修学旅行の終わりに
私達は、荷物を引きずりながらてくてくと歩いていた。普段は帰り道が逆方向の薔薇水晶も、今日は一緒だ。どうやら、槐さんが仕事で帰ってこられないらしく、仗助君の家で晩御飯をご馳走になるみたい。やっぱりその事で、薔薇水晶はさんざん翠星石や水銀燈にからかわれていたわね。みんな今までずっと張り詰めていたものも切れ、どっと体に疲れがのしかかっている。燃えるように真っ赤な夕日が、みんなの背中を照らしている。苺「うゆ~……帰ったらうにゅーが食べたいのよ」金「カナは卵焼きが食べたいかしら」苺「じゃあヒナはもっとうにゅーを食べるの!」金「じゃあカナは(ry」苺「ヒナヒナヒナ!」金「カナカナカナ!」私と違って疲れを全く見せていないのが雛苺と金糸雀。……この餓鬼も真っ青な、食い意地のはった会話は何?怖い、怖いのだわ……。薔「……なんか、ごめんね」仗助「いいって。気にスんなよ」薔「……ありがと」薔薇水晶と仗助君はこの四日間で中をすっかり深めたみたい。ピッタリとくっつくその姿は、まるでおしどり夫婦ね。張り合うつもりは無いけど、私達も負けないようにしなくては。
翠「翠星石は……帰ったらシャワーでもあびますかねぇ」蒼「あ、僕も僕も」翠「じゃ、一緒に浴びますか?」蒼「ん~……いいよ」翠「きゃ~~~! 蒼星石とシャワーなんて久しぶりですぅ!」二人は和気藹々と帰ってからの予定かしら? そんな話をしている。うわぁ、なんて会話をしてるのよ……でも、本当に仲が良いわね。銀「荷物が……お土産が重たいわぁ。誰か手伝ってよ」雪「私も、もう限界です」銀「ああ~ん……腕がちぎれちゃいそぉ」雪「……限界です」ええい、ウダウダうるさいのだわ! ……他の皆より大きな荷物を抱えているのは水銀燈と雪華綺晶。まったくもう、お土産を買いすぎなのよ。ウルージ「おーおーそれなら私が持とうか?」銀「え? 本当? ありがたいわ!」雪「すみません、お願いします」水銀燈と雪華綺晶が礼を言いながら、どさっとその場に荷物を置いた。ウルージ君が自分自身の荷物と二人の荷物をヒョイヒョイと担ぎ上げる。汗一つかいていない上に、息一つ乱れてない。人間じゃあないわ……。けど、さすがに心配だ。紅「ウルージ君、大丈夫かしら」ウルージ「心配してくださるとは、冗談でも有り難い。だが、心配はいらん」紅「そう。余計な心配だったみたいね。持ちきれなかったらベジータにでも頼みなさい」ウルージ「おーおー」
そう言えばベジータとジュンはどこにいるの?私が振り返ると、生まれたてのペンギンの様に三つの影が動いていた。何であんな後ろにいるのかしら?ジュン「はぁ……はぁ……真紅、頼むから自分の荷物は自分で持ってくれ」紅「あら、そんな荷物も持てないとは、男としてどうかしら」ジュン「何とでも言え」……そうだった。ジュンに荷物を持たせてるんだったわ。すっかり忘れていたわね……。仕方無しに、私は疲労困憊のジュンから荷物を受け取った。ズシリと重みが肩にのしかかる。これをずっと抱えていたなんて……ジュン、意外とやるわね。ベジータ「あああ!!重てぇぇぇ! お土産重てぇよぉぉぉぉ!」笹塚「うざいな。黙ってなよ」ベジータ「笹塚、お前にこの重みがわk」紅「うるさいのだわ」ベジータ「あうっ! 紅嬢の髪ビンタ……ハァハァ」隣でわめくベジータに髪ビンタを叩き込む。貴方のは全部自分の荷物じゃない。何を文句を言ってるのかしら。おまけに私のビンタでご満悦な表情を浮かべるし……。まさに変態だ。みんなでグダグダワイワイ話しながら歩いていると、ついに分かれ道にやってきた。ここからはそれぞれ帰り道が違う。皆がまるで示し合わせたかのように、その場でゆっくりと歩を止める。そして夕日を見る。そよそよと風が、私達の顔を撫でた。
翠「あー! 楽しかったですぅ!」最初に大声を出したのは翠星石。とても柔らかい叫び声だ。ベジータ「俺も楽しかったぜーーー!」ウルージ「これほど意義の有る時間も無かったろう……」仗助「……まあ、な」笹塚「案外あっという間だったね。楽しい事ほど早く過ぎてくなぁ」四人とも空を仰いでいる。学ランがヒラヒラと風で靡く。苺「ヒナはとっても幸せなのーー!」金「カナもかしらー!」蒼「僕も楽しかったよ! とっても、とーっても!」雪「今まで生きてきた中で……一番楽しい時間でした」薔「……私も、とっても楽しかった」みんながみんなとっても幸せそうな顔をしていた。銀「私も楽しかったわぁ……絶対に忘れないでしょうねぇ」普段は冷徹でクールな水銀燈も、満面の笑みを浮かべている。ジュン「僕達も……」紅「ええ……せーの」紅&ジュン「とっても、楽しかった(ぞーー)(のだわーー)!!」私とジュンも大空に向かって叫んだ。そして皆で笑いあう。この仲間と、この幸せな日々が、途切れないように、消えないように。笑い合う私たちを、夕方の優しい風が静かに彩っていた。
終わり
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