彼方よりの呼び声
ヒトの心とは、いともたやすく揺れるもの。
しかし引き合う磁石のように、切り離せない絆を持っているはず・・・。
願い続けるこで、掴み取れる答があります。
星が煌き続けるならば。
それが過去であろうと、未来であろうと。
想いが強ければ、きっと叶えることもできましょう。
たとえ、己の魂を喰われるはめになろうとも・・・
「う・・ん・・ジュ・・・ン・・・。ジュン!!」
がばっ
暗く静かな部屋に、私の声が木霊する。曇った空が、カーテンの隙間から覗いていた。
カチ・・・カチ・・・。時計は5時を指している。
「また、ですか・・・。」溜め息をつき俯く。あれ以来、ほぼ毎日見続けている夢。
--------私と繋いでいた手を解き、ヒトリ去っていってしまうジュン。
『さよなら、翠星石・・・。』私は彼の後ろ姿を眺めるしか出来ない。いくら彼の名前を叫ぼうとも、ただ息が漏れるだけ。私は独り暗い闇の中に残される・・・。
--------そんな、悲しい夢。
溜まっていた涙を拭って、窓を開ける。
「そうです・・・。もう、ジュンはこの世界にいないんです・・・。」空を仰ぐ。広い天井は、深い深い雲に覆われていた。また一日が始まる。
4週間前-----
涼しい秋の午後。私はジュンのこぐ自転車の後ろに座り、一緒に下校していた。
穏やかな時間。
何気ない会話のひとつひとつが、私の心を満たしてくれた。
気付かれないように、ジュンの背中にそっと『LOVE』となぞったのを覚えている。
いつまでも、大好きな彼の温かい背中に寄り添っていたかった。
なのに・・・、なのに願いとは儚く散ってしまうもの。
次の瞬間、大きな衝撃と共に私の視界は反転して、意識は暗闇に放り込まれる。
それはあまりに突然の、不幸な事故だった。
そう、交通事故が・・・。
私が目を覚ましたのは病院のベッドの上だった。
どうやら3日間意識が戻らなかったらしい。
奇跡的にも、私には目立つ外傷はほとんど無かった。
そう、私には・・・。
事故から数日後、いろいろ落ち着くと、医者はためらいながらあることを告げた。
ジュンが、即死だったと・・・。
その言葉に、私の時間が停止した。
ただただ聞いているしか出来ない無力な自分。
病室で私はヒトリで泣き続けた。
涙が枯れるまで。
____________________________
学校から帰って来た私は、すぐに部屋へ駆け込んだ。
ジュンのいない毎日は、予想以上に寂しく悲しいものだった。
ベッドに体を投げ出し、ゆっくり目を瞑る。
『ジュン・・・私はあなたのことを、いつも想っています。もし、ジュンが戻ってくるのなら、翠星石は・・・。』
思いとどまり、考えようとしたことを頭から振り払う。
『・・・いいえ、ジュンは戻ってきません。 私は、ジュンのためにも、一生懸命生きていかなければならないんです。 いつまでも、泣いてちゃだめなのです・・・。』
そう、私はヒトリじゃない。
心の中、ずっと、一緒。
そのままうたた寝をしそうになる私の耳に、甲高い音が響く。電話が鳴っている。
私は一階まで降りて、受話器を取った。「はい、もしもし・・・。」電話の向こうは無言で、しばらく静寂が漂う。いたずらか、と思い受話器を置こうとした瞬間、聞き慣れた声が聞こえた。
「・・・翠星石か・・・?」
私の頭の中は混乱した。 それは、二度と聞けるはずのない。愛しい彼の声だったから。
「翠星石か?僕だよ。ジュンだ。」
そんなはずがない。そんなはずが・・・。「誰ですか!? 不謹慎ないたずらはやめるです!」
言葉ではそう叫んだが、心のどこかで期待をしていたかもしれない。そんな自分が変に思えた。だって、彼の声を聞き間違えるはずがないから。
「そうだよな・・・お前が信じないのも無理ないよ。 だけど僕は、最期にお前に言いたいことがあるんだ・・・。」
悲しげに離し続ける彼。
「僕がこうやって話せる時間も、もう長くない。聞いてくれるかい?翠星石・・・。」
私は、もう何も疑っていなかった。彼と過ごした今までの季節を思い出していた。偽りであっても、不安定な心にはすっと染みこんでくるものだ。
「私は・・・聞いています。話してください、ジュン・・・。」
私は全て受け止めようと決めた。
「ありがとう、翠星石。僕もお前が大好きだったよ・・・。 だけど、ごめんな・・・。 お前を最後まで幸せにできなかった・・・。」
その声は、昔のジュンそのものの優しい声だった。
泣かないって決めたのに、涙は枯れたはずなのに、次々と温かい雫が頬を伝う。
「そんなこと、ないです・・・。」
哀しかったけど、とても嬉しかった。
「翠星石は・・・翠星石はジュンといられた時間、とても幸せでした・・・。」
受話器を持ったまま、ぽろぽろ涙が落ちていく。
「あり・・とう・・・翠・・・星せ・・・き。僕は・・・ずっと・・・・」
だんだんと遠ざかっていくように、電話が聞き取り辛くなっていく。
その瞬間、決心した心が揺れた。
「待って・・・待ってください、ジュン!! 翠星石は、翠星石はあなたがいないとだめなんです!! 離れ離れになんてたくなんかないですぅ!! 翠星石をひとりにしないでぇ!!!」
叫びが届くことはなく、電話次の瞬間には切れる。
「・・・・僕・・・ずっと君・・愛・・て・・・・」
ぷつ
受話器からは、電子音だけが流れている。もう今みたいにジュンの声を聞けることはないだろう。それでも今はジュンと過ごした、ジュンの背中を感じたあの場所へ向かいたかった。時計は10時をすぎ、外では雨が降っているようだった。傘も持たず、着替えもせずに家を駆け出そうとする。ただ思い出だけが、私を癒し包んでくれる・・・。あの思い出の場所が・・・。
ドアを勢いよく開けた。玄関、目の前には、
血みどろの
顔半分が潰れ
脚は逆に折れ
片腕の無い愛しい愛しい『彼』がいた。
「僕 も ず っ と 愛 し て る よ ♪」
あ
全て罠。私だけが助かることは許されなFIN
愛の影に潜むもの。
呪縛という名のそれは、常に片方の目を探しています・・・。
決して見つかってはなりません。
逃げて下さい。
逃げて、逃げて、逃げて・・・。
彼方よりの呼び声が、良いものばかり運んでくるとは限りません。
甘い罠にお気をつけ下さい。
捕まったら最期、光が差し込むことはありませんから・・・。
それでは、ごきげんよう。
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