【薔薇水晶と、ジュンと、雪華綺晶】
【薔薇水晶と、ジュンと、雪華綺晶】「ねー、ジュンー」「何?」「水銀燈とキスしたって本当?」「ええええええええ!!」「って、何で薔薇水晶が驚くの!?」「嘘! ジュンの馬鹿! 信じてたのにぃー!」「……ち、これじゃあ、カマかけた意味が」「今、雪華綺晶何か言った?」「うわああああん、ジュンの馬鹿ー!」「んーん、別に何もぉ。ただ、最近、水銀燈とジュン、仲良しだなぁって。強いて言うなら、【水銀燈とジュン】、みたいな?」「ジュンの浮気者、ジュンのロリコン、ジュンのおっぱい星人ー!」 「何の話かわからない――というか、薔薇水晶。わざわざ雪華綺晶が言い終わるの待ってまで言わなくても! むしろ僕はロリコンじゃないし、おっぱい星人って、何だ!?」 「……でも水銀燈に抱きつかれると嬉しそうな顔するよね(ぼそ」「ノーコメント」「に、逃げたっ。逃げたよ、雪華綺晶っ。きっと、本当にキスしたんだよぉー。うわーんっ」「あー、っていうか、どこからそんな話が?」「きらきーちゃんのかわいい嫉妬から」「全然かわいくねえ」「ひどっ。ちょっと傷ついたかも!」「――っていうか、そんなはずないでしょう。僕は、君たち一筋だ」「一筋じゃないけどね」「揚げ足は取らないでよろしい。……ね、だから、薔薇水晶。落ち着いてよ?」「うん……」で、後日。「――え、何、バレたの?」「うわ、水銀燈が言ったんだと思った」「言わないわよぉ。不意打ったからね。ジュンからしてもらったら、もちろん言うけど」「……やめてくれ」「そんなこと言ってー、ちょっと嬉しかったくせにぃ」「そりゃまあ、僕だって男だし」「あらぁ、そんなこと言っていいの?」「あ、嘘です。どうか、薔薇水晶たちには内密に……」「それは、出来ない相談ねぇ。ま、頑張ってね、ジュン」「え?」「「ジューーーーーーーンーーーーーーーー(地獄から響いてくる声」」そこには、二人で一人の、修羅と化した、少女の姿が――――そんな、たまには殺戮な三人のしあわせ。「と、いうわけで、追い出された」「……私は、貴方たちがまた一緒に住んでいることの方が驚きだわ」「あれ? 言ってなかったっけ?」「言ってないわ。――それで? なんで私のところに来るのかしら。水銀燈のところにでも行けばいいのではない?」「そういうなよ……。水銀燈に電話したんだけどさ」「ええ」「シャワー浴びて、待ってるって」「そんな露骨な。いくらなんでも、冗談でしょうに」「この間キスされた」「――ええ、私の家でよければ、泊まっていってもかまわないわ」「ありがとう、真紅。本当にありがとう……」 ジュンが、涙ながらに言った。……何かもう、色々大変だったのだ。「それにしても、ジュン。水銀燈にキスされるなんて、少したるんでいるのではなくて?」「とは言ってもなぁ。何だかんだで、水銀燈と、真紅と一緒に居るのが一番自然体でいられるんだよな。もちろん、薔薇水晶たちと居るのが一番幸せなんだけど」「――私、とも?」「当たり前じゃないか。真紅、何だかんだで、優しいし。二人で居る時、結構気を使ってくれてたりするだろ? まあ、そういう意味でなら、水銀燈と居るよりも安心かも」 って、水銀燈には内緒な、なんて、ジュンは笑って言う。 でも真紅はそれどころじゃない。だって、今、ジュンに何を言われた? 水銀燈よりも、居て安心? あの、ジュンが?「……嘘。だって、私なんて、貴方を縛りつけてばかりで」「縛り付けてって――、ああ、下僕ってやつか。そんなの、今さらだろ? 本当にそんなことを思ってないってことくらい、知ってるよ」 いつだったか雪華綺晶に言われたことがあった。縛り付けるだけの貴方は、決して愛されない。それは、一方的な愛だから。 真紅にとって、その言葉は絶望してしまいそうなほど、つらい言葉だった。だって、そうだ。自分のジュンへの接し方。決して、いいものだとは思っていなかったけど。だけど、それが報われない気持ちの、原因だなんて、わかってしまったら――。 どうしようもない。真紅は自嘲した。今まで築き上げてきた、ジュンとの関係が、ただのジュンの優しさなのか、と、愛情(たとえどのような種類のものであれ、)を抱いているのは、自分だけだったのか、と。 ――ずっと、真紅は心のどこかで考えていた。「ジュンは、私を許してくれるの?」「許すも何も……何の話だ?」 ジュンは、本当に真紅が何を言っているのかわかっていない様子だった。 ――それが、真紅にとってどれだけ嬉しかっただろう。どれだけ、心を救われただろう。今も昔も変わらない。ジュンは、真紅に必要だったのだ。真紅が、真紅であるために。 「それにしても、ジュンは浮気者ね。追い出されて、真っ先に頼るのが、他の女の子だものね」「真紅まで何を言い出すんだよ……いい加減、凹むぞ?」「あら、だって本当のことじゃない?」 くすくす、と真紅は笑う。だって、私から離れ、水銀燈と恋人になって、そして、薔薇水晶と幸せになったんだから――。それは、まだ言えない真紅の想い。まだ、勇気が出せないから。 「ん、……水銀燈と、キスした?」「ああ、何か、放課後一緒に帰ってたら」「それは、いつ?」「確か……四日前くらい?」「ふぅん……四日前、ね」 四日前を回想する。確か、買い物に行く約束をした水銀燈が、ドタキャンした日だ。理由が、だって、薔薇水晶たちが用事なんだもの。 まったく意味がわからなかったが、少し考えればわかることだった。……友情よりも愛情ということか。ふん、面白い。そういうことなら、こっちだって考えがある。 「でも、ジュンはモテモテね。私たち、みんなから好かれて」「……そうかぁ? 水銀燈は、まあ、そうだろうけど、水銀燈と、薔薇水晶たちだけだろ?」「今その発言で、貴方はいろいろ敵に回したと思うけどね……。というか、気づいていないの?」「?」 ああ、ダメだ。ホントに周りが見えていない。もしかして、幸せになると周りのことに関して鈍くなるのだろうか。昔からだっただろうか。「ま、いいわ。……ふん、見てなさい、水銀燈」「うわ、何か真紅が燃えてる」「そうよ、今日、私は機嫌がいいの」「へえ、真紅が自分から言うなんて、珍しいこともあるもんだ」「だから、ジュン。――紅茶をいれて頂戴」「へいへい……。あはは、これ、何か懐かしいな」「……それは、貴方が私から離れたからよ」「え?」「何でもないわ。……とりあえず、寝る部屋は私の部屋でいいかしら?」「別にいいけど」 これは、特に深い意味はない。意味がない方がおかしいのだが、二人にとって、それは当たり前だった。……もっとも、それが当たり前だったのは、昔の話だが。 だって、ジュンはしあわせになったはずだから。「ん……」 ――何か、ジュンは嫌な予感がした。何かはわからないけど、具体的に言うと一週間はねちねちと嫌味を言われる精神的にアレな嫌な予感。「何でだ……?」 そして、ジュンは気づかない。その後ろで、真紅がとても楽しそうに笑っていたことに。「――くんくんは天才よ」「まあ、否定はしないけどさ。結構作りこんであるし。だけどなぁ」「何よ。文句があるっていうの?」 不満そうに真紅が言った。「いや、なんというか、真紅のその、恋する乙女の瞳みたいなのは、どうなのかな、って」「当たり前よ。くんくんは最高よ」「あ、何かどうでもよくなった」 ジュンが苦笑した。そりゃあそうだ。真紅は、ジュンの皮肉にすら気づかずマジメに返したのだから。「ん、っていうか、わざわざなんで真紅の家で僕はくんくんを見ているんだろうな」「それを言うなら、何で私の家に泊まっているんだろうな、よ。別にくんくんはおかしくないわ」「……それは頑なに主張するのか」 さすがは真紅だ、とジュンは思う。 ここは、真紅の部屋。ちょっと見回せば、結構くんくんのぬいぐるみとかが目に付く。いつもの真紅とのギャップが激しいが、真紅らしいといえば真紅らしいのかもしれない。 ジュンは女の子の部屋なんて、ほとんど知らないけど、だけど、やっぱり真紅も女の子なんだな、と再確認する。だから、別に意識するわけではないのだけど。「でも、そうね、せっかく二人なのだから、話でもする?」 真紅は、自然にそう言った。でも、自然だからこそ、心が動かされる場合だって、ある。無意識の微笑み。真紅の、幸せそうな微笑。 気づかぬうちに、真紅は楽しそうに、幸せそうに、笑っていた。自分だって、わからないのに。「え、あ……、うん」 そして、そんな微笑を向けられ、赤面するジュン。慣れてなかった。というより、こんなかわいい女の子だっただろうか、真紅は。 まあ、ぶっちゃければ、錯乱していた。気づくだけで、世界が変わると誰かが言っていたけど、まさにその通りだった。「……? ジュン、顔が赤いけど」「い、いや? 何でもない」 まさか、見惚れていたとかは言えない。むしろ言った瞬間変な雰囲気になりそうだ。なんか、こう、薔薇水晶たちにぶち殺されそうな雰囲気。「そう? それで、何から話そうかしら――」 そして、二人は話し始める。他愛ない話だった。なんでもない、きっとすぐに忘れてしまう話。 だけど、それは楽しい時間だった。少なくとも、二人は笑顔だったし、話題が途切れることなんてなかった。 どちらも、何となく昔に戻ったみたいだ、と思っていた。昔。二人で居るのが、当たり前だったとき。「ねえ、ジュン――」「え?」 だから、真紅は何か言おうとした。何か、言いたくなった。今の自分になら言える、昔の自分に言えなかった、変わらぬこと。「あの、ね、」 たったーたたたー。「あ、電話。……というか、何かすごい嫌な予感がする」「――バカ」「え?」「何でもないわ。早く出なさい」 真紅はそっぽを向く。少し、顔が赤らんでいたかもしれない。「う、うん……もしもし?」『ちょ、ちょっとジュン!? どこに居るの?』「水銀燈? どうしたんだ、そんなに慌てて」『何か、急に薔薇水晶たちが私の家に押しかけてきて、ジュンはどこー、ジュンをどこに隠したー! って暴れてるんだけど!』「……うわぁ、水銀燈の家に行かなくてよかった」『そんなこと言わないでよぉ、今ホントに、きゃ――』 あ、電話盗られたな、と、ジュンは思った。『――ジュン?』「はい」 怖かった。滅茶苦茶怖かった。こんなに怖い雪華綺晶は、初めてだった。『今、どこに居るのかなぁ?』「その、はい、友達の――」『へえ、友達。どこの友達かな?』「あー、その、うん、べ、べジ――」「もしもし?」 今度は、ジュンが電話を奪われた。……え?「お、おい真紅!?」「ジュンは私の家に居るわ」『ふぅん――何で?』「それは、ジュンが私を頼ったから、かしら」『……あは、宣戦布告と見ていいの? 真紅』「上等よ」 がくがくぶるぶる。え、何、何でこんなことになってるの――? もはや、ジュンはただ震えるしかなかった。『ジュンにかわってくれる?』「はい、ジュン」「…………」 何か、もう、駄目だった。死刑囚の気分って、こんな感じなんだろう。「もしもし……?」『今から行くけど、何かしたならマジで覚悟してねっ☆ ブツっつーつー』 もう、逃げようかなぁって、思った。素でキレてる。「どうしたの?」「なんでもない、なんでもないんだ――」 神さま、僕、何かしましたか? ジュンは何かに問いかけたけど、もちろん答えはなかった。「なあ真紅、一つ聞いていいか?」「いいわよ」「何で僕たち逃げてるんだ?」「追うものが居るからよ」 真紅の理論は正しい。正しいけど、おかしい。「まあ、もう何でもいいんだけどね」 ジュンは諦めた。言い訳しても無駄だ。実際キスしてしまったのだし。というか、それとは別の理由で怒っていたような気もするけど。「……ジュン、停まりなさい」「へ? ……うわ!?」 ジュンは、咄嗟に後ろに飛んだ。ジュンの居た場所には、何かが突き刺さっている。何かというより、これって――「イチゴの……何だこれ?」「それはイチゴ型麻酔針なのー!」「イチゴ型の時点で針じゃねえ」 思わず素で突っ込んでしまった。「ふ、そんなこと言っていられるのも今のうちかしらー!」「どうせ玉子焼き型の何かなんだろうなぁ」 ジュンは目を伏せた。「そして私たちこそ、奪れたら奪い返す!」「二人合わせて奪還成功率100%の!」「「奪還屋Get Backers!」」 …………。「真紅、行こうか」「そうね」 すたすたすたすた。「ま、待ってなのー!」「待ってかしらー!」「えー」「そ、そんな嫌そうな顔しないで欲しいのかしら! 流石にちょっと傷つくのかしら!」「だって、なぁ?」「私にふらないでちょうだい」 だって、何と言うか色々現実逃避したくなる。っていうかパクリかよ! そのままかよ! むしろイチゴ型には目を瞑るとしてもナイフとか使ってないよ!「ふっふっふ、私たちはとある人からの依頼で、ジュンを奪り返しに来たのかしら!」「誰かは聞きたくない」「何と! ジュンを奪り返したら、雪華綺晶の玉子焼きが、好きなときに食べられる……っ」「うにゅーも奢ってもらえるのー!」「食い意地かよ」「食い意地ね」 ここに来て、幼なじみの二人の息はぴったりだった。いや、相手方の二人も息はぴったりだったけど。「そんなわけでお縄かしらジュン! 何だかよくわからないけど、浮気はよくないのかしら!」「そうなの! っていうか、よりによって真紅っていうのはダメだと思うのー!」 さりげなく毒だった。「お前、雛苺に何かし、たのか……いや、ごめん、何でもない」「――いいわ、相手になってあげましょう」 あー、今回皆キレやすいなぁとか思いながらジュンは背を向ける。ごめん、二人とも。僕だって、命は惜しいんだ。「ふ、真紅一人で何ができるのかし、らああああああああ!?」「その程度の攻撃で、カナは倒せても私は倒せないのよ! ストロベリーバイトォォォォ!」「それは雛苺が金糸雀を盾にしたからでしょう!」「私、やられ役かしらー!? ジュン、助けてー!」 ――で、結局。「く、たとえ私が倒れても、第三、第四の薔薇乙女たちが、現れるのー……がくっ」「マニュアルどおりの台詞ね」「いや、もう、ホントどうでもいいけどね。……大丈夫、金糸雀?」「う、うう……怖かったのかしらぁ……」 ごめん、変なことに巻き込んで。でもぶっちゃけると、玉子焼きにつられたから謝らなくてもいいよね?「それじゃあ、行きましょうか、ジュン」「ああ、ところでさ」「何?」「第三、第四って、つまり、その番号のままなんじゃない?」「……ああ、それは、考えなかったわね」 二人の脳裏に、とある双子の姿が思い浮かんだ。「そこまでです!」「そこまでだよ!」「……ほらやっぱり」「今回は、ジュンの役目よね」「僕、とりあえず自分から逃げようって言ってないんだけどなぁ」「何よ、守ってくれないの?」「それとこれとは――」いちゃいちゃいちゃいちゃ。「――って、無視するなですー! むしろいちゃついてんじゃねーですよー!」「そうだよジュン君、いつから君は人を無視するようなひどい人になったんだい? ひどいよ……」しゃきーん。「僕の知っている蒼星石は無意味に鋏を人に向けたりしなかったけどね……」「あ、これ、無意味じゃないよ? ――では、零崎を始めます」「ありえねええええええええええええ!! いいのか蒼星石、そのキャラは変態だぞ!? むしろ妹萌えーとか言っているやつだぞ!?」「妹萌え結構じゃないか! そんなわけでジュン君! 死なない程度に殺すから!」 にっこり、いい笑顔だった。あー、どうせならこんな場面で見ないで、もっと別の場所で――と、言おうとしたけど、何となく他の二人のことを思い出してやめた。 そうした場合、蒼星石が味方になって真紅と翠星石が敵になる気がしたのだ。「まあ、蒼星石とジュンは置いておくとして」「蒼星石は姉萌えじゃなかったんですね……」「貴方も、大概おかしいわね」「うっさいですねー。というか、真紅、どうしてこんなことを?」「ジュンが好きだからだけど」 さらっと。何でもないようなことを言うように真紅は言う。「――は?」「だから、ジュンが好きだからだけど。……というか、それをジュンは気づいているのかしら」 横目で、二人を見る。「あははははは! 待ってよー! ジュンくーん!」「へ、変態だ! 目を覚ませ、蒼星石ー!」「ぽけぽけー!」……見て後悔した。 今さらだけど、何て馬鹿らしいのだろう。「って、真紅、本気ですか!?」「本気だけど――ああ、翠星石も、ジュンのことが好きだったわね。けど、ジュン、気づいてなかったわよ?」「そ、そんな、いくらなんでも、そりゃあ、素直じゃない態度とったりしましたけど、でも、勇気出してぎゅって抱きついてみたり、家に呼んだとき、着替え中のところ呼んだりしたのに……。キスだって、事故とはいえ、したはずなのに……」 「とりあえず、貴方のその発言はスルーするけれど、ジュンも相当アレね」「……う、ううう、こうなったら、ジュンを奪り返して、それで家に連れ帰って決着つけるです! そのあとで幻の花を貰うです!」「ああ、それにつられたのね……」 どうも裏で動いているのは雪華綺晶だけのような気がする。薔薇水晶はどうしたのだろうか。「ま、何でもいいけど」「ふん、真紅、そういうわけで、覚悟するです――」「私、ジュンに水銀燈よりも一緒に居て安心するって言われたわ」「――よ?」 固まった。完全に固まった。真紅を指差した状態で、翠星石が固まった。え、今、真紅は何を言ったのか。確か、そう、水銀燈よりもって。 嘘だ。それって、結構ありえないことだ。水銀燈とジュンの仲の良さは、下手したら薔薇水晶たちよりも上のはずなのに――「ジュ、ジュン!?」「ぐえ!?」 後ろからひっとらえたから首が絞まっていた。「何ですかそれ! 結局何となく素直じゃなくて、でもたまに素直になるような女の子が好きだって言うことですか! ツンデレってやつですか! それで真紅に走ったんですか! それなら私だっていいじゃないですか! 私だってジュンのこと好きなのにぃ!」「ちょ……翠星石……くび…」 顔がヤバイ色になってきていた。「うわーんっ! ジュンの馬鹿ー!」「しん、く……っ」 助けてくれ。目で合図した。アイコンタクト。「いやよ。それって、結構正当な訴えよ? というより、それくらいの人災は受けてしかるべきだわ」 ジュンは諦めた。あー、きっと、俺神様に嫌われてるんだろうなぁ。「……ていうか、僕の立場は……?」「ないわね」「……いやまあ、ちょっとはしゃぎすぎた感じがするから、いいけどね」 しゃきーん、ぐるぐる、かしゃん。「庭師というのは、誰でもそんな鋏を使えるのかしら」「え、刀も使えるよ? 六道剣【一念無量劫】とか」「貴方、冥界に住んでいたの?」 みょなのか。むしろぽけぽけーみたいな感じなのか。「でもさ、真紅、」「何かしら?」「ホントの理由は、違うんじゃない?」 そう言う、蒼星石の瞳は、優しかった。「……さあ、何のことかしら」「ま、君がそう言うなら、そうなんだろうけどさ」「そうよ。そうなのよ」 いろんな想いがある。ただそれの中から一個だけ選ぶことは出来ないから、全部ごちゃまぜにしただけだ。 ……まあ、発端はジュンが家に来たことだけど。「そういえば蒼星石は何を貰うことになっていたの?」「え」 蒼星石の顔が赤くなっていく。「……その、」「その?」「ジュン君、一日貸し出し券」「――蒼星石、今何て言ったですか?」「うわ、聞こえちゃった」「わ、私だってそっちの方がよかったですー! 何で教えてくれなかったですかー!」「どうでもいいけど、いい加減ジュンの手を離さないと死ぬわね」「あ――ジュ、ジュン! ああ、死なないでー!」 泣き出す翠星石に、二人は同時にツッコミをいれた。「「いや、貴方(君)のせいだから」」あらすじ――ジュンは浮気者だった。 とりあえず双子は倒したことにして(正確に言えば馬鹿らしくなったので。お互いに)、二人は先に進んだ。先とは言うが、どこが目的地なのだろうか。多分、二人ともわかっていない。 「さて、次はやっぱりあの子なのかしらね」「あと誰か居たっけ?」「居るわよ。……まあ、今無事かどうかは怪しいけれど」「――そうねぇ、まあ、無事とは言えないわよねぇ」「ああ、水銀燈か」「何よぅ、ジュン、忘れてたの?」 そこには、拗ねた顔をした水銀燈が居た。「っていうか、何で雪華綺晶はあんなに怒ってたんだ? 水銀燈、知ってる?」「確か、馬鹿って一度死ねば治るんだって?」「違うわ、真紅。馬鹿は死んでも治らない、よ」「……あれ、今僕、貶されてる?」「「そんなことないわ」」 さすが幼なじみ。息ぴったりのコンビネーションだった。「――まあ、私がジュンだと思って、バスタオルをしただけの格好でドアを開けたのがダメだったのかしらねぇ」「水銀燈、自業自得って言葉を知っている?」「っていうか、ホントにシャワー浴びたのか……」「え、嘘だと思ったの? って、そうよ、ジュン、何で来なかったのよぉ。しかも真紅の家に行くしぃ」 ぶーたれていた。「なあ真紅、これって僕がおかしいの?」「大丈夫、貴方はおかしいけれど、水銀燈はもっとおかしいわ」「……あれ、今私、貶されてる?」「「まさか」」 さすが幼なじみ。阿吽の呼吸のコンビネーションだった。「つーか、普通にそんなこと言われて行かないって。その――もう、恋人じゃないんだから」「あ、ひどいんだ、ジュン。昔は食い入るように私の胸見てたことあるくせにぃ。――あ、真紅も親の敵を見るような目で見てたわね。最近は見ないから、諦めたのかしら? 悟りの境地ってやつぅ?」 「ぶっ殺すわよ?」 ぎらり、と真紅の瞳が光った。「……あ、真紅、やっぱり気にしてたの?(ぼそぼそ」「……そうよぉ、うっかり貧乳なんて単語が聞こえて見なさい、その反応の速さといったら、滑稽って言ってもいいわぁ(ぼそぼそ」「何を、話しているのかしら?(ぎろり」「「別に、何も」」 さすがは幼なじみ。まるで図ったかのようなコンビネーションだった。「あ、そうそう。忘れるところだったわぁ。私、ジュンを奪り返しに来たんだっけ?」「僕に聞かれても困る」「貴方は、雪華綺晶に、何を貰うの?」「え、何も貰わないわよ? ――そうよ、聞いてよ二人とも。ホントに怖いのよ、あの子が怒ると。私、思わず三途の川を幻視しちゃったわぁ」「……がくがくぶるぶる」 ジュンが直立のまま震えていた。どうも、脳内シュミレーションしたらしい。「ま、そんなわけで、私の保身のために、ジュン、ちょうだぁい?」「イヤよ。貴方の場合、そのままどこかに連れてきそうだもの」「…………イヤねぇ、そんなはずないじゃない」「今! 今の間は何! 何か教えて、水銀燈!」「大丈夫よぉ。昔みたいに、壊れるわけじゃないから。正気のまま、愛してあ・げ・る」「あんまりフォローになってない! いやもちろん水銀燈が立ち直ってくれたのは嬉しいんだけど!」「あら、私と居られるのが?」「違うそこじゃなくて! いや、別に一緒に居てつまらないというわけじゃないんだけど!」「……やっぱり、ジュンじゃないとダメなのよ」「え、水銀燈……?」「だから、お願い……」 さっきとは打って変わった雰囲気に、ジュンは飲み込まれそうになった。「す、水銀燈……」「――よし、ジュンゲットよぉっ」「演技かよ!」「漫才はそこまでにしなさい、二人とも」 真紅がため息をつく。これが、三人の日常だった。「というか――」 真紅が、真剣な顔をして言った。「私と水銀燈の二人で攫えば、万事解決なのだわ」「ああ、それはグッドアイデアね」 即決だった。「え、えええ、僕の意志は!?」「あら、そんなものがあると思ってたの? 下僕は下僕らしく主人に従いなさい」「そうよぉ、大丈夫、きっと幸せになれるわ。次回から、【水銀燈と、ジュンと、真紅】の物語が始まるのよぉ」「何故、水銀燈が先なのかしら」「私の方がジュンに近いからに決まってるでしょう?」「あら、てっきり年をとっている順番かと思ったわ。ごめんなさいね」「あはは、まさかぁ。胸の大きい順番よ?」「――それは、ジュンよりも小さいとでも、言いたいのかしら」「被害妄想って、怖いわねぇ……」 そして、降りる沈黙。一瞬の間。「――真紅ぅっ!」「水銀燈――っ!」「あー、うん、やっぱりこうなるんだよね。わかってたけどさ」 いつものことだし、とジュンは思いながら空を見上げた。もう日も暮れて、星だって出ていた。「そもそも、何でこんなことになったんだっけ」 今さら、原因を考え始めた。というか、今日は皆随分はっちゃけてたなぁ。どうしたんだろうか。まあ、いいけど。 ……もしかして、ここからシリアスな展開が待ってたりするんだろうか。いやほら、薔薇水晶の姿がどうも物語に見えない気がするし。「大体! 何で真紅がジュンと逃げてるのよぉっ!」「うるさい子ね、貴方より私と居る方がジュンは安心するからよっ!」「それってつまり、ドキドキしないってことでしょぉ!? つまり、恋愛対象じゃないってことよねぇ!」「――黙りなさいッ!」 まあ、とりあえず彼女たちが来るのを待とう。どうせ、そろそろ現れるに決まってる。……うわぁ、思い出した。それで逃げてたのに。「ま、いいよな。そろそろ、逢いたいし」「ん、準備完了」「…………」「あはは、なぁに、薔薇水晶。そんなにくらーい声して」「……こうなったら、ジュンを殺して私も死のうかなって」「愛ゆえの暴走、その時彼女に何が!? ってやつね」「うん、嫉妬だけどね」 彼女たちは、黙った。黙って、誰かの顔を思い出した。「……というか、ジュンが悪いんじゃない?」「うん、私もそんな気がしてた」「そうだよねー、大体さ、頼むのはいいんだけど、何だかんだで皆、ジュンのこと好きっぽいもんねー」「ジュンは、そんなこと言ってなかったのに……」「まさかとは思うけど、きっと気づいていないんだと思う」「まあ、そうかも」「ジュンだし」「ジュンだからね」 鏡を前に、彼女たちは笑いあう。それだけが、彼女たちが逢う方法。「――それじゃ、行こうか」「うん、行こう」 ――浮気者を、こらしめに。「大体、昔から貴方のそういうところが、気に食わないのよ!」「それはお互い様なのだわ! 昔から、私だって貴方のこと気に食わなかったわ!」「仲いいなぁ」「「ジュンは黙ってなさい!」」「はいすいません」 このまま消えても、きっと二人は気づいてくれないんだろうなとジュンは思い、ちょっと寂しくなった。「……逢いたいなぁ(ぼそ」 今さらだけど、何で自分は逃げてるのか、ジュンは考える。っていうか、逃げる必要、なかったのでは? 別にやましいこと、何もしてないし。 ただ、真紅が、やけに真剣な顔で“一緒に逃げましょう、ジュン”なんて言うから、思わずついてきてしまった。昔から、真紅には弱いのだ。真紅の言うことを反射で聞いてしまう。 まあ、主人と下僕の関係を続けてきたから、それが当たり前と言えば当たり前なんだけど。でも、皆を巻き込んだのは自分かも。「あと、薔薇水晶たちを怒らせたのもね……」 それが、一番の後悔と言えば一番の後悔だ。自分には今一彼女たちの起こっている理由はわからないのだが、でも、怒っているんだからきっと理由があるんだろう。自分の判らない。 一応、ジュンの名誉のために言っておくけど、ジュンは本当に真紅にやましい気持ちなんて抱いていない。幼なじみと一緒に居るだけだ。異性を感じないと言えば嘘になるが、薔薇水晶たち以外に好きな人なんていないのだ。 なのに、こんなややこしい状況になっている。……何でだろうなぁ。ジュンは遠くを見た。何か、見知らぬ誰かにてめーのせいだ、ぶぉくぇ、って言われた気がした。「――よっしゃあ、見つけたよ、薔薇水晶!」「うん、……補足」 そして、彼女たちが現れた。「あら真紅。変な二人が来たわ」「そうね水銀燈。何かこちらを睨んでいるけど、どうかしたのかしら?」「やっぱり何だかんだで仲がいいよね」 っつーかさっきまでの争いはなんだ。何でそんな即座に態度を変えられるんだ。幼なじみ補正か。そうなのか。 いやまあ、正確な理由は、敵の敵は味方。さらに正確に言えば、一番の恋敵を二番目の恋敵と共に倒した方がいいんじゃないか、みたいな。「っつーか、マジムカついた!」「むかついた!」「薔薇水晶!」「雪華綺晶!」「「ジュンを、取り戻す!」」「あー、やっぱり二人も仲良いよね」 いや、身体は一つなんだから、仲悪かったら大変だよね。今さらだけど。つーか、起源は同じだし。かるーく、現実逃避気味にジュンは思った。「っていうかさ、ジュン」「ん、何、雪華綺晶?」「ジュンは、どっちの味方なワケ?」「え?」 ジュンは後に語る。その時の、視線にはさまれた時のことは、きっと永久に忘れない、と。「もちろん、私たちだよね?」 純粋に疑っていない瞳。「……そうだよ、ね?」 不安に駆られながらも、信じる瞳。「あら、ジュン、ここに来て裏切るの?」 落ち着いたふりをして、それでも心を語りかけてくる瞳。「ん、ジュン、私、大好きだから」 とりあえず、らぶーな光線な瞳。「……何か、水銀燈だけ異質だなぁ」「異質って何よぉ。私、嘘いってないけど?」「水銀燈、貴方、少し黙りなさい」「ていうか、私たちの場合、そんなこと言わなくてもジュン、わかってるし。ねー」「ねー」「…………(ぎんっ」「それ、僕のせいなのか、真紅!?」 真紅の貫く視線! ジュンは怯えた!「とりあえず、ジュンは私たちが貰ってくから」「そうね、その後決着つけるってことで」「――っつーかさ、何でそんな話になってるの?」「僕に聞かないで欲しいな、雪華綺晶」「ジュンに聞かないで誰に聞くのー?」「まったくなツッコミだね、薔薇水晶」 でも実際わかってなかった。「だから、私がジュンを好きだからよ」「ジュンは所有物じゃないよ?」「いいのよ、私、主人だから」「……私の言ったこと、わかってないの?」 雪華綺晶の顔つきが、変わった。それは、いつだったか真紅に言ったことを言っている。縛り付けるだけで、いけない。「いいのよ。私、ジュンにも縛られてるもの」「「「「ええええええええ!?」」」」 その発言に、真紅以外の全員が声を張り上げた。「何そのデマ! っつーかまたデマか! 誰だ、無責任にそういうの流すのは!」「あ、ジュン慌ててる! 薔薇水晶さん、ジュン評論家の貴方としてはどう見ますか!?」「ジュンの浮気者ジュンのバカジュンの女ったらしジュンを監禁ジュンとらぶらぶジュンは私だけしか見ないジュンは私だけのもの」「はい以上薔薇水晶さんでしたー! っつーかさりげなく私たちじゃなくて私オンリーで言ったな!? くっそう、敵だらけだ! ――ちなみに今、私怒ってます!」「……ジュン?」「あー、何、水銀燈」「私、物理的に縛られたこと――」「あっはっはー! 張り合わなくていいよー!」「きゃ、ちょ、ジュン!?」 水銀燈の口をふさぐジュン。滅茶苦茶挙動不審だった。「「「…………じー」」」「はっ!? ――違うよ? もちろん違うよ、三人とも。あはは、やだなぁ。僕がそんなことするわけないだろう?」「ジュンの一番大切にしているえっちな本は、」「ごっめんするかも! って、薔薇水晶気づいてたの!?」「うん、今度、あーいうのしてあげるね?」 にこー。「えっと……うん、その、よろしく」 なんというか、男として情けない姿だった。「――いちいち、ジュンは誰かといちゃつくのね?」「いや、そんなつもりは、……あ、何でもないです。ホントすいません」 真紅の視線に負けた。というか真紅に負けた。それが真理になりつつもある。あらすじ――水銀燈とキスしたのがバレル→真紅の家に逃亡、そしてバレル(ばらしーたちはストーカーか……?)→何故か真紅と逃亡→たちふさがる姉妹たち(何故かみんな壊れてる)→最後の刺客は水銀燈、真紅と意気投合し、ジュンをさらうことに→そして、薔薇水晶たちが現れる→ 今此処ね。ジュン死ぬ問:この内容を、十字以内にまとめろ。答:ジュンの浮気者。(解答者:ろーずくりすたる)「とりあえず収集をつけよう」「何かジュンがすました顔で今までの流れを無視しようとしてるよ、雪華綺晶」「ということは、結局どっちの味方か言ってないってことだね、薔薇水晶」「悲しいね」「浮気者だね」「愛憎から生まれる悲劇?」「むしろ素直狂う?」 ナイフで腹をかき混ぜながら“愛してるよ、ジュン”とか言うつもりなのだろうか。「……収集を! つけよう!」 暑くもないのに、何故かジュンは汗だくだった。「ねえねえ真紅」「何かしら」「つまりぃ、どっちの味方か言わないってことは、私たちと薔薇水晶たちは、同じくらい大切にされてるってことかしら?」「ああ、なるほど。確かに、そう考えることも出来るわけね」 ちらり。「……う」 ジュンは、真紅の何故かとても優しい微笑みを見て、言葉を失った。本当に裏表のない微笑み。おそらくは、真紅という少女の本質を表した微笑。「……素直狂うかな、これは」「うん、嫉妬に狂ふ、って感じかな」「あ、ごめんなさい話進めますんでそのどこからか取り出した鉈は仕舞ってくださいむしろ仕舞ってお願いしますー!」「――ちっ」 舌打ちされた。「薔薇水晶、それ使いたいの?」 水銀燈の、純粋な疑問。「えっと、そうですね。これを使ってジュンを虜に出来たらなーって思っては居ます」「違う意味の虜だけどねっ」「いや、雪華綺晶、わかってるなら止めてやれよ」「この際手段は選ばないと誓いを立てたの。ジュンを手に入れるため」「いや、っていうかさ、別に僕はもともと逃げるつもりなんて――ぐふっ」「あらジュン、そんなところで蹲ってどうしたのかしら。次元の歪にでもやられた?」「nのフィールドでも開いたのかしらね」 っていうか二人だろうが、やったのは! ジュンは視線で訴える。痛くて喋れなかったから。「何?」「何かしらぁ?」 ……いや、逆らえるわけではないのだけどね。「っていうか、ナチュラルに何してるの、二人とも!」「そうだよ! ジュンをいじめないで!」「……さっきの鉈は何なのかしら」「私たちはいいの! ジュンを傷つけるわけじゃなくて、ジュンが私たちしか見れなくなるようにするためだから!」「精神的傷を、負うと思うんだけど」「そんなわけで、ジュンを傷つける人は、誰であろうとも許さない!」「あ、僕のことはシカトなんだ」 せっかく痛む身体にムチ打って発言したのに。「と、いうわけで、」「真紅、水銀燈」「「貴方たちを、倒します」」 無駄に決まっていた。‡「……ああ、何だかなぁ」 目前に広がるばらきらーずVSすいぎんしんくの戦いを見ながら、何となしに思い出す。 確か、そう、確かの話だけど――いつだったかも、こんな風に彼女たちが戦っている姿を、見たことがある気がした。 気が、する。おかしな話だ。自分の記憶の中で、決して意識しているわけでもないのに、あると感じてしまう。それは、デジャヴなどと呼ばれるものなのか。 ――なぜだろう。だけど、それは確かにあった記憶のように感じる。たとえば、彼女たちが、人形で、何故か、戦わなくてはいけなくて――「荒唐無稽な」 人形が動くはずがないのに。まったくもって、意味がわからない。……ナニカ、変な気がする。唐突。そう、唐突だ。 何もかもが唐突な気がしてきた。物語は、【薔薇水晶と、ジュンと、雪華綺晶】の物語は、ハッピーエンドを迎えて、そして今なお幸せだというのに。 どうしてか、物語が綻んでいる気がするのだ。何か、忘れているような。何か、何か――「あれ、ジュン、何してるんですか?」「……え?」「ジュンくん? ……ああ、なるほど、最終決戦って感じかな?」「みんな暇なのー」「その中に雛苺もいたのかしらー……」 ……皆が、そろった。そろってしまった。あれ、駄目な気がする。何で?「……ちょっと、ジュン。何だか、ホントに具合が悪そうですよ。どうしたんですか?」「いや、大丈夫だ。翠星石。ありがとう」「そうですか? なら、いいですけど」 唐突。唐突すぎる。何か、兆候があってもいいのに。――駄目だ駄目だ、目を背けるな。気づけ、気づくんだ。 だって、【彼女】が本気で隠そうとしたなら、兆候なんて、ないに決まっていて、全てが唐突に、終わり始めるに、決まっていて――
「――――っ!?」 意識が遠くなる。意識が遠くなる。意識が、還っていく。彼女の、もとへ。→【わすれもの。】
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