口は災いの元
僕は今、真紅に強制されて、お湯を沸かしている。園芸部の部活動が、終わったあとは、お菓子と一緒に、紅茶かハーブティーを飲むのがお決まりになっている。といっても実際に部活動しているのは、翠星石と蒼星石くらいで他のメンバーは、ただの数合わせなんだが。とりあえず、頼まれた水やりを僕一人でこなした。真紅と雛苺は、はやく~といいながら見てるだけ。少しくらい手伝ってくれてもよかったのに。 ん?なんで、部室にコンロがあるのかって?真紅が紅茶を飲みたいがために、僕に運ばせたんだ。ついでに、冷蔵庫と棚とソファーとテーブルも。おかげ、部室はかなりのくつろぎ空間となっており、この部屋の中だけで、生活するのに足りないのは、シャワーくらいなものだと思う。 そんなことを言ってるうちに、お湯が沸いたみたいなので、ティーポットにお湯を注いで暖める。葉を入れ、再びお湯を注ぐ。蒸らしている間に、カップを棚から出す。僕のカップ。特に言うことのない普通のカップ。真紅のちょっと小さめのカップ、何時見ても、品のいいカップ。雛苺の大きいカップ、体は小さいのに、食い意地はって大きめのカップ。翠星石と蒼星石のお揃いのカップは今日は出番がない。翠星石は部長参加の予算会議で、蒼星石は生徒会の会議で今日は来れない……はずだったが、翠「疲れたですぅ」と扉を開く音と、翠星石の声が聞こえる。翠「チビ人間、翠星石のも淹れやがれですぅ。」J「ハイハイ。」翠星石のカップも取り出し、全部のカップに紅茶を注ぐ。冷蔵庫から、ヒナ専用と書かれたイチゴジャムを取り出し、ミルクと砂糖と、お菓子と一緒にお盆に載せ、テーブルまで運ぶ。やけに、手馴れているのが、少し悲しくもある。 雛「いちご~、いちご~、いちごのこうちゃ~♪」と歌いながら、紅茶にドボドボ、イチゴジャムを入れる。真「……いつもより、お茶請けが少なくなくて?」J「しょうがないだろ?こんだけしか残ってなかったんだから。」雛「うにゅ~。ヒナ、もっと食べたいの。」翠星石の目が怪しく光る。翠「チビチビ、チョコをやるです」翠星石は板チョコをカバンから取り出した。J「お前が?雛苺にチョコを?……悪い物でも食ったか?」雛「……ヒナ、うにゅ~のほうがいいのー」雛苺も危険を感じてか、はたまた、本当に苺大福のほうかは、知らないがそう答えた。翠「おめーら、失礼ですぅ。もう、チョコやんないです。」翠星石がチョコをバックに入れようとしたところで、やっぱり欲が出たのか雛「あっ、ダメなのー、雛苺やっぱりもらうのー」翠「いやしいチビチビめ、ほれ、くれてやるです。」雛苺は受け取った、チョコの包みをはがし、幸せそうに雛「いただきますなのー」といってチョコを頬張った。 チョコを噛むうちに、雛苺の顔がどんどん歪んでいく。雛「このチョコおかしいのー。すっごい苦いのー」雛苺は涙目になっている。J「んなバカな。ちょっと貰うぞ。」ヒトカケラ、チョコを貰って、口に放り込む。噛むほどに、口いっぱいに苦味が広がる。J「……なんだこれ、ほんとにチョコか?」ジュンは、たまらず紅茶で苦味を飲み込んだ。翠「たいへんですぅ。チョコの神が怒り狂って、世界中のチョコを苦くしたですぅ チビチビが、そのチョコ全部食うまで、チョコの神の怒りは静まらないですぅ」演技がかったノリノリの声で翠星石が言う。紅「紅茶は静かにいただくものだわ」と、いつものセリフをいいながら、真紅は優雅に紅茶を口に運ぶ。雛「そ、そんな、ヒナのせいなのー?」雛苺は、顔を上げ、雛「ヒナがんばるもん。チョコ全部食べるもん」そういいながら、チョコをイチゴジャムたっぷりの紅茶と一緒に泣きながら頬張ってゆく。 J(…………というか、こんな馬鹿なことがあるわけがない ………あ、そういえばたしかCMで……)J「翠星石、これ、カカオ99%のチョコか?」翠「その通りですよー。チビチビはやはりおバカ苺ですぅ」雛「ふぇ?なんなのーそのカカオ99%って」そういいながら、最期のヒトカケラを紅茶で流し込んだ。涙で顔がぐちゃぐちゃだ。紅「ほぼカカオのみで作ったチョコよ。 カカオというのは、チョコやココアの原料ということで 勘違いされやすいけど本来甘味はないのよ。 つまりそのチョコは、そもそも甘くないということね」雛「チョコの神様怒ってないの?……翠星石、雛を騙したの?」翠「雛苺の泣き声はとても気持ちがよかったですぅ。」紅「無様ね。たかが苦いってだけで。まだまだお子様ってことかしら。」真紅は、優雅に残りの紅茶を飲んだ。雛「真紅だって、こんなの食べたら顔がイーってなるんだもん」紅「ならないわ。あなたとは違ってよ。雛苺。 チョコを全て食べてしまったからその姿は見せれないけれど。」 翠「あ、大丈夫ですぅ。まだカカオ99%チョコはあるですぅ」紅「なんですって?」真紅の顔が引きつった。雛「真紅、ちゃーんと食べてよね」紅「でも、もうお腹いっぱいだわ。また今度にしましょう?」翠「さっき、いつもよりお茶請けが少ないとかいってなかったですか?」紅「そ、そんなこと言ったかしら。」J(いつも、コイツにこき使われてるからなぁ、たまには、いじめてみようか。)J「真紅、お前もしょせんお子様ってことだな。」紅「ち、違うわ。そこまでいうなら食べてみせようじゃない。」翠星石は、真っ黒なチョコを手渡す。翠「ささ、た~んと食べるですぅ。もう一枚たべるですか?」紅「けっこうよ。」真紅は、真っ黒なチョコ前に、固まっている。J「どうした、さっさと食べろよ?」紅「うるさいわね。…珍しいから見ていただけよ。」真紅は、おそるおそるチョコを頬張る。紅「………う………」雛「あ、真紅、今、苦そうな顔したのー」紅「そ、そんな顔してないわ。カカオの風味を楽しんでいただけよ」どうみても、やせ我慢の真紅を目の前に、翠星石はニヤついてる。J(あの苦味に、口の中に残るんだよな…… もしかして飲み物で流さないとずっとつづくんじゃないか………)真紅は、なんとか全てのチョコを食べ切った。 紅「ど、どうかしら?これで満足?」ちょっと声が震えている。雛「やっぱり真紅はすごいのー。 すっごく、すっごく、苦いチョコだったのに、食べ切ったのー」雛苺の尊敬だけは得られたようだ。翠星石は、十分楽しんだはずだ。僕は、ちょっと、かわいそうと思いながらも、いい気味だとも思った。真紅はティーポットに手を伸ばすが、ティーポットは空だった。紅「ちょっと、ジュン!紅茶が切れてしまったわ。今すぐ入れなさい!」怒りながら、真紅が言ったところで、キーン・コーン・カーン・コーン、と下校時刻を知らせるチャイムがなった。翠「ささ、皆、家に帰るです。」紅「ちょっと待って!お茶の一杯くらい」翠「だめです。さっさと帰るです。」真紅は、強制的に部室から出された。真紅は、クラブ棟の外の自販機で飲み物を買おうとしたが、、翠「もしかして、口のなかが苦くて苦くてたまらないのですか?」とニヤニヤ笑みを浮かべた翠星石の質問によって、諦めざるえなかった。僕らと別れるまで、口の苦味に苦しめられたであろう真紅は、その後、彼女自身が食べるチョコを買うことはなかったそうだ。
蒼い子の復讐へ続く
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