第十六話 薔薇水晶
「超機動戦記ローゼンガンダム 第十六話 薔薇水晶」
「っくぅうう!!このぉお!」シンクにReスイギントウのダインスレイブが突き刺さる瞬間、シンクを弾き飛ばし割って入ったバラスイショウ。シンクは直撃を受けずに済んだが、バラスイショウが右腕を切り落とされてしまう。しかし、それでもバラスイショウは止まらずに残った左腕のガトリングガンでReスイギントウを退ける。「真紅!しっかりして・・・真紅!!」薔薇水晶がコクピットで震えている真紅に声を呼びかける。しかし、今の真紅の脳裏にはReカナリアのうなだれ兵士のマーチにより蘇ったアリスの乱の惨状がフラッシュバックしていた。「お父様・・・お母様・・・いや・・いや・・・助けて・・・JUM・・・」Reカナリアはさらに追撃をかけようとする。「破壊のシンフォニー」。この世界にこれ以上劣悪な音は存在しないという音。黒板ひっかき音やジャイアンの歌さえも足元に及ばない。しかし「これ以上、音をそんな事に使わせないかしら!!」数個のミサイルがReカナリアを襲う。回避行動をとるが、いかんせんパイロットは金糸雀の人工知能。追尾するミサイルをかわしきれず数個は被弾する。するとReカナリアの音波兵器もとまる。「真紅!お願い・・・真紅・・っくぅ!」必死に声を呼びかける薔薇水晶をあざ笑うようにReスイギントウがホーミングミサイルを放つ。バラスイショウは迎撃するが、いかんせん手が足りない。コクピット周辺や、左脚部に被弾する。「きゃああああ!?っつう・・・ぐ・・・」コクピット周辺に被弾したせいか、コクピット内の機器が爆発し、破片が薔薇水晶の体に襲い掛かる。「がっ・・・は・・・ぁ・・・」そして、無常にも機器の破片は薔薇水晶の体を突き刺した。
「くそ、薔薇水晶!退くんだ!!ええい・・・どけえええええええええ!!!!」キラキショウがバラスイショウに近づこうとするがReキラキショウはそれを許さない。隙を見せればやられる。「いけない・・・翠星石!!薔薇水晶と真紅が!」「分かってるですぅ・・・でも、こいつらが・・・!」こちらは2対2の戦いを繰り広げている。しかし、どっちも譲らずだ。仮にどちらかが応援にいけば一気にパワーバランスが崩れ撃墜されるだろう。「うゆ、水銀燈!真紅と薔薇水晶が~。」「分かってるわよ・・・ああもう、しつこい!」ヒナイチゴは同機対決だ。お互いが繰り出す有線式ビーム砲が牽制し合い、戦いが進まない。一方スイギントウはReシンクとだ。ツインテールを有効に使う中距離を支配され苦戦するスイギントウ。「うっく・・・はぁ・・・・うああああああ!!」各部が損傷し煙を上げ、機体が悲鳴を上げながらも薔薇水晶は残った左腕でReスイギントウと交戦する。ビームサーベルを持ちながらガトリングガンを放つ。そして、そのまま突っ込んでいく。Reスイギントウが漆黒の翼を展開してそれを防ぐ。ここが勝負どころだった。展開した翼を閉まったReスイギントウの目の前に、すでにバラスイショウがいたのだ。翼で防御の際できる死角。そこを付いたのだ。しかし・・・・次の瞬間煙を上げたのはバラスイショウのほうだった。2つの有線ビーム砲「インコム」によって狙撃されたバラスイショウの頭部は吹き飛ぶ。「残念だったな、薔薇水晶。私の可愛い機体を傷つけさせるわけにはいかんのでな・・・」すでに大破判定をうけてもおかしくないバラスイショウの前に立ちはだかるスペリオル。「さぁ、薔薇水晶。悪い子にはお仕置きが必要だな・・・」スペリオルは背部ビームカノン2門、大腿部ビームカノン2門、そしてビームスマートガンの全5門をバラスイショウに向けた。
視界が赤い・・・体から血が流れている・・・さっき機器が刺さったときかな・・・結構深い・・・カメラ・・・ああ、頭部は壊されたんだっけ。でも、見える。目の前に5つの銃口が私に向けられている。あの引き金が引かれれば私は死ぬ・・・槐は容赦なくコクピットを打ち抜くだろう。みんな戦っている・・・雛苺。泣き虫で甘えん坊で・・・でも、JUMや巴を守りたいって気持ち凄く伝わったよ・・・可愛い貴方に少しあこがれてたかも。金糸雀。貴方の奏でる音はみんなを幸せにするわ。私は貴方の音を聞きながら逝けるみたいだよ。蒼星石。いつも真面目で優しいみんなの相談役。無口なだけの私をたくさん気遣ってくれてありがとう・・・翠星石。口は悪いけど、本当はみんなが大好きなんだよね?私もみんなが大好き・・・だから、翠星石と同じだね・・・翠星石は・・・蒼星石を悲しませたらダメだよ?銀ちゃん。銀ちゃんは私のもう一人のお姉ちゃんだったよね。少しふざけてるけど、とっても仲間想いで優しい銀ちゃん。私も銀ちゃんみたいになりたかったな・・・真紅。何で私は貴方を庇ったのか正直こんな時になってもわからないんだ。私はきっと貴方に罪の意識を作らせちゃうね・・・ごめんね。でも、でもね・・・信じてるから・・・真紅・・・お姉ちゃん。大好きなお姉ちゃん。いつも優しくて、カッコよくて、私の憧れのお姉ちゃん。でも、ごめんね。私はもう・・・お姉ちゃんの目にもなれない・・・でも、ずっと側にいるから・・・お姉ちゃん、お姉ちゃん、おねえ・・・そこで、薔薇水晶の意識は停止した。スペリオルから放たれた5つの砲撃はバラスイショウのコクピットを貫いた。そして、その数秒後・・・バラスイショウは爆発した・・・「ふっ・・・・さらばだ。薔薇水晶・・・」
「あ・・・あ・・・薔薇水晶・・・?薔薇水晶・・・・あ・・・私が・・・私が・・・・ああああああ!!!!」真紅は爆発するバラスイショウを見た。死んだ。誰が?薔薇水晶が。何で?私を庇って。じゃあ誰が殺した?あのガンダム?それとも・・・私・・・・?そうだ、私が彼女を殺した・・・私が・・・私が・・・「あ、あ、あ、あ・・・・ウああアアアアああああああああああああああああ!!!!!!」真紅が絶叫する。すでに正気を失った真紅は機体を操る事もできるはずがなく、落下していく。「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」このまま地表に落ちれば真紅はタダでは済まなかったろう。しかし、それを救ったのは金色の機体。べジータだ。「JUM!何をしているんだ!このままでは全員死ぬぞ!退け!退くんだ!!!」真紅を抱えたべジータが叫ぶ。現在一番冷静なのはべジータだった。JUMはそれで意識が戻る。「っくっ・・・・撤退だ!下がれ!!俺達は・・・ここでやられるわけにはいかないんだ!!」JUMの声がパイロットにも届く。しばし放心していた面々も正気に戻る。「だが!薔薇水晶が・・・薔薇水晶が!!私はあいつを・・・槐を殺す!!」しかし、雪華綺晶がその命令に従うわけがなかった。「そうよJUM!このまま引き下がれるもんですか!!」水銀燈も同じだ。しかし、それをJUMが怒鳴りつける。「馬鹿野郎!!薔薇水晶の意思を無駄にする気か!今の俺達では勝てない!下がれ!!」その言葉に二人は動きを止める。「二人とも、悔しいのは僕だって一緒なんだ・・・だからこそ・・・下がるんだ!!」蒼星石が叫ぶ。涙を流しながら怒りの表情を見せる蒼星石。「槐・・・くそぉおおおお!!!すまない、薔薇水晶・・・必ず・・・必ず仇はとるから・・・っぐ・・・!」
サクラダは各機を収容に後退していく。しかし、それを槐が見逃すわけがなかった。追いすがるリファイン機。しかし、それに立ちはだかる機体があった。「JUM殿!ベジータを連れて撤退してくれ。ここは俺達が必ず食い止める!!」それはナッパだった。いくらサイヤジンといえども、食い止められるはずがない。「ナッパ・・・分かった!必ず逃げ切る!!べジータ、こっちに着艦するんだ!」「ふっ、恩に着る。なに、SAIYAは戦闘集団だ。そう簡単には負けぬさ。カカロットも後退しろ。」ナッパの指示でSAIYAの旗艦のカカロットも撤退していく。再び戦闘が始まる。槐は先にSAIYAを討つ事にしたようだ。「邪魔だな・・・さっさと片付けてメイデンも討つぞ。ALICE、やれ。」スペリオルの人工知能ALICE。ローゼンの作った究極の人工知能アリスの贋作。感情を持ち、作り主を親とし、それを守ろうと戦う。「ふん・・・そう簡単にいかせるか。聞け!我々SAIYAは戦闘集団だ!その誇り、見せ付けてやれ!!」ナッパがSAIYAのメンバーを鼓舞する。しかし・・・その後は虐殺としかいえない光景が広がっていた。「べジータ・・・すまねぇ・・・俺もここまで・・・みてえ・・だ・・・」スペリオルの青いビームサーベルに貫かれナッパの機体が爆発する。「ディアーズ。メイデンはどうだ・・・そうか、逃げられたか。まぁ、いい。一度基地で休息をとろう。なぁに、あの程度ならいつでも潰せる・・・はっははははははははは!!!」
何とか中国基地へ逃げ帰ったメイデン。しかし、その被害は甚大だった。損傷していない機体はない。真紅はショック状態で部屋から出てこない。そして・・・薔薇水晶が死んだ・・・「ぐす・・・ぐす・・・ばらすいしょぉ~。」雛苺と金糸雀は大泣きしている。他の面々も面持ちがとても重い。そんな中、真紅の部屋に行っていたJUMが戻ってくる。「どう・・・だった・・・?」水銀燈の問いにJUMは首を振る。真紅は完全に引きこもってしまったのだ。「大丈夫・・・?雪華綺晶・・・」ずっと後ろを向いて立っている雪華綺晶を気遣う蒼星石。一番ショックが大きいのは彼女だろう。「・・・私達は戦争をしてるんだ・・・こんな事もあるだろう・・・」「!?そ、そんな言い方ねえですよ!薔薇水晶は貴方の!」翠星石が怒りをあらわに突っかかるが蒼星石がそれを遮る。「でも・・・私は右目と一緒に涙もなくしたと思ってた・・・だって今まで一度も泣く事なんてなかった・・・」薔薇水晶の体が震えている。顔をこちらに向ける。「それでも・・・涙は枯れないものだな・・・・」右目の眼帯の奥から雪華綺晶の涙があふれ出ている。そんな雪華綺晶を水銀燈が抱きしめた。「いいのよぉ・・・雪華綺晶・・・辛いときは泣いても・・・だから人は泣けるのよぉ・・・」「すい・・ぎ・・ん・・・とう・・・うわあああああああああああ!!!」部屋にはただ、雪華綺晶の泣き声だけが響いていた・・・
次回予告 一度の戦いで多くのものを失ったメイデン。機体は直るが心は直らない。しかし、そんなメイデンを待つほど槐は甘くなかった。再び牙をむくアリスに、自分の殻に閉じこもった真紅は・・・次回、超機動戦記ローゼンガンダム 生きた証 その悲しみを力に変えて・・・
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