もしローゼンメイデンのポジションが逆だったら R 第4話ー1
金糸雀の宿題を手伝った次の日、休み時間に金糸雀が真紅のクラスを訪ねに来た。「お礼をしに?」「昨日宿題手伝ってもらっちゃったからお菓子でも持ってこうかなって。学校が終わったら真紅の家に行っても良いかしら?」「そんな、別に良いのに…」「そうは行かないかしら。このままじゃ私としても気がすまないかしら」「…変なところで律儀ね。分かった、楽しみにしてるわ」「そうこないと。そうそう、水銀燈とめぐも呼んで欲しいかしら。あの二人にも手伝ってもらっちゃったから」「了解。伝えとくわ」「お願いするかしら。それじゃ、私はこれで失礼するかしら」 金糸雀はそれだけ伝えると真紅に手を振って自分のクラスに戻って行った。 真紅はクラスに戻り、水銀燈の机で世間話をしているいつものメンバーの中に入っていった。「何だって?」「昨日宿題手伝ってあげたから、そのお礼がしたいって。水銀燈とめ…」 めぐ、と言いかけて真紅は口をつぐんだ。 蒼星石や翠星石にめぐの事を知らせるわけには行かない。「…水銀燈にもお礼がしたいから、学校が終わったら私の家に来て欲しいって言ってたわ」「私にもぉ? 分かったわぁ」「真紅、今何か言い掛けなかったですか? 『め…』って」「あらやだ、そんな事言ってないわよ」 翠星石が気が付いて、真紅に訪ねたがそれを適当にはぐらかす。 それでも翠星石はあまり納得しないようで、尚も見つめてきた。「…め…誰ですかね?」「もう、ただ単に言い間違えただけだわ。しつこいわよ」「…ま、どっちにしろ私達には関係の無い事ですけどね。蒼星石、仲間外れ同士席に戻るですよ」
ワザとらしく拗ねてみせ、蒼星石は苦笑いを浮かべながら後に続く。 真紅と水銀燈も苦笑いし、時計を見てみるともう授業が始まるまであと数分も無かった。「もうこんな時間。それじゃ、忘れないでね」「分かってるわよぉ。まだボケる歳じゃないわぁ。…めぐも一緒に、ね」 最後の部分だけ小声で真紅に尋ねてみせ、それに真紅は頷いて返事をした。 それから席に戻り、授業の準備をしているとチャイムがなり担当の先生が入ってきて授業が始まった。(…めぐもジュンみたいに弄くられるわねきっと…ご愁傷様…) そんな事を思い、心の中でめぐに合掌を捧げた。―※―※―※―※― そのまま無事に学校が終わって、真紅は自分の部屋で金糸雀と水銀燈が来るのを待っていた。 しかしもうすぐ金糸雀が来る時間なのだが、一向に水銀燈が来る気配が無い。 真紅はベッドに腰掛けて落ち着かない様子で腕を組む。「…もうすぐ来るって言うのに…水銀燈は何をしているの…」「そんなにカリカリすんなよ。血圧上がっちまうぞ」「私はそんな心配される歳じゃないのだわ! 時間を守らないのは大嫌いなのよ…」「…お前らしいな」 不機嫌なのを露にして溜息を付くと、同じ時に鏡が光りだして波打ちだした。 それを見て昨日の事を思い出し、真紅は呆れた顔をする。 漫画なら大きい汗が頭に描かれていることだろう。「…まさか…」
その数秒後、昨日と同じようにめぐと水銀燈が鏡から出てきた。「こんにちわ、約束どおり来たわよ」「約束の時間には間に合ったわねぇ」 横着しきった水銀燈とめぐの登場に、真紅は心底呆れて顔を覆う。「…めぐはともかく、水銀燈まで鏡から出て来ないでよ…」 そんな真紅を見て水銀燈はフッと笑った。「だってぇ、私病弱だから途中で倒れたら大変でしょう?」「だからってこんな横着するんじゃないわよ…。歩いて十分ぐらいの近所でしょう…」「まあまあ、約束の時間には間に合ったんだから良いじゃなぁい」「あのね…」 ああ言えばこう言う、そんな押し問答をしていると玄関のチャイムが鳴った。 時計を見ればちょうど約束の時間だ。「来たみたいだわ」 のりが帰って来ていないため真紅が部屋を出て迎えに行く。 玄関のドアを開けると、そこには大きなリュックサックと不死屋の包みを持った金糸雀が立っていた。「約束どおり来たかしら」「待ってたわ。…けど、そのリュックは何…?」 不死屋の包みはお礼だろうが、その大きなリュックサックが気になった。 まさか、お礼に来たとかこつけてまた何か面倒な事を手伝わせる羽目になるのではないか。 そんな不安が脳裏を過ぎる。 それが表情に出ていたのか、金糸雀は笑顔を作って手を振って見せた。「ああ、これはサプライズかしら。あとのお楽しみかしら」「サプライズ? …まあ良いわ。そんなの担いでたら大変でしょう。上がりなさい」「お邪魔するかしらー」 とりあえず部屋に入れない事には話が進まない、真紅は金糸雀を招き入れて部屋へと案内した。
「やあやあ、みんな揃ってるかしら」 部屋に入り、みんなが揃っていることを確認する金糸雀。「あなたが来いって言ったんでしょう?」「来たなデコ女」「デ…」「ちょっとジュン…」「ふふふ、上手いこと言うわねぇ」 金糸雀が現れ、みんな言いたい放題言い出した。 特にジュンのデコ女発言が聞いたのか、完全に呆然としてしまった。「…ジュンにもお礼を、と思ったけど代わりに私が食べるかしら」 怒った金糸雀はジュンにそっぽを向いてその場に座り不死屋の包みをテーブルに置いた。 それを聞いてジュンは慌てて身を乗り出す。「ちょっと待てよ!」「口は災いの元よ。身に染みたでしょ?」「ふざけんな、僕にも寄こせよ! 昨日手伝ってあげただろ!?」「ジュンがやった所はほとんどバツ印が付けられてたかしら」「うっ…」「あーあ、適当にやってたからね」「うるさい、めぐ」 真紅の部屋は一気に騒がしくなり、真紅はしょうがないなとでも言いたそうに笑った。「お皿と紅茶持ってくるわ。1,2,3…5枚で良いわね」「あ、6枚持ってきてかしら」「6枚? なんで?」 意味不明な事を言い出した金糸雀に、真紅は不思議そうな顔をした。「良いから良いからかしら」「…うん…」 金糸雀の意図が理解できず、真紅は首を傾げながら台所に向かった。
それからしばらくして真紅は紅茶の入ったポットとカップにお皿をトレイに乗せて部屋に戻った。 部屋の中は相変わらずみんなが騒がしく話に華を咲かせていた。「へえ、めぐはもうすぐ水銀燈と契約して1ヶ月も経つのかしら」「そうよ。契約…て言っても実質上もう破棄してるんだけどね」「ええ…私に負担を掛けたくないってぇ…そんな事無いのにねぇ」「そういう訳にはいかないわ。何かあったら大変だもの」「めぐは本当に良い子かしら。それに比べてこのジュンと来たら…」 そこで区切ると、みんなの目線が一斉にジュンに向かう。 一斉の注目を集めたジュンは一瞬たじろいだ。「…な、なんだよ」「ほんと、私のところに来たのがジュンじゃなくてめぐだったら良かったのに」 戻ってきた真紅は金糸雀の隣に座ってみんなにお皿と紅茶を差し出しながら意地悪くそう言った。 それを聞いてジュンは面白く無さそうに頬杖を付く。「それはこっちの台詞だ。もっと言う事聞いてくれるやつのとこに来たかったよ」「まったく、いつまで経っても減らず口は減らないわね…」 その間にお皿と紅茶は配り終わったが、当然一人分余っている。「…金糸雀、どうするのこれ?」「…そろそろ良い頃かしら」 意味深にそう切り出し、金糸雀は下ろしたリュックサックを胸元に抱きかかえチャックを開ける。 一体何が入ってるんだろうと、みんなの目線が一斉に金糸雀に向かう。 その目線を確認し、一度もったいぶった様に咳払いをした。「…それじゃ、出てくるかしらみっちゃん!」 そう言うと同時にリュックサックから、メガネを掛けた女性のドールが飛び出した。
「やっほー! 久しぶり、ジュンジュン、めぐ!」「なっ、みつ!?」「みっちゃん!?」 みつはそのままリュックサックから抜け出し、二人のもとへと駆け寄っていった。 ジュンとめぐも立ち上がり、みつへと駆け寄っていく。「みっちゃん、久しぶりね! 懐かしいわ!」「お前、このデコ女と契約してたんだな。…とりあえず、久しぶ」「二人とも会いたかったぁー!!」 ジュンの台詞を途中でぶった切って二人を思いっきり抱きしめた。 抱きしめられためぐは嬉しそうに抱きしめ返しているが、ジュンは苦しそうにみつの手をパンパンと叩いている。「私も嬉しいわよ! 無事でよかったぁー!」「ちょ…く、苦し…」「また三人一緒に遊べるのねー!」「うん、うん!」「だ…だから…苦…し…」 段々ぐったりしていくジュン。そんなのお構い無しにみつとめぐは強く抱き合っていた。 その様子を唖然とした様子で眺める真紅と水銀燈。「か、金糸雀。この人形ってまさか…」「貴方も…なのぉ?」「そうそう。みっちゃん、この二人に自己紹介して欲しいかしら」 金糸雀がみつにそう言い、みつは二人を放して真紅と水銀燈に向き合った。 ちなみに解放されたジュンはそのまま後ろにぶっ倒れた。
「ああごめん。自己紹介してなかったね。私はローゼンメイデン第2ドール、みつよ。みっちゃんと呼んでね」「そして、私はみっちゃんのミーディアムかしら!」 何が偉いのか分からないが、えっへんと胸を張って自分の事を誇らしげに言う金糸雀。 そこでようやく真紅と水銀燈も事をあらかた理解出来てきた。「そんな、貴方までローゼンメイデンと契約してたの!?」「全然知らなかったわぁ…」「それは私だって同じかしら! 二人がもう契約してたなんて…もっと早く知らせて欲しかったかしら!」「いや…だってまさか金糸雀まで契約してるとは思わなかったしぃ」「そうなのだわ。…しかし…友達二人がミーディアムだなんて…凄いわね…」「まあ、そういうわけだから二人ともよろしく!」 みつは真紅と水銀燈に手を差し出し、二人も手を差し出し握手をした。 その手を持ってみつは力強くブンブンと振る。これが挨拶なのだろうか。「ちょ、ちょっとぉ」「…ずい分と元気いっぱいのドールね…」「元気がウリだもんね、昔から」「そういう事よ!」「はぁ…」 そんな事を自慢げに言われても…そう思った真紅だった。
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