もしローゼンメイデンのポジションが逆だったら R 第6話ー3
(…何、どうしたの…!? 指輪が、熱い…!?) 授業中、指に違和感を感じてそこを見てみると、ジュンとの契約の証である指輪が赤く光って熱を持っていた。 今まで何度か指輪が熱くなった事はあったが、ここまで熱くなったのは初めてだ。 前に熱くなったのは、めぐが巴に騙された時にジュンが巴と戦った時…それはつまり、ジュンが危険だと言う事だ。(まさか…ジュンが…!) 誤魔化しきれない不安が湧き上がり、嫌な汗が流れだす。 今の巴はみつとジュン以外のローザミスティカを得ている。そんな時にジュンと戦えば…。「…じゃあここを桜田に読んでもらおうか」 梅岡が真紅を呼んだが、意識は全部ジュンに向いていて全然気が付かない。 反応しない真紅に、梅岡はもう一度声を掛ける。「桜田、どうした? 聞こえないのか?」「真紅、呼んでるって」 もう一度呼ばれても無反応な真紅に、席がそう遠くない蒼星石が声を掛けた。 それで真紅は我に返って立ち上がり、慌てて教科書のページを捲る。「あっ、え、えっと…」「…三十九ページですよ」「あ、ありがとう…」 ページが分からなくて困っていると翠星石にページが教えてくれて、そこを開いて朗読を始めた。 だが、気持ちが授業に向いていないせいか、普段ではありえない程読み間違えたり噛んでしまった。 その不自然な真紅に、梅岡は首を傾げる。「どうしたー桜田? お前らしくないぞー」「え…あの…その…」 梅岡にそう指摘されて真紅は口を噤んで俯き、教科書を持っていた手を下げた。 それを見た翠星石が、真紅が傷付いたと思って梅岡に厳しい目線を向ける。 だが次の瞬間、真紅は意を決して顔を上げ口を開いた。
「すいません、体調が悪いので早退します!」「え、ちょ、ちょっと待て桜田、いきなりそんな事…」「では失礼します!」 それだけ言うと真紅は鞄も持たずに教室から飛び出してしまった。 いきなりの事に教室は騒然となったが、それに構わず真紅は廊下を走る。 普段真面目な真紅のこんな姿を見れば誰もが驚くはずだ。「真紅! ちょっと待ってかしら!」 そのまま駆けて行くと、不意に後ろから声を掛けられた。 振り向くと、青い顔をした金糸雀が真紅に駆け寄って来ていた。 表情も険しく、何かがあったのは容易に想像できる。「ジュンの所に行くなら、私も連れて行ってかしら!」「金糸雀、どうしたの?」「みっちゃんとの…みっちゃんとの契約の指輪が…!!」 今にも泣き出しそうな金糸雀が、手を真紅に差し出して指輪が嵌められている指を見せた。 そこに嵌められていたかつての黄薔薇の指輪は、今では完全に色も輝きも失いくすんでボロボロになっている。 間違いなく、みつに何かがあった証拠だ。「こんな事今まで…! まさか、みっちゃんが、みっちゃんが…!!」「…落ち着きなさい金糸雀。まだそうと決まった訳じゃないわ」 取り乱して泣きそうになる金糸雀を何とかなだめて気を持たせると、お互い目を見合わせて頷いた。 そして駆け出し、どこか人間が入れそうな大きさの鏡が無いか考える。「どこかnのフィールドとかいう場所に行けそうな鏡は…!」「…被服室。被服室に大きな鏡があったはずかしら!」「分かった、そこへ行きましょう!」 行き先が決まり、ジュンとみつの無事を願って被服室へと向かう。
やがて被服室の前まで行くと、不意に目の前に赤く輝く発光体が現れた。 いきなりの事で驚いたが、それには見覚えがある…ジュンの人工精霊ホーリエだ。「ホーリエ! …私達を迎えに来たのね、ありがとう。すぐにジュンの元へ行くわ」 それだけかわすとホーリエは先にドアの上にある換気窓から被服室の中へと入って行った。 その後を追うようにドアに手を掛けるが、全然開かない。「しまった! 鍵が…!」「ええ!?」「この、こんな時に…! 金糸雀、職員室に行って鍵を貰ってきなさい!」 いくらガタガタと揺らしても開くはずが無く、真紅は強行突破を諦め金糸雀にそう声を掛けた。 だが、金糸雀は職員室のある方向とは反対の方へと足を向けた。それに気付き、真紅は大声をあげる。「ちょっと金糸雀! 職員室はそっちじゃ…」「鍵なんかより、こっちの方がよっぽど早いかしら!!」 思わず怒鳴りつけようと金糸雀の方向くと、廊下に置いてある消火器を被服室の窓に向けてぶん投げているところだった。 それに気付くと同時にガラスが砕け散る音が鳴り響き、窓の部分が無くなって中への入り口が出来た。 金糸雀は先に窓の縁に足を掛け中に飛び込んだが、真紅は予想だにしなかった金糸雀の大胆な行動に呆然としている。「…なんて事を…」「何してるかしら! 早く来るかしら!」 なかなか来ようとしない真紅に金糸雀が怒鳴り、それで我を取り戻して被服室の中へと飛び込んだ。 見てみると壁に掛けてある大きな鏡は光って波打っていて、自分達を呼んでいるのが分かる。「ジュン…今行くわ。それまで絶対にやられるんじゃないわよ!」「みっちゃん、無事でいてかしら…!」 二人とも目を見合わせて頷くと、意を決して駆け出し鏡の中へと飛び込んだ。 二人とホーリエが鏡の中に消えると、鏡は元に戻り後には砕けたガラスと床に転がる消火器だけが残された。―※―※―※―※―
二人はホーリエの案内に沿って薄暗いnのフィールドを駆ける。「ホーリエ、ジュンはどこにいるの?」「みっちゃんは大丈夫なのかしら!?」 はやる気持ちを抑えきれずそう尋ねるが、ホーリエが喋れるはずも無い。 代わりに飛ぶスピードが上がり、二人も置いていかれないように足を早めた。 ただただ無事を願って。 だが、その先に待っていたのは非常な現実だった。「あ…ああ…そんな…!」 しばらく駆けて行った先にあったのは、ボロボロになって横たわっているみつの姿。 それに気付き、金糸雀は慌てて駆け寄りみつを抱き起こした。「みっちゃん、みっちゃん!! …そんな…そんなの嫌かしらあぁぁーー!!」 呼びかけても何の反応も無いみつに、金糸雀は泣き崩れて悲痛な叫びが辺りに響き渡る。 真紅もその悲惨な光景に悔しさと悲しさが込み上げてくる。 だが、まだジュンがいる…早くジュンの所に行かなければ。「…金糸雀、悪いけど私は先に行くわ。ジュンの所に行かないと…」 そう声を掛けたものの、金糸雀は泣き続けたままで真紅の声は聞こえていないようだった。 出来る事なら金糸雀のそばにいてあげたいが、そういう訳には行かない…後ろ髪を引かれる思いで、真紅はその場を後にした。 それからホーリエの案内で走っていくと、ふと指の違和感が消えていることに気が付いた。 真紅は立ち止まって指輪を見たが、その変化に背筋に冷たい物が通り抜けた感覚がした。 さっきまで熱く輝いていた指輪は光も熱も失い、金糸雀の指輪と同じようにくすんでボロボロだ。「…ジュン…嘘でしょ…」 もう動かないジュンの姿を想像して、思わず足から力が抜けそうになる。 その真紅を励ますようにホーリエが目の前に飛んできて、真紅は足に力を入れ何とか堪えた。「…分かってる、ここで立ち止まるわけにはいかないものね…!」 ホーリエにそう言い、真紅は先へと急ぐ。(…負けるんじゃないわよ…まだまだあなたの性格、直しきってないんだから!) 不安になる心を抑えようと、そんな強がりを心の中で吐いてみせた。
しばらく走っていくと、巨大なガラスに神社の絵が書かれているような物が立っているのが見えた。 それに近付いてよく見てみると、あの時の鏡と同じように表面が波打っている。 ホーリエはそのガラスに近付き、急かすようにガラスの前でクルクル回った。「…この中なのね」 ここにジュンがいる、そう確信した真紅は迷う事無くガラスの中に飛び込んだ。 飛び込んで行き着いた先は、蒼い満月が煌々と輝く巨大な神社の境内。 地面には水溜りがあちらこちらに出来ていてさっきまで雨が降っていた事を知らせている。「…ここにジュンがいるはず…」 真紅は辺りを見渡してジュンを探し始めたが、それはすぐに見つかった。 正面の巨大な御神木に、まるで十字架みたいな物が磔にされている。 近付いてよく見てみると、それは両肩と胸に刀を突き刺され、一つのオブジェのようにされているジュンだった。 その凄惨極まる状態のジュンを見て、真紅は言葉を失う。「嘘…そんな、ジュン…!」 ショックでふら付く足でジュンに近付き、その顔を覗きこむ。 目は完全に光を失い、いくら体を揺すっても当然何の反応も無い。 あまりにも酷過ぎるその姿に、真紅はジュンに手を添えたままその場に泣き崩れてしまった。「ジュン…ジュン…! こんなのって…こんなのってないわよ…!!」 ジュンに縋って大粒の涙をいくつも零し嗚咽を漏らす。 そうしていると、不意に頭上から声を掛けられた。
「ネズミが一匹紛れ込んだわね。よくここまで来たものね…」 声のした方を見上げると、巴が御神木の枝から真紅を見下ろしていた。 その姿に気付き、真紅は立ち上がって巴を睨む。「巴…!」「残念だったわね。たった今私が全てのローザミスティカを手に入れたところよ」 巴は枝から飛び降り、鳥居の前に着地して真紅の方を向いてお互い向かい合う体勢になる。「ギャラリーはいない予定だったけど、まあいいわ。特別に私がアリスになるところを見せてあげる」 不敵な笑みを浮かべると巴は真紅に背を向けて手を広げ、次に天へと腕を伸ばす。 これがアリスになる儀式なのだろうか…だが真紅はそんな事お構い無しに落ちていた木の枝を拾い巴へ駆け出した。「この悪魔!!」 巴の背後から全力で木の枝を振り下ろしたが、まるで後ろに目があるかのように反応し木刀で真紅の攻撃を防いだ。 真紅に背を向けたまま、巴は儀式を邪魔され不愉快なのを丸出しにして口を開く。「…どういうつもり?」「あなたみたいな…あなたみたいな悪魔なんか、この世から消えて無くなればいいのよ!!」「悪魔? 心外ね。本来ローゼンメイデンはこの為に作られた人形…それを否定されてもしょうがないわ」「うるさい!! ジュンを、ジュンを返して!!」 泣き叫びながら何度も巴に攻撃を仕掛けるが、そのどれもが軽々と木刀で防がれる。 そう攻撃していると、不意にピンク色に輝く刀が現れて真紅に飛んできた。 刀は真紅の左腕を切り裂き、鋭い痛みが走ってそこから血が吹き出した。「ああっ!」 真紅はその攻撃で後ろに吹き飛ばされ、地面に倒れこんでしまった。 今まで体験した事の無い激痛が走り傷口を押さえるが、出血が止まらない。 その真紅に巴は苛立ちを露にして睨み付けた。真紅も痛みを堪えて、負けじと巴を睨む。
「この悪魔…!! 絶対に許さない…!!」「…ジュンもジュンならミーディアムもミーディアムね…。しつこいったらありゃしない」 ウンザリといった様子で溜息を吐き、刀を六本召還し真紅へと向ける。 それを見てさすがに真紅も顔を青くする。だが、巴は攻撃を止める素振りを見せない。「このまま生かしといたら面倒な事になりそうね。ジュンと一緒の場所で眠らせてあげる」「っ!!」「恨むなら自分を恨みなさい。…死ねっ!」 一切の容赦も無く掛け声と共に刀達が発射され、猛スピードで真紅に迫る。 もうダメかと思って目を閉じ、全身が強張り思わず叫んだ。「ジュンーーっ!!」 それが最期の言葉と思い、これまでの思い出が走馬灯のように甦った。 走馬灯を見ながら、もうダメかと諦めの思いが生まれる。 …だが、いつまで経っても予想していたような痛みは来ない。 不思議に思って恐る恐る目を開けると、刀達が真紅の目の前で止まっていた。 何が起こったのかよく分からないが、それは巴も同じようで愕然としている。「どうしたの? 何で刀が…」 巴が戸惑っていると、刀達は向きを真紅から巴へと変えて猛スピードで飛んでいった。 いきなり飛んできた事に巴は対処できず、全身に刀が突き刺さっていく。「ぐああっ!!」 何とか倒れるのは堪えたが、かなりのダメージのようで顔が苦痛に歪んでいる。「嘘…どうして刀達が…!!」 すると今度は巴の胸が赤く輝き出し、それを巴は信じられない物を見るように見た。「…何…何が起こったの…」
変わらず事態が飲み込めない巴だが、次第に輝きは増していき、最後には巴の体が大きく仰け反った。「きゃああぁぁ!!」 それと同時に赤い結晶が巴から飛び出し、それは磔にされているジュンへと一直線に飛んでいった。 そしてそれがジュンの体に取り込まれ、今度はジュンの体が赤く輝き出した。「…ジュン…?」 真紅はその様子を半ば呆然としながら凝視しており、巴も傷の痛みを堪えて同じように見ている。 やがてジュンの体が光で包まれた瞬間、そこから何かが高速で飛んできて巴を弾き飛ばした。「うあっ!」 巴を弾き飛ばしたそれは真紅の前で着地し、二本の刀を構えて巴を睨みつける。「…真紅にまで手ぇ出しやがって…覚悟は出来てるんだろうな、巴!!」「ジュン…ジュンなの!?」 何よりも望んでいた聞き慣れた声と見覚えのある後姿…ジュンに間違いない。 ジュンは信じられない、それと同時に嬉しくてたまらないといった様子の真紅に振り向いた。 半ば呆れ気味に、でもどこか嬉しそうに口を開く。「まったく無茶しやがって…本当に死んだらどうするんだよ」「…ジュン…本当にジュンなのね!」 フッと笑って真紅に答えると、今度は怒りに満ちた表情へと変えて巴の方を向く。 その間に巴は立ち上がっていて、信じられない物を見るような目でジュンを見ている。「ありえない…ローザミスティカが自分から飛び出していくなんて…」「さあ、最終ラウンドといこうぜ。真紅に手を出した事、嫌って程後悔させてやるからな」 歪んだ笑みを浮かべ巴は体に刺さっている刀を二本引き抜き、他のそれを掛け声と同時に全て粉々に破壊する。「…まあ良い、今度はもう復活出来ないように粉々のジャンクにしてあげるわ! そこのミーディアムも一緒にね!」「そうはさせるか! 真紅は僕の大切なミーディアムだ、真紅は僕が守る!!」「ほざきなさい!!」 巴は自分を中心にして刀を幾つも召還し、円陣を組ませ臨戦態勢をとりお互いに睨み合う。 そして刀を握る手に力が入った。これが最後、全てに終止符をうつために。
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