情はどこか浮かない。「・・・怖いか?翠星石。明日が・・・」「なっ・・・ちょ、調子に乗るなですぅ!翠星石はへーきのへーざですぅ!!で、でもぉ・・・」ガーッと声を荒げた翠星石だが、やはりどこか勢いがしぼんでいる。「やっぱり寂しいですぅ・・・薔薇しーも・・・チビ苺も・・・蒼星石もいないのは・・・寂しいですよ・・・」翠星石の目に涙と思しき液体が溢れてくる。まぁ、言ったとしても汗ですぅと言うだろうが。「泣いてるのか?翠星石。」「な、泣いてなんでねーです!これは目がJUMの紅茶が熱いから汗かいてるです!」ほらね。思わずJUMは苦笑してしまう。「でも・・・明日は絶対負けねぇですよ。あの兎は倒すです。蒼星石の仇として・・・」ぐっと拳を握り締める翠星石。しかし、そんな翠星石の頭にJUMはポンと手を乗せた。「な、何しやがるですか!?乙女の頭を気安く触るなですぅ!」「そんな気張らなくていいんじゃないか?翠星石は翠星石だろ?」JUMの言葉に翠星石はハッとする。そして、何かを考えた後、モジモジするようにJUMの胸に頭を預けた。「・・・まぁ、忠告ぐれえ聞いといてやるです・・・それから、乙女の頭を触った罰です・・・しばらくこうしてろですぅ。」JUMは何も言わずに、ただ翠星石の頭をなでていた。服の胸の辺が濡れたのは、気のせいだろう。
JUMが翠星石と別れ、部屋の戻ろうとする途中バイオリンの音が聞こえてきた。その音に誘われて足を運ぶと、一人でバイオリンを弾いている金糸雀がいた。「緊張ほぐしのリラックスか?」「ひあああ!?J,JUM?ビックリさせないで欲しいかしら~。」背後から声をかけたのは不味かったのか、金糸雀は相当ビックリしていた。「悪いな。あまりにいい音楽だったからついつい来ちゃったよ。」JUMは頭をかきながら金糸雀の近くで座る。「ほんと!?さっきのは、レクイエムかしら。」「レクイエム?」レクイエム・・・鎮魂歌の事だろう。金糸雀が解説してくれる。「そう、レクイエムかしら。アリスの乱がはじまって10年・・・多分数え切れないほどのたくさんの人が死んじゃったかしら。カナもたくさんの人の死を目の前で見てきた。だから、明日の決戦を前に亡くなった人々を送ってたかしら。」「成る程な・・・だからかな。凄く優しい曲だったよ。」JUMがそう言うと金糸雀が笑顔になる。「えっへへへへ・・・みんなカナの音が好きって言ってくれたかしら。薔薇水晶も、蒼星石も、雛苺も。だから、明日は3人の・・・ううん、みんなの為にカナは一生懸命音を響かせるかしらー。」金糸雀がぐっと拳を握って意気込みを言った。
時間はすでに24時近くだった。それでも眠れないJUMは甲板に向かった。まだ自分がメイデンに入りたての頃、眠れないときがあるとJUMは甲板で星を見ていた。気持ちが落ち着くのだ。「あらぁ?JUMがここにいるなんて久しぶりねぇ?」JUMが振り返る。そこには長い銀髪をはためかせた水銀燈がいた。「水銀燈か。僕は結構来てるぞ?水銀燈こそ久しぶりじゃないのか?」「そうでもないわよぉ?ふふっ・・・もしかしたら今までは神様の悪戯でタイミングずらされてたのかもねぇ。でも・・・決戦を前にまたここで会えたのは運命感じちゃうわぁ~。」水銀燈がJUMの隣に体を引っ付けて座る。水銀燈の匂いがJUMの鼻をくすぐった。「いよいよ明日ねぇ・・・ふふっ、何だか今になって色々思い出しちゃうわぁ。ほら、JUM覚えてるぅ?私と真紅っていつも意見の違いで衝突してたじゃなぁい?あの時は絶対仲良くなれないって思ってたわぁ。」「ははっ、そういえばそうだったな。じゃあ、今はどうなんだ?」水銀燈が頭をJUMの肩に乗せる。風になびく髪がJUMをこしょぐる。「今?そうねぇ・・・相変わらず五月蝿いし、貧乳で、ブサイクだけどぉ・・・一番背中を任せられるわぁ。」水銀燈がクスッと笑う。そして、その美しい瞳でJUMの目を覗き込んだ。「ねぇ、JUM・・・・?」「ん・・・なんだ?」月の光が水銀燈を照らす。その余りの美しさにJUMは思わず見惚れてしまう。「ふふっ・・・なぁんでもなぁい。抜け駆けはズルいものねぇ・・・でも、これくらいいいわよね。」JUMが何の話だろうと思っていると、水銀燈はJUMの頬にキスをした。「す、水銀燈!?」「おまじないよぉ・・・JUMが明日も頑張れるように・・・そして、生き残れるように・・・ね。」そう言って笑みを見せながら水銀燈は部屋に戻っていった。
JUMは部屋に戻ろうとし、道中真紅の部屋で立ち止まった。鍵もかかっているし、電気も消えてる。恐らく眠ったのだろう。どんな時でもマイペースに寝そうだし・・・とJUMは部屋に戻ると布団にもぐりこむ。しばらくすると、意識は闇の中へ落ちていった。そして、翌朝・・・運命の日が訪れた。JUMは軽く身支度をすると部屋をでる。「JUM、おはよう。」そこには真紅がいた。ある程度身支度がされているが、長い金髪はまだ下ろしたままだった。「おはよう、真紅。どうしたんだ?」「少し話がしたのだわ・・・甲板に行きましょう?」JUMは真紅に手を引かれるまま甲板に向かっていった。
次回予告 遂に決戦の朝を迎える。甲板でJUMと真紅は背中合わせで話をする。そして、作戦開始時刻、数分前。ベジータによって最終作戦名が告げられた。次回、超機動戦記ローゼンガンダム Rozen Maiden その戦いに、全てを賭けて・・・
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