七話「蒼星石」
短編「図書館」シリーズ七話「蒼星石」
突然だが、私、真紅は図書委員だ。元々本が好きで、中一のときに初めて図書委員になり…気が付けば図書室、そして図書委員の常連となり早3年。その間に図書室仲間ともいうべく、同じく本の好きな友達連も出来て、図書館をよく利用する人の顔もかなり覚えた。これは、そんな私の…今回は、めずらしく図書室ではない場所でのお話。
昼休み。図書室の入り口前のスペースで、珍しいコンビが話しているのが遠目に見えた。一人は水銀燈先輩。もう一人は…蒼星石。いつもは大抵傍に居るはずの双子の翠星石の姿が、今日は珍しく見えなかった。
「二人だけで一緒に居るなんて、珍しいのだわ。一体何の話をしているの?」
思わず声をかけると、蒼星石がびくっとして振り返る。
「!…あ、真紅…いや、なんでもないよ!ちょっとお勧めの漫画を教えてもらって…」「そうそう。可愛い双子のお姉さんには、 ちょぉっと相談できないような内容の漫画が見たかったのよねぇ♪」「水銀燈先輩!!」
何故だか顔を赤らめる蒼星石に、からかうような笑みを浮かべる水銀燈先輩。先輩はこの真面目な蒼星石に一体どんな漫画を教えたのだろう。……よく考えなくてもろくでもないものという気がする。
「…そう。じゃあ私は図書室に行くのだわ」「わかったわぁ。またあとでねぇ」「真紅!別にへ、変な漫画じゃないんだってば!」
焦る蒼星石をとりあえず黙殺して、私はとっとと図書室へと入った。真面目な子をからかうなんて、先輩も趣味が悪い。おおかた、お勧めを聞いてきた蒼星石に…年齢制限があるような漫画でも教えたりしたんだろう。ため息をつきながら借りていた本を返却する。
…そして帰り道。いつものように駅の近くの大きな本屋に立ち寄ると、漫画のコーナーに見覚えのある背中が見えた。
「蒼星石?」「うわぁっ!」
蒼星石が、驚いて持っていた本を取り落とす。3,4冊の本が床に散らばり…
「何をやっているの。本は大事に扱うものよ」「あ、真紅…ごめん」
慌てて振り向いた蒼星石を他所に、私は落ちた本を拾い集める。趣味の園芸にバラ大百科…あと…これは漫画?
「これは…あなたの?」「え?どれ」「ほら、この『少女セク…」「あー!ごめん真紅!僕買ってくるね!」
タイトルを読み終わらないうちに、その漫画も持っていってしまった。…一体何の本だったんだろう。戯れに、棚にあった同じ漫画を取り出して見る。表紙に成年指定などの文字は無い。…それならば別に気にする必要なんて無いと思うのに…思いながら、少し中を覗いて見る。
「……!!!」(顔赤!)「ごめんね!真紅。拾ってくれてありがと…!!?」
タイミングの悪いことに、丁度蒼星石が戻ってくる。慌てて棚に戻して振り向くと、私と同じように頬を赤らめて立つ蒼星石の姿が。
「……見た?」「…ごめんなさい」
色々と言いたい事はあった。どうしてそんな内容の本を、とか。先輩に聞いた本はコレだったのか、とか。しかし、私と蒼星石は、結局何も言わずに互いの家へと戻ったのである…。
次回「翠星石」
<おまけ>
「…は?エッチな漫画?」「うわ!ちがいますって!それにそんな大きな声で言わないでくださいよ!」
昼休み、図書室前のテーブルのある小さなスペース。そこで私…水銀燈は、知り合いの後輩に呼び止められたのだ。
「だから…ええっと、女の子同士が…こう、一歩進んだ関係というか 仲睦まじくというか…イチャイチャというか…そんな漫画を知りませんか?って…」「ほら、だから女の子どうしのエッチな漫画でしょ?」「だから!そんな大きな声で…!……まあ、そうなんですけど…」
その後輩は双子の姉妹の片割れで、校内の女子に人気の高いボーイッシュな少女。蒼星石。聞いてきた内容は先ほど彼女が言っていたとおりだが…恥ずかしい時にくらいは、彼女も女の子っぽいかわいらしい表情をするらしい。私の発言に赤面して困る姿はなんとも微笑ましかった。ボーイッシュで紳士的な面ばかりを見てもてはやしている女の子達は見る目がない。こういう所にこそ、彼女の「良さ」があるんではないか。そんな事を思いながら話を続ける。
「…で、知りませんか?そういう漫画…」「そうねえ…知らないことも無いけど」
そういう漫画…一応、覚えているだけでも、幾つか頭の中でリストアップしてみる。大半の漫画はそれ「だけ」を扱ったものではないので選択肢から排除して…その中には面白いのもあるのだけれど。○○は邪道ーーー!ネタのアレとか。いやアレは違ったか?あと、今は古本屋をあさらないと手に入れるのが難しいセラ○ン系のアンソロも削除。
「普通に成年向けのでいいのねぇ?」「う…それはちょっと…買いに行くのが……」
口ごもる。まったく真面目なものである。確かに、そっち系の本は何故か成年指定のかかっていないものもあるけれど……しかし、それを考慮に入れてしまうと、残ったのはたった2冊だけ。そのうち一つは数年前に再版されたものだけれど、元は10年以上前の作品。アレも名作と言われているけれども…やはり、最近のものの方が手に入りやすいかもしれない。…確か実姉妹話も入っていたし。いや、彼女は別にそうだと口にした訳ではないけれど…私には見ていてとても判りやすく感じた。結局、最後に残ったその一冊の漫画を推薦する。
「じゃあ、コレね。タイトルは…」
そんな時、丁度通りがかったのは、真紅。焦る蒼星石と真紅のやり取りが面白い。思わずまぜっかえして反応を楽しむ。しばらくして、真紅が図書室に入って行った後。
「はい。タイトルと、覚えてたから出版社も一緒に書いておいたわぁ」「ありがとうございます!」
園芸部なのにやたらと体育会系っぽいノリの彼女は、メモを受け取りながら深々とお辞儀をして…
「蒼星石~!どこですー?」「あ、今行く!」
そして、彼女の思い人の元へと駆けて行ったのである。<おまけ>終
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