『チョコは行方不明』
年に一度の、バレンタイン。そわそわする男子。キャーキャー言う女子。登校拒否する人たち。まあ、色々な過ごし方をする人がいるだろう。バレンタイン前日、金糸雀は一生懸命になって、チョコを作っていた。金「これで、男子のハートを射止めてみせるかしらぁ」み「張り切ってるわねぇ。私も、手伝おうか?」先輩であるみっちゃんは、心配で見に来ていた。金「大丈夫、かしらぁ。一人で作らないと意味がないもん」み「……チョコを作るカナも、プリチィーだわ!写真撮らなきゃ!」写真部であるみっちゃんは、金糸雀を撮るのが大好きだ。金「みっちゃん、カメラがうるさくて、集中できないかしらぁ…」み「あと、十枚だけ!ね、お願い?」金「…しょうがないなぁ、かしらぁ……」普段の彼女なら、楽してズルしてが座右の銘だから、デパートで買ったチョコを手作りと言って、渡すのだが、今回は違った。金「(がんばって、自分の気持ちをチョコに込めるかしらぁ)」
金糸雀が渡す相手は、ジュンだった。ジュンはもてるから、敵は多い。だからこそ、手作りにしないといけないのだ。一方その頃、別の場所では……。薔薇「……手作りなんて、馬鹿らしい」そう言って、薔薇水晶はコンビニでチョコを買っていた。誰に渡すかは、あみだくじで決めるみたいだ。あまりやる気はない様子。
バレンタイン前日の深夜、やっと完成したチョコを、包みに入れてカバンに詰めた。これで、明日はばっちりだ。金「明日は、人生で一番のバレンタインにするかしらぁ…」そう言いながら、彼女は眠りについていった。
一方、違う場所では、怪しい会議をしている男子達が…。水銀党員と、蒼星石ファンの連中だ。男1「明日は、バレンタインだ。気合入れていくぞ」男2「蒼星石は俺にチョコをくれるのかな……」男1「もらえるさ!銀様は…どうだろうか?」男2「水銀燈だって、お前にくれるさ!」男1「お前、いい奴だな」見事に、傷を舐めあいながら、馴れ合っていた。
薔薇水晶はというと、紙にあみだくじを書いていた。全校生徒分の1の確率で、選ばれた幸運な男子は、オタククラスの生徒だった。薔薇「……まあ、良いか」薔薇水晶にとって、バレンタインなんてものは、ゲームだった。
こうして、それぞれのバレンタイン前日が過ぎていった。
朝は見事に晴れていた。金糸雀は、張り切って制服に着替えて外に飛び出していった。手作りのチョコを早く渡したい。気持ちを早く伝えたい。その一身で、学校へ走っていく。金「早く行かなきゃかしらぁ!」
薔薇水晶はというと、ぼんやりしながら、カバンを空に向かって投げながら、登校していた。まるでボールを扱うように。薔薇「……オタククラスなんて、初めて行くなぁ」
そんな二人が、曲がり角に差し掛かった時、事件は起きた。走っていた金糸雀と、ぼんやりしていた薔薇水晶が、ぶつかった。お互いのカバンが、宙を舞った。金「いたたぁ…。気をつけて歩いて欲しいかしらぁ」薔薇「…それは、こっちのセリフだよ」金「うぅ…。ごめんかしらぁ。と、とにかく、急いでるから行くかしらぁ」薔薇「……うん」金「じゃあ、また学校で会いましょう、かしらぁ」金糸雀は、そのまま、また走り去っていった。薔薇「……何をそんなに急いでたんだろう?」
この時、二人のカバンは入れ替わっていた。二人はまだそのとことに、気付いてはいない。
学校に到着すると、もうすでに、チョコを渡している人がたくさん。金糸雀は、呼吸を整えながら、席に着いた。みんなの様子を眺めてみる。翠「ジュン、私が愛を込めて作った義理チョコ、くれてやるですぅ」ジュン「愛のある義理チョコって…なんだか微妙だなぁ」翠「なんですか!?私のチョコは受け取れねーんですか!?」ジュン「いや、ありがたくもらっとくよ」翠「そ、そうですか。家宝にでもしろです!」翠星石は照れくさそうに、チョコを渡して席に戻っていった。
雛「とぅもえ~、雛もチョコが欲しいのぉ、食べたいのぉ」巴「…雛苺、バレンタインのこと、わかってる?」雛「チョコがいっぱい食べられる日なのぉ!」巴「やっぱり、わかってないや…」
金糸雀は、一通り教室の様子を眺めながら、自分のカバンをぎゅっと抱きかかえた。金「カナ、緊張しちゃダメかしら。翠星石には負けないかしら」真「あら、金糸雀もチョコを誰かに渡すのかしら?」金「え!?ま、まあ、そうかしら。真紅は渡さないのかしら?」真「私はこういうの、興味ないのだわ」金「そう…かしら。(ライバルが一人、減ったかしらぁ!)」
真紅が席に戻っていき、また自分のカバンを抱きしめる。そこで、違和感を感じた。カバンに、アッガイのキーホルダーがついていた。まさかと思い、カバンの中を確認すると……。金「これ、カナのじゃないかしらぁああああああああ!!」
まずいことになってしまった。薔薇水晶とぶつかった時、カバンを間違えたんだ。ジュン「どうしたんだ?大声なんか出して」金「な、なんでもないかしらぁ!ほっといて欲しいかしらぁ!」ジュン「?そうか、じゃあ良いんだけど」金「まずいかしらぁ…。薔薇水晶は朝マックしてから来るから、その後になってしまうかしらぁ…。いや、その前にカバンをなんとかしないとかしら」
金糸雀が焦っている頃、別の場所では、幸せな空気が充満していた。蒼「僕のチョコ、翠星石の作ったあまり物だよ?それでも良いの?」男2「良いんです!蒼星石の手からもらえれば、それは君のチョコだから!」蒼「よくわかんないけど、はい。僕からの義理チョコだよ」男2「よっしゃああああああああああああ!キタコレ!キタコレ!」蒼「そんなに嬉しそうにされると、僕も嬉しいよ」
男1「ちくしょう!やはり水銀党員の俺には……」その時、男1の足元に、チョコが飛んできた。男1「こ、これは?」水「勘違いしないでねぇ、ただの義理チョコだからぁ」男1「く、くれるんですか!?」水「そうよぉ。ありがたく、受け取ってちょうだぁい」男1「はい!ありがたくもらいます!」水「あっ、手で拾っちゃダ~メ!口で拾いなさぁい♪」脇役キャラのみんなにも、春が来たようだ…。
薔薇水晶は、もうすでに学校に到着していた。まっすぐその足でオタククラスに向かっている。金糸雀はというと、必死で探していた。金「薔薇水晶、どこに行ったのかしらぁ…。早く見つけないと…」ガラガラ、とオタククラスのドアが開いた。薔薇「頼もう!……オタク1はいるか?」オ1「え!?ぼ、ぼ、僕ですが何か御用でしょうか?」薔薇「……チョコレートは好きなりか?」オ1「あ、甘いものは大好きですけど…。まさか…」薔薇「……目を閉じて、お口を開けてみて。チョコ、入れてあげる」オタク1は、素直に口を開けた。薔薇水晶は、金糸雀の手作りチョコを口に入れようとする。気づいてないみたいだ。その時、教室のドアが開いた。金「ちょっと待ったあああああああ!かしらぁ!」光の速さで、薔薇水晶を捕まえて、オタククラスから去っていった。オ1「……まられすか?」
金「はぁ…はぁ…やっと見つけたかしらぁ」薔薇「……どうかしたの?今、良いところだったのに」金「薔薇水晶、それは私のカバンかしらぁ…。返して欲しいかしらぁ」薔薇「……ほんとだ。あの時、取り違えたんだね」二人は、お互いのカバンを元通りに、返しあった。ここまで来るのにどれだけ、時間を食っただろうか。金「……これでやっと、ジュンに渡せるかしらぁ……」薔薇「……まあ…グッドラック」金糸雀は、急いでジュンの元へと走っていった。時間はもう昼休み。ジュンは屋上にいた。
ジュンは、屋上でぼんやりと空を眺めていた。金糸雀は、勇気を出してジュンに話しかけた。スカートの後ろに、チョコを隠し持って。金「ジュ、ジュン…」ジュン「おう、金糸雀か…。どうしたんだ?」金「…あのね、渡したいものが…」そう言いかけて、ジュンの足元にある大きな袋を見てしまう。中には、チョコがいっぱいあった。金「……チョコ、いっぱいもらったんだね…」ジュン「ああ、これ全部、義理チョコだよ。真紅も翠星石も、他の女子も」金「そ、そうなんだ…かしらぁ(真紅、やっぱり渡してたんだ…)」金糸雀は、なんだか居心地が悪くなり、その場から去ろうとした。金「じゃあ、また教室で…かしらぁ」
ジュン「金糸雀、その後ろで持ってるのって、チョコレート?」金「…え!?あの、その、そうかしらぁ……」ジュン「……よかったらさ、僕にくれないかな?」金「え?でも、ジュンはチョコいっぱいもらってるから、いらないかしら?」ジュン「本命のチョコは、まだ一つも、もらってないよ?」金「ば、馬鹿なこと言わないで欲しいかしらぁ。本命なんて一言も…」ジュン「本命じゃないの?」金「……うぅ…本命かしらぁ…」ジュン「じゃあ、僕にくれないかな?他の男に食わせたくないからさ」金「…恥ずかしいかしらぁ…。じゃあ、受け取ってください…かしらぁ」ジュン「喜んで!」…完。
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