下り坂急カーブ注意!暴走注意!
「薔薇水晶、もうちょっとスピード落とすです」「……でもこれ以上落としたら後ろの車にぶつけられるよ……」「でも制限は60キロですよ」「でも他の車はそれ以上で流れているから……」 確かに他の車は少なくとも60キロ以上で飛ばしている。80キロ以上は出ていると思う。 今走っている道路は一応国道となっているが、実際は高速道路といっても差し支えないつくり……というか、高速そのものだった。 ぱっと見ただけでは100キロで飛ばしても差し支えない道だ。 現に追越車線を飛ばす車は100キロは余裕で越えているだろう。
京都へ祇園祭を見に行こうと、車で旅行に出かけた。 最初は名神高速で行こうと思っていたものの、リフレッシュ工事とやらで大渋滞とのことだった。 ダラダラと行くのも鬱陶しいので、豊田まで東名高速、そこから伊勢湾岸道、四日市から東名阪道と高速を乗り継いで、亀山から名阪国道こと国道25号線へと流れてきたわけなのだが。 そこから奈良へ出て、そのまま北上すればいける筈なのだ。
ただ、インターチェンジの数がやたらと多い。 そのために地元車なんかが流入してきては、流れが悪くなるってのもしばしばある。 おまけに道路のアップダウンが激しい。勾配がきついものもあった。 その辺が普通の高速道路と違う点だろう。 さらに覆面パトカーの数がやたらと多い。 パトカーに捕まって、路肩に止めさせられたり、インターを降りさせられたりしている車を度々見かけた。「まったく、このまま飛ばしていたら捕まっちまうですよ」「……見つからなければ大丈夫……」 薔薇水晶は本当にどこ吹く風といった感じだった。 でも、何とか順調に飛ばしているわけだが。
やがて車は三重県から奈良県へと入り、さらに進んで天理市内に入ったあたりだった。 福住インターを過ぎたあたりで、やたらと『下り坂カーブ注意』だの『下り6.0%』だの『エンジンブレーキ・排気ブレーキ使用』だのといった看板が目に付く。「なんかいかついですね。とにかくスピードを落とすです」「……別に。翠星石は心配しすぎ……」 薔薇水晶は特に気にする様子も無く、スピードを落とす気配も無い。
すると、いきなり道路は下り坂になった。 しかもやたらとカーブが多くなる。「……これ……結構飛ばしがいがあるかも……」 いきなりそんなことを口にしだす薔薇水晶。 途端に、アクセルを吹かしだした。「ち、ちょっと!何飛ばしてるですか!」 慌ててスピードメーターを見ると、すでに105km/hだった。 何時の間にか追越車線を走らせていて、隣の走行車線を飛ばす車を悠々と抜かしていく。 すると目の前には遅いトラックが走っていた。「ブレーキ掛けるです!」 私は思わず叫んだ。 しかし、薔薇水晶はそれをするどころか、前の車にパッシングをしていた。 だが、隣の車線へ移る気配が無いので、いきなりハンドルを左に切って、無理矢理走行車線へと移る。 その直後には別の車が走っていて、危うく接触しそうになったが。「危ねえです!いい加減にするです!」 だが、私のそんな抗議を彼女が聞くなんてことは無く、トラックを抜かすと再び追越車線へと車を戻す。 すると今度は目の前に左に曲がる急カーブが。 しかも、高速道路ではありえない、半径の小さい急カーブが迫っていた。
「……これ、最高」 薔薇水晶は楽しそうな様子で、速度も特に落とすことも無く、カーブに差し掛かると、大きくハンドルを左に回す。さらにサイドブレーキに手を掛けて…… って、ドリフトをやらかすつもりですか!? 車はなんとかカーブを曲がりきった。 もっとも危うく中央分離帯にぶつけそうにはなったが。 さらに曲がった勢いがあまって、走行車線を走っていた車にぶりかりそうになる。
「ちっ……ドリフトができなかった……もっと飛ばそうかな……」 舌打ちまでしちゃっている薔薇水晶。 って、あんたはそれほど死に急ぎてえですか!?「お願いだから、やめるです!翠星石まで巻き込むなです!」 私は必死になって嘆願した。 本気で薔薇水晶と心中してしまうのかとも思った。「まだまだ……レッツトライ♪」「ちょっとぉー!」 その先もさらに右カーブがあり、猛スピードで突っ込んで、危うく隣の車にぶつけそうになるわ、無理な追越をかましてくれるわと……少なくとも遊園地のアトラクションよりも遥かに怖い思いをした。 ようやく、天理東インターの手前あたりでこの急カーブ・急坂地帯は終わった。
「楽しかった……ここ無料だから、降りて引き返してもう一回やろうかな♪」 薔薇水晶は上機嫌でインターを降りようとする。「やめるです……」 私は強引にハンドルに手を掛けて、インターを降りようとするのを阻止した。「もう勘弁してほしいです。てか、やって死ぬことになったら一生呪ってやるです!」 私は涙目になって薔薇水晶を睨みつけた。「分かったよ……」 つまらなさそうな感じで、薔薇水晶はそれをあきらめたようだ。
数時間後、京都までたどり着いた。祇園祭の山鉾巡行の会場である四条通に着いた時には、くたくたになって祭りを楽しむ余裕などなかったのは言うまでもない。
後日、この話を水銀燈にしたところ――「大変だったわねぇ。あの子も結構やんちゃしてくれるわ。 というか、あの子の運転は本当に危ないわよぉ。免許を取るときに私の車を貸したのだけど、飛ばしすぎて見事にボコボコにされたし、教習所の卒検でも教官が死にそうになってたみたいだわぁ。 しかも、名阪のΩカーブの下りでしょ。あそこ、日本でも死亡事故が多いことで有名だわぁ。私も走ったことあるけど、確かに危ないわよ。あんな所を平気で100キロ以上で飛ばせたものねぇ」 てか、そのこと早く教えてほしかったです!
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