いちご日和 六月
◆1じめじめ。雨の様子を表す擬音はたくさんありますが、六月の雨を表すのにはこれが一番でしょう。誰もが憂鬱になってしまいそうな、梅雨の時期。有栖川小学校四年二組の雛苺ちゃんもその例外ではなく、退屈そうな顔をして教室の窓から外を眺めていました。「うゆー……今日もひどい曇り空なの」今にも泣きだしそうな空。ここのところずっと続いているこの天候は、一向に回復の兆しを見せません。(天気予報でもまだまだこの天気が続くって言ってたし、つまらないのよ)そんなことを考えながら雛苺ちゃんがぼんやりとしていたとき。ガラリ、と勢いよく教室のドアが開き、甲高い声が教室に響き渡りました。「おはようかしら! 皆々様!!」現れたのは小学四年生にしては、少し小柄な女の子。オレンジ色のワンピースに、燕尾服のような上着。緑色の髪の毛には、ハート型のとても可愛らしい髪留めをつけています。朝から元気一杯なあいさつに、クラスメイトのある者はあきれたような苦笑を浮かべたり、またある者は、「おはよう、カナ」とあいさつを返したり。カナ、と呼ばれた女の子――金糸雀ちゃん――は窓際に雛苺ちゃんの姿を見ると、ランドセルを自分の席に放り出して駆け寄ります。「おっはよー! かしら! ヒナ!」「うぃ、おはよーなの」雛苺ちゃんの気の抜けた返事に、金糸雀ちゃんは小首をかしげます。マンガなら、頭の上に?マークがついていそうです。「どうしたの? いつものおバカな元気がないかしら」金糸雀ちゃんの言葉に、失礼千万、とばかりに雛苺ちゃんはベロをつきだします。「おバカは余計! だってぇ、もうずっとこんな天気なのよ? ヒナは『めらんこりっく』な気分なの」「なるほど、『めらんほりっく』なのね!」したり顔で答える金糸雀ちゃん。あごに手を当てて、まるで名探偵です。そんな彼女に、雛苺ちゃんはわざとらしくため息をついてみせました。「『めらんこりっく』よ、カナったらお馬鹿さぁんね」途端、わたわたと慌てだす金糸雀ちゃん。「ちょ、ちょっと言い間違えただけかしら! ヒナこそ、ちゃんと意味わかって使ってるの?」金糸雀ちゃんのツッコミに、雛苺ちゃんも目に見えて慌てだしました。「! う、うゆ、もちろんわかってるわ! そういうカナはどうなの?」「!! と、とーぜんかしら! こんなのカナにかかれば楽勝かしら!」端から見てれば実にわかりやすい、意地の張り合いの後。「…………」「…………」少しばかり間が空いて。
「実を言うと、ヒナ、よくわかんないの……」「カナもかしら……」二人とも、おとなしく白状したのでした。
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