第十七話 生きた証
「超機動戦記ローゼンガンダム 第十七話 生きた証」
夢・・・夢を見ている・・・始まりの悪夢、終わりのない悪夢。「真紅!!」お父様が私を突き飛ばして、私を庇って・・・死んだ。飛んできた建物か、機体か。何かの破片に体を貫かれていた。「逃げて・・・真紅・・・私達の可愛い・・・真紅・・・」お母様は崩れる家から逃げるときに間に合わず家の下敷きになり、そして徐々に広がる炎の中でただ、私の無事だけを祈って死んでいった。「いけない!真紅!!」薔薇水晶が私と敵の間に割ってはいる。初撃で右腕を・・・そしてその後新しい敵に撃ちぬかれた。私は・・・また人を殺した・・・初めはお父様、次はお母様・・・そして薔薇水晶。私は、3人を殺して今生きている・・・何故?何で私なんかが生きているの?もう・・・私は闘えない・・・「うっ・・・・ぐぅ・・・・はぁ・・はぁ・・・」真紅がベッドに沈めていた体を起こす。あの戦いから三日。眠れば、同じ夢を永遠と見ている。「真紅・・・起きてる?大丈夫か?」部屋の外からJUMの声がする。しかし、真紅は無視を決め込む。「真紅・・・僕から言えるのは一つだけだからさ・・・薔薇水晶を守れなかったのはお前だけの責任じゃない。業は・・・みんなで背負おう。僕達は仲間だろう・・・待ってるから。」足音が去っていく。真紅は布団を抱きしめる体を縮める。今は乱れた長い髪が鬱陶しかった。
「JUM。お願いがあるんだ。少し、出撃させて欲しい。」ブリッジで雪華綺晶が言う。「雪華綺晶・・・目的は何だ?嘘はダメだぞ。僕はもうだれも・・・」「心配するな。私は槐を討つまで死ぬ気はない・・・少し探し物だ。」JUMは考え込む。しかし、雪華綺晶の目はマジだ。恐らく、その探し物ってのが本心なんだろう。「分かったよ。ただし、敵に見つかったりしたらすぐに旗艦して欲しい。」「ああ、約束しよう。恩に着るよ・・・JUM。」雪華綺晶は少しだけ笑うとデッキへ向かい、探し物とやらを探しに行った。
「JUM。真紅嬢の様子はどうだ?」JUMが機体等の調子を見にデッキに行くとべジータがいた。「真紅次第・・・だな。あいつきっと、あの時の事をまた重ねちまってる・・・」「アリスの乱か・・・くそっ!!」怒りのやり場のないべジータが壁を思い切り殴る。「やるせないのはみんな同じ・・・何も出来なかったのはみんな同じなのにねぇ・・・」カツカツと足音を響かせて水銀燈が近づいてくる。どうやら、先の戦闘で負った損傷は修理が終わったようだ。「カナだって・・・カナがあの偽者が精神汚染音波を使ったのにもっと早く気づけば・・・」金糸雀すらも暗い。精神汚染音波。「うなだれ兵士のマーチ」と「破壊のシンフォニー」。一応カナリアにも搭載はしてあるが、金糸雀は信条に反すると封印している。金糸雀にとって音楽は文字の如く、音を楽しむもの。不快にさせるものは音楽とは言わない。
「翠星石はあいつらを許さねぇですよ。あいつ等は・・・どうして何もかも奪っていくですか・・・」今度は「仲間」を奪われた翠星石の目には怒りがともっている。「でも、それが戦争だから・・・でも、分かってても・・・辛いよね。」蒼星石も面持ちは重い。「うぅ・・・雛・・・また守られたの・・・今度は守る方に回るって、そう思ってたのに・・・」雛苺が言う。薔薇水晶を失った事は明らかにメイデンの士気を低下させていた。「それより真紅よねぇ・・・あの子ったら・・・」「仕方ないかしら・・・真紅はあの距離で長時間精神汚染音波を受けて・・・そして目の前で・・・」それは常人ならば精神が死を選ぶような出来事だったかもしれない。「でも、立ち直ってもらわねーと困るですぅ!もし今アリスがくれば・・・」全滅は免れない。翠星石はその先は言わなかったが、みんなの頭に思い浮かんだ言葉だったんだろう。そんな時、メイデンにキラキショウが帰還してきた。手には何かを持っている。例の探し物だろうか。「何だ、みんな。集まってたのか。JUM。お願いがあるんだ・・・」コクピットから出た雪華綺晶がみんなを見渡しながら言う。「これ・・・・に・・・・ダメだろうか?」「成る程、これが探し物か・・・OK。任せてくれ。」JUMは雪華綺晶の頼みを承諾すると、早速作業に取り掛かるのだった。「雪華綺晶、あなた・・・」「あれは、あの子が生きた証だからな・・・真紅がどう受け止めるか分からないが・・・私は彼女を信じるよ。」水銀燈の言葉に雪華綺晶が答える。雪華綺晶は作業をするJUMを見つめていた。
それから、一週間が過ぎた頃だった。来ないはずがなかった・・・アリス軍の襲来。規模は前回と同じ。恐らくディアーズにはスペリオルと、Reローゼンガンダムシリーズ。多少のバーズが乗っているだろう。「アリス軍襲撃!総員、第一戦闘配備・・・・各員、死力を尽くすんだ!この一戦に存亡がかかっている。」JUMの声が艦内放送で響く。しかし、それを聞いても真紅は部屋を出ようとしなかった。機体が直ったのは聞いている。それでも、真紅は出撃しようとしなかった。「真紅・・・こないわねぇ・・・」MSデッキで水銀燈が言う。真紅が来る気配はまるでない。「仕方ない・・・僕らで凌ぐしかないよ。」蒼星石がグッと目をつぶると機体に乗り込んでいく。雪華綺晶は改修されたシンクを眺める。そして、みんなに言った。「すまない、みんな。少しだけ私に時間をくれないか・・・真紅を連れてくる。」誰もその申し出を拒否しない。分かってるのだ。真紅を動かせるのは雪華綺晶しかいないと。「JUM。すまないがデッキにきてくれ。真紅を連れて行く・・・機体の説明は貴方がするべきだろう?」雪華綺晶はデッキの通信からそう伝えると走って真紅の部屋に向かった。「・・・柏葉。すまないがしばらくの間指揮を頼む。」「了解・・・頑張ってね、桜田君。」JUMは巴に指揮を任せるとデッキに向かっていった。
「真紅入らせてもらうぞ。」マスターキーで部屋をこじ開ける雪華綺晶。中にいたのは長い金髪を乱雑に散らしている真紅だった。「雪華綺晶・・・」「真紅。アリスが攻めて来た。出撃だぞ?」雪華綺晶が真紅に向かって歩いていく。「私は出ない・・・もう闘えない・・・私が薔薇水晶を殺した・・・」パーンと・・・雪華綺晶が真紅の頬を平手で殴っていた。「自惚れるな真紅!お前が薔薇水晶を殺した?違うな。あの子は・・・薔薇水晶は自分の意思で散っていったんだ。」「それでも・・・あの子は私を守って・・・・」「ならば!」雪華綺晶が声を大きくする。戦闘はすでに始まってるだろう。しかし・・・この部屋は静かだった。「闘いなさい・・・あの子は貴方に引きこもって欲しいために守ったんじゃない。貴方にならこれからの戦いを任せられるとおもったからよ。それを貴方は裏切るの?」「薔薇水晶が・・・・私を・・・?」「真紅・・・あの子の命は半分貴方のモノよ。だから、背負ってあげて。あの子の願いを聞いてあげて。貴方が闘い続ける事。それが・・・あの子の生きた証なんだから。」雪華綺晶はそこまで言うと背を向けて部屋を出ようとする。そして、最後にこう言った。「機体が直ってるのは聞いてるわね?私達はこの戦いで存亡が決まってしまう。私達が負ければ薔薇水晶の意思は無駄になる。だから・・・生きなくてはならない。真紅・・・生きる事って・・・闘う事なんでしょう?」雪華綺晶が部屋を出て走ってデッキに向かっていく。「生きる事は闘う事・・・闘う事は生きる事・・・私は・・・生きている。いえ、生かされてる。お父様に、お母様に、薔薇水晶に・・・なら、私の成すべき事は・・・」真紅はサッと髪をとかし久しぶりにツインテールを結う。軍服を着込むと走ってデッキへ向かった。「私はもう迷わない・・・闘う・・・それが私の糧となった人の業を背負うと言う事だから・・・」
「遅かったじゃないか。待ってたぞ、真紅。」真紅がデッキにつくとJUMが出迎えてくれた。「JUM!?貴方、艦の指揮はどうしたの?」「柏葉に任せてある。僕はも~っと大事な仕事を雪華綺晶に頼まれててな。真紅、見てくれ。」JUMの指差す先。それは完全に修復されたシンクだった。粉々になった右腕もある。「あの右腕の色・・・JUM、まさか・・・」その失われた右腕は赤ではなく、紫だった。ビームガトリングガンが付属している。それは、即ち。「ああ。雪華綺晶が探してきたんだ。バラスイショウの右腕だ。あ、そういえばさ、真紅。お前昔っから怒ると女の子なのに、思い切り殴ってきたよなぁ?」「な・・・こんな時に何を・・・」「殴ってこいよ。右腕でさ。僕がしっかり補強しておいた・・・」バラスイショウは攻撃面を重視されており、装甲が脆いという弱点があった。もちろん、そのままシンクの右腕に移植されても装甲は弱いままだったろう。しかし・・・そこはメカニックとしても一流のJUMだ。シンクに移植されたバラスイショウの腕は可能な限り頑丈に強化されていた。「雪華綺晶・・・こう言う事だったのね。確かに・・・薔薇水晶の命の半分は私なのだわ。」真紅はクスリと嬉しそうに笑った。「右腕の色さ・・・変えなかったけど、赤に変える?」「まさか・・・私にはこれ以上ない美しい色合いに見えるのだわ・・・JUM。ありがとう・・・いってくるのだわ。」真紅は久しぶりに笑顔を見せるとシンクに乗り込んでいった。
「くぅ・・・真紅はこんなの聞きながら戦ってたわけぇ・・?」すでに始まっている戦闘は劣勢だった。というのも、Reカナリアの音波兵器のせいだ。「カナの・・・カナの力がたりないかしら・・・・負けたく・・・ないかしら・・!!」「くそぉ・・・いいか、バーズだけでも俺達で相手するんだ。少しでもメイデンの負担をやわらげろ!」べジータが苦しみながらもバーズを撃墜していく。それでも、戦況は不利だった。「ははははっ・・・どうやらここまでのようだな・・・メイデン!!」
(私は甘えていたのだわ。JUMの、みんなの優しさに。闘う事をやめるのは、生きる事をやめること。それは、私があんなに嫌ったアリスに支配された世界と変わりないのだわ。)「真紅、状況はきわめて不利だ。でも、僕はここから逆転できるとおもってる。」「あら、奇遇ね。私もなのだわ。カウンターでも食らわせてやるのだわ。真紅、ガンダム5号機出るのだわ!」シンクがサクラダから射出される。(私は真紅。誇り高いメイデンの一員・・・そして幸せな貴方の・・・・)「はは・・・来てくれたな。真紅・・・」雪華綺晶が笑う。飛び立った赤い機体は太陽の光をその紫の右腕に受け、光り輝いていた。
次回予告 雪華綺晶の、JUMの。そしてみんなの力で悪夢を克服し復活した真紅。薔薇水晶の半身、命の半分を受け継いだシンクを駆り真紅が戦場に立つ。メイデンの反撃が始まる。次回、超機動戦記ローゼンガンダム 絆 受け継がれた力はみんなの為に・・・
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