第44話「カズキ」
此処は、日本の防衛支部
関東の西の端くれ。大体、大阪支部の隣ぐらいだ。其処に一人の男と、一人の御爺さんがいた。御爺さんは、椅子に座りながら、お茶を飲んでいる。一方男は、其れを椅子に座って傍観している。
男「貴方の息子は?どうなったんですか?」爺「それがな・・・少し前の戦争で、逝っちまったんだ・・・」男「!・・・其れは済まない事を・・・」
そう言うと御爺さんは、微笑みながらこう言った。
爺「良いんだよ、あの子はある人の中で生きてる。」男「?其れはどう言う・・・」爺「之から説明するよ・・・」
すると御爺さんは、お茶を全部飲み込んで。一息ついた後、重い口をあけて、喋り始めた。
爺「その戦争の途中でな?桜田って奴が、爆弾で吹っ飛ばされたんだよ。」
すると男は、ごくりと生唾を飲み込む。其れを意に介さず、御爺さんは話を進める。
爺「腕は爛れて・・・いや、アレは千切れてたな。」爺「腹を右足の付け根から、股間の上、へその所、心臓、右腕の付け根にかけて。」爺「其処を線で縫ったように、飛ばされててな。」爺「生きてたのは、あいつが物の怪って呼ばれる。」爺「特殊な血を引いていた、だからしいが。」爺「もうそんな奴でも、死んでも可笑しくない状態だった。」爺「其処にな、俺の死んだ息子の死体が、運ばれたらしいんだ。」爺「俺はもうその子を、如何こうする気も無かったが。」爺「其処にとある、医者がやってきたんだ。」爺「奴は、桜田を生かす代わりに、この子を貰うと言って来たんだ。」爺「可笑しな話だろ?東南アジアにそいつは、居たのによ。」爺「するとな、俺が許可するとそいつは、有難うと言って行っちまったよ。」
辻妻の合わない話だ、しかし、その子は今生きている。不思議な話も有る物だ、と訊いていると。御爺さんは、話を進め始めた。
爺「その翌日の話かな?、そうらしいんだが。」爺「その子が地下の実験室で、特殊な改造を受るって話なんだ。」爺「何でも知らない医者が来て、二人の体を余す所無く使い切って。」爺「一人の人間を、作り上げちまったそうだ。」爺「その子は昏睡状況だったらしいんだが。」爺「医者がその子を連れて、実験室に3ヶ月篭ったそうなんだ。」爺「始めの2ヶ月は失敗して、その子が変態を起こして。」爺「見るも絶えない姿や、精神異常者になっちまったそうだが。」爺「何ヶ月かして、一人の世界の安全の為の、人間兵器が出来た。」爺「その子の中で、わしの子は生きている。」爺「その後で、私はその子に会ったが。」爺「とても良い子だったよ、カズキもきっとあの世で・・・」爺「それで、わしに何のようじゃ?」男「その医者の名前、なんて言ったか知ってるか?」
御爺さんは、暫く考え込んで。こう言った。
爺「うーん・・・覚えてないのぉ・・・」男「・・・そうですか・・・」爺「スマンな、役に立てなくって。」男「良いんです、大体足跡が分かりましたから。」爺「そうか・・・お兄さんも頑張れよ?」男「では・・・」
男はそう言うと、部屋から出た。
男「・・・ローゼン公爵・・・」男「・・・残された民達は、彼方を探しています・・・」男「いるのなら・・・出てきてくださいよ?」
そう言うと、男はドアから出ると、消失した。その男が消えてから数分後、御爺さんは独り言を呟いていた。
爺「桜田君は、覚えてるかのぉ・・・」爺「最初に会ったとき、あの子はずっと泣いて、謝って来たな・・・」爺「わしが、理由を聞くと、あの子は。」爺「【僕のせいで、貴方の子供の亡骸を、全部使ってしまってゴメンなさい。】だったっけ?」爺「1時間位ずっと泣きっ放しで・・・疲れたろうに・・・」爺「その後だ・・・アレをくれたのは。」
そう言うと、部屋の隅から。白く、人の腕の程の太さの“杖”を取り出す。その杖は、まるで質量を感じさせないように、御爺さんが軽々持っていて。杖の所々に、色々な装飾が施されていた。
爺「之はな・・・あの子の骨なんじゃ。」爺「何でも【之は、カズキ君の骨の部分を使って、作った物です。】ってな。」爺「あの子は、そういう子なんじゃよ。」爺「・・・あの子。」爺「之をカズキの形見に、しろと言ったんじゃが。」爺「如何にも、あの子の中に居る様な気がしてな・・・」爺「全く使えんのじゃ、これ。」
そう言うと、その杖を机に置く。
爺「如何しようかのぉ・・・この杖・・・」爺「・・・置いておくかの・・・」
そう言うと、杖を元の所に仕舞った。・・・御爺さんは、気が付いていない。その杖が、年に数センチ変形しているのを。御爺さんは知らない。その杖で、ジュンのDNAが息衝いているのを。御爺さんは・・・何も知らない。
・・・ガタッ・・・
爺「?今何か動いたかの?」
そう言うと、杖のある部屋を覗く。その部屋には、一応作った息子の遺影と。ジュンの骨から作った杖を、仕舞った箱しかない。御爺さんは空耳だと思うと、その部屋から出て行く。
・・・ゴソッ・・・
・・・杖の成長は、今も続いていく。
それに気が付いているのは。誰も居ない、そして・・・その杖の表面に・・・ジュンを求めて蠢く・・・小さな小さな、細胞があるのも・・・誰も・・・知らない・・・
爺「ふむ・・・」爺「今度あの杖を、ジュン君に送るかの・・・」爺「もしかしたら、役に立つかもしれんし。」爺「役に立たないわけでも、恐らくなかろう。」爺「そうなったら、郵便手続きを踏まんとなぁ・・・」
・・・ピクン・・・
爺「それにしても・・・あの部屋にカズキの亡霊でもおるのかの?」爺「良く空耳が聞こえるんじゃが・・・」
かくして運命は・・・少しづつ少しづつ・・・謎の方向に向かって・・・進んでいた・・・結末を知るのは・・・之を作ったはずの神でさえ・・・分からなくなるほど・・・何千年前から・・・蠢いていた・・・
それは、一つの些細な出来事だった。一人の男の撒いた、些細な種は。かくして実を為し。ストーリーとして。成熟しつつあった。
紅い、紅い、彼岸花となって。紅い、紅い、雨を降らせる為に。
ジュクッ・・・
骨は嬉々として、小さく音を立てた。
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