ボクハダレ?
薄いヴェールで包み隠された心理。
それは自分ですら気付かないヒトの根本。
心の底に渦巻く、怨の邂逅。
呼び起こしてはなりません。
もう一人の知らない自分に飲み込まれてしまいますから・・・。
異常にして『非常』な愛。
貴方のココロをキリキリと縛り付けるだしょう。
これはふたつの狂った想いが紡ぐ、とても醜い物語・・・
「やめてよ、すいせいせき。ぼくもおそとであそびたいよ。 ぐす・・・これをほどいてよ・・・。」
「だめですぅ。そうせいせきはすいせいせきのものだから、 ずっといえのなかにいなくちゃいけないんですぅ。」
「すいせいせきのいじわる! ひっく・・・ぐす・・・。」
「あぁ、もっとなくですぅ。そうせいせきは、すいせいせきのおにんぎょうさんなんですから・・・。」
「ちがう!ぼくは・・・。」
「じゃあなんなんですか? そうせいせきはなんですか?」
「ぼくは・・・ぼくは・・・
翠星石が行方不明になってから一月。僕は彼女の無事を疑い始めていた。
警察はあてにならない。
幼馴染みの僕にとって、これはとても悲しいことだった。
しかし本当に辛いのは蒼星石だろう。実の姉、まさに彼女の半身であったから。
「蒼星石・・・大丈夫だよ。あいつのことだから、そのうちひょっこり帰ってくるって。」
僕は自分の無力さを悔やんだ。慰めるしかできない・・・。今の彼女に必要なのは、こんなちっぽけな言葉じゃない。
「ごめんね、ジュン君・・・。僕がもっとしっかりしてれれば・・・。ごめんね・・・ごめんね・・・。」
ぽろぽろと涙を流す蒼星石。しっかりしなきゃいけないのは僕だ。
僕じゃ彼女の心の穴を埋めることは出来ない。
じゃあ誰なら・・・?
なぁ蒼星石。
君の瞳には僕は映っているのか?
「あ、あのさ蒼星石!」
できる限り明るい声で喋りかける。
「今日さ、お前の家泊っていいか?あ、変な意味じゃないから!実はのりの奴が飯作ってくれるって言ってて・・・。」
結局、僕一人には力は無い。
「うん、ありがとう・・・心強い・・・。」
それでも蒼星石は笑顔でこたえてくれた。
悲しい微笑みだったけど、それでも彼女にとって精一杯のものだろう。
いま君の瞳に僕が映っていなくても構わない。
君の悲しんだ顔は見たくないから・・・。
「ここに座ってて。今お茶淹れてくるから。」ソファに腰を下ろし、部屋を見渡す。蒼星石の家に来たのは初めてだった。この広い家に一人で住むのは、きっと寂しいに違いない。そう、僕なんかより、彼女の方が強い。
___________________今日は雨がひどい。窓から見える外の世界は、上から下へ降る縦の線で溢れていた。
?
ふと庭の地に目がいく。
何度も掘り返したような跡。あれは・・・?
ピンポーン
家に響くインターホン。あぁのりか。
「ごめんジュン君、出てもらっていい?」キッチンから蒼星石の声が呼ぶ。
僕は玄関で雨に降られているのりを家に入れた。
居間にのりを迎えると、すぐに蒼星石は戻ってきた。
「こんばんわ、のりさん。」礼儀正しくぺこりと頭を下げる蒼星石。
「久しぶりねぇ、蒼星石ちゃん。あ、このカレーと煮物。よかったら食べてね。 わたし、ちょっと用事が入っちゃって・・・今日は帰るわね。」
空気を読んだつもりなのか、のりはお茶もそこそこに帰ろうとする。
「あ、それとジュン君、ちょっと・・・。」
のりが手招きをし、蒼星石には居間にいてもらい、僕を部屋の外に連れ出す。
「なんだよ、帰るとか言っといて・・・。」
構わずにのりは小声で話し出す。「翠星石ちゃん見つかったのねぇ。よかったわぁ。きっと三人でいろいろお話 するんじゃないかと思って・・・だからお姉ちゃん邪魔にならないように帰るね。」
え?
何を言ってるんだ? こいつ。いくらボケてるからって・・・。「おい、不謹慎な冗談はよせ洗濯のり。お前、なんのつもりだ?」
僕は自分が声を荒げていることに気付かずに詰め寄る。
「じょ、冗談なんかじゃないわよぅ・・・。だって蒼星石ちゃんの後ろには
翠星石ちゃんがいたじゃない。」
「・・・あ?」
背筋に何かがまとわりついているような感覚に襲われる。ドアのガラス部分越しに部屋を覗く。ソファには蒼星石がひとり座ってるだけ。
なにも、
いやしない。
「・・・。もう今日はいいから帰れ。」そう言ってのりを押し出すように帰らせ、居間に戻る。
「のりさん、なんて?」「ん・・・あぁ、今日は寒いから冷えないようにって・・・。」
どこか腑に落ちないあいつの言葉。心臓が握り締められているように痛む。
いやしない
夜、僕は居間のソファで。蒼星石は二階の自分の部屋で寝ることにした。彼女を慰めたい、それは不謹慎だ。そんな矛盾を追い詰めていくうちに、僕は深い眠りへと落ちていく。
ギシ・・・ギシ・・・
「ん・・・?」静かな家に、階段のきしむ音が木霊する。まだ暗い。デジタル時計は2:30を表示している。蒼星石が下りてきたようだ。しかし僕の寝ている居間には来ないで庭のほうへ向かっている。
『おいおいすごい雨だぞ? 寝ぼけてるのか??』
僕は蒼星石を止めなかった。いや、なぜか止められなかった。
庭からなにやら物音が聞こえてくる。僕はこっそりと、ソファの影から外を見る。
庭には、傘も差さずに一心不乱に庭を掘り返す蒼星石の姿があった。何かに取り付かれたかのように、シャベルさえ使わず。
掘り終えたのか、そこから何かを取り出し大切そうに抱きしめる。
怖かった。しかし好奇心には勝てず、窓の方へと歩み寄る。それにつれて、蒼星石のぼそぼそと喋る声が聞こえる。
「・・・ぼ・・・え・・・・にん・・・ない・・・。」
雨の降る音に混じり、うまく聞き取れないかった。『・・・蒼星石・・・?』一瞬全ての音が消え去り、彼女の声がはっきりと聞こえた。
「ぼ く は お ま え の に ん ぎ ょ う じ ゃ な い」
僕は自分の目を疑った。いや、これは夢ではないか、とまで。蒼星石が抱きしめていたもの。掘り起こしていたもの、それは
他でもない彼女の姉、翠星石。
蒼星石の目は恐ろしく冷たく、明らかに何かが゙憑いでいた。僕はその場で腰が抜けてしまいへたり込む。
「お・・・お、お前・・・何、何を・・・・。」ガチガチと奥歯が鳴っている。体中に油汗が浮いている。僕の声に気付いたのか、蒼星石は首をギュルンと僕に向ける。
ニタリとにやけた後、ガクンと首をうなだれ、またゆっくりと頭を上げる。
その顔はいつもの、あの愛しい蒼星石のものだった
「え?ジュン君?うわ冷た!雨?僕こんなところで何を・・・。」蒼星石は状況が理解できていないようだった。すぐ後には変わるが・・・。僕は言葉を出すことができなかった。「これ、何? え? 翠星石? え? ・・・うわぁぁぁぁあああぁああぁ!!!」抱いていたそれを離し、部屋に飛び込んでくる蒼星石。
なんとか喋ろうとする。「そ、そ、蒼星・・・石・・・。これは・・・お前が・・・?」居間の隅でガタガタ震えている彼女を問う。「違う!僕じゃない!僕じゃない!僕じゃないぃぃぃ!うわぁぁぁん!!」
蒼星石は立ち上がり、顔を両手で押さえながら唸るようにそれを唱え続ける。「僕じゃない、僕じゃない僕じゃない僕じゃないぼぐじゃ゙な゙い゙ボグジャナ゛い・・・。」
手をゆっくりと顔から離す。ボロボロと何かが剥がれ落ち、そこにはもう蒼星石の顔はなかった。
崩れ落ちた顔の左半分、そこからは翠星石のそれが覗いていた。そして僕は見た。彼女を後ろから縛り付けるように抱きしめる翠星石が。
「ぼぐじゃな゙イ゙・・・に゙くイ゙・・・にんぎょうなんかじゃな゛イ゙・・・あぁぁぁぁあああ!!!」
そして蒼星石だったそれは部屋を飛び出し、どこかへと消えた。
僕はそこで気を失った。
数日後、蒼星石は死体で見つかった。もとの顔で・・・。
その姿は、翠星石と抱き合うようにして湖の底に沈んでいたらしい。
僕が見たのは幻だったのだろうか・・・。
あんなに互いに慕い合っていた二人が・・・?
でもそれはもう誰にも分からない。
だけど
今、窓の外から覗いている蒼星石の瞳には僕が映ってい
FIN
ココロの底に貯めていた念。
それは気付かぬうちに己を蝕んでいくでしょう。
その刃が牙を剥く時、傷つくのはあなた? それとも?
どうやら彼女は自分自身に喰われたようです。
おきお付けください
雨の日に惑わされぬよう・・・。
それでは、ごきげんよう
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