第二十八話 雛苺
「超機動戦記ローゼンガンダム 第二十八話 雛苺」
ポーランドの空に閃光が走る。赤い魔槍ゲイボルグと、ビームサーベルが弾け合う。「うっ・・・・っく・・・」しかし、それで体に走る衝撃は尋常ではない。そもそも、ヒナイチゴ自体が完璧ではないのだ。傷口から伝う液体を感じる。口にも鉄の味が滲んでくる。「ひゃあっはははー!苦しそうだなぁ!」梅岡が歪んだ笑顔を向ける。「うゆ・・・苦しくなんかないの・・・・まだ戦えるんだからぁ・・・!」有線ビーム砲を展開させる。4つのビームが踊るようにプラムに襲い掛かる。「ひゃは!甘いんだよぉおお!!」プラムのダブルビームライフルが有線ビーム砲を2つ破壊する。「さぁどけ!僕はせめて桜田を殺さないと押さえれそうにないんだよぉおお!!」プラムがヒナイチゴの脇をすり抜けサクラダに向かおうとする。しかし、その背後からビームが走る。「いかせないの・・・JUMのところにはいかせないのーー!!」ビームサーベルを持ってプラムに襲い掛かる。プラムもさすがに背後は不味いからか迎撃する。「お前ぇええ・・・いい加減にしろぉお!!」サーベルをはじき、槍がヒナイチゴの左腕を切り落とす。「きゃぁ!?・・・・っぐう・・・・」機体が激しく揺れる。その衝撃で雛苺の体が悲鳴をあげる。しかし、それでも彼女は止まらない。「サクラダは・・・JUMは・・・巴は・・・雛が絶対守る・・・守ってみせるの!!」2つに減った有線ビーム砲が尚もプラムに襲い掛かる。「・・・・おまええええええええええ!!!!」ホーミングミサイルを放ち、そのビーム砲をも破壊する。ヒナイチゴには最早片腕とビームサーベル1本、そしてライフル1丁しかなかった。
「お願い、雛苺下がって!!貴方の体はもう・・・・・」巴の悲痛な叫び声があがる。それでも雛苺は下がる気配は無い。「くっ・・・これじゃあヒナイチゴにも当たりかねない・・・援護ができないか・・・真紅!水銀燈!これないのか!?」「・・・全機交戦中です・・・・」オペレーターの少女が言う。「これで終いだなぁ。」ゲイボルグを構え、ヒナイチゴの胸部・・・即ちコクピットを狙い突きを繰り出す。雛苺は朦朧とする意識の中で機体を若干動かす。そのせいか、ゲイボルグはコクピットではなくヒナイチゴの頭部を貫いた。頭部が爆発し、メインカメラが破壊されながらもヒナイチゴはライフルの引き金を引く。ビームはプラムに当たる事なく、逆にプラムのダブルビームライフルがヒナイチゴの残った右腕をも打ち落とした。「あーっひゃっはっはっは!これでもう貴様は攻撃できまい!邪魔をするな・・・」機体を翻しサクラダに向かっていく。「くっ、打ち落とせ!!」対空機銃が放たれる。しかし、プラムはそれを軽快にかわし、遂にブリッジ前にその魔槍を突きつける。「ふふふふ・・・・はははははは!!見える・・・見えるよ桜田・・・恐怖に歪む君の顔が・・・ああ、ゾクゾクするなぁ・・・僕の中の性欲がもうパンパンに暴れまわってるよ・・・」恍惚の表情をする梅岡。槍を若干後ろに下げ、突きの体勢をとる。「く・・・・くそおおおおおおおおおおお!!!!」「あーっはっはっはっはっはっは!!死ねえええええええええ!!!!」その槍が突き出される瞬間、プラムはピンクの機体に弾き飛ばされる。「げほっ・・・・げふっ・・・やらせないの・・・守る・・・の・・・絶対に!」腕が無ければ体でぶつかっていく。しかし、その衝撃は雛苺の体に致命的なダメージを与える。「そうかい・・・・そうかいそうかいそうかいそうかいいいい!!!こんのクソガキがあああああ!!!!」梅岡が憤怒の表情ですでに大破でもおかしくないヒナイチゴを見る。プラムの背後のホーミングミサイルがヒナイチゴに目標を定める。「やめて・・・やめてええええええええ!!!!」「死ねよやあああああああ!!!!!」いくつものミサイルがヒナイチゴめがけて飛んでいく。しかし、それはどこからか飛来した黒い羽に相殺された。
「金糸雀!雛苺を!」「分かってるかしら!!」飛来したのは黒い天使と黄色の音楽家。スイギントウはダインスレイブを持つと、プラムと打ち合う。「てめぇかぁ!?どいつもこいつも邪魔ばかり・・・・!!」ダインスレイブとゲイボルグが打ち合うたびに盛大に火花が散る。「あらぁ?いいじゃない、その顔。変態教師の本性ねぇ・・・でも、女の子いたぶるのはよくないわぁ!」プラムが再びホーミングミサイルを放つも、スイギントウがフェザーファンネルで全て打ち落とす。「梅岡、撤退だ!これ以上こっちも戦力を削る必要はあるまい。」いつのまにか、近くで翠星石と戦闘中の白崎が言う。「ちっ・・・俺はいつになったらイケるんだ・・・・ふぅ・・・勝負はここまでだね天使さん。」プラムが距離をとる。「大人しくなっちゃったわねぇ。でもぉ・・・私が逃がすと思ってるのぉ?」フェザーファンネルを放つ。プラムは後退しながらファンネルを撃墜する。「ふふふっ・・・天使さん。決着は最後の戦いになりそうだね。楽しみにしてるよ?」「ちぃ・・・待ちなさい!!」スイギントウがプラムを追う。しかし、スイギントウのコクピットにJUMの声が響く。「水銀燈、下がるんだ!雛苺が!!」水銀燈はその言葉に思いとどまり、歯軋りをするとサクラダに帰還していった。
「雛苺!?」最後に帰還した水銀燈が医療室へ駆け込んだ!その室内は驚くほど静かだった。「嘘・・・・嘘でしょう・・・?」「すい・・・ぎん・・・とう・・・?」弱弱しい声が聞こえる。生きてる・・・雛苺は生きてる。水銀燈は駆け寄る。「あり、が、とう・・・雛ったら・・・最後まで・・・迷惑・・・かけちゃった・・・」「雛苺・・・いいのよぉ・・・貴方がいなかったらJUMは・・・サクラダは沈んでたわぁ。」水銀燈の言葉にベッドに寝かされた雛苺がほのかに微笑む。「ともえ・・・雛・・・守れた・・・・?JUMも・・・のりも・・・ともえも・・・守れた・・・?」巴が雛苺の手を握る。そこから感じられる力はほんの僅かだった。「うん、うん。雛苺は守ったよ・・・桜田君も、のりさんも・・・私も・・・なによりね?雛苺は世界の人の希望を守ったんだよ・・・雛苺がいなかったら補給艦も・・・」巴の瞳から涙が溢れている。その涙は頬を伝って雛苺の顔に落ちる。「ともえ・・?ないてる・・・の・・・?なかない・・・で・・・」雛苺の力ない腕少しずつ上がり、巴の頬をなでる。温かい体温が巴の頬に伝わる。「そこにいる・・・?ともえ・・・・そこにいるの・・・?」「雛苺?いるよ。私はここに、貴方の側にいるよ。」頬に触っている手を握りながら巴がいう。「よかった・・・ともえ・・・ずっとひとりぼっちだった・・・ひなと・・・・いっしょにいてくれて・・・とっても・・・とっても・・・うれしかったよ・・・ともえが・・・いたから・・・ひな・・・がんばれたの・・・」巴は違和感を感じる。徐々に・・・ほんの僅かだか頬を触れている手から力が抜けていく。「と・・も・・え・・・・」その口はゆっくり、その声は僅かしか出ていない。それでも、静寂の部屋には響いている。「あ・・・り・・・が・・・・と・・・・う・・・・・・」そして、彼女は笑った。いつもの笑顔で。それと同時に巴の頬に触れていた手は、ゆっくり力を失い、落ちた。「あ・・・・っく・・・ひな・・・いちご・・・・」彼女はもう、話さない。泣かない。怒らない・・・・もう・・・・笑わない・・・この笑顔を最後に・・・「ひないちごおおおおおおおお!!!!!」巴の叫び声が艦内にこだました。
「べジータ・・・準備、5日だったな。4日・・・一日でも早くできないか?」ベジータはJUMの顔から悟る。雛苺が死んだ事を。「4日か・・・・いや、3日でやってみせよう。」「べジータ・・・お前・・・」べジータがフッと笑う。「いいか!人員総動員だ!これ以上アリスをのさばらせるわけにはいかない!」べジータが号令をかける。基地内部は一気に慌しくなる。雛苺が命をとして守りきった補給物資をふんだんに使い、最後の戦いに向けて準備が急ピッチにしかし、これ以上無いほど丁寧に進められる。「雛苺・・・お前のお陰で僕らは最後の戦いに完璧な状態で挑めそうだよ・・・」JUMが青く澄んでいる空を見上げる。「だから・・最後まで見ていてくれ・・・僕らは絶対に・・・負けないから・・・」
次回予告 悲しみに暮れる暇もなく、アリスとの最終決戦の準備が進められる。そして、出撃の前日の夜。眠れないJUMは艦内を歩き回る事にした。次回、超機動戦記ローゼンガンダム 眠れぬ夜 それぞれの思いを胸に、夜はふけていく・・・
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