第二十四話 勿忘草
「超機動戦記ローゼンガンダム 第二十四話 勿忘草」
「蒼星石・・・ぐすっ・・・寂しいですよぉ・・・蒼星石ぃ・・・・」暗い部屋で体を縮めて翠星石は泣いていた。あれから一日がたって、改めて・・・蒼星石がもういない事を実感してしまった。いつも朝になると、自分を起こしに来てくれるのに今日は来てくれなかった・・・自分に元気がないといつも励ましてくれに来てくれるのに、今日は来てくれなかった・・・分かってる・・・もう脳はそれを確信してしまっている・・・でも、心は認めていなかった。認めてしまうと、全てが壊れてしまうそうで。「そう・・・せい・・・せきぃ・・・会いたいですよぉ・・・声が聞きたいですよ・・・体温を感じたいですよぉ・・・」翠星石が枕を抱きしめて泣き崩れ、そのまま泣き続けた。
「翠星石はどうだ・・・?」ミーティングルームには翠星石以外が集まっていた。真紅が首を振る。「ダメなのだわ・・・まるで、自分を見てるようだったわ。」真紅が少し前の自分の出来事を思い出し、そしてそれを振り払うように首を振る。「私達では何もできないさ・・・これだけはしょうがない事なんだ・・・」雪華綺晶が言う。「そうねぇ・・・でも、言い方は悪いけどやっぱり貴方は強かったわよねぇ・・・」「そんな事はないさ・・・ただ、人前では泣きたくなかっただけさ。最後は泣いてしまったけどな。」再びミーティングルームに静寂が訪れる。その時、一人のクルーが現れた。「失礼します。蒼星石さんの遺品片付け終わりました。それと・・・こんなモノがありまして。」クルーがさっとJUM達にそれを見せる。それは蒼星石が翠星石に当てた手紙だった。
「翠星石。いるか?」JUMが翠星石のドアをノックする。当然のように中からはなんも反応はない。しかし、JUMは続ける。「蒼星石の遺品の中にお前宛の手紙があった。部屋の前に置いとくからさ・・・気が向いたら読んでやってくれないか?それじゃあ、僕は行くから。」JUMはそう言うとミーティングルームに戻っていく。翠星石はその足音を聞き遂げると、静かにドアを開けてみた。そこには、一つの封筒があった。宛名には翠星石、差出人は蒼星石だ。翠星石はフッと思い出した。最後の出撃の前に、蒼星石が何か手紙のようなものを書いていた事を。そうか・・・きっとコレを書いてたら自分が部屋に入ってきたから慌てて隠したんだろうな、と思う。翠星石が机の明かりだけをつけて椅子に座り、丁寧に封筒の封を解く。中に入っていたものは3つ。一つは蒼星石の綺麗で几帳面な字で書かれた手紙。そして、青色の花。もう一つは、写真だった。どうやら写真は数枚入ってたようだ。翠星石はその写真をみると思わず涙ぐんだ。一つは、それぞれ目の色が違う双子の子供を抱き幸せそうに笑う家族の写真。間違いない・・・この子供は自分達。それを抱っこしてるのは両親だ。二つ目は、JUMを中心にメイデンのメンバーと撮った写真だった。そこには、蒼星石も薔薇水晶もいた。今では長い髪の雪華綺晶や水銀燈もこの写真では少し今より短めだ。そうだ、これはJUMがサクラダとメイデンを引き継いだときの記念写真だ・・・自分はと言えば、JUMに引っ付いている雛苺にヤキモチをやいて真紅と一緒に引き離そうとしている。蒼星石はそれを見て苦笑していた。そして、最後の写真。それは緑と青のガンダムをバックに蒼星石と二人で手を繋いでとった写真だった。写真には蒼星石の字で「ずっと一緒だよ」と書かれてあった。「蒼星石・・・・っ・・・うぅ・・・・」翠星石は思わずその写真を抱きしめて涙をこぼした。そして、涙を拭うと手紙を開いた。
翠星石へ
君がこの手紙を読んでいるという事は、僕はきっと君を泣かせる事になってるだろう。泣き虫な姉を困らせる妹を許して欲しい。翠星石・・・今までありがとう・・・もう僕が暖かいあの場所で翠星石と話したり、一緒にいることはできないけど・・・翠星石が居たからここまで頑張れた・・・本当にただそれだけなんだ・・・
本当にありがとう・・・僕からの最後の贈り物受け取ってくれるかな?覚えてるかな。いつかモスクワの花屋さんに寄ったとき。あの時買っておいたんだ。やっぱり、僕はこの花が好きだから・・・この花が蒼いのは単なる偶然かな・・・?僕はきっと偶然なんかじゃないと思うんだ。だって、翠星石が僕には蒼が一番似合うって言ってくれたから・・・花はいつか枯れてしまうけれど、思いは続くかもしれないから・・・
もし良ければこの花の花言葉を時々は思い出して欲しいんだ・・・この勿忘草の花言葉は・・・『真実の愛』。『記憶』。そして・・・『私を忘れないで』・・・
今までありがとう・・・大好きな翠星石・・・君とあの暖かい場所で過ごせたのは本当に短い時間だったけど、僕は本当に幸せでした・・・
忘れないで。君には仲間がいる。大切な人がいる。守るべき人がいる。何より・・・僕はいつも側にいるから。
蒼星石
「あ・・・ぐす・・・うっ・・・ほんとに・・・困った・・・妹・・・ですよ・・・ひっく・・・」翠星石の涙が蒼い花・・・勿忘草の上に滴り落ちる。勿忘草がその涙を受けて、美しく光り輝いている。「忘れるわけねーです・・・忘れられるはずねーですよ・・・蒼星石は、翠星石のたった一人の双子の・・・妹なんですよ・・・?ぐすっ・・・誰よりも・・・何よりも大事な・・・たった一人の・・・ひっく・・・」翠星石が勿忘草を手に取る。つい数日前の花屋での出来事を思い出す。ようやく納得がいった。あの時、蒼星石がなんでこの花の花言葉を教えてくれなかったのか。蒼星石には覚悟があったんだ。戦場に身を置いていれば、それは死と隣りあわせで座っている事。自分だっていつ死ぬか分からないって。だから・・・その時残される自分の為に残しておいたんだ。「ま、全く・・・お姉ちゃんを何だと思ってるですか・・・っう・・・蒼星石はお節介です・・・こんな事しなくても・・・翠星石は・・ひっく・・・大丈夫ですってのに・・・」手紙と、写真と、勿忘草を見ながら翠星石が言う。強がって言っているが、目から涙が止まる事はない。「だから・・・だから・・・泣くのは今日までです・・・蒼星石にもう迷惑はかけれんです・・・」翠星石が手で涙を拭う。しかし、それでも涙はあふれ出てくる。「だから・・・今日だけは思い切り泣くです・・・それくらい許すですよ、蒼星石?う・・ぐす・・・わあああ!!」その日の夜、翠星石はずっと泣き明かした。その涙で悲しみを流すように・・・
「翠星石・・・今日も寝込みっぱなしかしら・・・」真紅がデッキに向かいながら言う。「どうかしらぁ・・・蒼星石の手紙・・・効果なかったのかしらねぇ。」「無理強いはできないからな・・・それでも頑張って欲しいが・・・」水銀燈と雪華綺晶が言葉を交わしながらデッキのドアをあける。すると、中から元気な声が響いた。「おめーらおっせーですよ!気が抜けてるんじゃねーですか!?ま~ったく、翠星石がいないとダラダラしてダメダメですぅ。」その声の主は、長い髪を翻し相変わらずの毒舌っぷりを発揮する翠星石だった。三人ともそれに目を丸くする。「す、翠星石?貴方・・・もういいの?」「・・・泣いて蒼星石が戻ってくるならいくらでも泣くですけど・・・でもそうじゃねーですから。翠星石は翠星石が出来る事をするだけですぅ。」そう言って翠星石はムンと腕組みをして笑った。「そうだ、水銀燈と雪華綺晶。訓練に付き合って欲しいですぅ。蒼星石のガーデナーシザーは翠星石が責任を持って使うですぅ。翠星石は接近戦は慣れてねーですから・・・特訓してぇですよ。」翠星石がそう言うと水銀燈と雪華綺晶も笑顔を見せる。「あらぁ、いいわよぉ。言っておくけど、私はスパルタよぉ?」「ふふっ、私もビシビシいくぞ?何せガーデナーシザーを使うんだろ?生半可じゃダメだからな。デッキに笑い声が響く。どうやら、メイデンはまだ戦えそうだった。そう・・・今でこそいないが、蒼星石のお陰で。
次回予告 戦いの終わりは近づいていた。メイデンは他のレジスタンスと共についにアリスの本拠地、ドイツの足がかりとしてポーランドへ侵攻する。しかし、そこにアリスの最終兵器が現れる。果たして、その力とは・・・次回、超機動戦記ローゼンガンダム アリスガンダム、起動 その姿はまるで、完全無欠・・・
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