【月下の妖精】
満点の星空と満月陳腐な表現であるが他に相応しい表現もない。その星空の下すでに寝静まった住宅街をJUMはコンビニの買い物袋を片手にさげ一人歩いていた。朝方から降り続いた雪のせいで道は雪に覆われていて、JUMが歩くたびにサクサクと心地のよい音を立てる。静寂と闇が町を包み彼以外だれもいないような錯覚に陥る。JUM「はぁ~」JUMは冷たくなった手を白くなった息で暖めコートの襟を立て首をすぼめて体を震わせた。大寒波の影響で例年以上に冬の寒さは厳しかった。特に今日はこの冬一番の冷え込みらしいと今朝がた姉が言っていたのを思い出した。こんな日に外出したがる物好きは稀だろう、JUMとて本来は外に出ずに暖房の効いた室内にいたい。しかし、彼がそんな物好きの仲間入りをしているのは人間の三大欲求のの一つに耐えかねたからだ。普段夕食を作ってくれる姉がこの雪で止まった電車の影響で帰宅できなくなり襲ってくる空腹に耐えることができなかった彼は寒い中コンビニへと出かけるはめになったのだ。空を見上げれば星が煌き、大地を見れば雪がその星の光を反射しキラキラと輝いていた。そんなある種幻想的な街中をJUMは一人歩いていく。ふと前を見ると前方に見える公園のベンチに見知った顔が空を見上げ座っているのが見えた。JUM「水銀燈?」雪のように白い肌と輝く銀色の髪をもち黒い厚手のコートを着た少女はゆっくりとJUMの方に振り返った。銀「あら、ジュン」JUMの方に振り返った水銀燈はニコリと微笑んで見せた。刹那、JUMの脳裏にまるで「雪の妖精のようだ」などというガラにもない考えがよぎる。JUMはそれを打ち消すように軽く首を左右に振ってから彼女に歩み寄る。JUM「なにしてるんだ、こんなところで」銀「部屋の窓から見えた月がすごく綺麗だったから、ちょっと散歩にね」そう言うと水銀燈はまた空を見上げる。どうやら彼女は稀な物好きらしいJUM「はぁ~、風邪引くぞ」水銀燈の言葉にJUMは苦笑を浮かべてコンビニ袋の中からホットの缶コーヒーを取り出すと彼女に手渡した。銀「ありがとぉ、ジュン」水銀燈は両手で缶コーヒーを受け取るそれを確認した後JUMも軽くベンチの雪を払ってから彼女の横に腰を下ろし同じように空を見上げた。それから自分も袋の中から肉まんを取り出すとそれにかぶり付いた。銀「私ねぇ満月って好きなの」コーヒーを一口すすってから水銀燈はふとそんなことを言った。銀「私は綺麗じゃないから、憧れちゃうのよ」JUMは「そんなことないよ」と否定しようとしてやめた。なぜなら水銀燈が右手で自分の腹部を押さえていたからだ。水銀燈の身体には大きな傷跡がある。彼女から聞いた話では小学生の頃に事故にあった時のものらしい。ひどい事故で一命は取り留めたものの身体には大きな傷跡が残り一生消えることはないのだといっていた。JUMもその傷跡は見たことはあったがそれでも彼女は綺麗だと思っていた。水銀燈はそれを気にしていないそぶりを見せていたがやはりそれにコンプレックスを抱いているJUMは知っていた。JUMは小さく息を吐き出すとそっと隣に座る水銀燈の肩を抱き寄せそっと囁いた。銀「ジュン?」JUM「お前もあの月に負けないくらい綺麗だよ」銀「本当にそう思う?」水銀燈は潤んだ瞳でJUMを見上げそう尋ねた。JUMはそれに短く「ああ」と答えてからそっとその唇をふさいだ。そして一度唇を離すとJUM「本当に綺麗だよ水銀燈」そういってまた唇を重ねた。
FIN
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