いつかきっと、空は晴れるから・・・
刹那に煌く儚い時間。
それは永久に廻り続ける走馬燈。
永くに寄り添い続けた月日。
それは一瞬に崩れる砂の城。
願いも、想いも、目の前の運命には逆らえません。
流れ往く世界とは、無常にして無情。
しかし、たとえ離れ離れとなった星達。
呼び声という名の絆が、断たれることはないでしょう。
醜いものが蔓延ったこの世界。
いつかまた、会えると信じて・・・
200X年、
世界は混沌に満ちていた。進んでいく文明に反し、次々と自然は破壊されていった。国々は、力と金を求めていた。
水、石油、鉱物・・・。
残った資源を奪い合い、全世界、地球規模の戦争が多くの命を摘み採っていた。
自分達だけが生き残るために・・・。
日本も例外ではなかった。町の流れは速く、誰もが自分のことだけで精一杯だった。
そして高校生である僕も、戦場へと駆り出されようとしている。
廃れたアパートの屋根の下。割れた瓦から、曇った空が覗いている。「そう、ジュンのところにも、来たのね・・・。」目の前には、俯く水銀燈がヒトリ。彼女が言っているものとは、今僕が手にしている徴兵礼状のことだ。「はは、仕方ないって。政府にゃ逆らえないし・・・。」正直、笑っていられる状況じゃない。泣きたいくらいだ。でも水銀燈の悲しむ顔を見るのは、それ以上に心に痛んだ。
だから、できる限りの明るい声で僕は喋る。「大丈夫だよ!なんとかなるって!ははは・・・。」
いや、きっと明るくなんてない。多分僕の声は震えてるし、作る笑顔は引きつっているだろう。
怖くて仕方ない。僕は、どうすれば・・・
「ジュン・・・!」
その瞬間、僕の身体に心地よい重みが重なる。水銀燈が、僕に抱き付いていた。
「行っちゃだめぇ!独りにしないでぇ!私をおいていかないで・・・!! お願い! おね・・・がい・・・。」
彼女は大粒の涙を流しながら、僕の胸でただひたすらに想いを唱えていた。
悲しいまでに無力な自分が憎かった。
戸惑う頭、気持ちだけがだけが先走る。
「水銀燈・・・、もし僕が生きて帰ってこれたら・・・」
・・・言葉が止まる。
彼女の唇が僕のそれを塞いでいた。
永く短い静寂が流れた。
ゆっくりと唇を離していく。
「もう云わないで・・・。帰ってこれなかったら、悲しいだけだから・・・。」腕の中で、水銀燈の瞳に僕が映る。
なんのために戦う?
国のため?違う。
彼女のため?わからない。
きっと水銀燈は悟っていただろう。゙いつか゛という言葉は無い、と。
でも、今はこうしていたい。
しとしとと降り続く冷たい雨の中、彼女の涙だけが温かった。
その夜、僕は水銀燈を強く優しく抱いた。
午前3時、僕は一人ベッドから起き上がる。窓の外には、雨上がりの澄んだ夜空に満ちていた。
隣りには、安らかな寝顔を浮かべた水銀燈が、静かに寝息をたてている。
彼女の長く綺麗な髪を撫で、頬にキスをする。もう二度と見ることが出来ないかもしれない彼女の顔を眺めた。
『ごめんな、水銀燈・・・。』
起きられないように、僕は静かに家を出た。
月明かりが背中を突き刺す。
絶えることの無かった光の雫。
永く、幸せだった夢の終わり。
ただ、君だけを願う。
戦場で常に襲いかかって来る惨劇は想像を遥かに超えていた。テレビや映画で観たような、生易しいものではない。血が舞い、肉が吹き飛ぶ。炸裂する閃光に、次は自分の番だ、と恐れながらひたすら進み続ける。そして今、僕の足下にはヒトだったものが転がっている。僕が撃った。僕が殺した。「・・・うぇえぇぇっ・・・!!」堪えきれなくなったものを、その場で吐いてしまった。僕が撃った?僕が殺した?怖かった。自分自身が。周りの全てが。血の臭いと銃の重みが、これは現実だ、と思い知らせる。そう、これは現実。
真紅も翠星石も蒼星石も雛苺も金糸雀も薔薇水晶も、みんな死んだと聞いた。ただ一人、水銀燈は消息がつかめないらしい。ちくしょう。僕は、守れなかった。ちくしょうちくしょうちくしょう。
誰だよ。 誰のせいだよ。
彼女たちを殺した敵?水銀燈を泣かせた世界?それを守れなかった僕?
戦場には、悲しいまでに無力な自分。血、血、血。
今日はあの日と同じ雨だった。市街戦、荒れ果てた町を進んでゆく。
突然遠くから聞こえる銃声。狙われていることを知り、小隊全体が警戒体勢に入る。
しかしそんな中、僕の身体だけがいうことを聞かない。
霞む視界。傾く世界。気付くと、僕は空を仰ぎ倒れていた。
あぁ、そうか。
撃たれたのは僕だ。
流れ出す血に浸っていく。意識が薄れていった。雨が冷たく染み込む。
さよなら、世界。
暗く無限に広い空間。何も見えなく、寒く、寂しい・・・。
そうか、ここがあの世ってやつか。思っていたほど苦しくなかったな。
ようやく解放されるんだ・・・。僕はもう疲れた・・・。
眠い・・・そういやしばらく寝てなかったな・・・。
瞳を閉じ、体を闇に泳がせる。何も聞こえない。
何も・・・聞こえない・・・?
いや、聞こえる。これは・・・
遠くに小さな小さな光が瞬く。微かな音が、今ではハッキリと聞き取れる声と成った。『・・・ン・・・ジュン。あなた、また水銀燈を泣かせる気?そんなこと、私は許さないわ! 起きなさい!そして私たちの分まで生きて頂戴!! あの子の道を照らすのは貴方の仕事よ!!」「・・・真紅・・・?」
『ジュン、ジュン! 聞こえますか!? 水銀燈にはジュンが必要なんです!! ジュンにも水銀燈が必要なはずです! あの子の想いを無駄にしちゃだめですぅ!!』「でも、僕はもう・・・」
『ジュン君、君の存在だけが、僕の気持ちを熱くさせた。でも彼女は今も泣いてるんだよ。 残された彼女を救えるのは君しかいないんだ。だから、生きて・・・。』「僕は、僕は・・・」
『ジュン! この策士の計算が正しければ、あなたと水銀燈が幸せになる確率は120%かしら! だから、だからこんなところで倒れちゃダメかしらぁ!』「そうか・・・忘れてた・・・。」
『ヒナもう泣かない! もうワガママ言わない! ジュン、お願いだから戻ってくるのよ!』「僕が、言いたかったこと・・・。」
『水銀燈、かわいそう・・・。ジュンがそばにいてあげないと・・・。起きて・・・ジュン。』「僕は、生きて帰って水銀燈の・・・・!!!」刹那、闇が掻き消え、空間は水銀燈と光に満たされる。「生きて帰るんだ!!」
目が覚めると、僕は破壊された街の中に、ヒトリ残されていた。雨は止んでいた。撃たれたところを見ると、不思議なことに傷口は塞がっていた。
銃声も、爆発音も、悲鳴も聞こえなかった。
さっき見たあれは、雨が魅せた幻か、はたまた想いが紡いだ白昼夢か。
・・・・・・。
世界中の戦争が停止に向かっていた。
全ての国に、もはや戦う力は残っていなかった。
風が吹いていた。
『帰ろう・・・日本に』
帰り着いた地は、僕が知っていた場所ではなかった。建物は壊れ、地面は焼け、そこら中に戦いの傷跡が残っていた。
それでも変わらないもの。「ただいま、水銀燈・・・。」かつて彼女を抱きしめた場所に、水銀燈はいた。「・・・ジュン? ・・・本当に、ジュンなの・・・?」水銀燈の目は曇り、それは光を映していなかった。これも戦いの傷跡だろう。あの日のように、水銀燈を抱きしめる。そして彼女はただ一言。「おかえり、ジュン・・・。」その瞬間、涙が溢れ出す。「ごめん、ごめんな・・・。僕は、お前を、みんなを守れなかった・・・・。」
水銀燈は僕を抱きしめ返す。とても優しく・・・。
「そんなことないわ・・・。確かに私はもうあなたの顔を見ることはできない・・・。 でも、こうやってまた会える奇跡・・・。ずっと、ずっと待ってた・・・。」
懐かしい香りがした。・・・想いを伝えたい。
「僕は・・・お前の目を治してはやれない・・・。」「・・・・・。」「でも、お前の目になることならできるんだ・・・。」「それって・・・」「結婚しよう。」
雲の隙間からは光が差し込んでいた。
荒廃したこの星に、もはや未来はないだろう。それでも僕は生きていく。水銀燈と一緒に。
彼女の道なら、僕が照らしていく。
fin
幾重にも折り重なった光の螺旋。
その端を掴めたなら、彷徨うことはないでしょう・・・。
少年を救ったのは、彼方からの呼び声。
耳をすまして御覧なさい。
きっと、あなたにも・・・
おや、どうやら戯れがすぎたようですな。
恐怖の悲鳴が扉から覗いています。
今回は天子の羽根にて終焉。
次回はどうなることやら・・・。
それでは、ごきげんよう
バッドエンド版
カチッ
全身が反射的に強張る。それは戦場で嫌というほど聞き慣れたあの音だから。抱いた水銀燈の手。つまり僕の背後に置いた彼女の手に持っていた物は・・・。
「いっしょに死にましょ」
意識が消える瞬間、水銀燈越しに見たもの。
建物の影から覗く、6人の影。
この世の物ではない邪悪な笑みを浮かべたそいつらの声が、頭に染み込む。
「お ま え も こ い」
静かな街に、爆炎があがる。
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