「第1話“出撃”」
二〇〇八年四月九日。日本近海に天然資源発見の報を機に北方の新生国家【エイリス共和国】が日本に対して宣戦布告。日本戦争が開幕する。日本は自国の存続のために、エイリス軍と戦うことを余儀なくされた。北海道方面から日本へ進軍するエイリス軍に対し、当初は善戦を続けた自衛軍であったが、法の整備不足と無責任な反戦世論に押され、エイリス軍に敗北を重ねる。二〇〇八年十月八日。開戦から半年経ったこの日、一つの事件が起きる。エイリス軍航空機による民間地域への毒ガス攻撃である。強風の日に決行されたこの無差別攻撃によって、多数の民間人が死傷。わずか一週間の間に、約二万人もの命が失われた。この虐殺事件は、毒ガス散布が薔薇学園を中心に行われたため【薔薇学園の悲劇】と呼ばれることとなる。この大虐殺を切欠に、当初は反戦一色だった世論やマスコミも除々に徹底抗戦へと傾き始める。しかし時既に遅し、このとき、既に自衛軍は戦力の半数以上を失い、北緯三十八度線以北の領土をエイリスに奪われていた。この時点で、もう日本に戦う力は残されていなかった。二〇〇八年十一月十五日。事態を重く見た日本政府は二つの法案を可決し、起死回生を図らんとした。一つは総力戦遂行のため国家のすべての人的・物的資源を政府が統制運用できる旨を規定した【国家総動員法】もう一つは民間人の強制徴収法。世に言う【根こそぎ動員】である。満十四歳から八十歳までの民間人が、学籍、職業、健康状態を問わずに日本中からかき集められた。その数約五十万人以上。これらを即席の兵士として前線に投入、本土防衛のための「統率された軍隊」を再編するための時間を稼ぐのである。彼ら徴収兵の多くは三年以内に死亡するであろうと言うのが専門家の一致した意見であった。それから二年。まだ、戦いは続いている――――――ACE COMBAT ROZEN―――「第1話“出撃”」二〇一〇年日エ両軍は北緯三十八度線を境に一進一退の攻防を繰り広げていた。日本陸軍は、山岳地域の起伏に富んだ地形を武器にゲリラ戦を展開。当初は壊滅寸前だった空軍も厚木基地を中心に再編成され、練度が低いながらもエイリス空軍から必死に本土を防空。中でも、早期に壊滅するとされていた徴収兵たちは当初の予想を大きく裏切り、敵の猛攻に良く耐えた。エイリス国内にも厭戦ムードが漂い始め、エイリス軍の進軍スピードは次第に鈍くなって行く。泥沼化する戦局を打開すべく、エイリス空軍は日本首都東京への大規模爆撃を目的としたオレンジ作戦を発動。日本方面軍の所有する航空機の三割を投入。さらにエイリス本土からの航空隊を加えた大規模爆撃隊は日本各地の防空網を軽々と突破、東京へ向けて着々とコマを進めていった。対する日本も本土防空の最前線基地である厚木基地に航空隊をかき集め、エイリス空軍を万全の体制で迎え撃った。各地から集められた航空隊、その中に桜田ジュンの所属する第八航空師団第七七戦闘飛行隊。通称ミーディアム隊の姿があった。―――二〇一〇年十一月十三日午後六時十二分 厚木空軍基地―――「ミーディアム5、離陸を許可する」「了解、これより出撃する」離陸許可を受けると同時に、ミーディアム5こと桜田ジュンの搭乗するF-15Jが鋭いジェットエンジンの轟音を残し、まるでカタパルトから射出されたかのようなすばらしいダッシュを見せて離陸していく。P&W製 F100-PW-220エンジンの出力に助けられ上昇を続けた桜田機は、程なくして先に出撃していた僚機と合流した。同日午後六時二分のエイリス大規模爆撃隊発見の報告と同時に、厚木基地司令官柴崎元治は航空隊による迎撃を決意した。まず初めに、現時点で基地が所有する航空機四百八十六機の中から選抜された第一次迎撃隊百十七機が出撃。それに続いて出撃したのがミーディアム隊を含めた第二次迎撃隊。それを指揮するのは、ミーディアム隊の隊長でもある白崎だった。厚木基地から飛び立った第二次迎撃隊は総勢六十八機。それらは白崎の指揮の元、綺麗な編隊を組みつつ目標へ向かい飛行を続けた。「いよいよね、桜田君」僚機である二番機こと柿崎メグから通信が入る。それに対してジュンは一言「ああ」と答えた。「あら?貴方は緊張とかしないの?私は胸がドキドキしてるんだけど」「別に」ジュンは素っ気無く答えるも、内心では抑えきれないほどの昂揚感を感じていた。いよいよ自分たちもこの大作戦に参加する、当然敵も可能な限りの兵力を展開しているはずだ。そしてなによりうれしいことは敵の中にとあるエース部隊が派遣されているとの情報だ。これほどの大規模作戦なら、当然最強クラスのエース部隊が派遣されているに違いない。ならば、それは奴ら……自分の故郷を破壊し、家族や友達の命を奪ったあの七色の航空隊である可能性が高い。彼はコックピットの一角に目をやった。そこには3枚の写真が張られていた。一枚は戦前に失踪した恋人水銀燈の写真。もう一枚は学生時代の友達である八人の少女達の写真。そして最後の一枚は……死んだ家族の写真。長かった―――彼は家族の仇を討つために軍に志願した。しかし、いくら出撃を繰り返しても彼らと出会うことはなく、仇を討つチャンスはなかなか巡ってこなかった。だが、そんな日々もようやく終わる。この手で奴らを全員地獄に叩き込み、その首を家族の墓前に具える。俺は、そのために今日まで生き延びて来たんだ。あいつらを殺すこと……それが、俺の存在理由だ!!!コックピットで一人ほくそえむ桜田ジュン。メグは、まともに自分の相手をしないジュンに飽きたのか、そのまま通信を切ってしまった。「ミーディアム1より各機、間もなく作戦領域に到達します」しばらくすると、今度は隊長機である白崎から通信が入った。「ミーディアム3、君は僕と一緒に敵爆撃機を攻撃してください」白崎が淡々と指示を出して行く。「2と4は連携して味方戦闘機部隊の支援」「5は単機で活動してください」白崎の指示を聞いたジュンは彼に尋ねた。「単機で活動?だったら戦闘機と爆撃機が両方現れたらどっちを優先すべきですか?」白崎はこの問いに、何を当たり前のことを聞くのかというように、少し呆れたように答えた。「爆撃機だろうが戦闘機だろうが構いません。味方以外は全て撃墜しなさい」味方以外は全て堕とせ、か。なるほどね。ジュンは白崎の答えが大変気に入っていた。なるほど、それなら俺は勝手にやらせてもらう。彼は、もう仇である航空隊を堕すことで頭がいっぱいのようだった。……まだ彼らが来ていると決まったわけではないのに。数分後、作戦区域に到達した彼らに聞きなれた声と友軍の罵声が響き渡る。「こちら空中管制機スカイネット、厚木基地管制室より入電、第一次迎撃隊はすでに戦力の40%を喪失!」「くそ!流石に数が多すぎる!」「エイリスめ!ありったけの戦力を投入しやがったな!」「振り切れない!誰か援護を!」「あの部隊が強すぎる!ああ!隊長がやられた!」「落ち着けヘイロー4!指揮を引き継げ!」「増援はまだか!畜生!」追いついたジュン達第二次迎撃隊は高高度から戦場を凝視、白崎は瞬時に戦況を把握する。成る程友軍の部隊はかなりの損害を受けているようだ……だが。「全機に注ぐ、我々はこれより敵爆撃機への攻撃を開始する、全軍攻撃開始!!」それを合図に、第二次迎撃隊は一気に巨大な硝煙が渦巻く坩堝……いや魔女の鍋になっている戦場に向けて一気に急降下した。後に、東京防空戦と呼ばれる一大航空決戦の幕が切って落とされた。
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